《松陽side》
葵が幼い子どもを連れてきてから1週間、何も変わらず、普段通りの日常が過ぎていきました。と言っても、変わらなかったのは、葵が連れてきた小さな子どもだけですかね。
普段から、家のことはほとんどやっていた葵は、更に子どもの看病もやっていました。それはもう、葵の方が先にやられてしまうんじゃないか、というぐらい働いていましたよ。
何か手伝いますよ?、と聞いても、
「いえ、せめて起きるまでは、私が責任もって看病します。」と。
責任感の強い子です。父親としても胸が張れる、自慢の娘です。
そういう時は、無理強いしても手伝うべきなのかもしれませんが、私は葵の言葉を優先することにしました。彼女の責任感の強さは知っていたので、それなりの信頼はありましたから。
それに、初めてだったのです。葵が、頼みごとをしてきたのは。
それが例え、看病という名目でも……。
そんな葵の頼みの言葉を、優先しないわけにはいきませんからね。
もう一つ変わったこと。
それは、“村での不思議な噂”。
『“屍を喰らう鬼”を拾った者がいるらしいぞ。』
『亜麻色の短い髪を持ったものらしい。』
『しかも、
……完全に葵の事がバレました。
そりゃあ、村内でも『下りてはいけない』と言われている階段を上ってきた女子が、銀色の子どもを背負っていれば、嫌でも目に付きますからね。
そして、葵が看病の合間に外に出た時に、あの子じゃないか?、と噂の事が葵自身の耳に入った時、
「葵……?大丈夫ですか?」
「……?何がでしょうか?」
「いえ、その……。噂なんて気にしなくていいのですからね。」
「あぁ、その事ですか。
大丈夫です。私は何も悪いことはしていませんから。」
驚きました。まさか、ここまで大人に成長してるとは…。
さすがにその噂が葵自身の耳に入れば、折れてしまうと思ったのですが……。
子どもの成長には、いつも驚かされてしまいますね。
「父上?」
「余計な心配だったようですね。」
「??」
「いえ。何かあればいつでも、力になりますからね。」
「はいっ、ありがとうございます!」
晴香、見ていますか?
私の娘は……あなたの娘は……、
どこに出しても恥ずかしくない、素敵な子に育っていますよ。
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「Zzz……Zzz……、、、」
銀さんと出会って、はや1週間。呼吸は落ち着いたものの、未だに目は覚まさない。よって、ご飯も全く食べないわけで……。
銀さんは、このまま死んじゃうんじゃないか、ってぐらい痩せてしまっていました。……どうしよぉぉぉぉ!?
はい、軽くパニクってます……。
父上には、心配かけないように平静を保ってるけど……、残念ながら、そろそろ心配も末期です。
そんな私を支えているのは……
「ねーねー!」
この可愛い天使です。
そして、ずっと思ってたこと…蒼汰の見た目、誰かにそっくりだなーって。
最近、気づきました。蒼汰は小さい頃の土方十四郎にそっくりだと。
弟大好き、土方くん大好きの私には天使以外の何者でもありませんよ。
土方くんに似てなくても天使なのに…。
「どうしたの?蒼汰。」
「ねーね、遊ぼー。」
そうだなー、最近は銀さんの看病で、蒼汰にかまってあげれなかったからなー、、、。
「ごめんね、蒼汰。でも、このお兄ちゃんが起きてからにしようね。お兄ちゃんもきっと、一緒に遊びたいだろうからね。」
「うーー、、、」
あっ、やばい、泣きそう……。
ごめんね、蒼汰。さすがに、この中で銀さんを死なせてしまうわけにはいかないんですよ、、、。
それに、銀さんは本当に遊びたいと思うからさ。
「わーった。後で遊ぶー。」
あー、いい子でよかった。蒼汰も成長していってるんだな。
ありがとう、と頭をなでたら、めっちゃ喜んで走って行った、多分、父上の所だろうな。
「…………ん、、、?……ぅ。」
「!?」
喋った!?って、起きた!?
「大丈夫?わかる?」
刺激しないように、優しく…優しく…………って……ん??
袖つかまれてる。えっ……誰に?この部屋にいるのは、私と銀さん……。えっ!?
えぇぇぇぇ!?!?私、銀さんに袖つかまれてるの!?いやっ、嬉しいけど!
「どうしたの?どこか痛い?」
「…………。」
黙ったまま、首を横にふる。……痛いところは無いのか、よかった。
ってよくないよね、問題解決してないし。
「大丈夫だよ。起きれる?」
そう言って頭をなでてあげたら、なんか安心したようで……よかったぁ。
そのまま布団に座らせて、落ち着くまで待ってみた。
「……ここ…………どこ?」
「…ここは私の家だよ。」
「家?」
「そう。そして、これからは君の帰るところ。」
「僕が……帰ってくる?」
僕、って!癒されるな〜。
……帰ってくること、そんな疑問に思うかな、、、?
「僕、帰ったら……ダメ。…怒られる。殴られる。帰ったら………、みんな…不幸に……なる。」
……。
そっか、銀さんって家族から捨てられちゃってるんだよね。
―――ギューーっっ
ごめんね、銀さん。私には、松陽先生みたいに銀さんを安心させたり、成長させたりする素敵な言葉はかけれないから。
ただ抱きしめることしか出来ない私を許して。
「大丈夫。ここには、君のことを傷つける人なんていないよ。みんな、君の帰りを待っててくれるよ。
だから帰っておいで。
ここには、君の居場所がちゃんとあるから。」
つかまれていた袖をさらに強くつかまれて、
こわばっていた身体は緩まって、
聞こえてきたのは小さな声。
「ありがとう。」
増えた家族は、小さな小さな身体で……でも大きな大きな存在。
そんな君と巡り会えた私の未来が、
君のために輝いているものでありますように。