ハイスクールD×D ~『神殺し』の新たな軌跡~ 作:ZERO(ゼロ)
今回は表現は軽いですが性的描写を仄めかす部分があります
そういったのが苦手な方はご注意を
何故、こんな事になってしまったのか―――
遮蔽物の多い鬱蒼とした森林地帯を隠れながら逃げ続ける少女の脳裏にそんな思いが浮かぶ。
自らの主であった人物を殺し、はぐれ悪魔となった事に後悔はない。
寧ろそうしなければ自分な大切なものを守る事が出来なかった、自分の大切な妹を守る為にならこの手を汚す事など厭わなかった。
少女の名は黒歌―――かつてはある悪魔の下で眷属として生きていた猫又の上位種『猫魈』。
幼い頃から歳の離れた妹・白音と共に支え合い、日々を幸せに生きていた……あの日が来るまでは。
猫又とは言うなれば猫が遥か長い時を生き、妖怪化した存在の事である。
其の為、普通の存在ではない……身体も其処等の下級妖怪よりも断然に強くなるし、他に追随を許さない特別な力を得る事もある。
そんな大切な妹が原因不明の病に侵されたのが、黒歌が転生悪魔となる少し前の事だった。
どんなに手を尽くしても治る事のない原因不明の病。
黒歌にとって妹・白音は何にも代えがたい宝、たった二人きりの大切な家族だった。
失いたくない、どんな事でもする……だから妹を助けて欲しいと彼女は何度も何度も願う。
しかしそんな思いとは裏腹に死神の鎌は確実に白音の首元へと迫っていた。
だからこそだろう、あのような甘言に踊らされてしまったのは。
衰弱しきり、もう命が明日かとも知れぬ状態となった白音。
妹を助ける事の出来ない絶望感の中―――彼女の前に一人の得体の知れない男が現れた。
正体不明の男に最初は警戒した黒歌であったが、その人物が白音の様態を見て黒歌に『この症状の病は見た事がある』と囁いたのだ……どうやらこの人物、そうは見えないが医者か何かなのだろうか?
その言葉で男に疑惑を持っていた黒歌の表情が一気に変わる。
助かるのか……無力な自分には助けられない妹を、この人物ならば助けられるのか。
縋るように男に言葉を飛ばした黒歌に返って来た言葉、それは彼女の暗く染まってしまった今を明るく塗り替えるものだった。
『助ける事は出来るが条件がある』―――その言葉を黒歌は良く考えるべきであった。
男の出した条件を二つ返事で了承した黒歌、男は満足したように頷くと処方したと言う薬を黒歌に預けて去っていったのだ。
貰った薬を急いで白音に飲ませると、苦しんでいた白音の表情が次第に穏やかなものへと変わっていく……これで危機は脱したと言う事だ、黒歌は妹を助けてくれた男に感謝の念を送る。
だが、冷静さを失っていた黒歌は此処で気付くべきだった。
急に原因不明の病になり、それが高々薬を飲ませた程度で簡単に治る……そんな虫のいい話がある訳がないと。
そして男の出した条件と言うのがどう考えても不自然なものであったのを良く考えるべきであったのだ。
……まあ大切な妹が生きるか死ぬかの瀬戸際で冷静になれと言うのがそもそも酷な話だろう。
男の出した条件は一つ―――それはまさに悪魔の甘言。
そしてその条件を呑んでしまった事、それが黒歌にとっての“地獄の日々”の始まりであった。
『自らの眷属悪魔になって欲しい』、それが男の出した条件。
自らの大切な妹を助けてくれた事、そして彼の優しさに心惹かれた黒歌はその条件が『どういう事か』も理解せずに了承してしまう。
結果的に言えば悪魔であったその男によって黒歌は転生悪魔とされ、彼の眷属としての第二の人生を歩みだす事となった。
しかし……『眷属』などと言うのは所詮は形式上のものに過ぎない。
黒歌を待っていた現実は所詮、夢物語のような暖かなものではない―――彼女に待っていたのは『眷属』と言う名で飾り立てただけの奴隷としての生活であった。
