ハイスクールD×D ~『神殺し』の新たな軌跡~   作:ZERO(ゼロ)

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第二十話

「クソが、何なんだよテメェらはぁぁぁぁ!!」

 

再び頭部を再生させると怒りの眼を変装したアキラとアーシアに向けるライザー。

しかし問いに対して答えなど無い、在るのは答え代わりにアーシアの持つ銃から撃ち放たれる弾丸。

その間にアキラはまるで役者の如く演出じみた台詞を放ちながら式場の参列者達の前に躍り出た。

 

「さあさ皆様お立合い―――

これより見せるは一瞬での衣装替え、タネも仕掛けも御座いません。

此方に居るはグレモリー家のご令嬢、愚かな不死鳥の下種な趣味にて辱めを受けさせられる寸前。

なればそんな彼女を、一瞬の内に麗しき淑女へと変えて見せましょう―――ワン、ツー、スリー!!」

 

纏う黒のマントを翻し、裸同然の衣装のリアスへと被せる。

そのままカウントを三つ数え、指を鳴らし、再びマントを翻すとリアスの姿は様変わりしていた。

裸同然の衣装は彼女の髪の如く美しく映える紅のドレスに、頭には白のヴェールが被せられ色に映える赤い薔薇の髪飾りが留められている。

 

「テメェ、何やってんだ!? 勝手な真似を―――」

「……五月蠅いから黙って貰えますか? それに不潔です、いやらしい」

 

三度銃撃で頭を吹き飛ばされるライザー。

アーシアもどうやら相当に頭に来ているらしい、まあ同じ同性として当然の事だろうが。

裸も同然の格好を(親族&リアスの眷属達だけとは言え)公衆の面前で披露させられる女性の気持ちを考えれば。

一方、フェニックス側の関係者達の場合は突然の闖入者に呆気に取られてしまっていた故か誰も行動を起こそうともしない。

……いや、寧ろフェニックス側の関係者は殆どが『生き人形』と言っても過言ではない状態なのだから行動を起こすもヘッタクレも無いのだろう。

 

「さて、では今度は『害鳥退治』でも始めるか。

クー、ジャンヌ、ジーク、ハゲネ、リアスとグレモリーの関係者の護衛を頼む。

アーシアもう良いぞ、どうせ何発撃っても今は“弾の無駄”だ―――」

 

「御意―――」

「承りました、我が主様」

「チッ、今回は護衛か―――まあ良いさ、了解だ」

「……我が主の御心のままに」

 

身の毛のよだつ様な声は何処から聞こえて来たのか―――

グレモリーの関係者は行き成り響いた声に一瞬肩をひくつかせると声のした場所を探す。

すると彼らの傍、一定の距離は離れていたが……今まで誰も居なかった筈の場所に人影が佇んでいたのだ。

 

一人は手に槍を携える白を基調とした鎧を身に纏う騎士。

 

一人は鎧を身に纏い、青・白・赤の三色に分かれた外套を羽織る女性の騎士。

 

残りの二人はアーシアと共に堕天使の集団を殲滅した戦士達。

 

何時の間に現れたのかすら悪魔達には理解出来ない。

それ所かかつては戦士として名を馳せたグレモリー公爵・ジオティクスも、その妻であり『亜麻髪の絶滅淑女(あまがみのマダム・ザ・エクスティンクト)』などと称されるヴェネラナすらも視線に彼らの姿が入ってやっと存在を認識出来た程だ。

それがどれだけ不気味で、そして彼等が“主”などと敬う存在が居る事がどれ程までに異質なのか―――今のグレモリーの関係者達の中で理解して居る者は居まい。

 

「テメェら……此処を何処だか理解出来てるのか、あぁ!?

