異世界転生の特典はメガンテでした 作:連鎖爆撃
『あらあら、お兄さんたら、帰ってきたの?やっぱり私の“ぱふぱふ”を……って、その子どうしたの?』
『頼む!医者を!医者を呼んでくれ!』
『わ、わかったから落ち着きなさい!』
『……にがいのは、いやなのだ……』
『でも、これを飲まないと元気になれないぞ?』
『いやなものはいやなのだ!』 プイ
『……ちょっと待ってろ』
『……あ』
『ひとりにしないでほしいのだ……』
バタン
『蜂蜜と山羊の乳をもらってきたぞ!』
『……そんなものどうするのだ?』
『こいつをこうして……ほれ、飲んでみ?』
『……あまくて、おいしいのだ』
『これなら、無理なく薬草もいけるな。はじめからこうしときゃ良かった』
『……ワガママをいってごめんなさい、なのだ』
『ちっ、ちっ、ちっ。違うね。こういう時はまず、お礼を言うもんなんだよ』
『お兄ちゃん……ありがとうなのだ』
『どういたしまして。早く元気になれよ?』
「砕け散れぇぇぇぇ!いや、やっぱいい!俺とポジションを変われぇぇぇぇ!じゃないなら今すぐアクションシーンへ突入しろ!ライトナウ!そして氏ね!お願いだから砕け散れぇぇぇぇ!」
「神様、落ち着いてください!無理ですから、作品世界に介入しようとしないでください!」
「バグとか元々あるから、一つや二つ今更増えたってかまやしねぇよ!俺にあいつをぶっ○ろさせろぉぉぉお!」
「崩壊しますから!神様が暴れちゃうと作品世界が滅びちゃいますからぁぁぁ!」
『でも、あのときのあれ(・・)は、もっとあまかったきがするのだ……』
「進捗は?」
「んー?いい感じだよ―?あと3回も取りに行って貰えれば完成するかな―?」
「また失敗したのか……」
「失敗じゃないよ―?これは駄目ってことがわかっただけだよー?」
その気の抜ける話し方を止めてください、とは言わない。彼女に機嫌を損ねられると、後々、凄く面倒くさいからだ。
ラダトーム城、秘密の地下室。《太陽の石》が保管されていた場所。
原作から10年経ったこの場所には、「賢者の弟子」を自称する変人女科学者が住み着いていた。
……まぁ、彼女のお陰で太陽の石を手に入れられたんだから悪くは言えないんだよな……。
ちなみに、奥では賢者の爺さんが寝ている。ゲームでは役目を果たして休みについたという感じだったが、今爺さんがしているのは不貞寝である。
半分騙すかたちで《太陽の石》を持って行かれたので拗ねているのだ。
これ、「太陽の石を売っちゃいました」とか言ったら、マジギレするよな?絶対ばれないようにしなきゃ……。
そんなよしなしごとを考えていると……。
ポン、と軽い爆発音。
女科学者の手元でフラスコから煙が上がっていた。
「よし、ここでこれをもっかい爆発させて……?」
ウェイウェイ!ゴーグルにヒビ入ってる!そのまま使うのは危険だから!
「えー、でも、もう替えが無いよ―?自分で買いに行くのダルいなー?」
……俺が買ってくるから。
「わかったー、すぐ帰って来てねー?」
◆ ◆ ◆ ◆
沼地で拾った女の子をどうするかについて、俺は悩んでいた。
ぶっちゃけた話、女僧侶さんの虫のいどころが悪いのである。
原因は、間違いなくこの女の子だろう。
早く誤解を解く必要がある。
そのためには、この子を少しでも早く家に返してやる必要がある。
あるんだが……。
女の子 Lv.2 ♀
HP/MP:17/58
現在装備
頭:ボロボロの髪飾り
胴:布の服(買い与えた)の上に旅人のマント
武器:なし
盾:なし
特技:《ホイミ》《トヘロス》
俺が彼女とパーティを組んだ時に見た、女の子のステータス。
おそらく、俺みたいな《魔法使い》ぐらいにしか分類しようがない半端者ではなく生粋の才能の持ち主。
だが、Lv.が低すぎる。どうしてあんな所に居たんだ?
「……覚えていないのだ」
彼女に聞いても帰ってくるのはこの答えだけ。彼女自身のことに関してもそう。
俺はそれ以上の追求を諦め、彼女をリムルダールまで連れて行けばいいんじゃないかと考えた。おそらく彼女は洞窟を抜けてやって来た。なら、リムルダールまで行けば彼女のことについて何かわかるはずである。
しかし、彼女の体力では毒の沼地を抜けられない。無理に《ホイミ》で解決しようとして彼女は倒れていたわけだし……
……《トラマナ》さえあれば……いや、もしかして……
「簡単じゃないね?この時代、この地域では失われているわけで?文書はほとんど失われているし?調べても無駄じゃないかな?」
……そっすか。
期待していただけに、落胆も大きい。
俺は、原作知識をもとに「古い人間なら、古い呪文を知っているんじゃね?」とか考えて地下室に降りていた。
だが、爺いは相変わらず不貞寝していて、代わりに女科学者がこう答えてくれたというわけである。
「待ち給えよ?簡単じゃない、とは言ったけどできないとは言ってないかな?無いなら、新しく作ればいいんじゃないかな?」
…え?そんなコトできんの?
