そしてとてもとても長い間、申し訳ありませんでした。
正直、帰ってくるのは迷っていたというのが本音です。というのも、最近、現実世界がとても忙しくいろいろ追われていました。
ですが、既に4ヶ月も更新が止まっている作品に、コメントをくれる方がいたり、読んでくれている方がいることに感激と申し訳なさが溢れました。
楽しみにしてくれていた方、コメントをくれた方、本当にごめんなさい。そしてありがとうございます。
これからは、今までの分も取り戻せるよう更新できたらと思っています。
どうぞこれからも、この作品をよろしくお願いします。
《松陽side》
『今日は外に出ないでくださいね。』
葵に言われた時、私はその意味をあまり深くは考えませんでした。ですが、今日に限ってどういうことなのか、と思ったのもまた事実でした。
「!!」
夜中の12時を回った頃、玄関の方から何か物音がして、私は目を覚ましました。
「……銀時?」
玄関にいたのは、誕生日にあげた木刀を腰にさした銀時。私は迷わず、銀時を止めに行きました。最近はとても物騒だったのと、今日は役人がここを潰しに来る日だったのです。内密に進めているようでしたが、私にはあまり関係ありません。
ここにいるのは葵と蒼汰と銀時だけ。教え子たちはみな、帰しましたし、普段から稽古をしている蒼汰と銀時を含む3人なら、逃がすことが出来ると思っていました。
ですが、外に出てしまえば話は別。さすがにそこまでは見れません。
「父上。」
「!……葵ですか?」
まさに、外に出て行こうとしている銀時を止めようとした時、横から声をかけたのは葵でした。
その姿は寝ていたとは到底言い難い格好でした。なんせ、外に出る着流しを着て、帯刀していましたからね。
「私に任せてください。」
「ですが……」
「父上は明日も早いんですから。銀時を連れ戻すくらい、私にも出来ますよ。それよりも、……蒼汰をお願いします。」
「!」
葵が使った“明日も”という言葉と、蒼汰の心配。私は、葵は私の考えに、今日起こることに、気づいているのではないかと思いました。そう考えれば、確かに幼い蒼汰の方が危険でした。
「わかりました。落ち着いた頃に、私も行きます。」
「ふふ、父上は心配症ですね。」
笑顔で行ってしまった葵に、どこかで、葵がついているなら大丈夫と思っていました。
―――――――――――――――――――――――
「……寒いなぁ、、、。」
これから起こることがわかっていると、こんなにも落ち着けるのか……。
「それとも……
虚ならこんなこと、微塵も恐怖に思わないだろうし。
でもそれが、私にはとても嬉しいことだった。父上と、家族と血が繋がっているという証明になっていたから。
「そんな家族を、悲しませるわけにはいかないですね。」
そう、そんな大切な人を、守りたい人たちを守ることが私の転生した意味。エゴだと思われるかもしれないし、私が運命をねじ曲げてしまうことで、どこかに歪みが起こってしまうかもしれない。
でも、そんな覚悟はとっくの昔にしていた。そんな悩みは、大事な人たちと出会った瞬間に消えた。
今を守ることが、
今を守ることしか、
私には出来ないから。
そのためには、松陽先生を助けるのが一番いいと思った。
「悪ガキ3人の元に急ぎますか。」
さてと、どこにいるのか……「国家転覆を狙う反乱分子を育成する悪の巣、松下村塾の悪ガキ3人の間違いだろ。」
「「!!」」
……いた。…………早っ!
なんだ、もっと時間かかるかと思ったけど、意外と近くにいたのね。
まだ役人とは出会ってない。ここで出て行って悪ガキ3人を家に帰してもいいんだけど……。私には、この時にどうしてもやらなくてはならないことがあった。
―――ザッザッザッザッ
大量の役人さんのお出まし。
漫画見て知ってたけど、実際に見るとリアリティあるな……刀とか。
……あ、本物か。
「なぜ、逃げなかった。」
「なんで俺まで逃げなきゃならねぇ。そりゃあ、松陽と蒼汰、葵姉だけだろ。
後は俺がやっから早く家帰れ。どうせ、俺は流れものだ。何かしてもどうにでもなる。
それに、松陽と蒼汰を巻き込まなければ、葵姉を守れれば、それでいい。」
元の世界で、こんなセリフはなかった。
確か、松陽先生とどっかに行けばいい、みたいな内容だった気がする。
それを今、私の目の前で、銀さんは私たちだけを守ることが出来ればと言った。
「んな役割、てめぇだけに任せておけるか。」
「葵殿を守りたいのは、お前だけではない。それに先生や蒼汰から学んだことは数え切れない。葵殿たちがいるあの空間が好きなのだ。」
「てめぇだけ、いい格好つけれると思うな。」
……。
嬉しかった、純粋に。
この世界に受け入れられた気がして。
だからこそ、一層守りたいと思ってしまう。
君たちを、君たちの未来を。
「いたいと思う居場所は、自分で見つけ、」
「自分で掴み、守る。」
「……そうかよ。」
「こんな夜更けに何をしている、童ども。」
「松下村塾、吉田松陽が弟子、坂田銀時。」
「同じく、桂小太郎」
「同じく、高杉晋助」
全員が木刀を構えた。
「「「参る!!!」」」
よかった、このへんは一緒で。
私のやりたいことが、しなければいけないことが……
おかげで出来る。
私は自分がいた場所、道の塀の上から飛び降り、役人と銀さんたちとの間に降りた。