この俺、ライザー・フェニックス様の婚約パーティの場を荒らして只で済むと―――」

 

怒りに表情を歪めるライザー、流石に今度は問答無用でアーシアも撃つ訳ではない。

今にも周囲を燃え散らそうとする程の怒気と殺意をアキラに向けるも、当の向けられている本人は涼しい表情だ。

……いや寧ろ、隣のアーシアとマイペースに談笑していた。

 

「いやー、しかし熱いな……こりゃ変装を間違えたかね」

「だから私言ったじゃないですか、こんな本格的な衣装用意する必要ないって」

「まあアルファとベータがノリノリで用意してくれたものだからなぁ、今更着ない訳にも」

「……完全にあのお二人の趣味入ってますよね、凄腕のハッカーなのに趣味は意外と……」

 

―――こんな状況で良く談笑など出来るものである。

案の定、そんな彼ら二人の姿を見たライザーは怒りを抑えられなくなったのか焼き尽くそうと掌を向けた。

既に彼には今までの様な嫌らしい哂いも余裕もない、それだけ邪魔をされたのが癪に障ったのだろう。

若しくは自分に従う事のない存在に対しての“憤り”もあったのかも知れない。

 

だが、その掌から不死鳥の轟炎が放たれる事は無かった。

何故ならこの場に、数少ないアキラとアーシアの異様さを理解している者が静かに足を踏み入れたからだ。

この場において最も身分が高く、最も修羅場を経験し―――ライザーの行った筆舌に尽くし難い悪行の数々を知っている人物が現れた故に。

 

 

●●●●●

 

 

「お、お兄様―――」

 

そう、それはリアスの兄にして冥界四大魔王の一人・サーゼクスだ。

微笑みながら歩みを進めて来る自らの兄に声を掛けたリアスだったが、一瞬で口を噤んでしまう。

長い付き合いであるリアスには簡単に理解出来てしまった、兄・サーゼクスの強烈なまでの怒気を―――顔は笑っているが、震えを発する程の気配に何も言えなくなってしまうのは当然の結果である。

しかしそんな解る者には解る憤怒すら押し殺し、サーゼクスは微笑みを浮かべたまま口を開く。

 

「いや済まないねライザー君、彼らは私が用意した余興なんだよ」

 

彼はアキラを見ながら周囲に聞こえるよう、特に激怒するライザーを落ち着けるように言う。

本来ならば彼の罪を知っているサーゼクスとすれば自らの手で血祭りにあげてやりたい気分であろう。

しかし彼にも“魔王”という立場があり、幾ら証拠を掴んでいるとは言えどもこの状況で有数の血筋の悪魔を殺してしまう訳にはいかない。

そんな事をすればそれを利用し、現体制に不満を持つ者達が台頭してくるのは目に見えている―――折角落ち着いた冥界の情勢を“内乱”で乱す訳にはいかないのだ。

 

ならば如何すれば良いか、それは別の要素を“利用”すれば良い。

サーゼクスの元にライザーと元老院の癒着・悪行の数々を記した証拠書類を送ってきた存在(アキラ)もそれを考慮した上で状況が変わるのを待っていたと言う事だ。

 

一瞬だけだがサーゼクスはアキラと眼があった際に目配せをする。

利用する事への謝罪、そして何より大切な妹の人権と名誉と身を護ってくれた彼への感謝を込めて。

 

「······どう言う事だねサーゼクス、きちんと説明が欲しいのだが」

 

サーゼクスの言葉に父・ジオティクスが尋ねる。

対してサーゼクスは表情を変える事無いままに言葉を返す。

 

「父上、別に他意はありません……まあ婚姻前の余興と言う奴ですよ、余興。

私の可愛い妹の婚約パーティですから派手にやりたいと思うのです―――それにライザー君、この前のレ―ディング・ゲームはリアスが不戦敗と言う形でお茶を濁してしまったから不満があるのではないかな?

