ハイスクールD×D ~『神殺し』の新たな軌跡~   作:ZERO(ゼロ)

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例によって辻褄合わせ過多、納得出来ない方は回れ右して退却を



二章:戦闘校舎のフェニックス~漢の矜持、女の願い~
第十五話


「……そうかい、私が留守をしていた間に面倒を掛けたね」

「良いさ、別に―――結果論に過ぎないけど、この町に犠牲者は出なかったからさ」

 

学園長室で出されたコーヒーを飲みながら呟くアキラ。

遠い目をしながら煙管を吸うマダム銀子―――彼は所用で駒王町を出ていた為に、今回の未曽有の大破壊に巻き込まれずに済んだのである。

 

しかし、彼としては思う所があったのだろう。

年若き若人に全てを任せてしまった事に負い目があるのか、それとも共に戦えなかった事に悔しさがあるのか。

恐らくはどっちもだ……彼はこの町を愛し、脅威から護り、何より日ノ本の平穏と安寧を守る為に裏で戦い続けた『葛葉一族』の現長なのだから。

 

それでも外せない事情があった。

彼が態々駒王町を出たのには理由がある―――それはこの所、界隈に少しずつ蔓延している“ある物”の調査の為である。

……アキラを学園長室に呼んだのもシェーシャによる大破壊の顛末を聞く事や不在を謝罪する為だけではない、雇い主として彼に依頼を頼む為だ。

 

「アキラ、これが何だか解るかい?」

 

暫く談笑した後、不意にマダム銀子は小さな袋に入った何かをアキラの目の前に置く。

袋の中には幾つかの小さな錠剤が入っている、風邪などの時に飲むカプセル状のものもあるようだが?

チラッと目を向け、アキラは肩を竦めると口を開く。

 

「―――まあ風邪薬やビタミン剤じゃねぇ事は確かだろうな。

マダム、こりゃ何だ? アンタが町から出てた事となんか関係があんのか?」

 

アキラの言葉にマダム銀子は少々険しい表情をした。

この錠剤は最近、界隈にて密かに高値で売買されている“実に危険な薬”である。

しかも面倒な事に―――この薬が売買されているのは“裏の世界”とも言える妖怪や妖魔達の世界でだ。

 

「……アンタは“Inferno”ってクスリの名前聞いた事あるかい?」

 

「インフェルノ……ああ、聞いた事があるな。

確か『依存性も常用性も無いSEX用の合法ドラッグ』だったか? 何時からか流行り始めて、キメてヤると天国に昇る程のモンだとか。

……常用性や依存性が無くても、快楽的にんなもん使い続けてる時点ですでにヤバイと思うんだがな」

 

恥ずかしがる素振も見せずに淡々と言うアキラ。

この場所にアーシアが居なくて良かったと思われる、居たら確実にパニックだったろう。

裏の世界でアキラの相棒として生きてる彼女だが、そう言った方面の話題にはとんと疎いのだ。

……まあそもそも、元々がシスターなのだから当然と言えば当然の話だが。

(因みにアキラは一応チェリー(童貞)ではないので、この程度の事で恥ずかしがる事はない)

 

「―――まあ分かってるなら話は早い。

実はね、最近の事だが……このクスリを手に入れた連中、特に女が行方不明になる事件が相次いでる。

しかもそれは妖怪だの妖魔だの、裏世界の住人達が多くてね……東と西の長達が直々に『ヤタガラス』に依頼を寄越したのさ」

 

東と西の長と言うのは『妖怪』と呼ばれる日本に古来より住む住人達の頂点に立つ者の事だ。

本来は妖精などと同じく、現世のしがらみやいざこざには関わらないスタンスを取っている筈の者達だが―――どうやら自分達だけでは解決出来ない程に事態が進んでしまったと言う事か?

其処まで聞いて何となくマダム銀子が自分を呼んだ理由を察したアキラは真面目な表情に変わると次を促す……アキラもこの業界の仕事は長いが、妖怪の長から依頼を受けるのは初めてだ。

 

「神藏晃、葛葉一族が長がアンタに依頼する。

『Inferno』と失踪事件の関連性の洗い出し及び、行方不明の女性達の捜索。

そして薬物の流通ルートと流通させている関係者及びブローカー(密売者)の全排除を―――首謀者の生死は問わない、存分にやりな」

 

言うなればそれは『死刑宣告』―――

誰がどのような理由で薬物の流通などをさせているかは解らないが、その存在は決して逃げられない。

アキラに『生死は問わず』と依頼される事は即ち、断頭台に首を括り付けられたと同じ事―――後は頸に刃が落とされるだけだ。

 

