異世界転生の特典はメガンテでした   作:連鎖爆撃

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俺達の冒険はまだ始まったばっかりだ!

今現在、俺は剣術指南のおっさんと相対して剣を構えていた。

剣の修業をつけてもらっている最中である。

 

さっきから何回も切りつけちゃいるのだが、全部紙一重でかわしていくおっさん。

かわす度に、「おらおらどうした!そんなんだから女心も捕まえられないんじゃないのか!」とか煽ってきやがる。

……落ち着け、俺。この煽りは、修行に必要なものなんだ。

 

重要なのは剣速でも、構えでもない。

感情を鎮めること。

と言っても、穏やかな心持ちを意識するのではない。

殺意を“尖らせる”のだ。

 

細く細く。

剣尖が、突きつけられていては目で捉えにくくなるのと同じように。

 

――――――《疾風突き》!

 

技を繰りだそうと意識した瞬間。

頭の片隅でチリッと何かが焼き切れるような音がした、気がする。

今まで何回も失敗してきた時とは違う感覚。

 

灰色に染まる世界。何もかもがスローモーに見える。

つきだした俺の剣が、おっさんの胸に吸い込まれる。

 

 

 

カーン

カラカラカラカラ………

金属のプレートが弾け飛び、石の床を滑って行く音。

 

俺の片手長剣が、おっさんのアーマーの胸装甲部分を吹き飛ばしたのだ。

 

おっさんは、動かなかった。

俺の攻撃をすべて紙一重で見切っていたのに、今の攻撃はかわさなかった。

 

っていうことは……。

 

「…見事だ」

 

おっさんがつぶやきを漏らす。

 

 

 

おっさんとの本格的な訓練を始めてから2週間目にして、俺は初めて物理技を習得したのだった。

 

 

 

だが、おっさんの賞賛の言葉は耳に入ってこなかった。

 

ピロピロピロ―

頭のなかで、あの気の抜けた音が聞こえていたからだ。

 

……やっぱオカシイって。

 

勇者 Lv.25 ♂

HP/MP:97/88

現在装備 

頭:頭用防具

胴:胴用防具

武器:訓練用片手長剣

盾:なし

特技:《ギラ》《メガンテ》《ホイミ》《レミーラ》《リレミト》

 《疾風突き》←New

特典スキル:

ザオラルガード(ザオラル系の呪文への完全耐性、蘇生アイテムも効かない)

メガンテマスター:メガンテを使っても必ず一回瀕死になる。

 

転生してから7ヶ月。

おっさんとの訓練が一番経験値稼ぎになるという事実に俺は戦慄を覚えていた。

 

おっさん、俺と勇者を交代しねぇ?

 

 ◆ ◆  ◆   ◆

 

「……ほぉ、1ヶ月ちょっとでやつの奥義の一つを覚えたのか」

「すごいことなん?」

「バカ言え!たった一つだぞ!それだけで実際にモンスターと戦って勝てんのか!」

 

……あー、たしかにな。

 

武器屋の奥の道場で、俺はおやじに《疾風突き》を披露していた。

それに対してのおやじの言は、バッサリと「役立たず」である。

ひどすぎやしませんかね

まぁ、正論だから言い返せねぇんだけど。

 

「ふん、だがまぁいい。これでやっと剣を売ってやれるからな」

 

おっしゃ、それを待ってたぜ!

 

「待ってろ……」

 

おやじが一旦カウンターに戻って行く。

今度は《はがねのつるぎ》を売ってくれるんだよな?

 

だが、おやじが持ってきたのは俺が予想だにしないものだった。

……なぁにこれぇ?

 

「《どくばり》だ」

 

おやじが持ってきたのは、漆黒のダガー。

 

「《どくばり》?」

 

おやじがフン、と鼻をならす。

 

「おまえさん、《魔法使い》だろうが。《はがねのつるぎ》じゃ腕がもたんぞ」

 

 ◆ ◆  ◆   ◆

 

早朝。まだ、日が登らないうち。

 

俺は門番の兵士に頭を下げて、外に出ていた。

目標LV.に達したので、さっそくリムルダールまで足を伸ばすことに決めたのである。

 

リムルダール。《まほうの鍵》を売っている街。

ぶっちゃけ、ここにさえ着けば初代における謎解きの大半は終わったと考えてもいい。難解なダンジョンをクリアする根気があれば、フラグの見落としはもうほぼありえないレベルである。

 

で、この世界にはちゃんと世界地図が存在するのだ。

 

え、ヌルゲーじゃん。

マイラの街も、リムルダールの街もハッキリとその位置が載っている。

夜中は魔物が凶暴化するとはいえ、《聖水》でエンカウントは大分抑えられるうえ、Lv.も大分上げた。アイテムのストックも申し分ない。

 

準備は万端。よし行くか!

急げば今日の夕暮れにはマイラにつくはずだ。

 

「本当に行くんですね……」

 

……女僧侶さん、なんで居るんすか?

 

「いえ、最後になるかもしれないからと、顔を拝みに来たんですよ」

「「ヒドい!」」

 

悲鳴を上げたところ、誰かとハモる。

門番の兵士が今の会話を聞いていたようだ。

 

餞の言葉がそれって、どうなんすかね?

 

「……そう言うなら、ちゃんと帰ってきてください」

 

それだけ言うと、奥に引っ込んでしまう女僧侶。

眠かったのか、目を手の甲で擦りながら帰っていく。

 

へいへい。ちゃんと帰ってきますよ。

 

考えてみりゃ、まだ《妖精の笛》も《銀の竪琴》も手に入れちゃいない。

《ロトのよろい》も《ロトのつるぎ》もどこにあるかは忘れちまった。

 

まだ、俺は何も成し遂げちゃいないのだ。

こんなところで早々に死ねるか。

 

俺は意を決して、真夜中のフィールドへと駆け出す。

 

俺の探求(クエスト)は、まだ始まったばかりだ。


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