ハイスクールD×D ~『神殺し』の新たな軌跡~   作:ZERO(ゼロ)

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魔人ノモトニ 死ガ集ウ

次ハ是カト ソノ手デ招ク

応エテ 戦エ コレラノ闇ニ

生キルベキカ 死ヌベキカ




第五話

放たれる闘気―――それはさながら悪鬼の如く。

放たれる覇気―――それはさながら戦神の如く。

そして構える刃に纏われる殺気―――さながらそれは氷の如くに冷たい。

 

唯、刀を構えただけ……唯、それだけだと言うのに。

しかして闘気と覇気と殺気の混じり合う公の戦氣に呑まれるは心臓を握られるかの如く。

蛇に睨まれた蛙は身動きを取れなくなると言うが、まさかそれを実際に体験する事になるとは思わなかったろう。

 

右に刀、左に鞘と言う変則の二刀流。

あの強大な体躯のマサカド公しか見た事が無かったが、本来はこれ程までに完成した『武』を会得している。

流石は『東京の守護神』と呼ばれるだけの事はある……アキラの手が小刻みに震えていた。

 

『―――では参ろうか、剛の者よ。

余が生み出し、神すら屠る無双の刃―――それを超えて見せよっ!!!』

 

放たれる覇気は、時としてそれそのものが“奥義”と成り得る。

東京の守護神として多くの外敵と戦い、強者と渡り合い、斬り結んできたマサカド公。

殺気は形無き刃と化し、アキラの身を既に襲っていた―――

 

「……!? なっ、これは……ッ!?」

 

腕にセットされたスマホに出た『ERROR』の文字。

仲魔の召喚機能が一切作動しない、このような事はかつての東京・宇宙の卵の中でダグザと戦った時以来だ。

他の機能は生きているようだが仲魔召喚機能のみ使えない―――それはつまり、仲魔の力無しでマサカド公と戦わなければならないと言う事だ。

 

『兄のその悪魔召喚器は余が封印させて貰った。

この戦は余と兄の一騎打ち―――何人にも邪魔はさせぬ』

 

言うや否や放たれる斬閃、咄嗟に飛んで避けたアキラの居た場所に鋭い斬痕が刻まれる。

更にそれに続くように空を切る音が響く、まるでソニックブームの如き斬撃がアキラの眼前に迫っていた。

 

「チッ、拙い―――ッ!!」

 

懐から抜き放った拳銃から発射される魔弾。

間一髪の所で飛来した斬撃を相殺出来たようだが、アキラに安心している暇などない。

何故なら、相殺された斬撃と魔弾によって目が霞む程の光量が放たれ―――それに乗じてマサカド公は一気に距離を詰めると刃を薙ぐ。

 

「なっ、危ねぇ!!!?!?」

『この不意を打つ一撃を避けるか、見事……しかしまだ終わりではないぞ!!』

 

連続して振われる刃、一撃でも貰えば重傷は避けられないだろう。

眼を頼っていては避けられる速度ではない、ならば長く悪魔達と戦い続けてきた勘と感覚を総動員するしかない。

己の戦場で培ってきた直感信じ、アキラは放たれる斬撃を避け続ける。

 

神速とも言える斬撃によって頬や身体には斬痕が刻まれていく。

しかしそれら全ては皮一枚を斬らせている、激しい斬撃を紙一重で避けているのだ。

まるで舞うかの如く―――致命傷を避けながらアキラは腰の刃の柄を掴むと、逆手で抜き放った。

 

―――“ギィィィィィン!!”

金属同士をぶつけ合う独特の音が鳴り響き、アキラとマサカド公は刃を押し合いながら対峙する。

その表情には共に“笑い”の様相が浮かぶ……この二人、恐らくこの命の取り合いを愉しんでいるのだ。

 

『天晴よ……余の裂帛の気を受け、呑まれたかとも思うたが』

「最初は呑まれたさ―――だが、負ける訳に行かないんでね!!」

 