動物と同じく裸同然で生活させられる日々。
主となった悪魔の欲望の捌け口として奉仕させられる日々。
嘆き、悲しみ、拒絶しても許されず、満足させられるまで毎日のように犯され続ける日々。
―――それでも心の何処かで納得して受け入れていたのは、妹を救ってくれた相手と言う思いがあった故だろう。
だが、そんな欲望と悪夢の日々は些細な事が切っ掛けで終わりを告げる。
主である悪魔が彼女の妹・白音にまで手を出そうとし始めたのだ……例え恩人であれ、主であれ、それだけは許せない。
そしてその時、黒歌は本当の事を知る。
白音の原因不明の病のそもそもの要因が、この悪魔の施した呪詛であったと。
得意げに語る主の下卑た笑い顔を見た時―――黒歌の中に在った何かが音を立てて壊れた。
其処から紆余曲折あり、黒歌ははぐれ悪魔として命を狙われる立場となってしまう。
何度も何度も追っ手を排除する内に皮肉にも彼女は猫魈としての力を段々と覚醒させ、気付けばSSランクの賞金首になっていた。
彼女の望みは唯一つ―――
もう一度、自らの命に代えても護りたかった妹と共に生き、笑って欲しいと言う細やかな願い。
されどその目的の為に力を行使し続けた少女の真っ直ぐだった願いは歪み、今は力に溺れた言い訳として目的に縋っていた。
何故、こうなってしまったのだろうか? 何が間違っていたのだろうか?
しかし恐らく彼女の行動は正しくもあり間違っていたのだろう―――ほんの少しのボタンの掛け違いが大きな歪みへと繋がったのだ。
そしてその歪みは幾つもの歪みと覆い被さり、絡み合い、一つの取り返しのつかない現実へと帰結していく事を誰も気付く訳があるまい。
●●●●●
「クッ……こ、この化物!!!!」
手に込めた『仙術』と呼ばれる術の一つを歩いてくる影に向かって放つ黒歌。
普段ならば余裕綽々、快楽的かつ短絡的で冗談ばかり言っている筈の彼女が表情を強張らせて叫ぶ―――手足は震え、恐怖と言う感情のみが黒歌を支配する。
彼女は転生悪魔としてはかなり破格な力を持ち、特に仙術においてはそう簡単に追随を許さぬ程に自信を持っていた。
『己の術で倒せない奴などいない』……そんな風に自信をもって言えるのも、彼女の力の高さがそのまま評価となっている極めて顕著な表れだろう。
勿論自画自賛ではなく、はぐれ悪魔になって間もないと言うのにSSランク(賞金首で二番目に高いランク)になっていると言うのが彼女の強さと危険さを表している。
しかし……なら目の前に居る“アレ”は何だ?
近くの木々をなぎ倒しながら迫る黒歌の力を込めた仙術に恐れる気配もない。
いや、寧ろ向かってくる仙気の弾丸に対してまるで散歩に向かうような足取りで進み続けている。
『ホッホッホ……中々な力よのう、小娘。
しかしてこの程度の豆鉄砲など、主殿の手を煩わせるまでも無し―――マカラカーン』
いつの間にか現れた鋼の像の如き姿をした女性、それが桁違いな力を持つ存在だと言うのは黒歌にも理解出来た。
黒歌は知らないがその存在はインド神話において魔術を人格化した存在であり、偉大なる神の別姿とされる存在―――夜魔マーヤー。
「こ、これならどうにゃぁぁぁぁっ!?」
今度は仙術を機関銃の如く乱射する黒歌。
放たれる一撃一撃は先程に比べれば弱いが、これは所謂『数を当ててダメージを与える』類の術。
しかも放たれた弾の数は百を超える―――避けられる筈が無いと言う自負が黒歌にはあった。
『脆弱―――汝の豆鉄砲など虫けらの襲撃にも劣る』
悠々と歩いてくる人物を庇うように現れる三面六臂の巨人。
六本の腕を軽く振り払っただけで迫っていた百を超える仙術の弾はかき消された。
その正体はインドラと敵対し、怒りと闘争を以て修羅道を統べる鬼―――破壊神アスラ。
