嘘つきな僕と素直な君と【完結】   作:puc119

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学話

 

 

「確か今日は1コマだけでしたよね? それじゃ行きましょうか」

 

 昨日も聞かされたけれど、どうやら彼女も僕と同じ大学へ通うらしい。それも編入とかそう言う形ではなく、元々通っていたと言う極々普通な形で。

 それじゃあ色々と問題が起こりそうだと思うけれど、其処は流石と言うかどうにかなると言っていた。便利なものだ。

 

 何と言うか、漸く僕の最期の一年が始まった感じがする。

 そして、一年後に僕はもう死んでいる予定。実感湧かないなぁ。

 

「それにしても、何ですか? その服装。ジャージにスウェットって貴方……」

「別に良いじゃあないか。これがいつも通りの格好なのだから」

 

 以前、洗濯をサボり着る服がなく、ジーンズとパーカーで大学へ行った時があるけれど、出会う人皆から――今日はまともな格好だけど何かあるの? みたいなことを聞かれた。流石に傷ついた。だからこの格好はもう僕の象徴みたいなものだ。

 

 一方彼女の格好だけど、なんかフリフリしてるスカートとか履いちゃってる。似合っていると思うけれど、女の子は大変そうだ。いくら天使さんとは言え、身だしなみには気を使うらしい。いや、天使さんだからなおのことなのかな?

 

 そんな女の子女の子している彼女だけど、残念ながら料理はさっぱり。もしかしたら可愛い女の子の手料理でもいただけるのでは? と期待していたのに料理なんてしたことがないと言われてしまった。

 そう言われてしまったら仕方無い。僕が料理を作ろうかと思い冷蔵庫を確認したところ、誕生日祝いで友人がくれた大量のビールとネギが1本あるだけだった。じゃあ、今日の夕食はネギの丸焼きで良いかな? なんて彼女に聞いたら、良いわけないだろと怒られた。ネギ、美味しいのに……

 結局、昨晩の夕食はコンビニへ行きカップ麺を購入することに。そして彼女はえらくカップ麺が気に入ったらしい。僕もカップ麺は嫌いじゃないけれど、普通の料理の方が好きかな。

 

「全く、そんなんじゃあ、女の子にモテませんよ?」

「別にモテたいわけでもないからなぁ」

 

 そりゃあ、嫌われたいわけじゃないけれど、モテたいわけでもない。昔は合コンのお誘いなんかもあったけれど、いつも通りの格好で行ったら誘われなくなった。不思議だね。

 それに僕は後一年で死んでしまうんだ。もし誰かと付き合うことになったとしても、その相手が可哀想じゃあないか。

 

「さてさて、それじゃあ行こうか。そろそろ講義が始まっちゃうし」

「そうですね」

 

 後一年かぁ。

 そんなことやっぱり信じられないよね。きっと殺されるその瞬間まで、信じられないんだろうなぁ。

 そんなものだと思う。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 講義室へ入ってから、僕と彼女は別れることに。はてさて、彼女はどうするのかな? なんて思っていたけれど、極々普通に女の子グループへ入り、楽しそうにお喋りまでしていた。まるで今までもそうだったかのように。そこに違和感なんて何もない。いやはや、すごいものだ。

 

 さて、僕はどうしようか。一番前の席が空いているけれど、90分間教授が何かを喋る度にうんうん頷くほどの向上心は持ち合わせていない。だからできれば後ろの方の席へ座りたいのだけど……

 そんなことを考えつつ、キョロキョロしていると、友人が隣の席へ座れよ。なんて声をかけてくれた。ありがとう。助かるよ。

 

「やあやあ、おっすおっす」

 

 とりあえず、友人に挨拶し、それから席へ着いた。講義が始まるまでは後5分と言ったところ。春休みが明け、最初の講義だと言うのに、出席率はかなり高い。まぁ、必修だもんね。そりゃあ皆集まるか。

 

「はいはい、おっすおっす。それにしてもお前の彼女、相変わらず可愛いな。全く、なんでお前なんかがあんな可愛い子と……いや、別にお前が悪い奴とかは思ってないけどさ」

 

 うん? 僕の彼女? そりゃあ、いったいどう言うことだろうか。申し訳ないけれど、僕にはそんな記憶がないのだけど……

 そんなことを言った友人の視線の先を辿ると、其処にはあの彼女の姿。

 

「ああ、なるほど。そう言う設定なのか」

「うん? 何か言ったか?」

 

 いんや、何でもないよ。説明ご苦労さん。

 まぁ、付き合ってるわけでもない男女二人が一緒に暮らしていたらおかしいもんね。それならいっそ付き合っている設定にした方が楽なんだろう。

 あの彼女も教えてくれれば良かったのに。ちょっと驚いたじゃあないか。

 

 その後も雑談をしていると、直ぐに講義が始まってしまった。

 さてさて、何のために学ぶのかは分からないけれど勉強勉強。

 

 

 

 

 

 第1回目の講義と言うこともあってか、講義は60分程度で終わってくれた。講義内容もそれほど難しいものではなさそうだし、単位を取るだけなら問題ないだろう。

 さて、これで今日の予定はもう終わってしまったわけだけど……このあと、どうしようか。家でのんびりくつろぐのも良いし、天気も良く桜が綺麗なこの季節。またフラフラと散歩へ出かけるのも悪くない。