私としては大切な妹が嫁ぐ先が万が一にでも“つまらない手を使って脅迫して勝ちを捥ぎ取った”などと噂をされるのは忍びないと思っていてね」

 

サーゼクスの言葉に表情を一瞬だけ変えるライザー。

落ち着いたのだろう、今迄の様な自信と嘲りを含めた哂いを浮かべると言い放つ。

 

「誰ですかサーゼクス様、そんな根も葉もない噂を流す輩は―――心外です」

 

「いや何、気分を害したのならば謝るよ。

だが貴族と言うのは全部が全部『聖人君主』と言う訳ではない、勝手な理由を付けて君の信用を落とすような事をしてくる輩もこれから大勢出て来るだろうと言うのは容易に想像出来る事さ。

だからこそそんな愚かな連中が出て来ない様に君自身の力を此処で披露し、つまらない噂など出て来ないような盤石な状況を作る事が大事じゃないかと思った訳だ。

どうかな? 君の全力を此処で遺憾なく発揮して、私やグレモリー家を安心させてはくれないだろうか?」

 

言い終わるとサーゼクスは何と頭を下げた。

魔王が頭を下げる事、それがどれ程に重いものかこの場に居る者が理解出来ない訳があるまい。

頭を下げるサーゼクスに一瞬だけ優越感に浸ったような表情を浮かべたライザーは慌てた素振で駆け寄った。

 

「お、恐れ多いですサーゼクス様、頭をお上げください!!

サーゼクス様のお心遣いに不肖ライザー、感激で胸が張り裂けそうです―――分かりました、なればこの身を固める前に最後の炎をお見せし、そのような心外な噂を払拭して見せましょう!!」

 

芝居がかった台詞に対して小さく肩を竦めるアキラ。

アキラからすればライザーは所詮“大根役者”だが、サーゼクスと言う人物はかなりの狸だ。

誰かに似ているとは思っていたが……サーゼクスと言う人物、アキラが日頃から世話になっている『マダム銀子』に近い人物のようである。

まあ国を治める“王”のような存在なのだから、古狸である事は最低限必要だろう。

 

「さて、会場の皆様方やライザー君からお許しが出たようだよ。

万が一だがもし君が勝った場合、君の望む代価を与える事を約束しよう……何が良いかな?」

 

悪魔として何かをさせる以上は対価が必要だ。

勿論これもサーゼクスの芝居なのだが、アキラは笑いを堪えながら“魔王の描いた筋書”を自分なりに演じる。

 

「……じゃあそりゃ、勝った時に考えるとするよ」

 

そのまま魔王に背を向けるとライザーと対峙するアキラ。

余裕そうにニヤニヤと嫌らしく嗤うライザー、一方のアキラは仮面をつけたまま見つめている。

表情には感情は一切見えない―――唯無感情に、目の前の輩に視線を向けるだけ。

『逆に恐ろしさを感じる』……仮面の青年を見つめるサーゼクスはそんな風に感じていた。

 

 

●●●●●

 

 

「おいクズ野郎、冥界で何で行動出来るのか知らねぇがテメェ人間だな?

サーゼクス様の命がある以上、テメェは此処から生きて帰る事は出来ねぇぞ……まあ当然だな。

だがまあ俺は寛大だ、一つテメェとゲームをしてやるからありがたく思え」

 

ライザーの言葉に対してアキラは何も返す事は無い。

だが相手が力も感じない唯の人間だと理解したライザーは極めて愉しそうに哂う。

『ゲーム』という内容が何なのか解らないが……ライザーが指を鳴らすと彼の周りに魔法陣が形成される。

魔法陣から放たれる光が止むと、其処には彼の眷属である女性達が集合していたのだ。

 

「ゲームの内容は簡単だ、俺の下僕共と戦え。

此奴らを倒せた人数によってサービスをくれてやる……そうだな、死ぬ前に×××でもヤラしてやるよ。

それと倒した数で痛みがねぇように楽にしてやる―――どうだ、良い条件だろ? ヒャハハハハハハッ!!!」

 

周囲を結界の様なもので覆っているとは言え、実に下品な男だ。

すると今まで黙っていたアキラが現れた不死鳥の眷属、いや言うなれば肉奴隷達を見回してから溜息を吐く。

既に全員『手遅れ』のようだ―――レイヴェルと言うライザーの妹やミラと言う鬼の少女とは違う、比較的真面に見えるが完全に狂ってる。

『Inferno』による末期状態と言う事なのか、それとも不死鳥と交わり続けた末路なのか。

 