「―――了解だマダム」

 

そう呟くとアキラは何を考えたのか置かれていた薬を全て口に放り込むと噛み砕く。

暫く咀嚼した後、一緒に置かれていた丁寧に畳まれた紙に吐き出す……実はアキラに薬物関係は一切意味を成さない、何せ象を一撃で殺せる猛毒を飲んだとしてもピンピンしてる位なのだから。

齧って調べるのはその方が調べ易い故だ―――かつての東京でダグザの傀儡となっていた頃に相当身体が鍛えられていたのだろう。

 

「……恐らくこのクスリの成分は人の範疇で作れるもんじゃねぇな。

高揚感はソーマか、それともアムリタか―――まああんなもんを健全な奴に使えばそりゃ天国逝きだろ、だがアレはこっちの東京には無い筈だ。

と、言う事は……向こうの“ソーマやアムリタに近い成分”を使って作られてる、その線から探ればこれを流してる野郎にぶち当たるだろうさ」

 

言葉が終わったのを見計らい、マダム銀子が分厚い封筒を放る。

背を向けたまま後ろ手でキャッチすると、中身を確認する事も無く懐に仕舞うアキラ。

 

 

―――さあ、仕事の始まりだ。

狩人は牙を研ぎ、哀れな獲物を狩り尽す―――其処に慈悲など無い。

 

 

●●●●●

 

 

その日の夜、アキラは自分の部屋で武器の手入れをしていた。

こっちの東京に来てから長い付き合いの愛刀、愛銃、そして仲魔との絆の証とも言えるスマホ。

自動インストールされたプログラムの確認、後は日課の筋トレと仲魔との実戦トレーニングをすれば取り敢えず終わりだ―――と、不意に部屋の扉がノックされる。

 

「……ん? 何だアーシアか?

悪いが先に寝ててくれるか? まだ準備が残ってるんでな……先に言っとくが『一緒に寝て』と『一緒にお風呂』ってのは却下するぞ」

 

しかし返事が返って来ない―――

疑問に思ったアキラは首を傾げながら扉の方へ向かう。

扉を開けると其処に居たのは自らの相棒である元シスターの銃使い(ガンスリンガー)ではなく、神妙な表情をしたリアス・グレモリーであった。

 

「こ、こんばんは……ご、ごめんなさいね、忙しかったかしら?」

「まあ忙しいが、何か用か? てか、良く俺が此処に住んでるって分かったな」

「え、ええ、まあ……と言うか、貴方がいつも帰る方向って此処しかなかったから……」

 

物珍しそうに、何処か緊張している表情を隠すように周りを見渡すリアス。

アキラの部屋にはほぼ何もない、在ってもベッド代わりに使っているソファーと冷蔵庫位か。

まあ後は壁中に吊るされたありとあらゆる武器や銃器が異様さを助長させている―――よくまあ此処のオーナーは文句を言わないものである。

 

此処はホテル『業魔殿』。

駒王町の隅の港に停泊している豪華客船を改造した高級ホテルである。

元はデビルサマナー(悪魔召喚師)達の為に作られた拠点であり、現在は『ヤタガラス』の名義でアキラとアーシア二人用の拠点として生まれ変わっていた。

……とは言っても家賃の様なものはマダム銀子に払っている為、実質的に言えば拠点と言うよりも宿泊施設に近いのだが。

 

「取り敢えず落ち着かんのは解ったから座ったらどうだ?」

「あ……は、はい……じゃ、じゃあ失礼するわね……」

 

指差された座布団に座るリアス。

この部屋にはテーブルも椅子も無い、そもそもアキラは床に直で座るので必要ない。

置いてある座布団は所謂『来客用』である―――この部屋に来る客は基本的に殆ど居ないのだが。

どうもソワソワとして落ち着かないリアスに首を傾げ、一応飲み物を差し出すアキラ。

リアスは差し出されたコップを小刻みに震えながら飲み干すと、再び沈黙が部屋を包んだ。

 

「……いや、だから何の用だ?