 

「この後はどうしますか?」

 

 講義が終わると、彼女が直ぐに僕の元へ来てからそんな言葉を落とした。

 そして、そんな僕たちの様子を見てか、なんとも生暖かい視線を向けながら去っていく友人。う~ん、なんとも複雑な気分だ。

 

「そうだなぁ。お昼まではまだ時間があるし、フラフラとお散歩でもしようか」

「……なんか年寄りみたいですね」

 

 放っておいてほしい。こんなにも良い天気なのだから仕方無いでしょうが。

 

「分かりました。それじゃあ行きましょうか」

 

 別に無理してついてくる必要はないと思うけれど……まぁ、それも彼女の役目なんだろう。君も大変だねぇ。

 

 

 

 

 大学を出て彼女と一緒にフラフラと歩くこと数分。昨日の公園へ着いた。天気も良いおかげか、公園には子連れのお母さんらしき人たちがちらほらと見える。そんな公園には今日も見事に咲いてくれている桜木が1本。やあ、昨日ぶり。今日も君は綺麗だねぇ。

 

「……この桜は綺麗ですね」

 

 満開となった桜木を見ながら彼女がぽそりと何かを呟いた。

 

 ふわり風がそよぐ度、ハラハラと花弁が舞い、桜木はよりいっそう美しく見える。

 

「君がいた場所に桜はなかったの?」

「いえ、沢山ありましたよ。ただ、この桜のように春だけ咲くのではなく、年柄年中咲いているものでしたが」

 

 あら、そうだったのか。そりゃあ、僕も一度見てみたいものだ。

 ただ、年柄年中咲いている桜木ねぇ……それはなんとも有り難みが少なそうだ。やっぱり桜ってのは春にだけ咲くからこそ、こんなにも綺麗に見えるのだと思う。

 

「多分……私たちのいた場所で咲いている桜の方が綺麗かと。でも、私にはこの桜の方が綺麗に見えてしまいます」

 

 やっぱりそう言うものだよねぇ。

 きっと彼女のいた世界ってのは僕が今いる世界より、ずっとずっと綺麗な世界なんだろう。そんな場所で咲いている桜が綺麗じゃないわけがない。けれども、僕のいるこの薄汚れた世界で咲いているからこそ、この桜は綺麗に見える。きっときっとそう言うこと。

 

「この世界と君のいた世界。どっちの方が良いと思う?」

「それは……なんとも言えません」

「ふふっ、君は正直だね」

 

 全てが綺麗な世界ってのはきっと理想的な世界なんだろう。でも、それは僕みたいにこの薄汚い世界にいるからこそ感じることで、もし最初から全てが綺麗な世界へいたらどう思うのかは分からない。

 汚いモノがあるからこそ、綺麗なモノがある。だから汚いモノを排除すれば良いってわけじゃあないんだろうね。

 

「私たちは嘘をつけませんから……」

「そりゃあ、随分と生き辛そうなことで」

 

 嘘をつくことは良いことじゃないことが多いけれど、たまに……極希に良い嘘ってのもあると思うんだ。

 嘘つき者な僕だってたまには良い嘘を吐くかもしれない。まぁ、多分ダメだと思うけど。

 

「正確に言うと、私たちは嘘をつくと堕ちると聞いています」

「堕ちる? それはあれかな。人間にでもなるってことかい?」

「多分そうだと……実際になった方を見たことがないので確証はありませんが」

 

 堕ちて人間になるねぇ……それじゃあまるで人間が悪い存在みたいじゃないか。人間そんなに悪いものでもないと僕は思うよ?

 

「他にも、血液などを飲まれると堕ちるとも」

 

 なるほど、天使の天敵は蚊だったのか。夏は大変そうだ。蚊取り線香が手放せなくなりそうだね。

 

「まぁ、私たちが傷つくことはほぼないので、その心配はありませんが」

 

 ああ、そうだったのか。そりゃあ良かったよ。

 

「天使さんの血液ってのはやっぱり何か効果があったりするものなの?」

「実際の効果は知りませんが、不老長寿の霊薬とも、万病を治す薬とも聞いています」

 

 それはすごい。流石は天使さんだけある。他人の血液なんて飲みたくはないけれど、あったら便利だろう。この時代、どれくらいの値段で売れるのやら……ああ、でも、臨床試験をしたことがあるわけじゃないし、信じる人もいなそうだね。

 

 う~ん、普段はどんなことをやっているのか知らないけれど、天使って言うのもなかなか大変なんだね。それなら僕は人間のままの方が良いかな。

 まぁ、どうせ後1年しかないわけなんだけどさ。

 

「君って本当に嘘をつけないの?」

「えと、はい、そうですが」

 

 さてさて、そろそろお昼の時間になってしまう。

 家に帰ったところで、食べる物なんてからスーパーへ寄って食料を買うとしようか。彼女はまたカップ麺が食べたいとか言うかもしれないけれど、やっぱり僕はちゃんとした料理を食べたいかな。

 

 ん~……今日は何を作ろうかねぇ。

 

 

「じゃあ、君のバストサイズっていくつ?」

 

 

 このあと滅茶苦茶怒られた。

 

 


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