ハイスクールD×D ~『神殺し』の新たな軌跡~   作:ZERO(ゼロ)

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今回もつじつま合わせ半端ないです
……と言うかこうでもしなけりゃ真4の連中出せないですし、話蛇足になりそうなので
結構速足で進んでますがご了承ください(o_ _)o))

※)例によって納得出来ない方は読まずに宜しいので




第九話

「あ、貴方……鳴海……アキラ……?」

 

呆然としたように呟くリアス。

在り得ない―――目の前に立つのは確か何の力も感じない『唯の人間』だった筈だ。

だがその唯の人間が、事もあろうに冥界でも悪い意味で有名な存在と互角に渡り合っている。

しかも周りに現れたあの圧倒的なまでに強大な魔力を持つ存在―――アレは一体何なのだ。

下手すれば冥界最強と呼び名の高い、現四大魔王の一柱にして中心人物である己の兄に匹敵する……いや寧ろ、その兄すら超えているかもしれない。

 

「ミロク、クリシュナはそいつらの援護を頼む。

オーディンは俺と一緒にアイツを潰すのを手伝ってくれ、頼むぞ」

 

『―――御意、メディアラハン』

『クックック……腕が鳴る』

『では手始めに一曲奏でようか―――“戦いのターラ”』

 

ミロクと呼ばれた巨漢の仏僧が経を唱え、クリシュナと呼ばれた青年が笛を奏でる。

すると倒れて居た筈のリアス達の消耗しきった手足に力が戻るのを感じる―――続けて全身から溢れる程の力が沸き上がる感覚を感じた。

見れば全身中の傷が全て癒されている、まさか今の一瞬で倒れていた全員の傷を癒したとでもいうのか?

だがこれなら戦える―――そう思いリアスは自らの眷属、いや仲間達と共に駆けだそうとした。

 

『小娘、そこな連れの者と共に私の後ろに隠れておれ』

 

しかし、不意にミロクにより止められる。

いや違う―――何故かミロクの声を聞いただけなのに、足が一歩も動かなくなってしまったのだ。

 

「じゃ、邪魔しないで貰えるかしら……アレを放置しておいたら駒王町が、危険な状態に……」

 

必死で虚勢を張るようにリアスは口を開く。

相手は巨漢ゆえかリアスらを見下(みお)ろす形であり、見方によっては見下(みくだ)してるようにも見える。

いや事実、見下されて居るのだろう―――その感情の無い目で見つめられているだけでリアス達の足は完全に止まってしまっていた。

 

『やれやれ、悪い事は言わないから下がっていた方が賢明だろうね。

君ら“程度”がアレに挑んだ所で焼け石に水さ、助かった命を大事にする事だ―――僕らの主殿の足を引っ張る真似は慎んで欲しいのだけれど?』

 

横からゆっくりと宙に浮きながらクリシュナが呟く。

足が動かない理由は別に何てことはない、目の前に居る存在が強過ぎる故に全身が委縮してしまっているのだ。

見つめられただけで……いや、唯其処に存在しているだけで若い悪魔の中でも才能や実力を持っていると賞される筈のグレモリー家の後継である己が身動き一つ取れないと言う現状が逆に恐ろしさを感じさせる。

 

『まあ僕らを傍らにして意識を保っていられる事だけは称賛に値するよ。

其処等の木偶と君らは違うようだ、有象無象なら僕らの言葉(ことのは)を聞くだけで意識を喪失するだろう』

 

『然り―――されど唯、それだけの事。

衆生よ、儚き魂散らすを望むなれば好きにせよ―――しかし彼岸に魂を解放するを望まぬなれば控えておれ』

 

寒い、怖い、身体の芯から原因不明の震えが走る。

意識を失ってしまえばどれだけ楽だろうか? このまま眠ってしまえばどれだけ安らぐだろうか?