―――哀れなものだ。

彼女達はちっぽけな形だけの意思はあれど、生きてる屍と同じ。

死ぬ事でしか救えないだろう……繋がっている“主”を殲滅する事でしか解放される事は無い。

 

どんな理由で不死鳥の眷属になったのか知らない。

一時の快楽か、目的があったのか、今となっては解らないし理解してやる事など出来ないだろう。

ならば出来る事は一つだけだ―――ライザーを見返したアキラは小さく吐き捨てる。

 

「前に言ったろ、ガキと年増は趣味じゃねぇよ」

 

言うと背に背負った刀を抜くアキラ。

彼の行動にライザーも眷属達に命を下し、戦いが始まると思われたが―――

 

「待って下さい、アキラさん―――あの人達の相手、私に任せて貰えませんか?」

 

佇んでいたもう一人の可憐な少女の言葉が結界内に響いた。

 

 

●●●●●

 

 

対峙する二組―――

片方はライザーの眷属達、もう片方は黒に染まった衣装を身に纏うシスターとして生きていた少女。

アーシアの言葉にアキラは彼女を信じ此処を任せる事にしたのだ。

 

悲しげな眼でライザーの眷属達を見つめるアーシア。

逆に獲物を見つめる捕食者の様な獰猛な目を向けるライザーの眷属達。

主の命は絶対、主の命を完遂すればまた愛して貰える―――彼女達にはそんな思いしかない。

彼女達は確かに人形であり、後戻りが出来ない狂人でもあるが、感情と言うものが無くなっている訳ではない。

つまり悦ぶ事も出来るし、恐れる事も出来る……彼女達にとっての悦びは主に愛される事、恐れは捨てられる事ではあるのだが。

 

「「ねえねえ、もう始めちゃっていいの? 解体しちゃっていいのあの子♪」」

 

チェーンソーを持つ双子の少女達がまるで玩具を前にした子供の様にうずうずとしながら仲間に話しかける。

手に持たれたチェーンソーの刃は所々が刃毀れしたり赤黒く錆が付いている、今迄何人もの犠牲者の血を吸って来たのだろう。

 

「もう少し待ちなさい―――合図があったら好きにバラバラにして良いわ。

あんな小娘一匹じゃ満足しないでしょうけど、ライザー様をコケにしたあの男の前で生きたまま解体してやれば最高の苦痛になるから」

 

リーダーらしい仮面の女が呟く。

彼女達は自信を持っている、いやそもそも自信が無い訳がない。

ライザーによって直々に力を与えられ、今迄何人もの連中を殺してきた彼女達はそん所其処等の眷属などと場数が違うのだから。

 

『―――それでは開始してください!!』

 

バトルを取り仕切る悪魔の開始の合図が響く。

此処から始まるのは無慈悲な解体ショー、生きたままバラバラにされる少女の姿を見るなど誰が喜ぶのか?

 

「開始ー♪ やった~♪ よ~し、解体しちゃうぞ~♪」

「バラバラだ~♪ バラバラバラバラバラ~♪」

 

鼻歌のように口ずさみながらチェーンソー姉妹は得物に火を入れ、床に刃を当てながら直進してくる。

火花を散らし、床に大きな傷を作りながら笑顔で迫ってくる姿はまるでホラー映画の様だ。

其処から響くのは肉を千切り刻む音、少女の哀れな悲鳴、撒き散らされる鮮血や臓腑。

二人のチェーンソーが哀れな少女に向かって振り下ろされ、会場からは悲鳴が響く。

なぜあんな少女に任せたのか、誰もがそう思うだろう―――実際、アーシアの実力を知っているリアス達すらこれから起こる惨劇に目を背ける。

 

だが―――響いたのは肉を切り裂く音ではなかった。

 

「―――えっ?」

「―――あっ」

 

響いたのは呆けたような声。

そして、それに続くようにチェーンソーの刃が固い何かにぶつかる音と。

 

“タン、タン―――ッ”

 

リズムを刻むかのように続けて響いた二発の“銃声”だった。

 

「なっ―――!!? イル、ネル!!?」

 

頭から血を流して地に倒れる二人の少女。

双手にオートマチックの拳銃を構え、二人を見下ろす黒衣の少女・アーシア。

二丁の拳銃の銃口からは煙が立ち上っている―――それだけで少女が何をしたのかなど理解出来ない者は居まい。

 

「―――大層な口を聞いてこの程度ですか?

