異世界転生の特典はメガンテでした   作:連鎖爆撃

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へんじがない。どうやらただの

「3日もどこほっつき歩いてたんですか?」

「……ゴールドマン狩って、ロトの洞窟ねぐらにしてました……」

 

はぁ、と女僧侶がため息をつく。

 

「心配したんですよ?馬鹿だから身の程もわきまえずにダンジョン内で野垂れ死にしたのかな?とか、勇者をやるのが嫌になって支度金持ち逃げして国外逃亡したのかな?とか」

 

俺ってそんなに信用無いですかね?

 

「修行をつける約束をすっぽかしたくせに何か文句でもあるんですか?」

「すみません、マジ許してください」

 

今現在、俺は女僧侶に正座させられていた。

 

 

 

《聖水》を入手してからというもの、見晴らしが悪くどこから敵が襲ってくるかわからない《林》のフィールドも避けなくていいようになった。むしろ戦闘に入った後も木々を盾に取ることができる分、林での戦闘の方が安全なくらいである。

そんな訳で、ラダトームとガライの街の中間に存在する密林で経験値稼ぎをしつつ、ゴールドマンを見つけては《メガンテ》をぶつけていたのだが、森の中心に開けた場所があり、そこで《ロトの洞窟》を見つけたのだった。

原作知識で敵が出てこないことを思い出し、ここにキャンプを張ってみたところ、聖なる気配みたいなものが漂っていて安心感が半端ない。

 

ちなみに、ラダトームからガライまで俺の足では急いでも半日ほどかかる。リアルになった世界では移動時間という枷があるのだ。

……ここに泊まりこみで経験値稼ぎしたら無茶苦茶効率よくね?

そんな冒険心を起こしてしまっても仕方のない事だろう。

 

そんな訳で《ギラ》でMP消費を抑え、移動時間は《ロトの洞窟》で寝泊まりすることで抑えるという方法でぶっ続けで3日間、経験値稼ぎ・ゴールド稼ぎをしていたのだ。これも小型化され大量に持ち運べるようになった回復アイテムあってこその話である。看板娘さんにマジで感謝。

 

 

 

……そして、テンションを上げていた結果、女僧侶との約束をすっぽかし、こうして正座させられていると、まぁこういうわけである。

 

勇者 Lv.20 ♂

HP/MP:88/68

現在装備 

頭:なし

胴:布の服の上に鋲のついた皮の鎧

武器:ポイズンダガー

盾:なし

特技:《ギラ》《メガンテ》《ホイミ》《レミーラ》

特典スキル:

ザオラルガード(ザオラル系の呪文への完全耐性、蘇生アイテムも効かない)

メガンテマスター:メガンテを使っても必ず一回瀕死になる。

 

転生してから5ヶ月。

Lvは上がれど男としての成長はしていない。

生前もこんな感じだったから彼女の一人もできなかったんだろうかと正座させられながら自省していた。

 

 ◆ ◆  ◆   ◆

 

結局、女僧侶に城下町で食事を一回おごることで、約束をすっぽかしたことについては手打ちということになった。

 

……いや、これは少し罰としては重い気もする。

 

費用の話ではない。財布の中身はゴールドマンのおかげで潤沢だ。

苦手な人物と二人きりで一緒に食事をしなければいけない、ということが問題なのだ。

 

……いや、どう対応しろと?

 

 

だが、この心配は杞憂に終わる。

 

 

 

「ヒック、もう一杯……」

「いや、もうやめておきましょうよ」

「何でもおごるって約束したじゃないでふかー!」

 

こういうのなんて言うんだっけ?えっと、前後不覚?

 

よほど腹に据えかねていたのか、後先考えずに酒を頼んでいく女僧侶。

で、気がついたらこのザマである。

 

「勇者様も飲むんでふよー!」

「いや、俺アルコールだめで……」

「私の酒が飲めないって言うんでふかー!……ヒック」

 

女僧侶さん、まさかのからみ酒である。

……聖職者って日頃から抑圧されてるイメージあるもんな。その反動か?

 

 

 

「うーん……」 スピー …… スピー ……

「うっぷ……」

 

俺が限界手前のところで、やっと女僧侶がダウンする。

こんなことなら絶対に約束をすっぽかさない。二度とすっぽかさないと今決めた。

 

「ぐー……むにゃむにゃ……」 スピー …… スピー ……

 

酒屋の女将さんに会計をしてもらったあと、席に戻って女僧侶の様子を確認する。

 

……これじゃ城に戻るのは無理そうだな。俺も限界だし……

 

既に日は暮れている。今日はここで宿を取るほうが良さそうだ。そう考え、すぐに女将さんに頼んで部屋を2つ取ってもらう。

食事代に比べて、宿の費用はかなり軽い。このくらいはサービスするべきだろう。

そう考えながら、彼女を抱え上げる。部屋まで運ぶためだ。

 

部屋まで運んだあとは、女将さんに世話を頼もう。

そんなことを考えた直後。

 

「……むにゃ……勇者様……」

 

起こしてしまったか?と思ったが違った。女僧侶の目は閉じられたままだった。

 

 

 

そして、眼尻には涙が溜まっていた。

 

 

 

「心配、したんですから……」

 

ツー、と涙が、女僧侶の顔を伝って床に落ちた。

 

「…………」

「むにゃ……」 スピー …… スピー ……

 

……どうやら、ただの寝言のようだ。

 

全く、今日は散々だった。

 

こんなことなら絶対に約束をすっぽかさない。

二度とすっぽかさないと、今決めた。




本編で触れられない設定

11.フィールド
ゲーム内では床に林が書かれていようが、草が書かれていようが、山が書かれていようが変わらずに通ることができるが、この世界ではそれらが実際のものとなっている。
林の中では木々が邪魔して、敵にエンカウントするまでその存在に気が付かなかったり、山は越えるのに時間と体力を使う。そのため、基本的には林も山も避けるのが冒険の基本となる。

12.女僧侶
職業としての初出はドラクエⅢ。
ドラクエ(初代)は大陸から《光の珠》が失われているため、暗黒の時代となっている。
この世界・この時代においては、女性は「子を多く産み、家を守ること」が役目であるとされ、戦いに関係する職業・聖職に女性がつくことにたいしての風当たりは大きい。そのような状況で女僧侶を彼女がやっていけるのは、才能と努力によるものだが、風当たりが完全に消えたわけではなく、彼女の性格がキツイのは自衛のための手段である。

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