間違いない、殺される―――この連中の思惑一つで自分達は無残に殺されると言う事は理解出来た。

事実リアスだけではない、朱乃も木場も小猫もいつものような笑顔を湛えたものや無表情ではなく、額から冷や汗を垂らしながら恐怖の表情のまま固まっているのだから。

 

『フフフ、そんなに怯える事は無いよ君達―――

心配は要らない、僕達は君らに危害を加える心算は無いさ……そんな命は受けてないしね』

 

『衆生よ、主殿のお心遣いに感謝せよ―――あのお方は貴方達を思い、私達を守に遣わせたのだから。

……そうでなくば先の貴方達の無礼を垣間見、その首が胴より離れていたとしても可笑しくはなかったぞ?』

 

その言葉が冗談ではない事は解る、いや無理矢理にでも解ってしまった。

この近くには横の二人以外は誰も居ない、誰も居ない筈なのに、頭がおかしくなる程の“殺意”を犇々と感じる。

見えない“何か”が自分達に殺意を送っている……それも尋常な数ではない事だけは理解出来てしまう。

まるで首元に刃を突き付けられているかの如く、見えていない事だけが唯一の救いだろう。

殺意の持ち主達が見えてしまったが最後、自分達が発狂するのは目に見える。

 

『ああそうだ、僕とした事が名乗るのを忘れていたよ。

初めまして―――僕の名は“魔神”クリシュナ、かつて多神連合と言う組織を率いていた者さ』

 

『私の名は“魔神”ミロク―――衆生は『弥勒菩薩』と私を呼ぶ。

そしてあそこで主殿と共に駆けているのが“魔神”オーディン、私も彼も同じく元多神連合が幹部。

この邂逅が刹那か阿頼耶かは知らぬが、見知りおくが良い』

 

クリシュナに弥勒菩薩、どちらも神話世界の相当な実力者だ。

更に隻眼の槍使いを『オーディン』と彼らは呼んでいた―――在り得ない、北欧の主神オーディンは老年の筈。

しかし彼らが放つ覇気も、魔力も、威圧感も、現魔王であるリアスの兄を優に超えている……故に決して嘘をついている訳ではあるまい。

 

だがその場合、明らかに可笑しい事がある。

よしんば彼らが名乗る通りの存在だとしよう、その存在が人間を“主”などと呼ぶ訳がない。

人間より遥かに強大な存在が人間に仕える……そんな事が絶対にある訳がない、ある訳がないのだ。

しかし……そんな冗談のような事を認めさせてしまうような光景が、リアス達の前で繰り広げられていた。

 

 

●●●●●

 

 

切り裂く―――まるで閃光の如き一陣の斬風(かぜ)。

迫り来る触手を切り払い、人間の限界を裕に超えた速度でアキラは地を駆ける。

追従するは一陣の雷光―――槍を構え、オーディンは笑いながら天を切り裂き進む。

 

『ハハハ、ハハハハハッ!! どうした『ベルの王』とやら!?

貴様のその蠅の如き攻撃など我や主殿を捉えられぬぞ!? もっとだ、もっと我らを愉しませろォォォ!!!』

 

笑っている、醜悪ながら圧倒的な力を備える存在を前にして。

槍を構え吶喊すれば巨大な触手の模った棘すら貫き穿ち、周囲に薄気味悪い体液を撒き散らさせた。

一方のアキラは無言ながら凶悪な笑みを浮かべ、連なる触手の壁を斬り払いながら前に進み続ける―――対してベル・ベリトを名乗った肉団子は防戦一方だ。

 

再生が間に合わない―――

リアスらと戦った時は彼女達を簡単に追い込んだ味方殺しの悪魔が、逆に追い込まれている。

当然だ、彼らはベル・ベリトが今まで戦った存在達と明らかに格が違う。

 

 

幼き頃、ベル・ベリトは醜悪な外見を持つが故に他者から忌避され、卑下され、嫌悪される。

自らを見下す全ての存在を許せず、唯力を求め、やがて彼が『禁忌の呪法』と呼ばれる術式に手を染めるのに時間は掛からなかった。

 

冥界に古くから伝わる出所不明の術式。

適応出来なければ死ぬが、出来た者には圧倒的な力を与える術式に彼は適応し、やがて冥界では屈指となる。

 

