やはり俺が炎術士なのはまちがっている。   作:世間で言うジョージさん

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現在は読んでばかりで更新が遅れました。
はりきって投稿したいと思います。





第15話 影法師、再び

 

 

 

「なんだかすごく気分がいいんだぁ~。ねぇ、ヒッキー?聞いてる?」

 

 

 

彼女は顔を赤く染め、その豊満な部位を強調し、その肢体を捩らせ、まるで発情してる様に見える。そんな由比ヶ浜は…なんというか、エロい。じゃなくて!明らかにおかしい!眼のやり場に困るだろ?いや、合ってるけど!

 

 

「おい、お前少し体調が悪いんじゃないのか?保健室へ行こうぜ。」

 

「んっ…。なんだか…変な気分だしっ……」

 

 

 

うん、これアカンやつや。

 

 

「むぅ…八幡くん?」

 

 

 

姫の視線が痛い。決してこれは不忠ではないですよ?えぇ、決して。ホント、誰かなんとかしてほしい。

 

 

 

由比ヶ浜の表情が変わる。姫が言葉を発すると、その表情は途端に冷たいものになった。

 

 

「雪ノ下さん?今はあたしがヒッキーと喋ってるんだけど。邪魔者は早く消えてくれないかなー、とっ!」

 

 

 

直後にまたもや姫に向かって錐を放つが、俺の火薬玉で相殺する。

てか、これだけ大きな音をバンバン出してんだ!誰か来ないのか??先生方は何をやってんだ!職員室からも然程も離れていないはずなのに、グラウンドからもサッカー部の活動が見えるくらいなのに、誰も気付かないのか?

疑問が頭を過る。何か違和感がある。その違和感の正体に今更ながら気付いてしまう。

 

 

 

 

 

外からの音も聞こえてこない?

 

 

 

放課後の運動部の掛け声や活動中の音といったものが、一切聞こえてこない。これは異常事態だ。俺は停学覚悟で火薬玉を一つ窓に向かって放つ。

破裂音は響くが、窓には一切の傷がない。そこで、ある一つの名前が脳裏を過る。

 

 

 

『影法師』

 

 

 

アイツの仕業か?なら、由比ヶ浜は向こう側の放った敵か?確かめる術はないが、由比ヶ浜は言っていた。

 

 

『親切な占い師のお姉さん』

 

 

これは影法師の事を指す言葉とみていいだろう。考えたくはなかったが、由比ヶ浜は巻き込まれたのだ。影法師の操り人形として。なら、どうやってその操りの糸を解いてやるか?そこがポイントとなる。怪しい目星なら既についている。

 

 

 

おそらく、あの魔導具だろう。

あれを外すか、破壊すれば止まるとか?いやいや、ベタすぎだろ!今はそのベッタベタな展開に期待するしかないけどな。

 

 

 

「なぁ、由比ヶ浜。」

 

「え?なーに?ヒッキー。」

 

 

 

俺が話しかけるとまた表情が変わった。なんというか…エロい顔だ。もう開き直りたい。いや、冗談だよ?

 

 

 

「そのブレスレットさ、俺も興味あるんだ。少し見せてくれないか?」

 

「うん。いいよー。」

 

 

 

アッサリ交渉に応じる由比ヶ浜に、力技を行使せずに良かったと安堵する。あとは受け取ったら即座にあんな危険な物は破壊しよう。そうしよう。とか考えていたら、由比ヶ浜は魔導具を外す素振りを見せるのだが、一向に外せないみたいだ。やがて真剣に外そうとするも外れない。顔から焦りが見え始めた。次第に泣きそうな顔になっていた。

 

 

「あれ?あれれ?外れないよ、これ?どーなってるし!」

 

 

顔が恐怖に染まっていく。由比ヶ浜は、泣きながら俺に訴えてきた。

 

 

 

「…嫌、嫌ぁ!とれない!とれないよぉ!嫌だ…助けて、ヒッキー……」

 

 

 

俺達はただ呆然とその光景を眺めるしかできなかった。意識を失い、倒れた由比ヶ浜を見てようやく我にかえる。

 

