とある休日。
「んー……違う。これじゃ詩乃が危ない可能性がある」
俺はタイピングをしていた手を止めると、さっきまで打ち込んでいた文字を全て消去した。
――俺が今、何をやっているのかというと。
「んー……っと? よし、前提条件から考え直すか。SAOとALOは原作改変はない。これは確定だ」
一言で言うと、検討。
――まぁ、それだけだと伝わりきらないだろうから補足すると。『俺が存在することによって、どこまで原作が改変され、どこまで原作通りに進むのか』そして『その原作改変によって、何が起こるのか』を考えているのだ。
SAOとALO編については、俺がキリト達と一切関わっていない以上、改変が起きることは無いはずだ。……もしあっても詩乃と関係ないだろうから知らん。
問題はGGOなのだが。
原作通りなら、GGO編のラストで詩乃が変態…もとい新川くんによって襲われ、それをキリトが助ける――という流れになっている。……しかし。
(それだと詩乃がキリトに好意を向けかねないしなぁ…)
それは断固回避したい事態だ。何なのキリトくん。何であんなにモテるんだ!主人公だからか!……主人公だから……なんだろうなぁ………って、そんな話をしたいんじゃなくて……コホン。
――というわけで、俺が新川くんを撃退しなければならないわけだが。
そこまで考え、何とはなしに自分の体に目を向ける。小学生のくせに外で余り遊ばなかったため、かなり貧弱な肉体。一般的にモヤシとかそっちのカテゴリに分類されるだろう。このまま高校生まで育っても変態を撃退するどころか変態に殺害されかねない。
「体……鍛えなきゃ……」
――もし体を鍛えるならどんなものが良いだろうか?
(新川くんを撃退するため……だから、普通に考えて武道かな。――ああ、でも毒使ってくるなら接近系以外か)
一人首を捻る。そして、一つの名案が思い浮かんだ。
「そうだ、剣道やろう」
後で親に頼んでみよう。と俺はそんなことを考えた。
「むー……。一応剣道やるのは確定だとしても……前提として新川くんをどうにかしたいんだけどなぁ」
俺は一人、首を捻る。結局、俺の意識は朝から考えていたそこへ向かってしまう。一番良いのは詩乃が彼と接触しないこと……だが。
(それはシノンを見れなくなるしアウト……)
詩乃も超絶可愛いがシノンも超絶可愛い。あの美少女を見ないというのは俺が生きてる意味がない。かといって俺からGGOに誘うというのも――…
「……ん? もしかして行けるかも?」
『トラウマ克服』を言い訳に詩乃と一緒にGGOに入る――それなら、詩乃に危険は及ばない……筈だ、うん。新川くんとの接点なくなるし。
唯一、危険が及ぶ可能性があるとすればシノンがBOBのエントリーの際に可視状態でウインドウを操作してしまうことだが、そこは俺が頑張ってフォローするしかない。
ああ、でももし出来るならGGOを始めるまでに――
「告白……したいなぁ」
OKを貰えるかどうかは俺視点ではかなり微妙なところだと思うが……可能性はゼロじゃない、はず。このことを考えると決まって弱気になる自分に軽く苦笑してしまう。
もしOK貰えたら……。
告白もしていないのに一人、詩乃とのイチャイチャを想像して悶えていると、不意に。ガチャリという音を立てて部屋のドアが開いた。悶えるのをやめ、恐る恐るそちらへ目を向けると――床にのたうちまわって悶えていた先程までの俺を見ていたのだろう、ドン引いた表情の詩乃が立っていた。――後で聞いた話だと、勉強で分からないところがあったから聞きに来たらしかった。
「幸人――あんた、なに、やってんの……?」
「えっと……その……あの……」
「……お邪魔しました」
「待って! お願い! 話を聞いて!」
バタン、という無情な音と共にドアが閉められる。俺は慌てて、言い訳をするために詩乃を追い掛けた。