彼は喰らい続けた、己を卑下した存在達を。

手に入れた力で虫螻を払うかの如く同族を殺し、過去の憎しみを晴らしていく

しかし貪欲に力を求め、術式を使い続け、多くの者を喰らい続けた結果―――度重なる術式の負荷に耐え切れず、彼の思考は壊れた。

 

彼に残ったのは一つの渇望―――『力が欲しい』と言う願いのみ。

思考は術式によって壊れ、喰らうと言う欲求に常に苛まれ、己を『王』と称するまでに狂っていた。

そんな彼に討伐依頼が出たのが三陣営が戦を繰り広げていた頃、当時の魔王達によって彼は殺された筈であったのだが―――まるでプラナリアの如く、肉片となっても彼は何とか生きる。

彼は後に冥界の一匹のはぐれ悪魔に寄生すると、その肉体を少しずつ侵蝕しながら力を取り戻す―――やがてはぐれ悪魔を乗っ取った彼は再び力を求め続け、今に至った。

 

 

彼にとって他者は獲物に過ぎない。

彼の腹を満たし、彼の力を欲する欲求を満たす為の餌に過ぎなかった。

しかしそんな哀れな化物が、今度は獲物として狙われていた―――他でもない、自らを超える“暴”を持つ狩人達によって。

 

無秩序に悪魔の融合した姿は、言うなれば力を欲した彼の虚勢。

片っ端から悪魔を取り込む事で全てを一つとし、強大な力を生み出しているに過ぎない。

その殻が剥がされてしまえば彼に残るのは醜悪な外見のみだ。

 

嫌だ、昔に戻るのは嫌だ。

王だ―――我は王だ、ベルの王だ、古代より全てを喰らう喰王だ、誰にもその立場を渡さない。

力を寄越せ、命を寄越せ、魂を寄越せ、食わせろ、喰わせろくわせろクワセロ―――そんな壊れた怪物に対し、不意に誰かの声が響く。

 

 

『ヨカロウ―――ナラ喰ラエ。

全テヲ喰ラッテ王トナレ―――コノ世界ノ何モカモヲ遍ク全テ喰イ尽クセ、我ガ“人形”ヨ―――』

 

 

瞬間、ベル・ベリトと呼ばれた存在の意識は全て消える。

後に残ったのは醜悪な肉団子―――其処から生えて来た数々の悪魔の一部。

足の如く生えるのは『色欲の魔王』の腕、はみ出すのは『怠惰の魔王』の顔、腕の如く生えるのは巨大な『案山子神』の腕、更には『首無し騎士』や『牛頭魔人』が腕の如く生えていた。

そして最後、まるでアラクネの如く女性の半身が肉団子の頂点より生える―――それはかつて『最初の女』と呼ばれた夜魔の女王の変わり果てた姿だ。

 

「何だと、これは……」

『醜悪な怪物よ……しかも全てが我ら“悪魔”と似通った力を感じる』

 

全ての触手を払った後、アキラとオーディンの前に現れたのはベル・ベリトを超える無秩序な合成獣(キメラ)。

頂点に存在する女の半身が壊れた人形の如くケタケタ哂い、定まらなかった視線がギョロリと二人の方を向いた。

 

『キィィィィ、ギャァァァァァァァァァ!!!!!!』

 

放たれるのは耳を劈く程の絶叫。

女の形をした異形の口から放たれた悲鳴は超音波の如く変わり周囲を襲う―――

 

『クッ―――耳がッ!!』

「クッソ、何だこの力は!? さっきと桁違いだぞ!?」

 

耳を塞いだアキラとオーディンに襲い掛かる巨大なキメラ。

外見に似合わず動きはかなり俊敏だ、しかしその攻撃が当たるより先に掌から障壁を展開したミロクにより塞がれる。

 

『御無事か主殿―――この醜悪たる化生は一体!?』

「解らん!! 助かった、ありがとうミロク―――何!?」

 