成程、良く分かりました―――アキラさんの言っていた通り、取るに足らない方々ですね」

 

殆どの者が目を背け、解体ショーが始まると思っていた。

しかし蓋を開ければその先に待っていたのはアーシアによる“瞬殺劇”。

見ていた者にしか理解出来まい……アーシアは突っ込んできた双子の持つチェーンソーのエンジン部に銃撃を撃ち込み止め、更に足を払って床に倒すと二人の頭を撃ち抜いたのだ。

流れるような一連の自然な動作に魅了され、ライザーの眷属達が気付いた時には既に終わっていたのだ。

 

「来ないんですか? ならこちらから行きます」

 

言うや否や、アーシアの姿が一瞬で消える。

響くのは大地を踏み締める音、床には靴の形に陥没した跡が残っただけ。

次に彼女が姿を現した場所、それはライザーの眷属達が固まって高みの見物を決め込んでいた場所だった。

 

「なっ、えっ!?」

「う、嘘!!?」

「な、た、助け―――ッ!!?」

 

アーシアの左右に挟むようにして立っていた二人の少女は先程の双子の如く脳天を撃ち抜かれて地に伏す。

更に目の前に居た少女の股下をすり抜けながら後頭部に銃撃を二発、これで一気に三人を倒した。

 

「にゃ!? ちょ、ま、待って……ぎにゃぁぁぁ!!?」

「は、はやい、追い付かないにゃ……げぐっ!!」

 

猫耳の双子姉妹が何かを言おうとしたようだがそんな事など構いはしない。

アーシアは地を蹴って瞬時に宙返りすると猫耳少女の肩に飛び乗り、足を首に絡めると捻じり折る。

続けてそのままの体勢でもう一人の猫耳少女の首を銃身に装着されたバヨネット(銃剣)で突き刺して掻っ切った。

其処から肩を蹴って空中に跳躍すると、今度は何処からともなく両手持ちの変わった形の銃を構えていたのだ。

 

「貴女方は不死鳥の眷属ですから致死の攻撃を受けても時が経てば回復してしまうでしょう。

ですのでそれを封印させていただきます―――普通に流通しているものよりも良く効きますよ、コレは」

 

引鉄が引かれて撃ち出される榴弾はそのまま重力に逆らう事無くライザーの眷属達の居る場所で破裂し、中から液体が飛び出す。

アーシアの手に携えられる銃は『ダネル MGL-140』、軍隊などで運用されるグレネードランチャー(擲弾発射銃)で連射を可能とする代物だ。

グレネードランチャーとは簡単に言えば、投擲する手榴弾(要は爆弾)を銃身から発射する為の銃である。

弾には通常のもの以外に可燃性の液体を仕込んだ『火炎弾』や強い酸性液を仕込んだ『硫酸弾』などがあるが、彼女の持つ銃の弾は特注品である。

 

その弾の中身は―――

 

「あ、ああああああああぁぁぁああ!!?!!?」

 

着物を着た少女に液体が直撃すると途端に苦しみ出す。

それも其の筈、アーシアの撃ったグレネード弾の中身は本来のものよりも高密度の“聖水”なのだから。

彼女達はフェニックスの眷属であり、主のライザー程に瞬時な回復力は無いが傷を再生する力はある。

故に放っておけば何度も何度も復活する可能性があるが、流石に聖水塗れではその効果は期待出来ない。

着物の少女はのた打ち回って苦しんだ後、そのまま倒れたまま動かなくなった。

 

「美南風ッ!! き、貴様ぁぁぁぁ!!! ならばこれでどうだ、風よ!!!」

 

巻き起こる旋風、大剣を背負う女が起こしたものらしい。

まあ元々彼女達はフェニックスの眷属、炎と風を操る事を得手としている。

恐らく風を起こす事で聖水弾を弾き飛ばす、若しくは銃弾を逸らすという魂胆であろうが考えが甘い。

 

「立ち止まっていて良いんですか?

