バカは死ななきゃ治らない   作:しろねこパンチ

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episode2

「ここは・・・始まりの街の大広場」

 

光が止むと始まりの街に転移していた。辺りを見渡すと他のプレイヤーも転移してきているようだ。

 

「お!いたいた、ジャックゥ!」

 

声のする方を向くとクラインとキリトがこっちへ向かってきた。

 

「一体なんだってんだ」

「イベントか何か・・・あれ?」

 

空を見上げると紅く染まり《WARNING》という文字で埋め尽くされていた。そしてその隙間から血のような赤い液体のような物が漏れ出し一点に集まっていく。

 

「なんだありゃあ?」

 

一点に集まった液体は徐々に形を変化させローブを来た巨大なアバターとなった。フードの中には顔は無く真っ暗である。しばらく空中に漂ったかと思えば、アナウンスのように響かせながら語り出した。

 

「プレイヤー諸君、ようこそ私の世界へ」

 

先程までざわついていたプレイヤーたちは打って変わって静まり返っている。

 

「私の名前は茅場晶彦。この世界を唯一コントロールできる人間だ」

 

茅場晶彦、SAOの開発責任者であり、ニュースなどでも取り上げられていたので知らない人はいないだろう。

 

「プレイヤー諸君は既にログアウトボタンが消失していることに気付いているだろう。しかしこれはゲームの不具合などではない。ソードアート・オンラインの正式な仕様である、繰り返す、これは正式な仕様である。諸君は自発的にログアウトすることが出来ない」

 

仕様・・・つまり初めからこうするつもりだったという訳か。

 

「また、外部からのナーヴギアの機能停止、または解除による強制ログアウトもありえない。もしそれが試みられた場合、ナーヴギアの信号素子が発する高出力マイクロウェーブが諸君らの脳を破壊し、生命活動を停止させる」

 

機能停止ってか死ぬってこと?はは・・・シャレなんないな。

 

「しかし残念なことに情報を流しているにも関わらず解除を試みて既にこの世界と現実世界から216名のプレイヤーが退場している」

 

そう言って右手を振ると巨大なウインドウが出現した。ウインドウにはナーヴギアによって脳を焼き切られ死亡者が出ているというニュースが映し出されていた。

 

「様々なメディアが繰り返しこの事実を報道したことを鑑み、これ以上ナーヴギアの強制解除による被害者が出る可能性は低くなった。諸君らは安心してゲーム攻略に専念してほしい」

 

「この世界から脱出する方法はただ1つ、第一層から第百層までの全ての迷宮を突破し階層主を撃破しこのゲームをクリアする事だけだ」

 

隣にいたクラインが思わず叫んだ。

 

「第百層だと!ふざけんな!ベータじゃ大して上がれなかったんだろ!」

 

クラインの言っていることは事実で、1000人のβテスターが二ヶ月で登れたのは第九層まで。単純に考えてその10倍はかかるとしたら2年近く掛かることになる。

 

「しかし、充分留意して頂きたいことがある。今後、このゲームにおいていかなる蘇生手段も機能しない。プレイヤーのHPが0になった瞬間、諸君らのアバターは永久に消滅し、同時に――諸君らの脳は、ナーヴギアによって破壊される」

 

その一言に再び広場に静寂が広がる。

 

 

『これはゲームであって遊びではない』

 

 

いつぞやのニュースで、茅場が言っていた言葉だ。茅場は本気でこのデスゲームを僕達にやらせるつもりなのだ。

 

「それでは最後に、この世界が現実なのだと知らせる為に私からプレイヤー諸君に対するささやかなプレゼントだ。各自アイテムストレージを確認してほしい」

 

ウインドウを開き確認するとアイテムが追加されていた。

 

「・・・手鏡?ってうわ!」

 

手鏡をストレージから取り出すと青い光に包まれた。また転移かと思い辺りを見渡すが転移した様子はなかった。

 

「お前クラインか!?」

 

「てことはオメェはキリトか!?」

 

二人を見ると黒髪の少年と髭面の男がいた。

 

「・・・キリトにクライン!?」

 

「お前はジャックか!?」

 

「バカみたいな顔してるな」

 

「酷くない!?でも何で顔が・・・」

 

周囲を見渡すと、先ほどまで存在していた美男美女のアバターが軒並み平凡な顔のアバターへと変化していた。

 

「ナーヴギアは頭をすっぽり覆うような形だから、それによって形を把握してるんだと思う」

 

「じゃあ体は?ナーヴギアじゃ体まで再現出来ないはず!」

 

「あれじゃねぇか?初期設定でキャリ、キャリブレーション?だったかで体を触っただろ」

 

僕たちがそうやって一通り推察して納得すると、再び茅場が語りだした。

 

「諸君らは今、何故、と思っているだろう。何故茅場晶彦はこのようなことをするのか、と」

 

俺はその言葉に神経を集中させた。茅場晶彦のこのテロ行為に目的があるのなら、交渉の余地があるかもしれない。だが続く言葉によって、そんな僕の希望は儚く打ち砕かれた。

 

「しかし、既に私に目的は存在しない。私が焦がれていたのは、この状況、この世界、この瞬間を作り上げること。たった今、私の目的は達成せしめられた」

 

 そう言った茅場は満足そうに辺りを見渡していた。

 

「長くなってしまったが、これでソードアートオンライン正式サービスのチュートリアルを終了とする。プレイヤー諸君、健闘を祈る」

 

言い終えると、茅場の巨大なアバターは耳障りなノイズを立てながら崩れ去り、同時に空を覆っていた紅い表示も一瞬にして消えた。

 

こうして、僕たちのデスゲームは幕を上げたのだった。


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