攻撃は障壁により塞がれた、其の筈だ。

しかし『最初の女』を基としたキメラは障壁に構う事無く攻撃を乱打する。

それはまるで子供の喧嘩の如く唯我武者羅に攻撃を叩き付けているだけだ―――その腕が血塗れになる事すら厭わずに。

 

『アア、アアアアァァァァ……』

 

不意に聞こえる悲鳴―――それは障壁に叩き付けられている腕から響く。

見れば其処には叩き付けられ続け、グチャグチャになった『牛頭魔人』の顔がある。

だがそんな事はお構いなしにキメラは障壁に腕の代わりに生えた『牛頭魔人』や『首無し騎士』を叩き付け続けた。

 

『―――僕らの同朋を道具同然に使う、か。

気に入らない、貴様は一体何様の心算だ―――下種がぁぁぁ!!!』

 

本来は怒りを覚える事無く穏やかに語るクリシュナが明確な怒りを湛え叫ぶ。

そんな事など関係ないかのように哂いながら障壁に腕代わりの悪魔達をぶつけ続けるキメラ。

ミロクも静かに障壁を張り続けているが震えている、悟りを開き捨てた筈の“怒り”と言う感情が沸き上がっているのだ。

 

悪魔とは己の身を信じ、他者を利用し生きる存在だ。

しかし“仲魔”となればその逆―――他者を朋とし、共に主を護る存在となる。

天使よりも慈悲深く、悪魔よりも残酷に共通の敵を狩る……それが『仲魔』と呼ばれる絆を紡いだ悪魔達である。

そんな彼らが利用され、死ぬに死ねずに苦しめられ続ける存在を見ればどうなるかなど言うまでもあるまい。

―――それに彼らが主と慕う青年も、仲魔の為に怒る事の出来る貴重な存在である。

 

『―――ア、キュラ、王……おゆ、るし、を……我、は……』

 

声が聞こえる―――醜悪な哂いを浮かべるキメラから。

嘆きの声が聞こえる、止めてくれと狂おしい程に叫ぶ声が響く。

救いを、解放を、許しを、助けを求める悪魔の声が聞こえる―――その瞬間、アキラの顔から迷いは消えた。

この存在が何なのかなどと言う困惑は後ですれば良い、今は少しでも早くこの醜悪なキメラの息の根を止める事だけを考えれば良い。

 

「ミロク、奴の叫び声を止めろ!!

クリシュナ、俺とオーディンの援護を―――オーディン、全力で雷をぶっ放せ!!」

 

『御意ッ、マカジャマオン!!』

『では再び奏でよう……戦いのターラ!!』

『Deyr fé, deyja frændr, deyr sjalfr it sama―――奮え、真理の雷ッ!!』

 

ミロクの術により哂い続けていたキメラが止まる。

彼女の悲鳴はこちらの能力を低下させる効果があったようだ、ならばその魔を封じてしまえば良い。

続けてクリシュナの奏でる笛が悲鳴によって下げられた能力を倍以上に跳ね上げる―――更に其処から自身を強化すると共に雷を貫通させる『貫く雷の闘気』の詠唱と共にオーディンの雷が放たれた。

 

敵はベル・ベリトより派生した怪物。

雷の魔神と呼ばれるベリトに本来ならば雷は効くまい、だが雷を貫通させる術式と強化された能力によりキメラは膨大な量の雷光に打たれて全身中を焦がす。

しかしそのまま放っておけば先程のベル・ベリト以上の再生能力で傷を再生されてしまう―――そうすれば再び、嘲笑いながらキメラは攻撃を再開するだろう。

 

―――故に、この一撃で終わらせる。

無茶苦茶に融合され、不条理に戦わされ、死ぬ事も出来ない存在達を祓う……それはアキラにしか出来ない。

この東京の歪みを、この世界の歪みを正す―――それがアキラがこの世界に来てやるべき事だ。

 

刃が光る、神々しくも禍々しく。

得体の知れない存在であれ、この一撃には敵うまい―――かつて盟友が使った“神殺し”の斬撃。

全力のマサカド公との死合いを経て我がものとした、森羅万象遍く全てを断つ刃。

 

