異世界転生の特典はメガンテでした 作:連鎖爆撃
ぶっちゃけ、ここから語ることはほとんど蛇足である。
そりゃそうだ。ラスボスは倒れちまったんだから。
階段から足音。
おっさん、おせーぞ。既にいろいろ台無しだわ。
「じゃ、これ貰ってくな」
竜王の棺を肩に担ぎ上げるロトの勇者。良く持てるな。
ってあれ?
貰っていく?
よくわからん鼻歌を歌い、ご機嫌な様子でロトの勇者は《くちぶえ》を吹いた。
バサッ、という音。
頭上から影がさした。
見上げると、そこには巨大な鳥がいた。
それは背中と頭に翼を生やした、死の象徴とも言えるモンスター。
モンスターズシリーズの“キングアズライル”だと………!
もしかして“工房”の最奥で眠ってたやつか!
「いつも送り迎えアリガトねぇ、アズライルち~♪」
ロトの勇者は棺を担いだまま、キングアズライルの背中に跨がり、そのままキングアズライルはどこかに飛んでいってしまった。おそらく、工房へだとは思うんだが。
おっさんたちが遅れて玉座の間に雪崩れ込んできた。
「ボウズ、竜王はどうしちまったんだ……?」
その場の惨状。何故かいない竜王と、ピンピンなままの俺。
事態が飲み込めず、おっさんが訝しげに尋ねてきた。
ああ、なんつうか、くだらないくせに、話せば長いんだけどさ。
とりあえず、終わったんだよ。
さぁ、女僧侶さんをさっさと探してさ。
とっとと帰ろうぜ。
……そういえばおっさん、鎧は?
◆ ◆ ◆ ◆
女僧侶は地下の牢に繋がれていた。
竜王に対する恐怖からすっかり弱っていたが、命に別状はなく、ひどいことも特にされていなかった。
俺には強くあたるのに、少しはか弱い部分があるんだな、と彼女のことを可愛いと思ってしまった。
……不謹慎か?
さぁ、帰ろうぜ、女僧侶さん。
どうです、いつも怒ってばかりいる相手に助けだされる気分は?
なんてな。
彼女を牢から出してあげる時、少し面白がっていることを察したのか、彼女が怒る。
「何か面白いですか?私は大変だったんですよ?」
「ふん、勇者様みたいな軽い人、私大嫌いです!」
……いつもみたいな覇気が感じられない。
精一杯強がっているのがわかる。
「そういうところが、また、可愛い」
………あれ?言葉に出ちまったか?
女僧侶さんは何も言わなかった。
ただ、そっぽを向くだけで。
俺が彼女を抱き上げている道中、彼女の耳はずっと赤いままだった。
◆ ◆ ◆ ◆
まず、部隊を引き連れラダトーム城に帰還したら、既に王様は竜王に勝ったことを知っていた。
どうやら、ロトの勇者が勝利報告だけはしていったらしい。
イメージと違って、ワリとマメな性格なのかもしれない。
まぁ、キングアズライルを作り上げるくらいだしな。
凱旋したラダトーム軍を祝う準備は既にできていて、城下町で三日三晩のお祭り騒ぎ。
それで、武器屋のおやじに《どくばり》の礼を言いに行ったら、
「……よくやった」
おやじはぶっきらぼうに、それだけ言った。
……おい、不意打ちはやめろ。
思わず泣いちまうところだったわ。
◆ ◆ ◆ ◆
竜王に勝ったらニートになれる。そう思っていた時期が俺にもありました!
