さて、ものすごいスピードで物語は進みます。
早すぎない?って方もいるかもしれませんが、ご了承ください。
《銀時side》
「はい、おしまい。」
「ハァ、ハァ、ハァ……っくそ。」
「葵姉、ハァ……強すぎんだろ。」
俺らがここに引っ越して来て、葵姉が道場に来て、既に1年ぐらい経った。
365日、葵姉は休まずに道場に来たし、俺と高杉は休まず勝負を挑み続けた。
結果は惨敗。俺も高杉も、二人でかかっても全部剣で防がれた。しかも、葵姉は全く汗かいてない。
……で、もちろん松陽にも叶わねぇ。
「では、父上。お先に失礼しますね。」
「はい。今日もありがとうございます。」
「いえいえ。みんな頑張ってね。」
「「「「「「「「はいっ!」」」」」」」」
くっそ、なに真っ赤にして元気に返事してんだよ。……なんで俺、悔しがってんだ??
……んな事どうでもいいっ!!
葵姉は晩ご飯を作るために、いつも少し早く帰る。まぁ、松陽と蒼汰、俺と高杉、桂の分作るんだから、大変だよな……。
「(あ……やっぱり、)」
そして、俺が最近気づいたこと。
それは、葵姉がどんな時でも二本帯刀してること。
普通は1本でも間に合うし、逆に二本もあったら邪魔だと思う。
最初は、葵姉の戦うスタイルが二本使うものなのかと思ってたけど、残念なことに一本は抜いてるところを見たことがない。
「(……気になるっ!!)」
特に今日であることに理由はないし、気になったのも何も今日が特別ではない。ただ、聞くタイミングが分からなかっただけで。
そしてなんとなく、今だ!と思った。だから、葵姉を追いかけた。
「葵姉ーー!!!」
「!?銀時……?どうしたの??」
でも今日、
“今日”という日が忘れられない、
忘れてはならない日になるとは
思わなかった。
――――――――――――――――――――――
「……どうしたの?何か用事あった??」
「う……ん?多分、用事……かな。」
「??どうしたの?」
銀さんは何か言いずらそうにしていた、けど残念ながら、私に察することは全く出来ず、本人の言葉を待つことしか出来ません。
「答えたくなかったら……答えなくてもいいんだけど……」
「うん。」
「葵姉は、なんで二本も帯刀してんだ?」
……なるほど。それで、言いづらそうにしていた訳ですか。
特に隠していた訳では無いけど、別段、自分から言うつもりもなかった、二本帯刀の意味。
それは、言ってしまえば、勘のいい未来の銀さんなら、なにかに気づいてしまうかもしれないと思ったから。遠ざけていたはずなのに、逆に危険な目に合わせてしまうんではないかと、心配したから。
でも、あなたは主人公で、私は異端者【転生者】。あなたが知りたいと望むのならば、教えてあげなくてはならない。
……そんな言い訳をして、あなたなら気づいてくれるのではないか、と期待を抱いてしまったんです。
もしかしたら、あなたと離れなくても済むのではないか、もっと平和な解決方法があるのではないか、と。
罪悪感と、わずかな助けを求めて話してしまう私を許して下さい。
そして、どうか気づかないで。
~~~~~~~~~~~
「この刀はね、父上からもらったんだ。」
「松陽から?」
「そう。」
そう……本来は君が貰うはずだった素敵な刀。
「その時にね、父上に誓ったの。
この刀は、この世で最も大切なものを守りたい時に使う、例え自分の命を犠牲にしたとしても、その人のために斬った時に、後悔しない、って思える瞬間にだけ、この刀を使う、ってね。
だからむやみやたらには抜かないかな。」
今斬ってるのは、どれも私の為だから。
いつか本当に、君たちのために使う日が、
来て欲しいような、来て欲しくないような。
「へぇ……。」
「納得できたかな??」
「……うん。ありがと。」
……?
なんだ今の間は??
道場に戻る銀さんの背中を見て、感じた疑問は、
「葵姉っ!!」
彼自身によって、解決された。
「!?」
「葵姉がその刀を抜かなくてもいいように、俺が強くなる!」
「……、」
「だから心配すんな!」
そう言いきると、走って戻って行った。
「あーあ。」
全くため息が出る。
どうして自分はこんなにも無力なのか。
どうしてこんなにも弱いのか。
覚悟は決めたのに。
命をかける覚悟も、
君たちを裏切る覚悟も、
恨まれる覚悟も。
たとえ悲しい事があっても、
周りに仲間がいる事が、
本当に君たちの幸せですよね?
