俺とシノンのお隣さんライフ   作:ラビ@その他大勢

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中学校編終了です。


幸人の回想

中学二年の夏に、俺は剣道をやめた。

一応真面目にやっていただけあって地方の中でも上の下くらいには強かったので、剣道をやめると言った時には師範に少し残念がられたが……。剣道を始めた目的――筋肉をある程度つけることや、新川くん、別名変態さんの撃退に対する戦闘練習等――は想定していた条件を達成できたので、これ以上特に目的もないままやり続けるのもどうかと思ったのだ。

それに、『ALfheim Online』――通称、ALOの発売が間近に迫ったことも大きかった。俺は取り敢えず、将来絶対に参加するであろうGGOの前準備として、VRMMOの練習のために安全が確実に保証されているこのゲームを買うことを決めていた。高校生にもなっていない俺にとっては決して少ない出費ではなかったが、長年コツコツと貯めていた貯金の八割をはたけばアミュスフィアとALOのカセットの両方が買えることは既に計算済みだ。

 

 

――そして始まったALOでのケットシー生活。俺はそこで過ごした一年間半くらいの間に、ケットシーの領主様であるアリシャ・ルーに領主親衛隊として雇われたり、シルフとケットシーの合同試合とか何とかで何故かリーファと一対一のデュエルをしたり、シルフとケットシーの会合で原作通りに起こったキリトとユージーン将軍のデュエルを見たり、キリトを助けるためにケットシーの軍隊に《竜騎士隊》へと呼ばれて世界樹を攻略したりすることになるのだが……この話は詩乃と全く関わりが無いので少し省略したいと思う。

男の猫耳とか割りと真面目に需要ないし。それに結局、ALO内ではキリトとコンタクト取れなかったし。

 

 

 

 

 

 

そして、時は現在、中学三年の三月。本日あった志望校の合格発表で無事両方の合格が判明し、俺と詩乃は東京の駅の近くにあるファストフード店で軽い『お疲れ様会』のようなものを開いていた。

――因みに、2020年代になっても合格発表に掲示をしている学校は数こそ減少したものの無くなってはおらず、実際に俺たちが受けた高校の合格発表は掲示式だった。全く、遠いところからわざわざ来なければならないこちらの身にもなってほしいものである。

 

「……ほんっとに便利な頭よね。全然勉強してないのに普通に合格するなんて」

 

目の前に座る詩乃が、円形のテーブルに頬杖をつきながら呆れたように溜め息をつく。眼鏡の奥の視線が妙に鋭く俺に突き刺さる。俺はさりげなく詩乃から目を逸らしてフライドポテトを一本取り、口のなかに放り込むと肩を竦めた。

 

「まあ、流石に高校に入ったらどうなるか分かんないけどな」

 

そう、俺が前世の記憶で勉強の内容を補完できるのはせいぜいが高校二年生の半ばくらいまで。そこからは真面目に勉強するほかないだろう。つまり、俺の無勉強チートは高校の途中で終わってしまう。

だが、そんな俺の悩みが詩乃に伝わるわけもない。詩乃は暫く俺をじっと見詰めていたかと思うと、深い深い溜め息をついた。

 

「あんたと一緒に勉強してると努力してる自分がバカみたいに思えて凄く脱力しちゃうから、早く真面目に勉強し始めるのを願ってるわ」

「――前向きに善処する方向で検討したいと思います」

「それ、政治家が言う『絶対にしない』ってことよね」

「ぜ、絶対にとまでは言わないよ――って、そこまで言うほどか?」

 

少し不満げな視線を詩乃に向けるも、詩乃は知らん顔でハンバーガーを頬張る。無視されたことにむっとしながらも、俺も自分のハンバーガーにかぶり付いた。もぐもぐとハンバーガーを咀嚼しながらふと未来のことへ思いを馳せる。

 

まあ、これでGGO編のメイン舞台である東京の高校へ行ける。いわゆる、これからが本番というわけだ。

 

俺はハンバーガーの最後の切れ端を口に放り込みながら、決意を新たにした。……と、そんなタイミングで不意に頭を過るのは。

 

 

――って、結局中学生の間に告白出来なかったし……

 

自分の意気地の無さに少し泣けた。




さて、次話から高校ですよ!お馴染みのキャラが出たりするかも?

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