 

「オオオオオオオォォォォォォォ―――ッ!!!!!!」

 

 

その名は『神殺しの刃』―――

斬撃はキメラの首ごと背後すら抉り、ドーム状に作られた空間に傷跡を刻んだ。

 

 

●●●●●

 

 

「終わっ、たの……?」

 

余りにも非現実過ぎて実感が沸かなかったのだろう、呆然とリアスは呟く。

先程現れた醜悪の限りのキメラは首を切り落とされて静かに地に崩れ落ちる……首が無くなって生きていられる存在は居まい、これで決着だ。

 

彼女の見ている前で地に伏したキメラは光の塊に変わり、形を失っていく。

悪魔が光となって消えるなど皮肉が利いているが―――何を思ったのかアキラはその光の中心へと向かう。

其処で腕に付いた機械(スマホ)を何やら操作すると、新たな影が彼の傍に現れた。

 

『―――おや主殿、ワラワに用かえ?』

 

現れたのはまるで妊娠しているかの如き姿の半人半鳥の悪魔。

彼女が『万物の母』と呼ばれる存在である事を知ったらどれだけリアス達は驚くだろうか。

―――彼女は“地母神”イナンナ、シュメール神話における豊穣の女神にして元多神連合の幹部である。

しかし何故、そのような存在をこの場所に呼び出したのだろうか?

 

「イナンナ、此処の魂を取り込んで産み返すの可能か?」

『ホッホッホ、ワラワにすれば造作も無き事―――成程のう、ワラワを呼んだ理由はそれかえ?』

 

頷くアキラの頭を撫でる様に翼で触れるイナンナ。

そう、造作も無い事だ彼女からすれば……アキラと契約し、かつての力を取り戻した万物の母にとっては。

するとイナンナの腹に幾つもの光る魂が吸収され、彼女が光り輝くと……アキラの前には何体もの人影が傅いていた。

 

『―――感謝スルゾ、若人ヨ』

『ありがとう……私(わたくし)達の言葉、貴方様には届いていたのですね』

 

神格化した案山子・地霊クエビコ。

かつて人間だったが悪魔と化し、首無しの騎士と化した幽鬼デュラハン。

 

『流石はアキュラ王―――御身に再びお会い出来るは至極恐悦』

 

クレタ島の怪物にしてアキラの転生前の存在・アキュラ王と契約していた魔獣ミノタウロス。

 

『フン……面倒だが、貴様には救われた……感謝してやる』

『ククク、愛い奴よな小童―――我を救いし功績、忘れずにおこう』

『不覚―――蟲王タル我ガ、乗ッ取ラレヨウトハ……』

 

怠惰を司りし魔王ベルフェゴール。

愛欲を司りし魔王アスモデウス。

蟲王と呼ばれるゴエティア序列1位の悪魔・魔王バエル。

 

そして―――

 

『感謝するわよ坊や―――

やっとあの醜い姿から元に戻れたわ、欲するならばいつでも私を呼びなさい』

 

全身に巨大な蛇を巻く全裸の刺青の女性・夜魔リリス。

東京から何の因果か別の宇宙へと呑まれ取り込まれていた者達はアキラによって再び目覚め、彼に力を貸す事を約束すると消えて行く。

更にそれに続くように成すべき事を終わらせた多神連合の者達もいつの間にか姿を消し、スマホの中へと戻っていった。

空間に裂け目の刻まれた不安定な結界内に既に残っているのはアキラと、呆然と彼を見つめて居るリアス陣営だけである。

 

「……さて、無事で良かったなお前ら」

「あー……そ、そうだけど……うーん、一体、何から聞けば良いかしら……」

「……あ、ありがとぅ……ご、ございました……」

「こ、困ったな……まだ、震えが止まらないよ……」

「……私達は、助かったと言う事ですよね?」

 