さっきから黙っていられても解らんのだが……此処に来た理由はもしや、今日頻りに溜息を吐いて暗い顔していた事に関係があるのか?」

 

驚いた表情をするリアス、すると見る見る彼女の双眼に涙が溜まる。

理由は理解出来ないが何かあったのだろうとアキラは解釈する―――しかし己の所に来て無言で涙ぐまれても何も出来ないのだが。

取り敢えず部屋に来た理由位は聞いてやろうと思った矢先、不意にリアスは立ち上がると何を考えたのか着ている服を脱ぎ始めたのだ―――

 

「―――オイ、何の真似だ?」

 

目の前でストリップショーが始まっても全く動じる事のないアキラ。

だが一応、見ないでやった方が良いと思ったのか背を向けると、暫く布の擦れる音が聞こえた後に背に柔らかい感触を感じる。

コリコリとした『何か』が背中に擦れる、更にアキラの身体にリアスの腕が絡み付く。

 

―――生まれたままの姿となったリアスがアキラに抱き付いていた。

 

「だから何の真似だ、グレモリー?」

 

黙ったままのリアス、抱き付かれている為か豊満な胸がむにゅっとアキラの背に押し付けられている。

震えている―――羞恥か、それとも他に理由があるのかは不明だが。

暫くの間、裸の美女に抱き付かれていると言う男ならば大喜びのシュチュエーションを経験していると、意を決したようにリアスが口を開く。

 

「アキラ君、こんなのはお門違いだって私も解ってるわ。

だけどお願い―――何も聞かないで、何を言わないで―――私、私を―――抱いて、欲しいの」

 

それは決してふざけた態度ではない。

冗談や軽はずみな行動ではない事は容易に理解出来る。

何故、彼女がこのような態度をアキラに取ったのか? 何故、抱いて欲しいなどと言うのか?

彼女の行動の理由は解らないが、恐らく態度から何らかの理由で追い込まれていると言う事だけは解った

だがそれでもアキラはやんわりと自分の身体に回った手を解き、ハンガーに掛けられていた仕事用の黒のコートを取ると頭から裸のリアスに掛けてやる。

 

そして―――優しく、まるで子供に諭すように口を開いた。

 

「何があったか俺は知らねぇが、自分を大事にしな。

―――それとこれで涙を拭け、終わって落ち着いたら慌てねぇで良いから理由を話せよ」

 

泣いているのが解らない様にリアスの目元までフードを被せるアキラ。

暫くは茫然としていたリアスだったが、不意に静かに泣き始める―――彼女の泣く姿を見ない様に背を向けると、アキラは静かに夜空を見上げるのであった。

 

 

●●●●●

 

 

泣き終わったリアスはポツポツと語り出す。

どうもリアス自身の婚約が本人の意志と関係なく決まってしまったのだそうだ。

相手は冥界で有数な貴族の三男で『フェニックス家』と言うらしいが、自分の意志などまるで聞いてくれない両親に対して婚約を解消する為にこのような事をしようとしたらしい。

要は既成事実を作ってしまえば破談に出来ると思ったと言う事だろう―――それが『良き主となる』と言う己の目標に泥を塗る行為だと解っていた。

 

しかし、それでも……己の意志に関係なく未来を決められると言う行為に納得が出来ない。

故に彼女は悩み、悩んで悩んで悩んだ挙句、心をすり減らして暴挙とも言える行為を行ってしまったのだ。

冷静になった後、己のしてしまった行為に自責の念に囚われ、止め処なく溢れる涙を止められなかった。

 

確実に後悔していただろう、一時の感情で事に及んだとしたら。

相手がある意味、アキラの様に精神的に達観している人物であったのが良かったと思われる。

粗暴に見えるがかなり紳士的なのだ―――誰に対しても万人共通で態度と口が悪い事が勘違いされ易い原因なのだが。

 

「やれやれ、バカだなお前……一時の感情でそんな事しても結局何も変わらねぇよ。

自分の格を下げるような行為は慎んだ方が良いぞ、それとさっきも言ったが自分を大事にしろ。

後は勝手に結婚させられるのが嫌ならちゃんと自分の言葉で両親に伝えな……喧嘩別れしたら今は良いかもしれないが、絶対に後で後悔する事になるからな」

 

決して責めもせず、言い聞かせるように語るアキラ。

親しい人々と会えなくなる苦しさや悲しさは誰よりも知っている、だからこその言葉だ。

再びリアスの前に差し出されるコップ―――手に取って口を付けると優しいほのかな甘みを感じる。

冷えてしまった身体を暖かく包むかの如きホットチョコ……二口、三口と口を付けて飲み終わる頃には心の奥底から暖かく感じるようになっていた。

 

「悪いな、金持ちのお嬢ちゃんが飲むような高級なもんじゃなくて。

だけど暖まったろ? そしたら今日の事は服着て家帰って寝て忘れちまいな。

それからの事はお前の眷属や、そうだな……信頼出来る肉親や友人が居るなら相談してみろよ、何か解決策が出るかも知れねぇぞ。

いざという時は及ばずながら俺も助言してやるよ、まあそう言った方面には疎いから期待しないで貰いたいが」

 

