俺とシノンのお隣さんライフ   作:ラビ@その他大勢

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幸人と第二回BoB Ⅱ

まさに“忍者”。

闇風と戦闘してみて、感じたことはそれだった。

 

圧倒的プレイヤースキルによる状況観察力での居場所探知。AGI型のトッププレイヤーに相応しい熟練した立ち回り。そして、STRが低いくせに素早さが異常だから森のなかでの3次元ブーストも可能。はっきり言って、コイツも相当なチートだと思う。この人に勝ったゼクシードって一体何なんだってレベル。

 

木々が邪魔になり、AGI型のメリットが薄くなるだろうと考えて森林の奥深くに戦場を移したと言うのに、これではまるで逆効果だ。まあ、だからといって、素直にはいそうですかと負けるわけにも行かない。

個人的には闇風にこの大会を優勝してもらい、シュピーゲルにAGI型でもまだ行けると言うことを再確認して欲しかったのだが、それも今回この勝負が起こった時点で夢幻に消えた。

俺が勝てばその時点で闇風が敗退。AGI型のトップがそんなに早く負けるとなると流石に新川の死銃化は免れ得ないだろうし、かといって逆も然りだ。俺が負ければ、恐らく原作通りに進んでしまい、闇風はゼクシードに敗北する。つまり、この戦闘が始まったという時点で、示す結果は1つしかなくなっているのだ。

 

「詰んでんじゃねえかよ……っ!」

 

新川の死銃化は、ほぼ確実に免れ得ない。

運命、というものを信じるわけではない。だが俺は今、それに嘲笑われているような気がしていた。

 

お前ごときがどれだけ足掻こうが、無駄なのだ。

お前ごときが何をしたところで、原作に大した差は出ないのだ、と。

 

歯を食い縛り、俺を嗤うその声を振り切ろうとするように両手に握ったガバメント2丁を闇風へ向けて乱射する。だが、移動中の闇風にそんなものがそうそう当たるわけがない。お返しと言わんばかりのフルオート射撃を樹の陰に隠れて避け、空になった弾倉を即座に入れ換える。

 

逃げは許されない。隙を見せた瞬間に、殺される。

 

全力で地面を蹴り、大きく上に跳んで樹の枝に掴まると、俺が樹の幹から左右どちらかに出てくることを見越してM900Aを構えている闇風さんへと照準を合わせ――撃つ。

だが、不意はつけても人間が移動すればそれだけで音は立つ。出来るだけ小さくしようとしていた、俺が樹に掴まるその微かな音は、闇風さんにしっかりと届いていたらしい。身を翻して避けられ、再び俺の視界を弾道予測線が真っ赤に染めた。

 

「まずっ」

 

慌てて地面に降りたものの、避けきれなかった数発の弾丸が肩や顔を掠め、俺のHPを削る。

 

――こんなことなら、ショットガンでも持ってくるんだった。

 

ハンドガン2丁とアサルトライフル1丁だけで勝てる相手ではない。それに気付き、深く溜め息を吐く。

万全を期してBoBに望んだはずが、蓋を開けてみれば準備不足に否が応でも気付かされる。ただひたすらにゼクシードを倒すことだけを考え、周りのプレイヤーを脇役扱いしていたことを漸く自覚した。第一回BoBに参加していなかったため、BoB本戦についての意識が足りなかった、という部分も有るには有るが、どちらにせよ俺の考えが浅慮だったということだろう。

 

だが、泣き言を言っていても何も始まらない。

 

俺は改めてガバメントをしっかりと握ると、闇風へと突撃した。

 

 

* * *

 

 

追う者と追われる者との戦闘は、驚くほどスムーズに終了した。

薄塩たらこは愛用のアサルトライフルを巧みに使い、相手に反撃の余地も残さないまま一方的に倒してしまったのだ。手練れ揃いのBoB本戦には珍しい、本当のワンサイドゲームだった。

 

GGO最強のスコードロンを率いているのは、流石に伊達では無いということだろう。……だが、さしもの彼と言えど、弾道予測線無しの狙撃を避けられる筈は無い。

引き金に指を当て、着弾予測円の中心にたらこの姿を捉える。そして、彼の無防備な背中へと――

 

 

 

引き金を引く直前、突然近くで爆音が鳴った。

 

 

 

後から聞いた話だと、プラズマグレネードを腰に着けていたプレイヤーが、遠距離からの狙撃によって誘爆させられ、倒された際の音だったそうだ。

 

私は想定もしていなかった突然の轟音に驚いてしまい、その際に銃口がほんの数ミリずれた。

そこから放たれた、『たらこを貫くはずだった銃弾』は、轟音に反応して身動ぎした彼のすぐ真横を通っていった。

 

しまった!

 

内心で小さく呟くが、外れてしまったものはもう戻らない。居場所は恐らくバレただろうし、今自分が居るところの入り口はたった1つだけ。逃げることは不可能。

 

唯一の希望としては彼が先程の轟音に気を取られて私の場所に気が付かなかったという事だが――

 

そう甘い筈もない。案の定、たらこは私に気付き、その愛銃を油断なく構えた所だった。


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