そのまま圧し合う刃を滑らせるように体を翻し、蹴りを放つアキラ。

相手が変則的な構えであるならばアキラのスタイルも変則的だ、彼は斬撃に体術と銃器術を組んだ我流で戦う。

我流とは所詮自己流、正式な剣術などには劣ると思われがちだが……その実、正道な剣術にはない器用さと柔軟性がある。

アキラはかつての東京が悪魔の巣窟だった頃から戦場で誰に教わる事無くこのスタイルを確立し、数え切れぬ程の実戦の中で腕を磨き続けてきたのだから。

 

『―――甘いッ!!!』

 

しかしマサカド公もかつては関東一円で修羅の如く戦い抜いた猛者。

戦場にて乱戦や多対戦を経験し、その中で己の流派を磨き続けた漢―――死角から放たれたアキラの蹴りを刀の鞘で受け止めていた。

 

「まだまだだ―――ッ!!」

 

鞘を蹴り、宙返りしながらアキラは連続して拳銃の引鉄を引く。

連射して放たれた天魔の魔弾がマサカド公を襲う、されどその魔弾はマサカド公に届く前に掻き消されたのだ。

闘気を纏いし太刀―――かつてフリンへと託されたこのマサカド公の愛刀は、まだ見なかった強敵の出現に怪しく輝く。

 

身軽に着地したアキラ、刀と鞘を構え対峙するマサカド公。

愉しい、愉しくて堪らない……強くなってしまったが故に感じる事の少なくなってしまった愉悦を、二人の戦鬼は目一杯堪能していた。

 

アキラもマサカド公も比較的には温和で、本来は無駄な闘いをしない主義だ。

しかし彼ら二人の、いや……ある意味では誰かを超えたいと、唯頂点に立ちたいと、唯強くなりたいと願う漢達の本質とは恐らく同じようなものなのだろう。

 

彼らの本質、それは至極簡単。

どちらが強いか、どちらが上か―――唯それだけの児戯にも等しい本質。

だがそんな本質……漢としての本能とも言える唯一つの答えを見つけられる事こそ、彼らにとっての愉悦なのだ。

 

「愉しいな―――マサカド公!!」

『然り、剛の者“神藏晃”よ―――これこそ余の望んだものよ、余が最も欲したはこの愉悦也!!』

 

再び刃を交わす二人の修羅―――

彼らの戦いは決して止まる事はあるまい、お互いで納得するまでは。

しかし命を賭し、斬り結び続けている二人の修羅の姿は何処か舞っているかの如く美しく見えた。

 

 

●●●●●

 

 

『ククク、まさか公があそこまで感情を露わにするなんてな』

『―――実に至極、まさか公と互角に渡り合うとは』

『流石は当代が現人神―――成程、我が智が及ばぬも納得よ』

『我らが憂国の思いと力、あの若人に託した価値があったと言う事か』

『ヤソマガツヒぃ♪ ヤッソマガツヒぃぃぃ♪』

 

二人の鬼の死合いを見つめる影―――

それはこの東京においてアキラと契約を果たした『必殺の霊的国防兵器』の五柱。

彼らが見つめる先には彼らの“祖”たる『新皇』と呼ばれし一騎当千の猛将が、喜びの感情を露わに斬り結ぶ姿。

正直な話、あれ程に感情を露わにした公の姿を彼らは見た事が無かった。

 

『ハッ、流石は主って訳だ……そうじゃなけりゃ親父殿が力を託すなんてしねぇだろうしな』

『最初に会った時はまだまだ未熟な若人と思えど、今やフリンをも超える猛者となったか……重畳』

『ホホホ、当然よ―――妾を払いし男(おのこ)ぞ? 世が世なれば、妾の夫として迎え入れるも考うる男よ』

 

先にアキラと契約をしていた三柱も二人の戦いを見つめていた。

最初に出会った時は『神の木偶人形』とも言えた少年が、今は全力の東京の守護神と渡り合う……意志無く信念無き力は所詮“暴”にしか成り得ぬが、かの青年はあの戦いの中で力に“意味”を見出した。

未来を憂い、国を憂い、人々の幸せを憂い続けた『憂国の徒』らからすれば―――御国の為に、そして何より民の幸せの為に力を使える武士に出会えた事こそが重畳であるのだから。

 

『お母上御冗談を―――しかし確かにあの方には、それだけの魅力がありますわね』

『ククク……血が滾るな、我(オレ)もこの刃を振るって立ち合いたいものよ』

『…………同上…………』

 