苦笑するアキラを見、目元を拭うリアス。

そうだ、自分には大切な仲間がいる―――自分一人で勝手に暴走せず、相談する事だって出来るのだ。

またもや勝手な暴走で大切なものが目に入っていなかったリアスは反省し、アキラに言われた通り着替えて帰ろうとした。

 

―――だがその時、不意にアキラの部屋に魔法陣が展開し光り輝く。

光が止み、目が慣れた頃……アキラの部屋にはリアスが良く知る人物が立っていた。

メイド服に全身を包んだ銀髪の美女―――グレモリー家のメイドにして魔王サーゼクス・ルシファーの妻、グレイフィア・ルキフグスである。

 

「リアス様―――このような行為をして破談に持ち込もうとされるのはお止め下さい。

確かに勝手に結婚相手を決められる事は良いとは思いませんが、これはグレモリー家の総意です」

 

呆れたような口調で淡々と言うグレイフィア。

対してリアスも少しだけだが表情を硬くし、眉を吊り上げると言い返す。

 

「何が総意よ、ふざけないで……みんなお父様が独りで勝手に決めた事じゃない!!

そんなに自分の事が大事!? 私なんかよりも自分の家の事が大事なだけじゃない、私の意見も聞いてくれないのに勝手なのよ!!」

 

……どうやら彼女は彼女なりに苦悩があると言う事だ。

人であれ、悪魔であれ、子は生まれる親を選ぶ事は出来ない―――だからこそ確執は生まれるのだから。

特に有数な貴族やら王族などと言うのは結婚する相手も選べないと聞く……色々なお家の事情と言う奴もあるであろうが、自分の未来を勝手に決められて『はい、そうですか』と納得出来る者の方が少ない。

 

しかし、それは言うなれば『運命』。

生まれ落ちてしまった“世界の宿命”とも言える、変え難い現実なのだ。

彼女一人が例え暴走し、事を成したとしても現実は決して覆る事は無い―――現実が変わるにはそれとは別の要因が必要なのである。

 

「お初にお目にかかります、初めまして。

私はリアスお嬢様のご実家でメイドをしておりますグレイフィア・ルキフグスと申します、以後お見知りおきを」

 

グレイフィアは軽く頭を下げると名を名乗る。

名を名乗った後、訝しげにアキラをジロジロと見ながら肩を竦めるグレイフィア。

彼女は目の前にいたアキラに対して暴言を吐く……恐らく、リアスに対して“警告”的な物言いの心算だろう。

 

「お嬢様……貴女はグレモリー家の次期当主なのですよ?

それを“下賤な人間相手”に操を捧げるなどと旦那様とサーゼクス様が知ったら悲しまれます……一族の権威に泥を塗るのがお望みなのですか?」

 

グレイフィアとすれば何の事もない、些末な事だったろう。

貴族階級に属する存在からすれば唯の一般市民と相違ない人間を自分より下に思う事は。

 

だが彼女はもう少し考えて発言するべきだ、特に誰かに仕えるなどと言う存在は。

高名な者に仕えると言う事はそれ相応の責任がある、言うなれば言葉一つ一つに責任が生まれる。

態度と言葉一つで主が称えられる場合もあるし、逆に主が蔑まされる事もある―――それを考えるべきだったのだ。

 

アキラにはスマホを介して仕える様々な存在が居る。

それは何も弱い者ばかりではない―――寧ろ、この世界に存在する人外よりも格段に上の者が数多く居る。

……魔法一つで町一つを軽く壊滅させられるような輩がアキラを主と崇拝し、先程の主を貶めるような発言を聞けばどうなるかなど火を見るより明らかだ。

 

事実、心の弱い者ならば気が狂う程の濃密な殺意を向けようとした仲魔も何柱も居た。

しかし運が良く、グレイフィアは凶悪なまでの濃密な殺意を向けられる事は無かったのである。

何故なら―――仲魔達が殺意を向けるより前にグレイフィアは頬を張られて驚いたような表情をしていた故に。

 

グレイフィアを張った相手、それは怒りの表情をしたリアスだった。

 

「グレイフィア―――訂正しなさい!! 彼を下賤と言った事を今直ぐに!!

彼を、アキラ君を下賤なんて言わないで!! 何も知らない貴女に彼の何が分かるのよ!?

訂正しないなら私は貴女を許さない……義理の姉であっても、現魔王の奥方であっても関係ないわ!!」

 

激しい激情、そんな姿のリアスをグレイフィアは初めて見た。

今迄に何度かリアスが怒った姿を見た事はあるが、これ程に激しい怒りの目を向けられたのも初めてだ。

実力的には明らかに己の方が上、だが今の彼女の剣幕にグレイフィアは絶句してしまう。

するとそんなリアスを落ち着けるように肩に手を置くとアキラは笑いながら呟く。

 

「おいおい、何をそんなに怒ってるんだグレモリー?

