俺とシノンのお隣さんライフ   作:ラビ@その他大勢

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お待たせしました。

※途中から新川くんはログアウトしてます。真面目な会話の空気を読んで何処かへ引っ込んだとでも解釈しておいてください。


詩乃とGGO Ⅱ

しまった。

 

今日、この図書館に来てからこの言葉が頭に浮かんだのは実に三回目。

 

言うまでもなく一回目は、詩乃と接触をさせる予定の無かった新川が、詩乃と一緒に居た俺に話し掛けてきてしまったこと。取り敢えず新川空気読め。

二回目は新川が唐突に何の脈絡もなくGGOの話を始めてしまったこと。……つまり、詩乃がGGOを始めた際に、新川……いや、シュピーゲルとの接触が不可避となってしまったことだ。うん、新川空気読め。

三回目が、現在。先程まで『世界銃器名鑑』なる本を読んでいたため、新川が放った『M1911』というハンドガンの名前に詩乃が反応してしまったこと。やはり新川貴様か。

 

「何で、銃の名前を幸人が……?」

 

俺が答えあぐねているのを見て、少し辛そうに表情を歪めながら詩乃が再び問い掛けてくる。ここまで来たら誤魔化すことは出来ないだろう。そう考え、俺は仕方なく説明を始めた。何を言うべきか思案しながら、一つ一つ話していく。

 

「VRMMO……ってジャンルは詩乃も知ってるよな?」

 

やはり、SAO事件がニュースなどで大々的に報道されていたのもあって、それくらいは知っているらしい。詩乃が無言のままコクンと頷くのを見て、続ける。

 

「それの所謂FPS……を最近やり始めたんだよ」

 

チラリとだけ新川を一瞥すると、彼は突然真面目な空気になってしまった俺と詩乃の間へと視線を右往左往させていた。詩乃も新川へと一度だけ視線を向け、すぐに俺へと向き直る。

 

「じゃあ……幸人はこの人とそれをやっているって事なのね。……それは分かった、けど」

 

そこで一度言葉を区切り深く息を吸うと、先程までとは違う、揺るぎのない瞳で詩乃は俺を真っ直ぐに見つめた。

 

「幸人は、何で、それを始めたの?」

 

俺は、その言葉に

 

「何で、なんだろうなぁ……」

 

虚空を仰ぎながら、そう答えることしかできなかった。俺の返答がふざけていると感じたのだろう、怒った様子で何か言葉を口に出そうとした詩乃を手で制し、後の言葉を続ける。

 

「始めた当初は詩乃のリハビリになるか、とか色々理由考えてたんだけどさ。……今思うとそれは違うかなーって」

「……どういうこと?」

 

その形の良い眉を寄せて、煮え切らない様子の少女へと俺は笑いかけた。『まぁ』と前置きした後、彼女には――いや、俺以外の人間には伝わらないような言葉を放つ。

 

「強いて言うなら……詩乃と、同じ景色を見たかったんだよ」

 

これは、俺の本当の気持ちだ。詩乃と同じ景色を見たいし、ずっと隣に居たい。まだ、そこまで言葉に出すのは恥ずかしすぎるので出来ないけれど。この言葉は、俺の紛れもない本心だった。

 

とは言え、今この時点で詩乃はまだ『シノン』ではない。そのため、GGOを始めた理由が彼女には伝わるわけも無いだろうと思っていたし、実際にそうなると予期していたのだが……。

 

現実は少し違った。

彼女は俺の言葉を聞いて、目を見張ると……しかし、不意に優しく微笑んだのだ。その唇が、言葉を紡ぐ。

 

「言葉の意味はよく分かんないけど、何となく、分かったわ。――ねぇ、幸人。……そのゲームって、いくらくらいで始められるの?」

 

 

*******

 

図書館へと行って詩乃がGGOを始めることとなった次の日の午前中に、俺と詩乃はアミュスフィアとGGOを買いに行った。まぁ、あくまで俺は付き添いと言うだけだが。因みに、俺と詩乃は余りお金を使うタイプではない。本が読みたかったら図書館へと行くし、二人でやっているゲームだって殆どが使い回しだ。

そのため資金もある程度はあり、その買い物は使用可能上限額ギリギリの所で留まった。

 

アミュスフィアを買った後、早速ということで俺と詩乃はGGO内で待ち合わせをした。勿論、詩乃はGGOが初めてであるため、まだ比較的勝手が分かる俺が色々と教えることになったのは言うまでもない。因みに、場所は当然ながらゲームの開始位置であるグロッケン広場。

 

 

 

 

「さて、と。シノンは――まだ来てないな」

 

待ち合わせ時刻の20分前。グロッケン広場へとやってきた俺は、取り敢えず一度広場を見回した。だが、前世の時にアニメやイラストで見たような水色の髪は見当たらなかったので、一応彼女よりは早くログイン出来たらしい。

……と言っても、早く来たところで余りすることは無い。自分としては丁度良いタイミングで詩乃もログインする、というのが一番であったが、まぁ仕方ない。

――時間を潰すために、何とはなしにウインドウを広げて、自分のストレージを表示する。

残りの弾薬の数などを確認しながら、そう言えば、と昨日の新川の言葉を思い出す。

 

「……M1911じゃ射程がどうとか言ってたな。今度適当な狙撃銃でも見繕って貰うかな……」

 

最近は自分でも裏路地にあるような店を見て回るようになり、色々と知り合いも出来た。出来た知り合いの割合と言えば、一人の例外を除くと全てゴツいオッサン達だが……まぁそれはゲームの性格上仕方あるまい。

 

――と、そんなことをしている間にウインドウの右上にあるデジタル時計は待ち合わせ時刻の5分前を指していた。ウインドウを消し、先程したように辺りをぐるっと見回す。……そして、見慣れたような、しかし初めて見る特徴的な明るい水色の髪を見つけた。

こちらには背を向けており、不安そうにキョロキョロと辺りを見回す様子は何処か可愛らしく、このままずっと見ていたい衝動にかられた。だが、それを何とか抑え、ポン、と少女の肩を叩く。

彼女は心底驚いたようにびくりと身を竦ませると、恐る恐るこちらへと振り向いた。彼女の過剰な驚き方に疑問を覚え、問い掛ける。

 

「――あれ? 詩乃……シノン、で合ってるよな?」

 

果たして。何処か獰猛な猫を思わせるアバターの外見を持つ少女は、俺の顔と服装を見て、安心したように深く息を吐いた。……何かを堪えるようにその吐息が小さく震えていたのは気のせいだったのだろうか。

 

「ええ、合ってるわよ。幸人――じゃなくてこの世界ではクー……だったかしら?」

 

先程の違和感を取り敢えず端に置き、彼女の言葉に、俺は満足げに頷いた。


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