更に日ノ本の神話における三貴子(みはしらのうずのみこ)までアキラとマサカド公を見つめている。

日ノ本における普遍的なる神々―――彼らが此処に姿を現したのは二人の立ち合いを見物する為だけではない。

彼らは待っていたのだ……霊的国防兵器を運用するにあたり、真の意味で託す事の出来る者を。

 

霊的国防兵器には『護国』以外にもう一つの役目があった。

帝国陸軍によって日ノ本を列強の国々から守る為、秘密裏に契約された日本の礎となった神々。

だがその契約にはあえて現代まで語られなかった部分がある―――

 

『日ノ本が列強の国々により蹂躙され、罪なき民達が虐げられ、御国の念と大和の心と人との絆を失った時。

―――その時は第玖が誇り無き日ノ本を零へと帰し、第拾が新たなる誇りある日ノ本を復元する』

 

その力を託された存在こそが三貴子―――

創生の神、日ノ本における万物を生み出したる貴神、森羅万象を生み出したる全ての父。

使役する者の想いにより脅威にも奇跡の力にも成り得る存在……その力を託すに値する存在をやっと見つける事が出来た。

 

其々の手を重ねる三貴子。

長きに渡り続いた堕ちた東京を悪魔の手から取り戻し、人の足で歩んで行ける未来を創った救世主。

絆を尊び、誰かの想いを紡ぐ事が出来る彼にならば―――三つに分かれた第拾の霊的国防の力を託すに値しよう。

光り輝く三貴子……彼らの身体から光り輝く何かが抜け、混ざり合うとそれは人の形を成した。

 

現れたのは黒き学生の如き衣装を纏う、鋼とも見紛う存在。

多くの日ノ本の神々を生み出し、日ノ本に命を育んだ―――女神にして黄泉の神たるイザナミの夫。

 

その名は―――

 

『我は第拾が霊的国防、天津神イザナギ―――人よ生まれ、命を育め』

 

 

●●●●●

 

 

第拾の霊的国防・イザナギが顕現するも、その間のアキラとマサカド公の死合いは続いていた。

驚きもすまい、マサカド公にとってイザナギが現れるのは当然の結果だ―――彼の力を託すに値する存在、それが今目の前で己と互角以上に渡り合っている青年なのだから。

アキラの方も興味など持ちはしまい……彼が見据えるは最強たる霊的国防が祖、マサカド公を超える事と言う唯それだけの目的だけなのだから。

 

いつの間にかマサカド公もアキラも構えを変えている。

お互いに変則的かつ実戦的な闘い方故に実力は拮抗し、このまま行けば所詮は『千日手』だろう。

刃を交え、互いの力と速さとが拮抗し合っていると分かった―――ならば残るは全力の技と魔力とで決着を。

 

刀を顔の横で構える『柳の構え』―――

マサカド公の荒々しかった闘気は一瞬で冷め、放たれる覇気は鋭利な刃そのものの如く。

まるで周囲の音が無くなったかのように無音となり、聞こえるのは息遣いだけだ。

 

対してアキラも拳銃をホルスターに、逆手に構えていた刃を鞘に仕舞う。

神経を、闘気を、魔力を、全身中の力をただ一点に集中させ、その時を待つ。

決着は一瞬―――何かを切っ掛けにこの静止状態は崩れ、何方かが切り伏せられるだろう。

 

互いの耳に響く呼吸音、心音まで聞こえるかの如き静寂。

その静寂を破り、先に動いたのは―――地を力強く蹴り、飛び出したマサカド公であった。

 

『穿て余が弓閃、全てを遍く撃ち貫け―――刹那五月雨撃ちッ!!!』

 

一瞬で分身したマサカド公から撃たれる天を埋め尽くす矢。

さながらそれは死者を送る葬列か、はたまた嵐によって生み出された豪雨か。

撃たれた矢列はその先に存在する至高の武たるアキラの元へと降り注ぐ。

 

「アンティクトン―――ッ!!」

 