元々彼らの如き上位の存在が出るまでもない相手。
しかし彼らは主と慕う漢に忠誠を誓う忠臣―――例え余計な世話であったとしても、主を守る事こそ誉れ。
かの『東京』においてもこの二柱の存在は主を守る盾であり矛であった……『人の形をした死』や『原罪の天使』に比べれば劣れど、幾多の神々や悪魔達に劣らぬと言う自負が彼らにはある。
「……全く、お前らが出るまでも無いだろ」
此処で初めて口を開くアキラの口調には苦笑のような感情が含まれていた。
仲魔達は意外と心配性な連中も多い、特に母性の強い地母神や女神達などはまるでまだ幼い子供のように接してくる者も多かった―――まあ今は外見は幼子だが。
「くっ、な、何を無駄口叩いてるにゃ!? この程度の事しか私が出来ないとで、も……?」
威勢のいい声を上げようとする黒歌。
認められない、認める訳にはいかない、相手は気配から感じるに“唯の人間”だ。
此処で己の力が通じないと認めてしまえば、今まで築き上げてきた己の自信も自負も全てが崩れ去ってしまう。
嫌だ、もう嫌だ、あんな惨めで哀れな日々を払拭出来ないまま死ぬなど―――この力を以て、自分を苦しめた全てを破壊するまでは。
だが彼女が気付いた時、既に彼女の首元には禍々しく光輝く刃が突き付けられていた。
『……動くな、小娘……一歩でも……動かば……儂の刃が……主の首を……落とす、ぞ……』
幽鬼の如く、影法師の如く―――
一見、茸の如く見えるその姿には顔の代わりに髑髏を備え、怨霊の呪いの如き冷たき殺意を刃に乗せて黒歌を見下ろす。
―――かの者の名は死神チェルノボグ、スラブ神話の夜と悪と死を司る死神。
気付かなかった、いや気付けなかった。
確かに周囲に気配は配っていた筈だ、この化物は一体何処から現れた?
だが解る事はある。
―――勝てない、器も力も違い過ぎる、どう攻めても自分が殺される姿しか想像出来ない。
それに彼らは目の前の悠々と歩いてくる人物を“主”と呼んでいた……と言う事は、こんな化物達よりも更に化物が居ると言う事だ。
気怠そうに首を回しながらアキラは黒歌の前に立つ。
自分を睨み返してくる黒歌の殺気を込めた視線など何も感じない様に、極めてマイペースに口を開く。
「……SS級の賞金首、はぐれ悪魔の黒歌で間違いねぇな?」
何も言わない黒歌だが、その射貫くような視線が肯定している。
蠱惑的だが見方によっては諦めの様なものを含む草臥れた老人の如き目だ……それと共に消える事のない憎悪も宿っている、この目をした人物をアキラは東京で何度も見てきた。
「罪状は主殺し……それに追従してかつての主の肉親から送り込まれた追っ手を何人も殺害、か。
まあ追っ手をかけられりゃそれを返り討ちにするのは仕方のねぇ事だろうが、テメェは少々やり過ぎた」
淡々と罪状を読むアキラ。
対して黒歌は首に刃を突き付けられてる事など構わずに更に明確な殺意を込めてアキラを睨む。
『お前に何が解る』―――鋭い眼はそう物語っていた。
「俺はテメェの事情なんて知らねぇよ―――だけどよ、テメェは本当は何を望んでた?
自分の力を誇示する事か? それとも自分をこういう状況に追い込んだ奴に復讐する為か? それとも……自分の大事なモンを護る為か?」
そこでふと、黒歌の表情が変わる。
そうだ……何の為に力を求めた? 何の為に此処まで生きてきた?
力に酔って己の強さを誇示する為か―――違う。
自分を穢し、貶め、辱めた悪魔達への復讐の為か―――違う。
力を求めたのは、大切な者の為だ。
護りたかった、たった二人の大切な家族を護りたかった、命に代えても惜しくない妹の笑顔を護りたかった。
ずっと笑っていて欲しかった、それだの些細な願い……そんな尊い願いは、何時からこんなに歪んでしまった?
