1回戦を早々に終えた俺は、キリトの発言の真意について考えていたのだが──やはり、アレはどう考えても嘘だ。
ネームカードの交換をした時に、その間違いが無いよう念入りに確認したから、あんなアバターでもキリトが男だということはもう間違えようのない事実なのだ。
つまり、キリトのあの爆弾発言はキリトが"何故か"吐いた嘘なのだが──何故か等考えるまでも無いだろう。
よくよく思い出してみると、キリトは原作でもシュピーゲル相手に誤解を広げるような台詞を放っている。
今回もその類のものだと思って、まず間違いは無いはずだ。⋯⋯無いはず、なのだが。
「上手い解決策が見つからない⋯⋯」
誤解を解くにはキリトが男であるという事実を信じてもらうしか無い。しかし、キリトがああ言ってしまった以上、ただそう伝えるだけでは逆効果になりかねない。
つまり、キリトが男であるという物的証拠を見せるしかないわけだ。
残念ながら、GGOには自分以外のプロフィールカードを他人に見せるという行為が出来ない。そのため、物的証拠を出させるにはキリト本人を説得する必要がある。しかし彼があっさり協力してくれるかと考えても⋯⋯はっきり言って分からない。
そんな訳でキリトの第1回戦が終わるまでじっとモニターを見続ける。
彼は、慣れない銃器相手に苦戦しているようだった。とは言え、アイツが負けることなど原作通りのステータスならば有り得ないだろう。敵もおあつらえ向きに原作通り《餓丸》だしな。
この試合はもう少し掛かりそうだ。
次に、俺はシノンの試合へと意識を向け──ようとしたところで、ちょいちょい、と肩を控えめに叩かれた。
振り向くと、金髪の優男が柔らかい笑みを浮かべてそこに立っていた。
「見てたよ、お疲れ様」
「よう、シュピーゲル」
手を挙げて応える。すると、シュピーゲルは突然真面目な顔になって顔を寄せてきた。余り聞かれたくない話らしい。それを察して顔を突き合わせると、シュピーゲルは小声で呟いた。
「そう言えば⋯⋯さっき一緒にいた女の子とはどんな関係なの?」
コイツも見てたらしい。だがシノンのあの態度から話しかけるに話しかけられなかったのだろう。
まぁあのシノンめちゃくちゃ怖かったからね。仕方ないね。
ガシガシと頭を掻き、取り敢えず彼の誤解を解くために口を開く。
「いやアイツ男だから。あんなアバターでも男だから」
「えぇっ!?」
シュピーゲルが素っ頓狂な声を上げる。近くにいたプレイヤー数人がこちらへと視線をやり、彼は少し恥ずかしそうに口を押さえた。
俺は苦笑いを浮かべ、そしてすぐ軽く肩を落とす。
「はぁ⋯⋯でもシノンには勘違いされちゃってさ」
と言うかキリトが勘違いを加速させちゃった訳だけどネ。
シュピーゲルは先程のシノンの般若な姿を思い出したのか、ブルっと身震いをした。
「あんなに怒ったシノン初めて見たよ⋯⋯」
「あんな刺々しいシノンは俺も初めて見た」
触れる物全て滅多刺しにするレベルの刺々しさだった。
シュピーゲルも苦笑を浮かべる。
「後でクーも謝っときなよ。あとしっかり説明もしてあげてね」
「おう、まぁそうしてみる⋯⋯っと、シノンの試合もそろそろ終わりそうだし、話を──」
そうして振り返ったところで、俺の体を光の粒子が包んでいくのに気付いた。
タイミングの悪さに、思わず溜め息。
とは言え、真面目な試合中に気を抜いて挑むわけにも行かない。深呼吸して意識を切り替える。
「じゃあ、行ってくるわ」
「うん、頑張って」
次の相手はアサルトライフル使いだったはず。
そんなに名の知れたプレイヤーでは無いが、何気に第1回から参加している古参プレイヤーだ。
俺は脳内で彼に対しての作戦を練りながら、静かに転送を待った。
***
スコープを覗き、倍率を確かめる。800m先の敵をレティクルの中心に据え、引き金に指を掛けた。
中々冷静になることが出来ない。深呼吸を数回繰り返してみるが、やはり落ち着かなかった。
先程からチラチラと頭に浮かんでは消えていくのは彼女──キリトの発言の真意が何なのか、ということだ。もし
「──っ」
少し強めに引き金を引く。
へカートから放たれた弾丸は相手プレイヤーの脳天を盛大に貫通し、当然の如く彼のHPを削り切った。
死銃に絡まれたキリトのメンタルケア役は誰もいない模様。