だがアキラもそのまま何もせずに矢の雨に打たれはしない。

彼の持つスキルの中でも強力な万能属性の巨大な球体―――それに引き抜いた拳銃で魔弾を撃ち込むと、拡散して迫り来る大量の矢の豪雨を相殺する。

流石に全ての矢を相殺するのは不可能だがそれで十分、急所にさえ当たらなければ動く事は出来る―――相殺しきれなかった矢の雨が降り注ぐ中、アキラは全力で地を駆けた。

 

「うぅおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉ―――ッ!!!!!」

 

込める全力、この一撃が外れれば確実に負けだ。

だからこそ出し惜しみなどしない、唯この一撃に己の内に存在する全ての魔力を乗せて。

アキラの眼に同じように地を駆けるマサカド公の姿が見える―――その刃に全力を込めて放つのは、かつてフリンが使っていた無双の一撃。

 

マサカド公の剣技の極致―――秘剣・神殺しの太刀。

対するアキラの奥義・メシアバースト。

 

二つの斬撃は互いに交差し、空を一閃する。

遅れて衝撃波が続き、背を向け得たまま二人は立ち尽くす。

 

「ぐッ……ク、ッソ……」

 

膝を付き倒れ込むアキラ。

マサカド公の一撃は脇腹を切り裂き、凄まじいまでの出血を齎す。

しかし倒れる訳にはいかない―――自らを強引に奮い立たせ、刃を杖代わりに必死に立ち上がる。

そんな彼に微動だにしないマサカド公は称賛を飛ばした。

 

『―――見事、剛の者・神藏晃よ。

誇るが良い、余を単騎にて討ち果たした者は兄以外には誰も居ない。

己が刃、己が瞳を決して曇らせる事無く進み続けるが良い―――なれば兄の道行きに必ず光は指す。

そして感謝する―――これ程までに心躍った死合いは初めてであった、と』

 

瞬間、マサカド公の身体に斬痕が刻まれ血の如き何かが噴き出す。

それでも前のめりに崩れるのではなく、仰向けに天を仰ぎ倒れる事が彼の『皇』としての矜持なのだろう。

倒れた公の身体が光り輝き始める―――こっちの東京の事は知らないが悪魔はマグネタイトと言う存在により現世に顕現出来ている、故に其の身を支えるマグネタイトがなくなれば後は消失のみだ。

勿論、マサカド公はこの戦いの勝敗にてアキラに刃を預けるか否かを図っていた……故に消えたからと言って暫くの間召喚不可能なだけなのだが、それでもこの光景は余り見たいものではない。

 

『―――胸を張るが良い、剛の者・神藏晃。

余は死力を尽くし、兄もそれに答え、互いの信念を賭し―――結果として余は地に伏した。

なれば勝者はそのような顔をせずに堂々とせよ、それこそが勝者が敗者の為に成すべき事也。

己の出した結論に迷うな―――迷いとは進むべき道を歪め、見据える目を曇らせる。

そして最後に余が力を兄に託す―――決して間違った道に力を使うでないぞ』

 

そう言い残すと光は二つに分かれる。

一つはアキラのスマホに、そしてもう一つはアキラの愛刀に其々宿ったのだ。

護国の神と神殺しの力、二つの力を得たアキラはそのままこの空間から強引に身体を支えながら出て行った。

彼の後姿を見つめていた霊的国防の神々も、三貴子も光の奔流となると其々がスマホの中に戻っていく。

最後に残った第拾の霊的国防、再生を司るイザナギも一人小さく頷きながら呟く。

 

『汝が誇り、汝が力、汝が慈悲―――確かに見極めた。

霊的国防が祖たるマサカド公を超えしその武、願わくば力無き者達の為に使われ続ける事を切に願う。

我は天津神イザナギ、命と再生を司りし者―――コンゴトモヨロシク』

 

そして彼もまた、光の奔流となってアキラのスマホに吸い込まれたのであった。

 

 

●●●●●

 

 

まさに『命懸け』のマサカド公との契約の儀式から一週間程の時が流れる。

受けた傷に関しては宿っているダグザの力により早々と回復したが、流石にあれだけの死合をした後だと精神力の消耗が激しかった―――お陰で一週間は殆ど仕事が出来なかったし、学校にも通えなかったが。

因みにあの際、どうやら知らない内に『第拾番目の霊的国防兵器』と言う存在がアキラのスマホの中に存在したが……何時の間に契約の儀式などしたのか不明だ。

 

