あれから、遠藤さん達は荷物を取りに来た。
そしてそのまま、一言も交わすことなく、彼女達との縁は切れた。
2ヶ月余り経った今でもふと考えてしまう。
何故私はあんな人たちと一緒に居たのだろう――と。
「……ふぅ」
頭を過った雑念を溜め息と共に絞りだし、私は伏射姿勢のままスコープを覗いた。
私がするべきことは狙撃を成功させることだ。今はそれ以外の事を考えている余裕はない――
数日前に敵モンスターからドロップした、新しい相棒であるフランス製の狙撃銃『FR F2』の感触を確かめるように軽く手で撫でながら、引き金に指を当てる。出てきた着弾予測円を750m先の標的の心臓に合わせ、それが最小にまで縮むタイミングを狙い――
引く。
当たった。その確信があった。
標的のアバターが爆散したのを確認する前に、私は即座に2度目の狙撃をしようと弾を込める。ボルトアクションの銃は、前に使っていたセミオートのドラグノフと比べるとどうしても連射性に劣るのが難点だ。
弾を込め終わると同時に再びスコープを覗き込み、照準を合わせた途端、間髪置かずに2発目を放つ。
今度は外した……いや、避けられた。流石に相手もベテランだ。弾を込めるという馴れない動作に時間を掛けすぎたか。
即座に失敗の理由を省みつつも小さく舌打ちを漏らし、私は通信用のインカムに向かって呟く。
「第一目標、成功。第二目標、失敗」
『了解。シュピーゲル、行くぞ』
『ラジャー』
微妙なノイズが混じった青年二人の応答の後、私は耳のインカムから微かに聞こえてくる銃声から、近接での銃撃戦が始まったのを知った。
私がGGOを始めてから、5回目のスコードロン戦。
私とクー、そしてシュピーゲルの3人で結成された《SQS》は、GGOを代表すると言っても過言ではない1つのスコードロン《メメント・モリ》に対し、奇襲を仕掛けていた。
私たちの作戦は実に簡単だ。指揮系統を混乱させるために、まず私がリーダー格らしきアバターを狙撃し、余裕があれば2人目も狙う。2発目を撃った後は成功失敗の如何に関わらず、60秒間は予め決めておいた場所に隠れ、次の狙撃の機会を窺う。その間にクーとシュピーゲルで近接戦闘を始めると言ったところである。
今回も全く同じ作戦で、今のところ上手く事が運んでいる。……と言っても、ここからが一番難関で――
『ちょ、まずいまずい! マシンガンは流石に避けれないって!』
情けないクーの悲鳴がすぐにインカムから届いてきた。シュピーゲルも軽く自嘲気味に笑いながら
『4対2は流石に辛いね!』
そんな泣き言を漏らす。
そう、一人を狙撃で減らしたとしても、基本的に相手の方が人数が多く、私が援護できる60秒間が過ぎるまでは二人に掛かる負担が異常に大きくなるのだ。
二人のHPが、私の視界の中でジリジリと削られていくのが見えた。
銃紹介
《FR-F2》
装弾数 10発
重量 5100g
弾薬 7.62x51mm NATO弾
射程 800m
シノンがヘカートを入手する前に使っていたという軍用狙撃銃(アニメオリジナル)。この話の本文中にもあるようにフランス製の狙撃銃で、ヘカートⅡもフランス製であることを鑑みると、倒す武器に寄って落ちる対物狙撃銃も変わるらしい。