年も変わり、僕が僕でいられる最後の年がやってきてしまった。
もう後戻りはできないし、今更後悔することもないけれど……あと4ヶ月もないのかぁ。やっぱりその実感は湧かない。
「あっ、見て。見てください! 雪が積もってますよ! 雪が!」
ああ、どうにも寒いなぁと思っていたけれど、雪が降っていたのか。そりゃあ寒いはずだ。まぁ、一番寒いのは雲一つない晴れの日なんだけどさ。
「こんなに雪が積もっているんですし雪だるま作りましょうよ!」
こんなに雪が積もっていると言うのに、元気良いなぁ。
僕なんて寒くて動く気にもなれない。そんなんだから今は肩まで炬燵へ入り、ぬくぬくと暖まっているところ。炬燵は人をダメにするものだけど……はぁ、幸せな時間だ。
「寒いからヤダ」
雪に触れば手は冷たくなるし、そもそも寒い外へは出たくない。僕はもうこの炬燵から出る気はないぞ。せっかくの休日くらい炬燵の中で過ごしたいじゃあないか。
「もう、またそんなこと言って……ほら、出てきてください」
そんなことを彼女は言って、僕の顔をてしてしと叩いた。
ああもう、鬱陶しい。分かった分かった。分かりましたよ。雪だるま作りに付き合うからその叩くのやめなさい。
仕方無しに、炬燵から出ることに。はぁ、雪なんてそんな珍しいものじゃないんだけどなぁ。
「全く……最初からそうしてくださいよ」
そう言う性格ですから。
押し入れにあったスキーウェアにスキー用の手袋と、完璧な防寒装備をしてから外へ。彼女の方もやたらともこもこした服装となっている。天気は曇り空で、天気予報を確認してないけれど、そのうちまた雪が降り始めそうだ。
吐き出した息は白く染まり、なんとも冬と言った感じ。辛い季節だねぇ。
「すごい! 一面真っ白じゃないですか」
雪が積もれば世界は白く変わる。積雪は20cmほど。しかも丁度良く湿っているし、これならかなり大きな雪だるまを作ることができそうだ。
それにしても雪だるまを作るのなんて何年振りだろうか。小さい頃はよく作っていた気がするけれど、今となってはそれが何年前のことなのかも分からない。
「んじゃ、邪魔にならない場所へ作ろっか」
「そうですね」
場所は駐車場の端を利用させてもらうことに。そこなら流石に文句を言われることはないだろう。
そして彼女は早速、小さな雪玉を作ってからコロコロと転がし始めた。
ん~……僕はどうしようかな。雪だるまなのだから、2つの雪玉が必要となるわけだけど、正直面倒臭い。だからと言って、いつもみたいに彼女の邪魔をすると、彼女が怒る。最近の彼女は本当に容赦無いからなぁ。
まぁ、僕も雪玉を作るとしようか。
普通に雪玉を転がしただけだと、球体にはならないため、たまに横へ倒したりしながらなんとか丸くなってくれるよう頑張る。そうやって頑張ってみてもやはり綺麗な球体となってくれることはなかった。雪だるま作りってのも難しいものだねぇ。
10分ほどの格闘を終え、僕が直径1m弱の雪玉を、彼女が80cmほどの雪玉をそれぞれ作った。これで彼女が作った雪玉を、僕の作った雪玉へ乗せればそれで完成なわけだけど――
「……なんか汚いですね」
そうなんだよねぇ。
球体となっていないせいで、このまま乗せても不格好な雪だるまにしかならない。それじゃあちょいと寂しい。どうせ作るのなら、多少はマシなものを作りたい。
そんなわけで形を整えてあげることに。最初は雪掻きを使ってある程度形を整え、それから手で擦り綺麗にしてあげる。雪に触れても冷たくない手袋様々だ。
因みにその作業は全部僕がやりました。彼女、こう言う作業苦手だし。
「おおー、すごい。なんだか綺麗になりました」
まだちょっと不格好なところもあるけれど、多少はマシになったんじゃないかなって思う。
さて、次は頭を乗せなければいけないわけだけど……これ、持ち上げられるかなぁ。サラサラしているイメージはあるけれど、雪って結構重いんだよね。
まぁ、二人で頑張ればいける気もする。
そして二人で協力し、小さい方の雪玉をどうにか持ち上げ、大きな雪玉へ乗せることに成功。
それから彼女が小石を拾ってきて、目やら鼻やらを付けて雪だるまが完成。憎たらしいことにこの雪だるま、僕より身長が大きい。いや、流石に雪だるまへ嫉妬はしないけどさ。