マサカド公との一騎討ちの時の脇腹の傷は、はっきり言って致命傷に近かったらしい。

スティーブンがくれたガーディアン・システムの恩恵が無くば、あの場所で死んでいた。

それ程に全力でマサカド公は闘い、アキラを認め刃を預けてくれた―――そんな彼の想いに報いるのがアキラの役目だろう。

(因みに脇腹の傷はダグザと最初に契約した時の頬の傷の如く緑色になっていた)

 

 

さて―――そんなアキラは今、山道を歩いていた。

目的は『姫神神社』へと行く事、暫く仕事を受けていなかった彼はこの機を利用して世話になったあの母娘の所へと行こうとしていたのだ。

良く考えてみれば礼をしていなかったし、暫く逗留させて貰った時は甘えっ放しだった、ならば用事の無い今を利用して恩返しをするのも悪くはない。

……聞けば『事情』でほぼ軟禁と言っても過言ではない状態であるらしいし、偶には知った顔が面でも見せに行けば気も紛れるだろう。

それに色々な土産も買ってきた、これを見れば恐らく朱璃も朱乃も喜ぶだろうと言う思いもあった。

 

しかし姫島神社までもう直ぐと言う場所まで来た時。

アキラは本来このような場所には似合わない、彼自身は“嗅ぎ慣れた臭い”を嗅ぎ取った。

何故こんな所でこの臭いがする……嫌な予感を感じたアキラは全速力で神社の階段を駆け上がる。

 

其処で見た光景―――それはまき散らされる“赤”。

見覚えのある妙齢の女性が血塗れで倒れている光景、その女性に泣きながら抱き着く少女。

周囲から少しずつ包囲を狭める刺客らしき人物達……その一人がアキラに気付いたらしく、何かを取り巻きのような連中に呟くと彼に向かってくる。

 

アキラの腹に突き刺さった槍の如き突起。

襲撃した男は『薄汚れたあの女と娘に関わった事を呪え』と呟くと、止めを刺す為に再び槍を振りかぶる。

彼の存在に気付いた朱乃の絶叫、血塗れながらアキラの方に向かって手を伸ばす朱璃、槍を手に母娘に襲い掛かる黒尽くめの男達。

 

胸に突き刺さった槍から噴き出す鮮血で視界が赤く染まる。

―――その瞬間、アキラの中に在った『何か』が音を立てて壊れた。

 

※※※※※

 

「よ、止せ、や、やめろぉぉぉぉぉ!!?!?」

「な、何だこの化物は……き、聞いてない、ぎゃああああぁぁぁぁぁ!!?!?」

「た、助けて、助けてくれぇぇぇぇぇぇぇ!!!?!??」

「死にたくない、死にたくないんだ、嫌だぁぁぁぁぁぁぁ!!!!?!?」

「ま、待って、置いていかない……ぐげぁぁぁぁぁぁぁ!!!?!??」

「いやだ、嫌だいやだいやだいやだいやだ、助けて、何で、こんな……あ゛、ああああああぁぁぁぁ!!?!?」

 

悲鳴、怨嗟、絶叫―――そこは阿鼻叫喚の地獄絵図。

先程まで蔑んだ目で朱乃と朱璃、そしてアキラを見ていた男達が表情を豹変させて闇雲に逃げ回る。

一人、また一人と悲鳴が上がる度、男達の表情は絶望的なものへと変わっていく。

 

アレは何だ? あんな化物が居るなんて聞いていない。

簡単な仕事ではなかったのか、高々鴉(堕天使)と交わった一族の面汚しとその娘を殺すだけの簡単な仕事だった筈だ―――その程度の仕事など造作もないものだった筈だ。

ならば何故、念の為に十人以上も用意してきた実力を持つ刺客達が……贖う事も無く殺されていく!?