確かにそんな風を起こされては特製の聖水弾も役に立ちませんが、代わりに逃げ場所は自ずと狭まりますよ」

 

冷静に、冷酷に―――

信じて来たものの矛盾を知り、己自身で人々を護ると誓った少女は構えた狙撃銃のスコープを覗く。

弾を逸らそうとする風など関係ない、逸らせるものなら逸らしてみると良い―――彼女が愛用する対戦車用狙撃銃『PzB(パンツァービュクセ)38』が轟音を放ち、風を貫いて大剣を背負う女の胸に風穴を開けた。

 

「ご、げ、あぁぁぁ……」

「シーリス!? ば、馬鹿な……私達は、私たちは負けないんじゃ……!!?」

「落ち着けイザベラ!! 私が奴を斬る!! はぁぁぁぁぁ!!!」

 

地を蹴るとアーシアに切りかかる女。

随分勇ましそうな印象を受ける人物だが、狂う前はどんな人物だったのだろうか?

まあそんな事はどうでも良い、切りかかって来た剣を斧のようなものでアーシアは受け止める。

 

「フフフ、ハハハ、私の一撃を止めるとはやるな!!

我が名はカーラマイン、ライザー様に仕える誇り高き騎士なり!! 心躍る戦いを期待するぞ!!」

 

正々堂々とした戦いを望むタイプの人物なのだろう。

態々一人で切りかかって来ずともまとめてくれば勝率も上がるというのに。

だがそんな事ではなく、アーシアは今迄とは違い酷く落胆した表情で吐き捨てる様に言う。

 

「貴女が、誇り高き騎士―――笑わせないで貰えますか」

「何―――?」

 

怪訝な表情をするカーラマインと言う名の女。

彼女は卑劣を嫌い、卑怯を嫌い、ライザー眷属のお家芸とも言える戦法を嫌う人物だ。

高潔な女性だと自負しているし、己こそが騎士としてライザーに仕えるのが相応しいと考えている。

―――そんな彼女の全てを否定するようにアーシアは語る。

 

「本当の騎士とは例え自分を犠牲にしてでも主の不義を戒める事が仕事の筈です。

しかし貴女は『騎士』と言う名だけで主の不義を戒めるでもなく、自分勝手にやってただけでしょう?

貴女は騎士なんかじゃない、それは真の意味で『騎士』として生きる人への侮辱です―――貴女には『奴隷』と言う役職の方がお似合いですよ」

 

そのままアーシアは斧状の武器に付いた引鉄のようなものを引く。

すると斧の柄のような部分から後ろに向けて銃弾が放たれ、後ろに迫っていたイザベラと言う女の胴体に風穴を開けた。

 

「ご……げっ……」

「い、イザベラ―――き、貴様あああぁぁぁ!! ……ああぁ?」

 

怒り、アーシアをへし潰そうとしたカーラマイン。

だがその視線が不意に傾く―――更には腕の感覚はおろか全身の感覚すら麻痺してしまう。

それも其の筈だ、彼女の首は既に胴体と別れを告げていたのだから……イザベラに視線の向いた一瞬の合間にアーシアは斧状の武器でカーラマインの首を薙いでいた。

 

「確かに仲間の命とは尊いものです、いえ命そのものが尊いものですね。

ですが、命のやり取りをしている状況で注意を一瞬でも他に向けるというのは致命的です。

それを理解出来ていなかった時点で貴女は騎士はおろか、戦士としても三流以下ですよ」

 

斧をひっくり返し、立っている胴体に銃撃を撃ち込むアーシア。

彼女の持つこの斧状の武器は『SPAS12改“ミンチ・メーカー”』、れっきとした銃器である。

連続発射式の散弾銃にして近接用の武器としても扱える代物なのだ。

 

「やれやれ、この程度ですか―――これならガキさん達を相手にしてた方が余程―――」

 