多種多様、十人十色の反応を見せるリアスと眷属達。

恐らく目の前で起こっていた事を語っても誰も信じまい、それ程に激し過ぎたし頭が追い付かない。

唯、一つだけ解る事はある―――それはリアス達は助かったと言う事だけは確かな事だろう。

リアス達には困惑と共に安堵の表情もある、これで十分に役目は果たせた……仲間との絆を大切にする者ならば、例えそれが悪魔であれ救うのがアキラのやり方なのだから。

 

―――だがそこでふと、アキラはある疑問をリアスにぶつけた。

 

「そう言えばグレモリー、一つ聞いて良いか?」

「えっ? ええ、構わないけど何かしら? 後、リアスで良いわよ?」

「呼び名は別にどうでも良い―――確か俺が此処に来た時は4人ではなく5人分の気配を感じた筈だが?」

 

アキラの言葉にリアスは疑問を浮かべた表情をし、合点がいったらしく言葉を続ける。

当然だ、5人気配を感じて―――何故ならリアスには此処の3人以外にもう1人、助けを呼びに行った新米の転生悪魔が居るのだから。

気配を感じないと言う事は恐らく無事に此処を抜け出し、リアスの幼馴染にしてこの学園のもう一人の統治者である生徒会長ソーナ・シトリーの所に辿り着けたと言う事だ。

 

「あ、心配要らないわ……イッセーは私達が追い込まれた時に助けを呼ばせる為に一人だけ脱出させたから。

あの子は最近眷属になったばかりだし、持ってる力が希少だから死なせるには惜しいと思ったのよ。

あ、あの、何時ぞやは本当に無礼を働いたわ、御免な……『んな馬鹿な事があるか』……って、何よ!?

馬鹿って何よ馬鹿って!? 折角私が前の無礼を謝ろうと……あら、どうしたの?」

 

見ればアキラは首を傾げている。

本来ならリアスの言っている事は在り得ない、故に彼は言葉を返す。

 

「こっちの事情は悪いが説明出来ん、だがそれは明らかに可笑しいぞ。

此処はドーム状に結界が展開されているし、本来は結界を生み出した大本を狩らなければ解除される事は無い。

それを道も無いこの場所で俺が探知出来ない筈が無い―――どう考えても鉢合わせになる筈だが?」

 

そう、この結界はアキラの住んでいた東京で悪魔達が土地や建物を歪めて創っていた空間と同じだ。

入り込んでしまえば本来ならば存在する入口から出なければ出られない筈、しかし此処には入口らしきものは欠片もない唯の丸い空間である。

 

出口のない空間から出る方法は2つ。

一つは空間を作り出した存在を倒す事で結界を解除させると言う方法。

そしてもう一つは……結界を創り出した当人か、それよりも上位の者が結界を解除すると言う方法だ。

今回の場合はアキラが『神殺しの刃』を使った反動で結界に裂け目を創り出し、それによって解除されたようだが―――ならば何故、その『もう一人の眷属』とか言う存在が此処に居ない?

しかもそいつは比較的最近眷属になったと言っていた……持ってる力が強大なものであれ、この空間は恐らく此方の、更に悪魔になって年若い存在がどんなに力を出した所で強引に破壊するなどほぼ不可能だ。

いや、曲りなりにも破壊出来たとしても……歴戦の兵であり、感覚が極限まで磨かれているアキラに気付かれずに通り過ぎるなどまず無理だと断言出来る。

 

何かが可笑しい、その『イッセー』と言う人物。

だが其処でアキラの脳裏にある“在り得ない事実”が浮かんだ。

イッセーとリアスは眷属の名を呼んでいた―――その“イッセー”と言う名を持つ人物をアキラは知っている。

 

「―――おいグレモリー、眷属の名前は?」

「えっ? ああ、だからイッセーよ……それがどうかしたの?」

「名前じゃねえ、フルネームだ!! さっさと言え、早く!!」

「な、何よ、そんなに怒鳴らなくても良いじゃない―――えっと『兵藤一誠』よ、一に誠って書いて」

 