気にすんなよ―――其処のグレイフィアって姉さんも悪気があって言った訳じゃないだろ」

 

「―――!!? アキラ君、頭に来ないの!? 貴方、今“下賤な人間”なんて言われたのよ!?

貴方が下賤なら、私の結婚相手って事になってるライザーなんて下賤以下の下種よ―――そんな事も解らない節穴のグレイフィアなんかに貴方の事を悪く言われたく……」

 

まだ怒りの収まらないリアス、しかしアキラは再び笑いながら言葉を返す。

 

「いやいや、別に“その程度”の事を言われただけだろ?

あれはお前の事を大事に思うからこそ口から出ただけだろうし、そんな事で一々怒る必要もねぇよ」

 

その言葉で毒気を抜かれたのか、リアスも小さくブツブツと何かを言っていたが取り敢えず落ち着く。

呆然としているグレイフィアに濡らしたハンカチを差し出すアキラ、張られた頬を冷やせと言う事だろう。

恐る恐る差し出されたハンカチを取り、頬に当てる―――目を向ければ年相応の屈託のない笑顔をした青年が優しく口を開く。

 

「まあ気にすんな、怪しいのは確かだしよ。

だけど『親切心』って奴で一つだけ忠告しとく、初対面の相手に行き成り『下賤』とか言わない方が良いぞ?

俺は別に気にしねぇけど―――言葉一つで自分の仕える主が貶められる事もあるからな」

 

貶められるだけなら良いが、下手すれば彼女を含む冥界の貴族が滅ぼされる可能性だってある。

元々アキラは小さな事は気にせず、滅多にキレる事の無い性格である故に救われたが……本来なら殺されても文句の言えない行為をグレイフィアは行ったのだ。

―――まあある意味、アキラの気の長さとリアスの行動がグレイフィアを救ったのである。

 

勿論、グレイフィアと言う人物も馬鹿では無い。

今まで一度も見せた事のないリアスの態度、己が言った余計な失言を笑って許すアキラの器の大きさを見せられてまで『下賤な人間』などと思えまい……彼女はアキラに深々と頭を下げる。

 

「……大変失礼致しました、私の失言です。

以後、同じ事を繰り返さぬと約束します―――誠に申し訳御座いません、どうか平に御容赦下さい。

リアス様も申し訳ありません……グレモリー家はもといサーゼクス様に仕える者として有るまじき言葉でした」

 

「いやだから良いって―――アンタも心配から言った言葉だろ?

グレモリー、取り敢えず今日の所はその姉さんと一緒に帰りな……詳しい話は聞いてやるから」

 

「……有難う、アキラ君。

そうね、私も冷静じゃなかったし―――改めて明日、話を聞いて貰えるかしら?

グレイフィアももう良いわ、私もカッとなってたし……取り敢えず私の根城に行きましょう。

其処で話を聞くわ、朱乃同伴でも構わないわよね?」

 

頷くグレイフィアを見、リアスは彼女の近くへと移動する。

足元に現れる魔法陣―――やがて先程と同じく眩い光を放つと、光が消えた後には二人の姿は消えていた。

綺麗に畳まれたコートをハンガーに乱暴に投げ捨てて引っ掛けると肩を竦め、アキラは独り呟く。

 

「やれやれ、マダムの依頼以外に面倒事を背負っちまったみてぇだな。

まあ良いさ―――漢の言葉に二言はねぇ、取り敢えずは明日の放課後にグレモリー達の拠点に向かうか」

 

誰も居なくなった部屋で再び武器の手入れを始めるアキラ。

不意に、部屋の入口が軽くノックされアーシアの可愛らしい声が響く―――

 

「アキラさーん、ただいまでーす♪ お仕事終わりましたー♪

疲れましたー、一緒にお風呂入りましょー♪ そして一緒に寝ましょー♪」

 

「―――却下だ、一人で風呂入って一人で寝ろ」

 

……今日も平和なようである。

 




皆様の温かいご意見、ご感想を心よりお待ちしております


【今回の改変(HDD)】

『リアスの夜這い&グレイフィアの失言』

原作とはかなり違ったタッチにしてみましたが如何だったでしょうか?
どの作品でも描かれる部分ですが、普通に考えて格上に夜這いはかけないだろうと言うご感想を考慮し、成人小説なんかに在りそうなシュチュエーションにしました
無暗に否定や拒絶をせず、更に暴言を吐かれた部分では笑って許す―――うん、まさにこれこそ漢の行動ではないですかね

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