現実はそう上手くはいかないようだ。
こっからは“その後の話”、というやつになるのだろうか。
まず、おっさん。
今回めでたく退役である。
曰く、「あんな、胃の痛い職場はもう懲りごりだ」だそうで。
何がどう胃が痛いのかは、突っ込むだけ無粋というやつだろう。
今回の戦いで、目に見える形で一番武功をあげたのはおっさんだ。
竜王軍幹部のうち、半数を倒し、ぶっ壊れたとはいえ《ロトの鎧》と、さらに《ロトの剣》の回収までこなしている。
さらに、街の防衛強化、軍の強化、現場指揮etc……
頭を使う分、俺より働いていたのは間違いない。
命令違反の件はご愛嬌。竜王討伐の立役者であるおっさんに、大臣たちは強い態度に出ることができなかったようだ。
たっぷりと報奨金を得たらしく、その額を具体的には教えてくれなかったが、「慎ましく暮らせば、家族で一生安泰に暮らせるよ」とか言ってた。
正直羨ましい。
で、忘れるところだった。
おっさん、侍女さんにプロポーズを果たしたようである。
結果は言わずもがな。
今は、褒賞で得た竜王の城に、おっさん・侍女・例の女の子の家族三人でひっそり隠遁生活を送っているようだ。
末永く爆発してくれ。
次は……そうだな、ロトの勇者の話をしておくか。
ロトの勇者はあれから、見かけない。
あれから工房に足を運ぶ機会があったのだが、そこからも既に引き払っていた。
どうやら、もうアレフガルドにはいないようである。
結局、最後までとらえどころのない奴だった。
王様が言うには、竜王討伐は俺の手柄だと報告し、「自分には何もいらない」とだけ告げて飛び立って行ったらしい。
……少しだけ、不穏な想像をしてしまう。
ロトの勇者は、棺を持ち去る時、歌っていた。
“破壊神と掛けあわせて~♪過去に飛んで~♪”
奴は、モンスターマスターだ。
そして、モンスターマスターは配合によって、“魔王”と呼ばれる存在でも、それが
記憶は朧気なのだが、たしかモンスターズ初代では、Ⅲのラスボス“ゾーマ”を作り上げるレシピが『りゅうおう×シドー』だった気がするのだが……
いや、考え過ぎか。
工房のモンスター達も連れて行ってしまったようで、今アレフガルドには世界観に反するようなモンスターはいない。
つまりは、はぐれ狩りも、もうできないわけで。
俺がカンストするには、もう少し時間が必要なようである。
ラダトームの街の皆は相変わらず元気だ。
武器屋のおやじは顔をあわせるたびに、「また、剣を折ったんじゃないだろうな」と睨みつけてくる。
心配すんなって。
そのまさかだよ。
いや、俺が悪いんじゃねぇよ!城の兵隊たちが妙に訓練でも殺気立っていやがるんだわ!
看板娘さんのいる薬屋には、よく城に品物を卸してもらっている。
「たくさん注文してくれて大助かりです!」
いえいえ。俺には此れ位しか恩返しができませんから。
地下室の女科学者は竜王との戦いのあと、菓子折りを持って行ったら、居なくなっていた。
彼女の存在無くしては竜王の城攻略も難しかったはずなので、彼女も褒賞が貰えるという話をしに来たんだけどな……。
残っていた賢者に話を聞こうとしたのだが、とりつく島もなく。
「本物と一緒に出て行きおったわ……」
賢者は何とかそれだけ教えてくれた。で、それ以上は何も言わない。
未だ、俺はその言葉の意味を測りかねている。
ああ、女僧侶さんの話をしておかなきゃだな。
王と大臣達が若者を勇者に仕立てあげていたことに関して、責任を取るということで、ラルス16世が退位した。
女僧侶―――ローラ姫は、そのあとを継ぐ形で、女王として即位した。
まぁ、急な話だったんでしばらくはラルス16世が後見人をやるようだが、概ねローラ女王の評判はいい。
「……私が女王とか、できるはずありません……」
そんなこと無いと思うぜ?少なくとも兵士からの支持は厚いしな。
もう竜王もいないから、気楽にやればいいんだって。
「……私だけとか、ズルいです」
「勇者様も巻き込みますからね?」
で、俺の話をしなくちゃいけないわけだ。
ローラ女王の即位と同時に。
おっさんの穴を埋めるという形で。
俺は、“ラダトーム城剣術指南役”の肩書と“兵隊長”の役職を得ていた。
……あれ?俺に褒賞は?
「《太陽の石》を売り払う不届き者に出すわけがないじゃないですか」
道具屋の野郎喋りやがったのかぁぁぁぁぁぁ!
「ふふふ、シャキシャキ働いてくださいね♪」
そんなこんなで。
異世界転生してから14ヶ月。
そして、その後も。
俺は今日も元気にやっている。
薄給だが、時々《メガンテ》でゴールドマンをしばいているので、小遣いには困っていない。
(fin)
本編で触れられない設定
39.ロトの勇者
今現在、ローレシアにて、竜王を拷問中。
また、優秀なブレインを得て、世界観の破壊者として暗躍している。
40.主人公
19歳でアレフガルドに転生させられる。
成績は良くなかったが、機転は利くタイプ。というかすこぶる運がいい
特典は《ザオラルガード》《メガンテマスター》および、「勇者として活躍すればモテること」。
残念ながらおっさんの方が勇者ぽかったせいで、全然モテなかった。
本人は最後の特典の存在をすっかり忘れている。