「どんな魔法も誰かが生み出したんだ。やってできないことは無い。そして私は《魔法使い》であり、《化学者》だ。なら、呪文を創りだすのがその本分だよ」
「……まかせてくれないかな?」
◆ ◆ ◆ ◆
結局俺は、女科学者に焚き付けられる形で、繰り返し、毒の沼地に足を運んでいた。
目的は、必ず存在するであろう、《毒消し草》の探索および入手。
俺は、彼女に毒の沼地の様子を話した。
確かに、毒で死んだと思しきモンスターも見たが、ほとんどのモンスターはそうでなく、普通に生活していた。
そして、彼女が導き出した一つの仮定。
「毒の沼地にも敵は湧いてくる?でもオカシくない?人間が毒にやられて、他の生物はやられないなんて?思うに、そこに住んでいるモンスターは特殊な抗体を持っているか……もしくは、定期的に抗体となるものを摂取しているか、じゃないのかな?」
「そうだな、モンスターが食事をしている場面を追えば、そこにきっと、私たちの探しものがあるかもしれないね?」
そして、《聖水》と《薬草》、《魔法の聖水》なんかをがぶ飲みしながら、モンスターウォッチングを続けて。
俺は《毒消し草》と思しきモノを探し当てたのだ。
最初にこれを見つけたのが、ラダトームに女の子を連れ帰ってから7日目のこと。
「うん、これは違うね?」
バッサリと切り捨てられた。
そして、再び、毒の沼地へ。
「これも違うかな?」
そして、再び。
「これも違うね?」
そして……
「あ、これっぽいよ?」
7回目の挑戦、腕いっぱいに抱えた野草の中から、ようやくそれは発見される。
《毒消し草》。
アレフガルドにも存在したのだ。
「じゃあ、早速……?」
女科学者は、それをフラスコに入れ、火にかける。
そして、怪しげな液体を追加して……。
見事に爆発させた。
……えっと?
「……悪いんだけど、もう一回取ってきてくれるかな?この組み合わせじゃダメみたいかな?」
あああああああ!
◆ ◆ ◆ ◆
「《トラマナ》完成したよ―!」
完成した―!
何がどうなってフラスコとにらめっこしてたら呪文が完成するんだ?なんて突っ込む無粋な奴はここにはいない。いいじゃんできたんだから!
「じゃあ、教えるから?覚えてね?」
そして、数時間かけてのレクチャー。
「あざ!行ってくる!」
「もっと、顔を出してくれてもいいよー?」
背中に女科学者の声を聞きながら階段を駆け登る。
今度、なんか菓子でも包んで持ってくるべきだな。
勇者 Lv.25 ♂
HP/MP:97/88
現在装備
頭:なし
胴:布の服の上に鋲のついた皮の鎧
武器:どくばり&鋼のダガー
盾:なし
特技:《ギラ》《メガンテ》《ホイミ》《レミーラ》《リレミト》《疾風突き》
《トラマナ》←New
特典スキル:
ザオラルガード(ザオラル系の呪文への完全耐性、蘇生アイテムも効かない)
メガンテマスター:メガンテを使っても必ず一回瀕死になる。
転生してから9ヶ月と、少し。
これあれば、ロトの鎧いらなくね?と気がつくのに秒読みに入ったところである。
本編で触れられない設定
17.薬草
おなじみの回復アイテム。ホイミを使えるようになる前後ではコイツの世話になることが多い。
アレフガルドでは一般的な治療薬として出回っているが、効果は覿面。切り傷ぐらいなら、噛んでるだけで即治る。物理法則を無視するため、実はマジックアイテム。味はかなり苦いらしい。子供はたいてい嫌がる。
一般人からすればこれが一つあれば大体のことは解決するので、薬草を毎回大量に買い込んでいく勇者は白い目で見られることが多い。
18.ロトの鎧
万能中の万能アイテム。
これ一つで、移動時の体力回復、マホトーンへの耐性、ダメージ床の無効化といった能力を得ることができる。りゅうおうの城ではダメージ床に悩まされることも多いため、りゅうおうの城攻略のための必須アイテムではあるが、根性さえあれば、これが無くともクリアできないわけではない。
今回主人公は、根性ではなくトラマナを手にれたので、根性が無くともりゅうおうの城が攻略できるようになった。
19.アモールの水
初出はⅥ。
水薬状の回復アイテム。甘いらしい。薬草より効果が高く、味もいいため値段が張る。具体的には薬草の15倍程度。
アレフガルドでは貴重なものであり、これを花嫁道具に持たせるほど特別なもの。お値段は……。
「アモール」はラテン語などで「愛」を意味する。