私のやってることは、間違いではないと、
思っても大丈夫ですよね?
ため息と共に出た不安は、誰にも拾われることなく、空に消えた。
もう後戻りは出来ない。
もう後悔することは出来ない。
物語はそこまできている。
私の知識と銀さんたちの成長が合致していた。
だから、きっともうすぐだと思う。
たった1年で成長した、
男の子の怖いぐらいの成長期のように、
私のやるべきこともすごい勢いで
……近づいてきた。
「さて、ご飯作ろっかな。」
私は頬をつたう汗を拭って、家に戻った。
――――――――――――――――――――――
「あの家だよな。」
「あぁ、起きてる人の気配はしないな。」
どんな小さな音でも響いてしまいそうなほどの、静寂に包まれた周囲。しかし、それも当たり前。一般人は既に床につく時間。
こんな時間帯に見合わぬ数と、人ではない集団。
「生け捕りか、寝ているのならば簡単だな。」
「虚にばれるのだけ気をつければ大したことではない。狙いの女子も随分やるようだが、初戦子どもだ。」
「貴様らでも出来るだろ。」
「てめぇら、舐めた口聞いてくれんじゃねぇか。」
「俺らに助け求めたくせに、何威張ってんだ!あぁ!?」
くだらない会話と、ひっそりと来ているならば出してはいけない大声。
「全く、一体今、何時だと思っているのですか。」
そんな集団の後方。背後から聞こえた声に、全員が一斉に構えた。
「ばれないように見ているのであれば、もう少し声を小さく、そして気配を消す努力をすることをおすすめしますよ。」
「貴様っ、いつからっ!!」
「最初からですよ。気配も消さず、殺気だけ見せながら近づいてくる連中を、家の中から見守っているわけないでしょう。」
そう言うと、その者は腰の刀に手をかける。
「ここを虚の存在する屋敷と認識しているのであれば、もう少し手練の者を連れてくるべきですよ。天人ごときにここは落ちません。」
「まさか、貴様っ!」
「……殺れぇぇぇ!!!」
その言葉が癪に触ったのか。
気づいた者の言葉など耳に入らず、人外の集団、大量の天人が1人に突っ込んだ。
「だから、あなた達ごときでは、ここを落とすことは出来ないと言っているんです。」
一瞬。
瞬きする間もない。
次に目を開けた時に見えるものは、天人たちが流す血を一身に浴びて、その刀を振り回す姿。自身が傷つくことは全くなく、的確に敵の急所をついて絶命させていく。
その者が天人を全滅させるのに、それほど時間はかからなかった。
「貴様、やはり……虚、、、いや吉田松陽か。」
特徴的な長い茶色の髪。
大量の天人を1人で片付ける、剣の実力。
「そうだと言ったら?」
「っ!……まさか貴様に会うとは思わなかったな。だが絶好の機会!、娘をとらえるよりは本人をとらえた方が良いに決まっている。」
「なるほど、娘を連れ去るつもりだったのですか。貴重な情報をありがとうございます。」
言い終えると、髪の毛で隠れていた眼光が、天人の監視と指導でやってきたのであろう、奈落たちを貫いた。
「では、聞きたいことも聞けたので、全員消えてもらいます。」
「なっ!?」
その眼光に怯み、目では追えないような速さで、こちらに向かってくる相手に、奈落たちはでも足も出なかった。
「ほぉ、偽ってまでずいぶんと暴れてくれたようだな。」
「……。」
後わずかの奈落を残したところで、吉田松陽と思われていた人物の動きは止まった。止められた。
さんざん剣を振り回していたその者を、背後から取り押さえた。
喉元には刀を突きつけ、動きを封じたのだ。
「貴様は吉田松陽では無いな。」
「なぜでしょうか。」
「吉田松陽のことはなんでも知っている。貴様は吉田松陽ではない。」
「あら、それは残念ですね。
ちなみに私は、あなたのことを知っていますよ。」
「!?」
捕えられたと思われていた吉田松陽と名乗る者は、一瞬のすきをついて拘束から逃れた。
「そうか、貴様だったか。」
距離をとり、剣を振り上げその者は構えた。
そして、吉田松陽と似た顔をあげた。
「我らの狙い、吉田松陽の娘、吉田葵。」
「どうも、こんばんは。」
―――運命が動く時……
……転生編、まさかの次回でラストかもしれません。