 

『荒野ニ 彷徨ウ 旅人ヨ 狂エル心ハ 魔性ノ調ベニ……』

『空ヲ切リ裂ク 白キ線条 振リマカレル 毒ノ鋼ハ 嘘カ真カ……』

『熱狂 喝采 血戦場(コロッセオ) 闘士 死スレバ 死ヲ魅セン……』

『我ガ 怒リハ 地獄ノ祝福 朽チテ果テヨ 暴ガ前ニ……』

『汝ガ回向 我ニ任セヨ 生死即涅槃 煩悩即菩提 南無―――』

 

腹の底から震えが走るかの如く声が響く。

急いで逃げている筈なのに、何故出口に辿り着かないのか。

そうこうしている内に幾つもの悲鳴が響き、気付けば数える程の気配しか感じられない。

まさかあの瞬く間に殺されたとでもいうのか!? 実力申し分ない刺客達が―――ッ!?

 

『白キ騎士ノ 駆ケル時 世界ヨ 染マレ 虚ロナ白ニ……』

『紅キ騎士ノ 駆ケル時 世界ヨ 染マレ 爛(タダ)レシ紅ニ……』

『黒キ騎士ノ 駆ケル時 世界ヨ 染マレ 飢エタル黒ニ……』

『蒼キ騎士ノ 駆ケル時 世界ヨ 染マレ 疾(ヤマ)シキ蒼ニ……』

 

こんな場所で騎馬の駆ける音が聞こえる。

瞬間、まるでそもそも其処には存在しなかったかの如く気配が消えた。

生き残っている気配は一つも無い、自分以外が皆殺しにされたのだ―――

 

『終末ノ 喇叭ノ音色 響ク時 舞イ降ル星ハ 死ノ前奏曲(プレリュード)……』

 

目の前に現れた『ソレ』は、悪魔ではない。

寧ろ悪魔と言う存在が霞む程に凶悪にして凶暴無比な覇気により、身体が動かない。

嫌だ、嫌だ、嫌だ、死にたくない―――どうしてこんな事に、何故こんな化物に殺されなければならない!?

全身中から汗や体液が止め処なく溢れる、小便が漏れたがそんな事はどうでも良い。

唯こいつらから逃げる方法を必死に探した、しかしそんな方法などある筈もあるまい。

 

「た、助けてくれ、助けてくれ!!

お、俺は唯、俺は唯命令されただけなんだ―――俺は悪くない、悪いのは本家の……ぎゃあああぁぁ!!?!?」

 

獣の爪撃によって呆気無く吹き飛ばされる下半身。

だが感覚が麻痺しているからか、それとも別の要因か、男は死ぬ事が出来ない。

そんな彼の前に荘厳な姿の巨大な獣に跨った髑髏顔の女が現れ呟く。

 

『ホッホッホ 醜ク 果テヨ。

妾ガ契リシ男ヲ 憤激サセタル 報イヨ。

コノ杯二 乾杯ジャ 世界ヨ ケガレヨ 甘美二 堕チヨ……』

 

激痛に声が出ない、感覚が一気に戻ったのだ。

しかし芋虫の如くのた打つ“人間であったモノ”を唯々静かに“女帝”は見つめているだけ。

やがて動きも緩慢になり、意識も殆ど無くなったモノを侮蔑するように見つめて手で合図すると、巨大な獣の足が人間であったモノを容赦なく踏み潰した―――

 

※※※※※

 

凄惨過ぎる光景とはこのような状況を言うのだろう。

鮮血に身を染め、妖しき碧の光を湛えた瞳で“人間だった筈のモノ”を見下ろすアキラ。

辺りには多量の肉片や臓物が所狭しとばら蒔かれ、かつて冥界を震撼させた『ニスロク家の虐殺』を思わせる。

そんな中で正気を取り戻したアキラ、急いで周囲を見回すと隅で倒れている朱璃の姿が映った。

 

「大丈夫か朱璃さん、朱乃ちゃん!?」

 

見た目で分かる程に朱璃の傷は酷い。

だが治療すればまだ間に合う、急いでアキラは傷薬を使って朱璃の治療を始めた。

回復魔法が使えればもっと早く治療出来たろうが、生憎とアキラは悪魔を殺す為の技術しか持ち合わせていない。

……この時程、己が殺す技術しか持っていないのを悔やむ事は無かった。

 

「良かった、何とか命は取り止めた……これなら安静にしてれば助かる筈だ」

 

すると朱璃の近くで何かがモソモソと動く。

どうやら気配から察するに朱乃だろう、恐らく気を失っていたようだ。

良かった、助ける事が出来た……意識を取り戻した少女に手を差し伸べるアキラ。

 