顔の大きさの割に目や鼻が小さいせいで、なんとも哀愁の漂う雪だるまとなってしまったけれど、まぁ、それなりのできなんじゃないかな。彼女も嬉しそうだし、作って良かったのかなとは思う。
ん~……疲れたぁ。スキーウェアと手袋のおかげで、それほど寒くはなかったけれど、当分雪だるま作りは遠慮しようかな。だからきっと、これが最後の雪だるま作り。
そう思ってみたものの、あまり寂しい気はしなかった。
ふむ、せっかく作ってあげたのだし、この雪だるまに名前の一つくらいでも……なんて出来上がった雪だるまを見ていると、ポスっと僕の背中に何かが当たった。
後ろを振り向くと、雪玉が僕に当たり嬉しかったのか笑っている彼女の姿。それから反撃されるとでも思ったのか、逃げ出し、見事に転び雪の中へダイブ。一人で何をやっているんだアイツは……
その後、ダイブした彼女の所へ行き、目一杯雪をかけてから家へ戻った。また炬燵でぬくぬく暖まるとしようか。
「鬼ですか。貴方は!」
また肩まで炬燵へ入り暖まっていると、ぽっぽこと怒っている彼女が帰ってきた。一応、雪ははらったみたいだけど、ところどころにまだ雪が残っている。まぁ、アレだけ雪を被ればそうなるよね。
そして、最初に仕掛けてきたのは彼女の方からなんだけどなぁ。
「うう、寒い……これじゃあ風邪を引きそうです」
そんなことを呟きながら、彼女も炬燵の中へ。
まぁまぁ、君も楽しそうだったし、別に良いじゃあないか。てか……
「天使さんも風邪を引くものなの?」
「いや、引いたことはありませんが……」
ああ、そうだったんだ。そりゃあ便利なものだねぇ。
とは言え、天使さんの血液は万病を治すらしいし、その本人だって病気には強いのだろう。
ん~……血液、か。
「そう言えばさ」
「はい、どうしました?」
炬燵の中で少し手を動かすと、彼女の手と思われるものに僕の手が触れた。その彼女の手は随分と冷たくなっている。手袋はしていたと思ったけれど……
まぁ、炬燵の中へ入れておけば直ぐに暖まってくれるし大丈夫かな。
「血液を飲まれると堕ちちゃうみたいなことを言っていたけどさ。それって一滴でも飲まれたら堕ちちゃうの?」
「えーと、確か、血液の場合はかなりの量を飲まれないといけなかったかと……前例を聞いたことがないので詳しくは私も分かりませんが」
もう一度、手を動かすとまた彼女の手と触れた。う~ん、やはり冷たい。ただ、暖かくなった僕からすると、彼女の手の冷たさはなかなかに心地良い。
「血液の場合? 他にも何かあるの?」
そんな彼女の手の冷たさが心地良かったから、今度は軽く触れるのではなく、ギュッと握ってみた。うむ、ひんやりして気持ち良い。
直ぐに怒られるのかなぁ。なんて思っていたけれど、どうしてなのやら振り払う様子もない。ホッカイロとか思われているのかもね。まぁ、これで彼女の手が暖まるのなら丁度良いか。僕が寝ているせいで彼女の顔は見えないけれど、きっと顔だって冷たくなっていることだろう。
「ん……え、えと、ですね。言ってしまえば、私たちの体液を飲まれた場合です。ま、まぁ、血液以外の体液を飲まれて堕ちる条件はかなり特殊なものですが。ですので、其方もまず心配ないかと」
ふ~ん、色々あるんだねぇ。
まぁ、そんな簡単に堕ちても天使さんだって困るもんね。それに彼女の話を聞く限り、今までで堕ちたことのある天使さんってのはほとんどいないのだろう。つまりは、そう言うこと。
しかし、さっきからずっと彼女の手を握っているせいで、僕の手まで冷たくなってしまった。別にもう気持ちが良いなんて思っていないから放しても良いのだけど……
「……暖かいですね」
そう言われてしまったら仕方無い。もう暫くはこのままの状態でいようかな。良いように利用されているだけな気もするけれど、どうしてなのやらそれほど悪い気分じゃあない。
近づけばお互いに辛くなるだけだって分かっているはずなのに……難しいものだ。
覚悟なんてできてない。けれども僕はもう諦めてしまっている。だから僕の方は多分大丈夫だと思う。けれども、この彼女は……そんなことも考えておかないとだよなぁ。そう言う類は苦手なんだけど……ホント、どうにかなりませんか?
神様って言う便利な存在がいるのなら、どうかこの彼女を救ってあげてくださいな。
僕はただ、それだけを願っています。