原作とは違い、増えた金額分少しキリトの装備を強化しておいた。当然武器ではなく、防具の話だ。銃をもう少し強化した方が良いかとも考えたが、キリトの銃が活躍するのは精々牽制と死銃戦の時の数発だけ。《FN・ファイブセブン》でも十分仕事を果たすことが出来るだろう。
結局、店を出たのは14時半に差し掛かろうという時間帯。小まめに時計を確認していたお陰で、バギーに乗らなくてもエントリーには間に合う時間に出ることが出来た。
「じゃ、さっさと総督府行ってちゃっちゃとエントリー済ませちゃうか」
「⋯⋯何から何まですっかりお世話になっちゃったな。どうもありがとう」
「どういたしまして。まぁ、俺も予選が始まるまでは暇だったし。困った時はお互い様だろ」
キリトと話しながら、総督府へと向かって少し急ぎめに歩いていく。BoBに対するキリトからの質問に答えたり何だりしている内に、総督府に到着したのは14時50分過ぎだった。
入口から総督府の内部に入ると、右奥の一角にずらりと並んでいるタッチパネル式端末へと近付く。
「これでエントリーするんだけど操作のやり方、大丈夫そうか?」
俺が首を傾げると、キリトはこくんと頷いた。
俺もそう悠長にはしていられない。パネルで仕切られた隣の端末へと向かい、一応端末情報を他人では見れないように設定しておいてから、各種データの入力を行っていく。特段モデルガンなどが欲しい訳では無いが、これで貰えるGGOの装備などたかが知れている。そのため、一応──という事だ。
俺の持っている原作知識の中で、運営側がそう言った個人情報の利用を行う事は無かったため、そこに関しては特に心配していない。
画面が切り替わり、エントリーを受け付けた旨の文章と、1回戦の時間が表示された。
隣で何やら──恐らく住所を入力するかしないかでしばらく迷っていたのだろう──唸っていたキリトへと、終わったか、と問い掛ける。
「ああ、なんとか。ほんとに、何から何までありがとう。助かったよ」
「どういたしまして。それより、予選のブロックは?」
「えっと⋯⋯Fブロックだ。Fの37番」
「俺はFの12⋯⋯だから当たるとしても決勝か。それにしてもマジかぁ⋯⋯」
こんな所で、原作再現の恐ろしさを再確認した。
まさか、ブロックだけではなく番号までもが原作のものと同じとは。なお、シノンのブロックはBで、俺達が当たるとしても本戦だ。
「マジか、って?」
「あー⋯⋯いや、こっちの話。まぁ、でも良かった良かった。運が良ければ2人とも本戦には出れる」
「?」
キリトは俺の言ってることがよく分からなかったのだろう、小さく首を傾げた。⋯⋯見た目が普通に美少女で不覚にも見とれそうになったが鉄の精神力で何とか我慢。
コイツは男。コイツは男。
決勝戦にさえ進めば二人共が本戦に出られる旨をキリトに説明しつつ、エレベーターに乗り込む。予選の会場である地下20階へと着き、エレベーターの扉が開いた途端、キリトが俺の隣で息を呑む気配がした。
まぁ、慣れていなければこのホールでの重々しい空気には圧倒はされるだろう。だがここで武器を見せているプレイヤー達は大した事の無い連中ばかり。興味を割くのもバカバカしい。
俺が特に感慨も持たずに控え室へと足を向けると、キリトは慌てて付いてきた。
個室である控え室に入り、壁にもたれ掛かりながら装備を変更するためにウィンドウを操作する。
「⋯⋯す、凄い胆力してるんだな」
「んぁ? ああ、確かに最初は驚くだろうけど。そうビビるもんでもないぞ? アイツらみたいなお調子者は大体予選で落ちるし」
「お、お調子者!? さっきのイカツイ人たちが!?」
「大会の30分も前に自分の装備晒してる時点で対策し放題じゃねぇか。キリトも武器は試合直前に付けるようにしとけ」
あ、ああ⋯⋯とキリトは呟き、唖然としたように頷いた。まぁシノンレベルで知られているプレイヤーだと隠したところで大体どこかからは漏れているだろうが。
防具をつけ終えた俺達は控え室から出ると、適当に時間を潰すためにボックス席へと足を向けた。
──しかし、5歩ほど歩いた後、俺の足は止まることになる。
「⋯⋯」
「⋯⋯」
目の前には、見慣れた水色の髪を逆立てて仁王立ちする氷の狙撃手様の姿があった。
⋯⋯あれ?
もしかして──何か怒ってらっしゃる?