「……い、嫌ぁぁぁ!!」

 

だが、朱乃がその手を取る事は無かった。

少女は怯えていた、他でもないアキラを見つめ……その可愛らしい瞳に『恐怖』の感情を映して。

 

当然の事だ、アキラの差し出した手は血で真っ赤に染まっていた。

それだけじゃない、彼の全身中が血塗れだ……例え命を救ってくれたとしても、子供に恐怖するなと言うのが無理な姿だ。

 

そしてそれをアキラも充分に理解出来ていた。

だからこそ彼は悲しげに笑い、静かに手を戻すと優しく朱乃に語り掛ける。

 

「……そっか、ゴメンな怖がらせて。

お母さんの事は心配無いよ、今は眠ってるけど直に目を醒ますから。

それとありがとう、俺のような“化物”に良くしてくれて……朱璃さんに、お母さんに伝えておいて欲しい」

 

「あっ……」と呟くと朱乃は躊躇しつつも手を伸ばす。

少女は少女なりに彼を傷付けてしまった事に気付いたのだろう。

しかしその手は空を切り……少女自身に悲しげな青年の背中と、自責の念が後まで刻み込まれるのであった。

 

 

この後、アキラは仕事の都合で暫く東京を離れる事となる。

結局、事件後に彼が『姫島神社』を訪れる事はなく音信不通となってしまう。

朱乃はあの時の事を謝りたいと願うも時既に遅し、そのままなし崩しに時は流れた。

 

其処から数年の月日が流れ―――

少女が大人の女性となり、色々な悲しみや経験を積み、いつしか青年の面影すら思い出せなくなった頃。

 

―――運命の歯車は、再び動き出す。

 




皆様の温かいご意見、ご感想を心よりお待ちしております


【今回の改変(HDD編)】
朱璃(朱乃の母親)……本来は襲撃で死んでますが、この物語では襲撃時には生存
尚、この後に朱璃さんは原作よりは長く生きるも古傷がたたり亡くなっています―――その際に父親と朱乃さんとの間に確執が生まれました


【今回の改変(真4F編)】
第拾の霊的国防追加……天津神イザナギ(外見はP4基準)
霊的国防兵器の中でイザナミと同じく別の側面で契約された日本神話の主神
簡単に言えば霊的国防(本来の方)が諸外国によって倒され、国が蹂躙され、人々が大和の誇りを失った際に一度東京そのものをリセットする為に契約された存在
その時に東京ないし日本を零に戻す役割を持っていたのがイザナミであり、零となった国を新たに生まれ変わらせて命を育む役目を担っていたのがイザナギ

三貴子の一柱追加……天津神ツクヨミ(女神転生IMAGINE)
アマテラスの弟にしてスサノオの兄であるカオナシ様
神話においては性別が書かれない事が多く、男か女かは不明だが、一応女神IMAGINEを基準にしてカオナシでブラックホール持ちのマント様です

あの方々……本来は真4、真4Fに登場していない真3Mの方々も追加
前口上は色々考えて合いそうなものを付けました―――キャラが作り難いですから、暴走族と坊さんは

柳の構え……マサカド公の使う刀の構えその②
その①は右に太刀、左に鞘を持つ変則二刀流
(鞘は刀を仕舞う以外に打武器としても使われています)
『柳の構え』と言うのは刃の切っ先を相手の方に向けて顔の横で刀を構えるもの
簡単に言えば『戦国BASARA』っつうはっちゃけ作品でルー語を喋る伊達政宗が取ってる構えの左右反転版(こっちの方が本来の構え)


【アキラに追加された新スキル】

神殺しの刃……真4Fでフリンの使ってた『神殺しの剣』のアキラver
耐性を持つ存在に対して弱点を突き、他者の攻撃も防御等を貫通出来るようにする無属性攻撃


荒神覚醒……オリジナルスキル(現在はパッシブ)
多くの仲魔の魔力やら力やらを取り込み、更に最上位の存在達と仲魔契約をした事で覚醒した凶悪無比な暴走状態
現人神(あらひとがみ)にも近い存在となっているアキラ故に得てしまった力であり、この状態になると魔力切れを起こすまでは暴走は止まらない

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