 

「由比ヶ浜ぁ!」

 

 

駆け寄ろうとした時、由比ヶ浜の周りに強風が巻き起こった。まるで壁でもあるかのような暴風が由比ヶ浜の周りに吹き荒れる。魔導具の光りがそれに呼応するように強く光り始めた。

 

 

 

「あらら、失敗だね♪暴走しちゃった。残念~。」

 

 

 

後ろから声が聞こえた。慌てて背後に振り返ると、そこには影法師が居た。

 

 

「また会ったね~。比企谷くん♪」

 

 

「影法師…お前の仕業か?」

 

 

「そうだよ~♪と、言いたいところだけど、半分は違うかなー?あの子が真剣に悩んでるからさー。アドバイスと後押しをしてあげただけよ?あ、ちなみにあの魔導具は風神って言ってね、サービスで付けてあげたんだよ♪」

 

 

 

仮面のような貼り付けた笑顔で淡々と話す。コイツは姫の監視だけじゃなかったのか?姫に視線を移すと、姫は倒れていた。

 

 

「姫っ!」

 

 

 

即座に姫の元に駆けつけた。息はしている。外傷も特に見当たらない。影法師を睨む。

 

 

「ちょーっと、眠ってもらってるだけだよ。今はその子に見られるとマズイからね~。あ、私の事は話さないほうがいいよ。平和に学園生活をエンジョイ(笑)したいでしょう?」

 

 

正直、怒りで頭が沸騰しそうになるのを抑えて、情報を引き出す為に話しかける。

 

 

 

「お前の目的はなんだ?それと、由比ヶ浜は関係ないだろ。由比ヶ浜を元に戻せ。」

 

 

「だから、目的はその子の乙女心のサポートだよ。親切なお姉さんだから見過ごせなくって♪」

 

 

 

影法師とのやりとりの間に、由比ヶ浜は目が覚めたらしく、呻き声が聞こえてきた。未だに由比ヶ浜の体の周りを暴風が吹き荒れており、その体は宙に軽く浮いていた。

 

 

「占い師の、お姉さん…?」

 

 

身動きがとれず、浮かんだままの由比ヶ浜は影法師に助けを求めていた。

 

 

「お姉さんの言ったとおり正直になれたけど、なんだか心がおかしいよ…頭の中でずっと声が響くの!なんとかしてよ!」

 

 

「無理よ。けどおかげで自分に正直になれたでしょ?愛しい愛しい彼に会いに来れたでしょ?あ、そうだ!比企谷くんにも教えてあげるね♪」

 

 

「えっ……?いやだっ!やめてよっ!!聞かないでぇ!!」

 

 

 

何かを悟った由比ヶ浜は、影法師の言葉を止めようと叫ぶが、逆にその姿にそそられたのか、更に嗜虐的な顔で由比ヶ浜に悪意をぶつけていく。

 

 

「由比ヶ浜ちゃんはさ、犬を助けてもらって比企谷くんを好きになっちゃったんだよね~。一年以上も言い出せなかったんだもんね!あ、けど正直になりすぎるのもどうかなー?他に女の子がいたからって、嫉妬や妬みで殺そうとしちゃうなんて、そんな汚く醜い心まで正直に出すことなかったのにね。そんな醜い女の子は嫌われちゃって当然かな♪」

 

 

「い……いやぁぁぁぁ!!!」

 

 

由比ヶ浜が絶叫すると、魔導具は術者の感情に呼応するかのように強くなる。

彼女を取り巻く風は猛威を奮う。何者をも切り裂く風の刃となり、周囲にあった調理器具や椅子等を全て切り裂きだした。俺は即座に姫を抱えて教室の隅へと移動させる。由比ヶ浜の精神状態や俺達の置かれている状況を考えると、もう一刻の猶予もないだろう。

 

「この部屋はね、今は結界を張ってあるから誰かが助けに来ることもないよ。じゃあ、比企谷くん頑張ってね~♪」

 

 

影法師は言いたい事だけを言ったあと、あの時のように影の中へと消えていった。

 

 

 

 




次回、クッキー&風神編完結予定です。



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