――――――――――――――――――――――
《銀時side》
「抜かないで……、それをそのまま収めてください、両者ともです。」
木刀を構え、走り出した俺らの道を止めたのは、ここにはいないはずの、俺が最も守りたいやつだった。
「どうか私に、この刀を抜かせないでください。」
飛び降りたままの姿勢でなおかつ、長い髪のせいで表情は全く見えなかった。
そのまま立ち上がって、役人の方に歩いて行った。
「貴様が!!吉田松陽の……!!」
「“国家転覆を狙う悪の巣”、“反乱軍兵士の育成”、“鬼子拾い”。
私たちのことはなんと言おうと構いません。目障りならばすぐにでもここから出て行きます。」
役人の集団の真ん中で、止まったと思ったら、刀を抜いて空を切った。
「ですが、その刀を私の大切なものたちに向けるのであれば、
私は、国家転覆ぐらい本当に致しますよ。」
いや、切ったのは空ではなかった。
的確に、役人の刀だけを切り刻んでいた。
「くそっ!噂に聞いた通りかっ!!」
「貴様が塾を偽り、側で見守る傍ら、国家転覆の反乱軍の育成に……っ!!」
最後は聞き取れなかった。
わかったのは、葵姉に全く事実無言の疑いがかけられていることぐらいだった。
葵姉の威圧にやられて、役人たちは逃げていった。
「葵姉……」
「やれやれ。全く、どれだけ心配したと思ってるんですか?みんな家に返したと思ったのに、悪ガキ3人がまだいましたか。」
俺たちと喋る時には、いつもの葵姉に戻っていた。そして、今日起こることを分かっていたような口ぶりで話した。
「とりあえず無事でよかったですが……、
父上になんて言いましょうね。」
困った困った、と言いながらも、葵姉の顔は笑っていた。
「葵が心配することはありませんよ。悪いのはそちらの悪ガキ3人ですから。」
「あら。」
「げっ……。」
やって来たのは松陽だった。
「悪ガキ3人が夜遊びまで覚えてしまうとは……、ですが道場を守ろうとしてくれて、ありがとうございます。
君たちが破る道場も無くなってしまいましたけど、私はそれで充分です。」
怒られると思ったら、松陽は笑った。
「心配いらねぇ。」
「「?」」
「俺が破りてぇのは道場じゃねぇ、松陽先生と葵。あんたらは2人だけだ。」
「我らにとっては、先生がいるところがどこであろうと学び舎で、葵殿がいる所が帰りたいところです。」
「俺らの武士道もあんたらの武士道も、こんなんで折れるほどやわじゃねぇだろ。」
葵姉と松陽は驚いたように目を合わせ、そして苦笑いしてた。
「銀時、こりゃまた、君以上に生意気そうな生徒を連れてきてくれましたね。葵にも一層迷惑をかけそうです。」
「大丈夫ですよ。賑やかになって楽しそうです。」
「だろ?」
ドヤ顔で言ってやった。
「では、さっそくですが路傍で授業を一つ。」
「「「??」」」
「半端者が夜遊びなんて……100年早い!」
「ゔあ゛っ!!」「がっっ゛っ!」「うがっっ゛!!」
やっぱり怒られた……。
初めて松陽のげんこつを見たであろう葵姉は驚いていた。自分の父親がこんなことしてんだぞ!なんとか言ってくれよ!!
「プッ……ふふふっ、あはははは!!」
「なっ!?葵姉!!笑うんじゃねぇよ!!」
「あはは!ム、無理!ちょっと!!」
一通り笑い終わった後、葵姉が近づいてきて、埋まってる俺たちへしゃがんで言った。
「……まっ、とりあえず。」
「「松下村塾へ、ようこそ。」」
――――――――――――――――――――――
『松陽と蒼汰を巻き込まなければ、葵姉を守れれば、それでいい。』
『俺が破りてぇのは道場じゃねぇ、松陽先生と葵。あんたらは2人だけだ。』
『先生がいるところがどこであろうと学び舎で、葵殿がいる所が帰りたいところです。』
今日は嬉しいことばかりだった。
まさかこの世界の、最も中心である人たちにこんなに思われてるとは思わなかった。
そして……
「……上手くいってよかった、、、。」
銀魂の世界で最も変えることが難しいこと、そして変えることで最も影響のあるもの、それが【松陽先生の生存】。
気づいたのは早かった。でも、どうすれば良いのかなんてわからなかった。
転生してから7年もあってよかった。ようやく気づいたのが、これだった。
『松陽先生の犠牲を全て私に入れ替える』
虚の件に関してはどうしょうもないしわからないけど、松陽先生を死なせなければなんとかなると思う。とりあえず銀さんと高杉が争うことはなくなると思う。
天導衆に使えると思われている吉田松陽の上から、吉田葵という存在を上書きしていく。それが今回、どうしてもやらなくてはならないことだった。
天導衆に直接見せたわけではないけど、役人に見せることは出来たし、多少は耳に入るだろう。おまけに、根も葉もない噂まであったようだったし……、やっぱり昔、戦場と公園、そこで銀さんを助けたことが、関わってるのかな……。
「とりあえず1歩目」
まだ始まったばかり。やることはたくさんある。
ようやく私の転生した意味を見つけた。
ようやく私の願いを叶えにいける。
いつの時代でも、どこの世界でも、
願うのは大切な者たちの未来の幸せ。
「銀さんとの約束……それだけは破っちゃうかもな。」
私を恨んでくれて構わない。
君たちが苦しまなければ。
君たちが幸せならば。
私は喜んで犠牲になりたいと思う。