悪魔の甘言に騙されてからか―――違う。
穢され、犯され、虐げられ、ボロボロになった時からか―――それも違う。
願いを歪めてしまったのは自分自身だ。
『全て自分が泥を被れば救われる』……そんな勝手な考えで、大切な妹を置き去りにしてしまったその時から。
自分が居なければ白音は幸せになれるなんて自己犠牲に酔って、最も大事なもの手放した事から逃げる為だ。
何の為に血反吐を吐いてでも生きた?
妹の為だ、あの優しい笑顔を向けてくれる妹をもう一度取り戻したかったからだ。
もう一度、白音と共に笑いながら生きたかったからだ―――黒歌の眼から涙が頬を伝う。
「大事な事に気が付いたようだな―――だがもう遅い。
テメェはそこに辿り着くまでに何人もの命を奪った、それ相応の『覚悟』はあった筈だ。
人を傷つけるのは己が同じ事をされる覚悟がある者だけだ、撃って良いのは撃たれる覚悟のある者だけ―――それが『覚悟』って奴だろう?」
手で制すと黒歌の首元に突き付けられていた刃が引く。
恭しく主に首を垂れると、三柱の仲魔達はスマホに戻る……そして、アキラは何処からともなく手に刀を携えていた。
武骨で、飾り気も無く、唯何かを斬る事のみに特化した凶暴で怜悧な刃―――刃は黒歌の首へと向けられる。
「勿論、俺もいつかは報いを受ける時が来るだろうさ。
だがそれで良い―――あの東京で創造主を倒すと決めた時から覚悟は決まっているからな」
ゆっくりと刀を振り上げるアキラ。
黒歌は咄嗟に逃げようとするが体が動かない、目の前の人物に気を呑まれているのだ。
恐怖で体が弛緩する……死にたくない、生きたい、死ぬ訳にはいかない、なのに体は指一本たりとも動かない。
「心配するな、痛みも無く一瞬で終わる」
無表情に、表に感情を出す事も無く。
まるで死刑執行人の如く、アキラは天に向かう刃を振り下ろした―――
●●●●●
「―――旦那、今回もご苦労様でした」
斡旋屋の主人の声が暗い店内に響く。
仕事を終わらせたアキラはその足で一路、斡旋屋のカウンターに向かった―――そこで訝しげに斡旋屋の主が尋ねる。
「しかし旦那、珍しいですね。
いつもなら必ず『首』か『一部』をお持ち頂くのに、今回に限っては『髪』ですか……聞けば相手の抵抗が激しく、原形を留めていなかったとか。
まあ確かに、そのようなグシャグシャな肉片をお持ち頂いても此方としても手間が増えるだけですから」
肩を竦めるアキラ―――そんな彼を興味深げに見つめる斡旋屋の主。
『今回は依頼主の意向に沿えなかったから賞金は必要ない』……どうやらやり過ぎた事を彼なりに反省しているらしい。
「あー、賞金についちゃ此方からも不手際がありまして……正直、そう言って頂けると助かります。
何せこの賞金賭けてた上級悪魔のクソ野郎様が急に“不慮の病で亡くなった”らしいので、賞金首の依頼自体が無かった事になったんですよ。
ま、本当にクソ野郎を地で行くような貴族様でしたからね、死んで清々するって人も多いらしいですよ旦那」
再び肩を竦めるジェスチャーをすると背を向けて歩き出すアキラ。
依頼書を見て回ったが最近は殺すまでも無い人物が多いらしく、今回は仕事を受けずに帰る心算だ。
……その時、不意に斡旋屋の主が去るアキラの背に言葉を飛ばす。
「旦那、どうぞ“黒猫”ちゃんに宜しく―――次も良い仕事を用意してお待ちしております」
一度だけ立ち止まるアキラ。
だが頭を掻きながら今度は止まる事無く外へ出て行った。
町からかなり離れた丘の上。
其処には長かった髪がバッサリと切られた人物の姿―――死んだ筈の黒歌が居た。
「……ふん、格好付けちゃって」
町を見下ろす黒歌、その脳裏には先程の光景が浮かぶ。
首を落とす為に振り下ろされた刃―――それは彼女の首ではなく、彼女の美しい長い髪を切り落としていた。
驚く彼女を尻目にアキラは髪を拾い集めて束ね、背を向ける。
弛緩していた身体も動くようになった、と言う事は恐らく彼が何かしていたと言う事だろう。
しかしそれよりも気になったのは何故、命を奪わないのか?
