俺とシノンのお隣さんライフ   作:ラビ@その他大勢

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早めの投稿
原作あるとすんなり進めれますな


原作
クーとキリト


第3回BoB予選、当日。

 

いよいよ原作が開始するという事への期待と緊張をないまぜにしながら、俺はシノンと2人でぶらぶらとGGOの街を歩いていた。

今は午前11時。キリトのアバターがコンバートしてくるのが大体午後1時だから、あと2時間までにシノンには大会のエントリーをしてもらわねばなるまい。

 

詩乃の部屋のセキュリティを強化した今、目下一番の問題は『主人公であるキリトが、原作通りシノンを落としてしまう』可能性だ。その可能性をほぼ限りなくゼロに近づけるためには、シノンとキリトのファーストコンタクトを総督府にする必要がある。何ならシノンには、キリトはあくまで有象無象の敵の一人、として認識してもらっても構わない。むしろその方が俺としては嬉しい。

ハーレム、ダメ、絶対。

そうなると、一番安全なのがシノンには午後1時に総督府でエントリーしてもらう、という作戦である。しかし、それではキリトがシノンに案内してもらうことが無く、BoBにエントリーすることが出来なくなる可能性がある。だから、原作の装備を知る俺がキリトをスムーズに案内し、午後3時前には二人揃って悠々エントリーする⋯⋯と、そういう予定だ。

その作戦を成功させるため、俺は時計を逐一確認しながら、シノンを上手いこと総督府へと近付けられるように誘導して行った。

 

 

「なぁ、シノン! あっちの店に行かないか!?」

「え? わ、分かったわ」

 

 

「なぁシノン! あの店行こうぜ!」

「え、ええ⋯⋯」

 

 

「なぁシノン! 先に大会エントリー済ませといてくれないか!?」

「はぁ? ま、まぁ、別にいいけど⋯⋯」

 

 

こんな風に。

はいそこ、不自然すぎるとか言わない。俺としても必死なんだから。

当然、詩乃も納得の行っていない表情だったが、特に反論する理由もなかったのか、俺の予定通りにエントリーを済ませてくれた。端末の操作を終えたシノンが、こちらを振り向く。

 

「ゆき⋯⋯クーはまだエントリーしないの?」

「俺はまだかな。ちょっとやっておきたいこともあるし」

 

俺の返答に、シノンが首を傾げる。

 

「何か用事? 何なら私も付き合うわよ」

「いや、いいよ。俺個人の野暮用だからさ」

「⋯⋯そう」

 

俺が首を振ると、シノンは数秒何かを考える素振りを見せた後、小さく頷いた。そして、俺を気にするかのように、チラチラとこちらの様子を窺う。

しかし、時間が押している俺はそんな事に気付かず。

 

「じゃあ、俺は用事あるから!」

 

手を振って、シノンと急ぎ分かれた。

 

「⋯⋯怪しい」

 

一人残ったシノンの呟きは、風に消えて俺の耳には届かなかった。

 

 

***

 

 

あらかじめ調査をしていおいたため、原作でシノンとキリトが初めて出会う場所の見当は既に付けている。映像化作品万々歳である。寧ろ、俺としては何故あの時間帯にシノンがここを歩いていたのかの方が気になった。

何か用事があった訳では無いだろうし、恐らくこの辺りをぶらぶらしていただけだろう、とは思うのだが。

 

俺は少し暇そうな雰囲気を漂わせながら、シノンとキリトが初めて出会った場所をのんびりと歩いていた。

よくよく考えてみると、これって聖地巡礼じゃなかろうか。いや、実際にここが舞台になる事を考えれば、ただの聖地巡礼よりもレベルが高い気がする。例えるならそう、ドラマのセットを使って俳優さんたちと同じドラマを演じているような⋯⋯ってこれ聖地巡礼じゃなくて普通に出演者じゃないか⋯⋯?

 

そんな風に考えて、少しテンションが上がり始めたその時、背後から声が掛けられた。少しハスキーな、しかし普通に女性アバターの声として通用しそうな──そんな声。

 

「あのー、すいません、ちょっと道を⋯⋯」

 

取り敢えず、話し掛けてもらう、という第一難関はクリア出来たようだ。

なるべく相手に不安、不信感を与えないよう、にこやかにも、苛立たしげにも見えない普通の表情を意識しながら振り返る。ここでキリト側に、声を掛ける相手を変えられたら余りにも虚しい。

原作でのシノンのセリフをほぼ完全にトレースし、同じように振る舞う。

 

「⋯⋯こ、このゲームは初めて? どこ行くの?」

 

失敗。

微妙に声裏返った気がするし微妙にどもった。これじゃあ完全に女性プレイヤーに声を掛けられた童貞の反応だ。傍から見たら変わんないか。俺としてはある意味尊敬の対象であるキリトから声を掛けられて緊張してるってのも有るんだが⋯⋯それが本人に伝わろうはずもない。

俺に声を掛けた本人──原作主人公のキリトは、そんな俺を見て苦笑いを浮かべた。早くも声を掛ける相手を間違えたと後悔してるのかもしれない。

 

それにしても、原作通り確かにそのアバターは一見美少女だった。いや、元からの知識が無ければ何度見ても美少女だ。

 

背は低く、とても華奢。腰まで伸びた髪は艶やかな光沢を放っている気がする。思わず見蕩れてしまうほどに綺麗だが⋯⋯コイツは男なんだ。

⋯⋯コイツ本当に男なんだよな?

 

「あー、えっと⋯⋯」

 

俺がそんな疑問に内心で悩まされていると、キリトは少し逡巡した末、再びその小さな唇を開く。

 

「はい、初めてなんです。どこか安い武器屋さんと、あと総督府っていう所に行きたいんですが⋯⋯」

「安い武器屋と、総督府⋯⋯ね。ふぅん、もしかしてBoBにでも出るつもり?」

「え、えぇ⋯⋯まあ」

「ほほー。コンバートしたてなのに中々チャレンジャーだね⋯⋯。じゃあ、強い装備は必須なわけだ」

 

俺はそう言いながら、自らのネームカードを取り出した。最初のコンタクトで、ここを取り入れることは絶対に必要だ。キリト本人に変な勘違いをされなくて済む。

キリトも慌ててネームカードを実体化させ、俺へと渡す。お互いにそれに目を通しあった後、

 

「俺はクー。よろしくキリト」

「お、おう。こちらこそよろしく」

 

手を差し出して握手を交わすと、俺は武器屋へとその足を向けた。

 

 

 

そして、そんな2人を物陰から見つめる影が一つ──

 

「⋯⋯誰よあの女プレイヤー」


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