「受けるわけ無いじゃん馬鹿なの?」
今ここでデュエルを受けるメリットがほとんど無い。あるとすればオレンジにならずに済む事だけだし。
「な!な!何してくれちゃってんですかぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?」
うるさいなぁまったく、あんな挑発に乗るとでも思ったんだろうか。
「そこは受けるとこでしょうよ!何拒否ってくれちゃってんですか!」
彼は馬鹿なのかな?否馬鹿だ。
「君馬鹿でしょ、アイテム欲しくてPKしようとしてんのにオレンジなりたくないとか甘過ぎでしょ」
本当に甘過ぎる。いつか千葉で飲んだマックスコーヒーよりも甘い。
「馬鹿?俺が馬鹿だって?」
「馬鹿だよ。本当に奪いたいなら隠蔽スキルが発動している間、もしくは現れた直後に僕を襲うべきだった」
ほんと、コイツを見つけたのはほとんど勘だったしね。
「何言ってんのかさっぱりなんですけど?」
「ところでさそ“yuji”ってプレイヤー名ってベータと一緒?」
「そうですけどそれがなんだってんです?」
「いやね、懐かしいプレイヤー名だと思ってさ」
多分一緒だと思うんだよねぇ…それとアイツはどうしてるかな…僕がいなくなってむしろ喜んでると思うけど。
「もしかしてベータで会いました?あなたとは初対面だと思うんですけど」
ウインドウを開き操作する。
「多分ね、顔が分かんないから確信は持てないけど」
こうゆうやつって大概自己中で言っても聞かないやつばっかりなんだよなぁ。
「どこであったかは知りませんがこれから死ぬあなたには関係ないんですけどね」
そう言ってレンジはダガーを構える。
「最後に遺しておく言葉とかってあります?」
「それじゃあ最後に1つだけ
馬鹿は死んでも治らない」
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「お兄ちゃんありがとう」
無事にクエストを終えアニールブレードをゲットした。
「お兄ちゃん・・・か」
リアルで妹は元気にしてるだろうか。血の繋がらない義妹ではあるがそれでも妹だ。祖父の期待を自分の分も背負わせてしまった負い目もあり、ろくに会話も出来なかった。こんな事になるんだったらちゃんと会話しておてけばよかったと後悔している。
「・・・それにしてもジャックのやつ遅いな」
まだ休んでいるんだろうか。確かにさっきの戦闘での疲労はかなりのものだろう。
「迎えにいくか」
相棒を迎えに行くべく森へと歩き出した。
ジャックは不思議な奴だった。ベータをプレイする時すぐにソロを選択した俺だったが2層の迷宮区でトレインを食らってしまった。1層のボス戦で俺がラストアタックボーナスをゲットした腹いせだったらしい。レッドゾーンまでHPを削られて終わりかなと諦めかけたときに助けてくれたのがジャック(あの頃はアキか)だった。
「あ、あ、あり・・・」
コミ障の俺はうまく礼が言えなくて口ごもっていた。
「大丈夫?間に合ってよかった」
そんな俺にアキは優しく手を差し伸べてくれたくれた。
アキが迷宮区に入ろうとした時に俺にトレインした連中とすれ違ったらしい。その連中が俺にトレインした話をしていたのが聞こえて駆け付けてくれたんだとか。私利私欲の塊であるゲーマーとは思えない行動に最初は疑いかかってしまった。それからしばらくアキと行動した。そして分かった。アキはものすごくお人好しなのだと。困ってる人がいたら助ける、利益や効率を考える前に体が動いてしまうのだと。俺はそんなアキに憧れた。アキみたいになりたいと思った。だから本サービス開始日にアキと会えて嬉しかった。デスゲームが始まった時に付いて来てくれて嬉しかった。リトルペネントに囲まれた時助けてくれて嬉しかった。
索敵スキルを使ってジャックを探していると1人のプレイヤーと一緒にいた。この人も森の秘薬クエストを受けたのかな。
「でもこの動きは何なんだ?」
モンスターはいないのに2人は離れたり接近したりを繰り返していた。
「・・・デュエルでもやってるのか?」
木々の間を抜け目にしたのは
「やっぱ…つえぇなぁ」
パリィィィィィン!!
ジャックがプレイヤーを殺していた。
「ジャ・・・ック、どう・・・して」
「ごめんキリトここでお別れだ」
そう言い残して隠蔽スキルを発動し、俺の前から消えた。
パリィィィィィン!
「ふぅ」
第1層迷宮区に出現するレベル6亜人型モンスター《ルインコボルド・トルーパー》を難無く倒す。現在俺のレベルは17、恐らく全プレイヤー中
デスゲームが始まってから1ヶ月の月日が流れた。アインクラッドは第1層すら攻略されていなかった。もう第1層ではレベルも上がりにくい。そろそろ攻略したいなぁ。
「そろそろ帰るか・・・」
ホルンカの森以来ジャックとは1度も会っていない。フレンド登録も消されてしまい追跡は困難だった。
迷宮区を出てすぐの丘の木の下に1人のプレイヤーが倒れていた。紅いフード付きマントを装備しており顔までは分からないが線が細く女性のようだ。しかし妙だ。ここの丘は別に安全地帯な訳では無いのにも関わらず彼女のHPは1ドットも減っていない。と思った矢先、彼女の周辺に《ダイアー・ウルフ》3体ポップした。3体は彼女を見つけると一斉に飛びかかった。まずいこの距離じゃ間に合わない!しかしその考えは杞憂に終わった。《ダイアー・ウルフ》の爪と牙が彼女を切り裂いたと思った瞬間、3体の《ダイアー・ウルフ》はポリゴン体となった。
俺は何もしていないし、彼女が動いたわけでも無かった。ポリゴンが四散する中即座に索敵スキルを発動した。あんな事を出来るのは、
「ちょ!待ってくれ!」
遠ざかる背に声を掛けるも返事は無く、姿が見えなくなり俺の索敵スキルから反応が消えた。