俺とシノンのお隣さんライフ   作:ラビ@その他大勢

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詩乃とのゲーム

引っ越しの挨拶に行ったその日の夜に、詩乃の祖父母がこちらへと挨拶に来た。――いや、まあそんなことはどうでもよくて。

 

その翌日、俺は再び朝田家のインターホンを鳴らしていた。――勿論、詩乃と親睦を深めるのと、引っ越してきたばかりのため一緒に遊ぶ相手が居ないからだ。インターホンから聞こえたのは、昨日も聞いた幼いながらも透き通った声。……詩乃だ。

 

「どちら様ですか?」

「あの――幸人です。今、遊べるかな?」

 

すると、少しの空白があり。詩乃は訝しげにこちらへと訊ねてきた。

 

「何でよ」

「折角家が隣なんだし、詩乃しか知ってる子いなくて」

 

すると、詩乃が暫く躊躇うような気配がして。彼女が漸くなにかを言おうと息を吸ったとき、後ろから少し嗄れた老人の声が聞こえた。――詩乃のお爺さんだ。

 

「おお、お友達か。折角だし、入ってもらいなさい」

 

もしかしたら、自分の孫に友達がいないことを彼なりに気にしていたのかもしれない。彼の言葉に詩乃は固まってしまったが、結局、お爺さんの言葉に逆らえなかったのだろう。インターホンが切れる音がしてすぐに、朝田宅のドアが開く。

 

「入って」

 

年齢のわりにかなり無愛想だな……と苦笑しながら、俺は頷いた。靴をしっかり揃え、玄関に上がる。無言でずんずんと進んでいく詩乃の背中を俺は慌てて追い掛けた。

 

詩乃の個室は――何というか、実に詩乃らしい部屋だと思った。小学生の女の子っぽく可愛いものが飾り付けられていない、必要最低限の実用品が並べられているだけの殺風景な部屋。唯一目立つのは、沢山の本が並べてある大きめの本棚くらいか。

 

「で、何」

 

詩乃がこちらをしっかりと見詰めてくる。

 

「遊ぼう……ってことなんだけど……」

 

俺が苦笑いを浮かべながら肩を竦めると、背負ってきていたリュックから『それ』を二つ取り出した。『それ』――旧式の持ち運び用のゲーム機だ。カセットには、当時人気だったレーシングゲームをセットしてある。

それを一目見て懐かしさから誕生日プレゼントとして買って貰ったのは一昨年の6月。あの時、『通信できた方が面白いだろう』と言って二つ目を買っていた親父が、後で母さんに、無駄遣いをするな!と怒られていたのは未だに記憶に残っている。

 

そのゲーム機を手に取って、詩乃はふーん、と呟いた。興味がなかったかな、と俺が聞こうか迷っていると、詩乃は片方のゲーム機を手に取り、こちらを見詰める。ふ、と詩乃の表情が和らいだ。

 

「……じゃあ、プレイ方法教えてくれる?」

「……勿論!」

 

俺は、前世も含めて人生最大の笑顔を浮かべたのだった。

 

因みに、このレースゲームの結果は。

初めの方こそ慣れていた俺が勝っていたものの、詩乃もなかなかのセンスを見せて。途中からは完全に同レベルくらいになっていた。

ぐぬぬ……流石は半年でGGOのトッププレイヤーになるだけはある。習得速度が半端ない……。

 

俺が、詩乃がレースゲーム中に不意に見せる心からの楽しそうな笑みを見て、改めて彼女に惚れ直したのは、また別の話。

 

 

 

*******

 

お隣さん――幸人が私の隣の家に引っ越してから、数ヶ月経った。彼は学校でも実生活でも変わらず、私――朝田 詩乃に話し掛けてきている。

 

何故だろう。彼の明るめな性格や雰囲気からして、私みたいな無愛想なやつと話す意味など何もないだろうに。私と話すくらいなら他の明るい人達のグループに混じって遊ぶ方が楽しいだろうに。

 

嫌な方向へ思考が向いていることを自覚しながら、私は家を出るべくランドセルを背負った。ずしりと重いランドセルの中には、教科書以外にも読みかけの小説や予備用の小説を入れてある。長く読めるように少し厚い本を選んであるので、他の人よりも私のランドセルは膨らんでいる。

 

「じゃあ、行ってきます」

 

返事を待たずにドアを開けると、今日も幸人はいた。六月の風に吹かれる雲を見上げ、私の家の前にある電柱にもたれ掛かっている。ドアが開いた音に反応して、ピクリと肩を震わせると、首だけを回してこちらを向く。そして、私を見つけるといつものように微笑んだ。

 

「……行こうか」

 

私は、何も言わずにふいっと顔を逸らすと歩き始めた。幸人も、無言で隣に並ぶ。特に何を話すでもない、ただの登校。

――だが、不思議と私は、こういう穏やかさにありがたみを感じていた。




ああー…GGOが遠い…

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