瞬間、アキラの表情が変わる。

馬鹿な、そんな筈はない、何かの間違いだ―――何故ならその『兵藤一誠』と言う人物は既に“死んでいる”。

アキラが孤児院から出、人外ハンターを生業にし始めた頃に家族ごと惨殺されていたのだ。

そして其処に残された残滓はアキラが良く知っている、忘れる心算も無い“奴”のものだった……その時からアキラは『はぐれ悪魔』と呼ばれる存在を狩る賞金稼ぎになったのだから。

 

この世界を歪める元凶―――かの東京で狂ったYHVHにより存在を歪められた悪魔。

アキラと仲間達の観測により独善的な神性を否定され、悪魔への凋落により禍々しき邪神へと堕ちた創造主。

その後にアキラ達とフリン達の協力の元に倒され、全ては終わったと思われた……しかし堕ちた創造主は今際の際、己が存在を並行宇宙へとばら撒いたのである。

ばら撒かれた魂の欠片は並行宇宙の東京に存在した神々や悪魔の名を持つ者達に寄生虫の如く寄生し、世界と存在を少しずつ歪めてしまっていた。

 

―――アキラはその途方も無い数の堕ちた創造主の欠片を滅ぼすために今此処に居るのだ。

だが拙い、かつての東京でも猛威を振るった“奴”がもしアキラの居ない駒王町に野放しになっているとしたら最悪の状況になる事だけは目に見える。

 

そして、彼の嫌な予感と言う奴は大概当たってしまうものだ。

罅割れた空間は結界を粉々に破壊し、気味の悪い空間は消え、天には星々が輝いて見える。

……其処に闇夜を切り裂くように何処かへと向かって飛ぶ光の帯が無ければ、アキラはこのまま寝床に帰っていただろう。

 

光り輝く線上の帯は駒王町の至る所から立ち上り、唯一点に向かっていく。

アキラはこの光景を知っている……否、忘れられる訳がない、この光景を創り出している存在は一度彼の幼馴染を喰らっているのだから。

光の帯が集まる中心、其処にはリアスが眷属として転生させた既に死んでる筈の『兵藤一誠』が宙に浮きながら嘲笑い、飛んでくる光の帯を取り込んでいる姿があった。

 

「おや、遅かったね『神殺し』。

―――御覧の通り、この町に住む連中の魂はボクが貰ったよ、ゴチソウサマ」

 

「――――――シェェェェェェェシャァァァァァァァァァァァ!!!!!」

 

響くアキラの怒号、放たれる圧倒的にして明確な殺意―――

空に浮いた少年イッセーの顔には大蛇の如き鱗が現れ、蔑んだ目でアキラやリアス達を見下していた。

 




皆様の温かいご意見・ご感想を心よりお待ちしております


【今回の改変(HDD)】
原作主人公・兵藤一誠……既に故人
アキラがはぐれ悪魔狩りと人外ハンターを営み始めた頃に家族ごと殺されてます
殺したのはシェーシャで、その後に活動しやすいように一誠を名乗って虎視眈々と力が回復するのを待ってました


【今回の改変(真4F)】
ベル・ベリト変異体……無秩序の肉団子からアラクネ風の合成獣に
腕や足の代わりにクエビコやデュラハンなど前作真4で消えた悪魔が生えてます
アラクネとして胴体部分は黒いサムライことリリス(真4仕様)の上半身
後にアキラにより討伐され、取り込まれていた悪魔達はイナンナに産み返されて復活
(ただし、生まれ変わった後のリリスは真3仕様の全裸に蛇タトゥ&大蛇)


【世界の歪んだ原因】
此処にも堕ちたハゲ(YHVH)が関わっているが、詳細は次回以降


【劇中のオーディンの呪文(詠唱)】
Deyr fé, deyja frændr, deyr sjalfr it sama
(ディエー・フェー・ディ・ファンズル・ディエー・スヤールフル・イッ・サマ)
(訳:富は滅び 親しき者は死に絶え いずれは己も死に至る)
元ネタはアイスランドの古エッダ【高き者の箴言】(Hávamál)の76個目の訓話
因みに『高き者の箴言(ハーヴァマール)』=オーディンの別名

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