ラビ は 生き返った !
星のない夜空を『Bullet of Bullets3』のホロネオンが尾を引いて流れていく。
いつもはあまり人気のないエリアである総督府タワー前の広場も、今日に限っては無数のプレイヤー達が詰めかけて飲み物食べ物を手に大騒ぎする場になっていた。
アルコールなんて無いはずのこの世界においても空気のみで酔うような猛者もいて、そんなプレイヤーがトラブルを起こすなんてのもままあることだ。
特にもうすぐ始まるBoB本大会を対象にしたトトカルチョの胴元である『公式ブックメーカーNPC』や、それに関する情報を売る胡散臭い予想屋の周りはこの時間からすごい人だかりになっている。
今この広場ではGGO内に存在する通貨の半分以上が飛び交っていることを考えれば、この盛況っぷりは当然とも言えることではあるが。
「キリトとシノン、あとは保険で俺に掛けときゃ確実に大儲けかな⋯⋯」
そう零しつつも、胴元NPCの元へは向かわない。
広場の隅に置いてあるベンチに座り、俺はとある人物が広場を通るのを待っていた。──とある人物と言っても普通にシノンの事なんだけどね。
誤解は解かなきゃいけない、そう考えてるのに何も上手く行かない。今だって、シノンを見つけた後に何を話せば誤解が解けるか、ずっと頭を捻っているのに良い案なんてさっぱり出てこなかった。
それに、昨日新川が言っていた『告白』についても、結果的にどうなったのか、情報は全く入っていなかった。きっと断ったんだろうと考えるものの、本当にそうなのか、そして断ったとしてもその後に新川が詩乃に何かしなかったか、と気が気でない。こっそり見に行くことも考えたが、流石にそんなことをすればこれ以上酷い亀裂が走ることになるだろうというのは想像に難くなかった。
そんな諸々が重なり、知らず知らずのうちに俺が広場を見ている目は鋭くなっていたらしい。前を歩いていた初心者らしいプレイヤーが俺を見て引き攣った声を上げ、そそくさと去っていく。
「やあ、クー。今日はよろしく」
そして──そんな不機嫌な俺へと、涼しげなハスキーボイスが掛けられた。そちらへ視線をやると、キリトは普段通りの飄々とした態度で柔らかな笑みを浮かべていた。
俺は瞑目し、深い深い溜息を零す。
「どの面下げてそんな事が言えるんだよお前は⋯⋯」
「え?」
「お前が撒いた火種のせいでどれだけ苦労してると思ってんだ」
俺がそう言うと、キリトはバツの悪い表情を浮かべた。
「あー⋯⋯。それは、悪かったな」
「今日何処かでシノンと会ったら絶対に誤解解いておいてくれよ頼むから」
「お、おう」
これで何とかなるだろうか。いや、ならない気がする。
「なあ、クー。今ちょっと時間あるか?」
「まあ無いことも無いけど、どうした?」
「いや、色々と聞いておきたいことがあってな⋯⋯」
アバターにすっかり毒されているのか、妙に女っぽい仕草で少し申し訳なさそうにキリトが顔の前で手を合わせた。
そうか。そう言えば、原作では本戦前にシノンから色々情報を得ていたはず。
俺という異物が入り込んでいるとはいえ、基本的にキリトの行動は原作に忠実な事を考えれば──
同じ情報を与えておいた方が、キリトの行動を予測しやすくなるだろう。
「しょうがないな。折角だし付き合ってやるよ」
俺はそう言って笑った。
*****
「何でだよ⋯⋯」
遮蔽物が少ない
シノンとキリトの遭遇地点である鉄橋と、地図上で見事に真反対のその地域に降り立った俺は、泣きそうな声で呟いた。
「何で毎回こうなんだよぉ!?」
第三回BoB、本戦──開始。
お久しぶりです。気づけば前回の投稿から半年越えてましたね⋯⋯
ちょくちょくザオラル打ってようやく成功しました。続きはこんなに長くならないように頑張ります