簡単な実力のテスト。やる前はそんな風に考えていたのだが──いざ目の当たりにしてみると、なるほどこれは
「⋯⋯バケモノだわ」
まさに、
弾をよける動作に無駄がないのは当然として、状況確認からの判断能力が尋常ではない。咄嗟に下す判断が全て的確で、それはもう超反応といっても差し支えはないだろう。流石に原作内最強の黒の剣士とあって、容易に自分が思い描いていた限界を超えてくる。これに対して互角レベルで張り合う
弾除けゲームのクリアに沸いていた店内が収まり出した頃、俺達2人は武器ショップの一角で、キリトの主装備を決めるためにあれやこれやと話を交わしていた。
「う〜ん⋯⋯。このアサルトライフルってのがサブマシンガンより口径が小さいのに図体が大きいのはどういう訳なんだ?」
「貫通力やら命中精度やらなんやらの問題だな。まあ、基本的に俺は理論より実践派だから詳しい事は特に覚えてない。そこら辺には期待しないでくれ。⋯⋯で、良さそうな銃は見つかりそうか?」
「⋯⋯いや」
俺の質問に、キリトは苦笑いを浮かべた。まあ、銃の事をろくに知らない人間が自分に合ったものを選ぶなんて運命なんてことを除けばほぼ間違いなく無理だ。俺のガバメントも結局最近はろくに使っていない。
「⋯⋯これは?」
遂にショーケースの端まで辿り着いたキリトが、一つの商品を指さした。銃とは明らかに異なる、金属の筒。
「光の剣と書いて光剣。正式名称は《フォトンソード》」
「剣!? この世界にも剣があるのか」
キリトが慌ててショーケースに顔を近付ける。
「かなり扱いにくい武器だけどな。大抵が近付く前に蜂の巣になるから主装備にするには心許ない」
「⋯⋯つまり、接近できればいいわけだな」
「それが出来るならな」
俺がそう言うが早いかキリトはニヤリと笑うと、既にフォトンソードを購入していた。原作と変わらず、判断が早い。とんでもない速さで飛んできたNPCが差し出したパネルに右掌を押し当てる。そして実体化された黒いフォトンソードを手に取り、体の前にかざした。
スイッチを入れると同時、ぶぅんと音を立てて実体を持たない光の刃が辺りを照らす。
キリトは光剣をまじまじと見つめた後、剣を振り、SAO時代のソードスキル《バーチカル・スクエア》を繰り出した。ブォン、ブォンとまさにス○ーウォ○ズのアレのような音を鳴らしながら光剣が振られ、空中へと軌跡を描く。
「⋯⋯ふぅん」
俺は腕を組みながら、微かに目を細めた。
反射神経はともかく、剣を振る速度はそこまでバケモノじみているという訳では無い。勿論、これがキリトが出せる最高速度だ──という事は無いのだろうが。
この感じなら反応は出来る。
俺は安堵で胸を撫で下ろすとともに、目の前の少年へ向けて賞賛の拍手を送った。
「⋯⋯さて、お金は後どれくらい残ってる?」
エントリーを締め切るの3時までそう時間もない。今からは、キリトの装備をさっさと整えるのが先決だろう。
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「あの子、どういう反射神経してるの⋯⋯」
幸人と一緒に行動していた女プレイヤー。明らかに初心者にしか見えなかった彼女が、インチキと言っても過言ではない弾避けゲームに入っていった時はそれを許した幸人の神経を疑った。だが、実際に彼女がそのゲームをクリアして見せた事で、私の疑問はなお増えることになった。
即ち、彼女が何者か──である。
最後のレーザーを避けた反射神経。あの距離だと、
今のを見て、私は確信した。
彼女は強い。
このゲーム自体は初心者なのかもしれないが、他のゲームで戦闘経験をしっかり積んできているのだ、と。
もしかしたら、幸人は彼女を今回のBoBにエントリーさせるのかもしれない。⋯⋯いや、きっとそうするために私と同じタイミングではエントリーをしなかったのだろう。
「⋯⋯」
だが、それでも。
私よりあの子を優先する理由は何なのかを知りたい。
私はその一心で、幸人たちへの尾行を続けた。
⋯⋯別に、嫉妬している訳では無い。ただ、敵になる可能性がある彼女の情報を、なるべく手に入れておきたいだけだ。
この後、仲良さそうに話す2人を見て、自分でも理由が分からないまま心の中がもやもやしてしまうことになるのだが。