それを訪ねると、返って来たのは呆気無い答えだ。
『奪ったろ? 髪ってのは女の命だって聞いたぞ』―――何とも悪びれも無く言うアキラ。
喋り方も先程までの重苦しいものではなく、かなりフランクなものへと変わっていた。
彼は黒歌の事情を知らなかった訳ではない、寧ろ知った上で歪んだ彼女の願いを正したのだ。
初めから命を奪う気など毛頭無い……そもそもはぐれ悪魔になった事情も承知しているのだから当然だろう。
唯、彼は黒歌の歪んでしまった願いを元の形に戻してやりたかった―――黒歌の姿に何処か自分の姿を見た故に。
それと共に彼は黒歌に言う。
『ほとぼりが冷めるまで身を隠せ、何れは大手を振って妹と会えるようになるから』と。
その時はその意味が良く理解出来なかったが、人の伝手で聞いた話によれば黒歌にかけられた賞金が無くなったのだそうだ―――と言うよりも、かける存在が居なくなったと言った方が良いか。
「まったく、勝手に現れて勝手に人の事脅して……寿命が縮んだにゃ」
しかし、言葉とは裏腹に黒歌の表情は明るい。
彼がしてくれた事は感謝してもしきれない……己の願いを思い出させてくれただけでなく、もう逃げ回る事のない自由までくれた。
黒衣を纏った正体不明の青年―――己に大切な事を思い出させてくれた恩人。
凶悪無比なまでの力を持ちながら本当は心優しく、恐らく誰よりも『痛み』を知っている青年。
そんな青年の後姿を脳裏に思い浮かべながら、黒歌は蠱惑的に笑う。
「良いにゃ、今度は私が寿命を縮めてやるにゃ。
もう一度会えたらあんな事やこんな事をして枯れるまで搾り取ってやるにゃ……覚悟しろにゃ、だーりん♪」
―――その笑顔に、陰は無い。
心からの笑顔を久方ぶりに見せた後、黒歌はどことなく去っていった。
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時は数日前―――
「だ、誰だ……誰だ貴様らは!? こ、此処を冥界の有数貴族の館だと知っての狼藉か!!?!?」
冥界の中でも有数な純血の悪魔の一つ、ニスロク家の当主は館に入り込んできた者達に怒声を飛ばす。
彼の館に居た何十、いや何百に近い護衛や眷属悪魔達は瞬く間にその凶悪なまでの暴威に悉く喰らい尽された。
もう生き残っている者など数少ない―――そんな配下達に命を下すニスロク家当主。
「こ、殺せ、此処を通すな!!