服の埃を払うアーシアだったがその言葉は最後まで続かない。

何故なら突然の爆発と爆砕音によって彼女の言葉はかき消されてしまったからだ。

 

「フフフ、撃破(テイク)―――

何かをやり遂げた瞬間が一番隙だらけとなって狩りやすいわね。

この瞬間を待っていたわ―――これでライザー様の寵愛は私一人に向けられるから。

それにしても他の奴らもだらしないわね、あれでもライザー様の―――!!?」

 

愉快そうに笑っていたリーダー格の魔術師風の女。

彼女は仲間すら巻き込み、犠牲として最後の最後で獲物を狩って優越感に浸っていたのだ。

しかし本当に愚かである―――この程度で自分が強いなどと勘違い出来る彼女自身が。

 

突然、彼女は空中から大地へと叩き付けられる。

宙に浮かぶ為に使っていた翼の片方が粉々に弾け飛び、その所為でバランスを崩して落ちてしまったのだ。

急いで立ち上がろうとするが、顔を上げた彼女の目の前に見た事も無いような大きさの銃身が向けられていた。

『GAU-8・30mmガトリング砲“アヴェンジャー”』―――戦車すら損壊させる航空機搭載用の殺戮兵器である対戦車用バルカンだ。

 

「はあ……あれだけアキラさんに言われているのに注意を疎かにするなんて、私もまだまだです」

 

翼を撃たれた時点である程度は理解出来た。

しかし彼女は己の爆破の魔法に自信を持っている、撃破出来ない相手などいないと自負していた。

だが蓋を開ければどうだ? 被っていた仮面や服は破けていたが、標的は傷一つなく目の前に立っていたのだ。

―――しかも確実に人間が持ち上げる事など不可能なサイズの銃を向けて。

 

アーシアがユーベルーナと呼ばれる魔術師風の女に向ける眼に感情など無い。

標的を倒すのに感情を向けては手元が狂う可能性があるし、思いもよらない反撃が来る可能性もある。

必要な事は一つだけ―――『相手を殺す』と言う覚悟だけ、それで十分だ。

 

そんな感情を見せないアーシアにユーベルーナは恐怖を感じる。

当然だ、彼女は本来ならば絶対に勝てる状況で相手に止めを刺して優越感に浸っていただけだ。

つまりこんな状況、全滅して己の身も風前の灯火などと言う状況に遭遇した事は無い。

他の眷属達が倒される事など他人事のように感じていた彼女だが、追い込まれた状況が一気に恐怖を爆発させる。

 

「い、いや……や、止めて!! こ、降参……降参します、だ、だから……!!!?!?」

 

こうなればプライドもへったくれも無い。

理解出来ない、何なのかも解らない、そんな目の前の化物に対して出来る事は絶望の中で許しを乞う事。

余りの恐怖で小便すら漏らす―――それ程に彼女に向けられている無感情の殺意は耐え難いものだ。

 

泣き叫び、許しを請い、慈悲を願うユーベルーナ。

やがて声も枯れ、力も抜け恐怖で全身が弛緩しきった時、アーシアは小さく呟く。

 

「貴女だけこの状況で何もなく終わったら彼女達に申し訳ないでしょう?

それに貴女達の所為で苦しんだ人達も大勢居る筈―――そんな人達の苦しみを何万分の一でも味わって下さい」

 

死刑宣告は告げられた―――終わりを告げる鐘の音が鳴り、刑は執行される。

アーシアは死刑囚の刑執行の前に祈りを捧げる牧師の如く静かに十字を切り、そして―――

 

足掻いても、もがいても、逃げられない空間の中で爆音の如き銃声が響いた。




『解説』

アーシアの使う銃

オートマチックの拳銃×2(ベレッタM92+銃剣)

ダネルMGL-140(AT連発式グレネードランチャー)

PzB38(対戦車用ライフル)

SPAS12改“ミンチ・メーカー”(ATショットガン+銃底に斧刃)

GAU-8・30mmガトリング砲“アヴェンジャー”(航空機搭載型対戦車用バルカン)

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