良いか、時間を稼げ!! 騒ぎを聞きつけた魔王様方や他の貴族が援軍に来るまで……」
しかし、その言葉が最後まで配下達に届く事は無い。
いや、届く訳がないのだ……何故なら、既にこの館で生き残っているのは当主唯一人なのだから。
『やれやれ、この程度ですか……所詮、士道も持たぬ下種の配下では当然の結果』
『フン……バルムンクを振るうまでも無い』
『……愚かの極みよ……』
鮮血に塗れるは三人の猛者―――
烏帽子に鎧姿の美男子、その二刀で多くの平家を狩った英傑ヨシツネ。
悪龍を殺した不死身の肉体を持つ偉丈夫、英傑ジークフリート。
勇敢さと武を併せ持ちながらも時の皇帝から忌避され非業なる死を遂げた忠臣、英傑ラリョウオウ。
彼らはアキラを主と定め、その刃を躊躇無く振るう―――さながらその強さ、一騎当千にして悪鬼羅刹の如く。
「ひ、ひいいいいぃぃぃ!!?!? だ、誰か!? 誰かおらんのか!? 儂を、儂を助けろ!!」
走り逃げ出すニスロク家当主。
彼を追おうと歩き出そうとするラリョウオウ、しかしそんな彼の肩をヨシツネが制して止めた。
此処にはもう一人、アキラから託された仲魔が居る……しかも相当凶悪無比な存在が、だ。
下手すれば巻き込まれるだろう、それ程の存在なのだから。
「ひい、ひい、ひい……な、何なのだあれは……ま、まさか、“狩人”の手のものか……!?」
聞いた事がある―――『幻影の狩人』。
本来ははぐれ悪魔を狩る事を仕事とする存在、だがその刃は時に悪魔自身にも向けられる。
欲望の限りを尽くし、他を虐げる者ならば……それが例えどんな存在であれ遍く命を狩る狂人。
ニスロク家当主である己も欲望の限りを尽くしてきた、それは“狩人”からすれば殺すに値する存在……つまり狩人にとっての『獲物』に過ぎない。
幼子を攫い、欲望の捌け口として扱い、壊れたらゴミの如く捨てる―――そんな事をすれば命を狙われるのは当然だ。
愚かな息子も眷属悪魔によって殺された……それと同じ轍を踏んでたまるか。
この地下にはいざという時の為に脱出する為の道がある、奴らはそれに気づいていない。
ならば早く逃げなければ―――その時、不意に覆い被さった何かが動く。
それは幼き少女達の躯。
裸に剥かれ、全身中を痛々しい傷跡や独特の臭いのする体液が擦り付けられ、苦悶の表情のまま事切れている。
儚い少女達の命を身勝手に奪った者こそ、ニスロク家当主だ。
だが、どうやら生き残りが居たらしい。
確か皆壊れて死んだ筈だが……見覚えのない、だがとても可愛らしい裸の少女が手を伸ばす。
『お、おじさま……たす、けて……』
「お、おうおう、直ぐ助けるからな!!」
しめた、と当主は思ったろう。
無駄なまでに精力過多でロリコン主義な彼にとってこれほど可愛らしい少女が生きていたのはまさに渡りに船。
下卑た笑いを浮かべながら屍の山から引き摺りだした少女は、このような状況で魅了するような笑顔を向ける。
『ありがとう、おじさま……私、おじさまの事がだ~いすき♪
ねえ、おじさま? 一つだけ、私のお願い聞いてくれないかな……だめ?』
一つだけと言わずどんな願いでも聞いてやろう。
このフランス人形の如き柔肌を己のものと出来るのならば―――それが彼の最後となった。
『ありがと♪ じゃあお願い―――“死んでくれる?”』
その日―――悪名高きニスロク家は当主を含め全員死亡し、お家断絶となる。
館の中は血と臓腑と肉片とが所狭しとばら撒かれ、見た者に嫌悪感を与えるには充分過ぎる程であった。
幼子を攫っては欲望の捌け口としていた当主のして来た行いを考えれば当然の報いだと言う者もいたが、あまりにも凄惨な状況に同情を覚える者もいたそうである。
……因みに地下にあった幼子達の亡骸は、まるで眠っているかの如く綺麗な状態であったと言う。
そしてこれは噂に過ぎないが―――
館から鼻歌を歌いながらスキップする青い服の少女の姿があったと言うが、真相は謎のままである。
皆様の温かいご意見・ご感想を心よりお待ちしております
【今回の改変】
黒歌……あの子、どう見ても原作でも処女じゃなさそうなので
バックストーリーを付けるのは私の昔からの癖です
尚、アキラもチェリーじゃないです( ´艸`)
初体験の相手? そこら辺はノーコメントで( `・∀・´)ノ
チェルノボグ……本来は死神ではなく破壊神
しかし死神の方がしっくりくる、そんなサマナー世代