やはり俺が炎術士なのはまちがっている。 作:世間で言うジョージさん
はりきって投稿したいと思います。
「なんだかすごく気分がいいんだぁ~。ねぇ、ヒッキー?聞いてる?」
彼女は顔を赤く染め、その豊満な部位を強調し、その肢体を捩らせ、まるで発情してる様に見える。そんな由比ヶ浜は…なんというか、エロい。じゃなくて!明らかにおかしい!眼のやり場に困るだろ?いや、合ってるけど!
「おい、お前少し体調が悪いんじゃないのか?保健室へ行こうぜ。」
「んっ…。なんだか…変な気分だしっ……」
うん、これアカンやつや。
「むぅ…八幡くん?」
姫の視線が痛い。決してこれは不忠ではないですよ?えぇ、決して。ホント、誰かなんとかしてほしい。
由比ヶ浜の表情が変わる。姫が言葉を発すると、その表情は途端に冷たいものになった。
「雪ノ下さん?今はあたしがヒッキーと喋ってるんだけど。邪魔者は早く消えてくれないかなー、とっ!」
直後にまたもや姫に向かって錐を放つが、俺の火薬玉で相殺する。
てか、これだけ大きな音をバンバン出してんだ!誰か来ないのか??先生方は何をやってんだ!職員室からも然程も離れていないはずなのに、グラウンドからもサッカー部の活動が見えるくらいなのに、誰も気付かないのか?
疑問が頭を過る。何か違和感がある。その違和感の正体に今更ながら気付いてしまう。
外からの音も聞こえてこない?
放課後の運動部の掛け声や活動中の音といったものが、一切聞こえてこない。これは異常事態だ。俺は停学覚悟で火薬玉を一つ窓に向かって放つ。
破裂音は響くが、窓には一切の傷がない。そこで、ある一つの名前が脳裏を過る。
『影法師』
アイツの仕業か?なら、由比ヶ浜は向こう側の放った敵か?確かめる術はないが、由比ヶ浜は言っていた。
『親切な占い師のお姉さん』
これは影法師の事を指す言葉とみていいだろう。考えたくはなかったが、由比ヶ浜は巻き込まれたのだ。影法師の操り人形として。なら、どうやってその操りの糸を解いてやるか?そこがポイントとなる。怪しい目星なら既についている。
おそらく、あの魔導具だろう。
あれを外すか、破壊すれば止まるとか?いやいや、ベタすぎだろ!今はそのベッタベタな展開に期待するしかないけどな。
「なぁ、由比ヶ浜。」
「え?なーに?ヒッキー。」
俺が話しかけるとまた表情が変わった。なんというか…エロい顔だ。もう開き直りたい。いや、冗談だよ?
「そのブレスレットさ、俺も興味あるんだ。少し見せてくれないか?」
「うん。いいよー。」
アッサリ交渉に応じる由比ヶ浜に、力技を行使せずに良かったと安堵する。あとは受け取ったら即座にあんな危険な物は破壊しよう。そうしよう。とか考えていたら、由比ヶ浜は魔導具を外す素振りを見せるのだが、一向に外せないみたいだ。やがて真剣に外そうとするも外れない。顔から焦りが見え始めた。次第に泣きそうな顔になっていた。
「あれ?あれれ?外れないよ、これ?どーなってるし!」
顔が恐怖に染まっていく。由比ヶ浜は、泣きながら俺に訴えてきた。
「…嫌、嫌ぁ!とれない!とれないよぉ!嫌だ…助けて、ヒッキー……」
俺達はただ呆然とその光景を眺めるしかできなかった。意識を失い、倒れた由比ヶ浜を見てようやく我にかえる。
「由比ヶ浜ぁ!」
駆け寄ろうとした時、由比ヶ浜の周りに強風が巻き起こった。まるで壁でもあるかのような暴風が由比ヶ浜の周りに吹き荒れる。魔導具の光りがそれに呼応するように強く光り始めた。
「あらら、失敗だね♪暴走しちゃった。残念~。」
後ろから声が聞こえた。慌てて背後に振り返ると、そこには影法師が居た。
「また会ったね~。比企谷くん♪」
「影法師…お前の仕業か?」
「そうだよ~♪と、言いたいところだけど、半分は違うかなー?あの子が真剣に悩んでるからさー。アドバイスと後押しをしてあげただけよ?あ、ちなみにあの魔導具は風神って言ってね、サービスで付けてあげたんだよ♪」
仮面のような貼り付けた笑顔で淡々と話す。コイツは姫の監視だけじゃなかったのか?姫に視線を移すと、姫は倒れていた。
「姫っ!」
即座に姫の元に駆けつけた。息はしている。外傷も特に見当たらない。影法師を睨む。
「ちょーっと、眠ってもらってるだけだよ。今はその子に見られるとマズイからね~。あ、私の事は話さないほうがいいよ。平和に学園生活をエンジョイ(笑)したいでしょう?」
正直、怒りで頭が沸騰しそうになるのを抑えて、情報を引き出す為に話しかける。
「お前の目的はなんだ?それと、由比ヶ浜は関係ないだろ。由比ヶ浜を元に戻せ。」
「だから、目的はその子の乙女心のサポートだよ。親切なお姉さんだから見過ごせなくって♪」
影法師とのやりとりの間に、由比ヶ浜は目が覚めたらしく、呻き声が聞こえてきた。未だに由比ヶ浜の体の周りを暴風が吹き荒れており、その体は宙に軽く浮いていた。
「占い師の、お姉さん…?」
身動きがとれず、浮かんだままの由比ヶ浜は影法師に助けを求めていた。
「お姉さんの言ったとおり正直になれたけど、なんだか心がおかしいよ…頭の中でずっと声が響くの!なんとかしてよ!」
「無理よ。けどおかげで自分に正直になれたでしょ?愛しい愛しい彼に会いに来れたでしょ?あ、そうだ!比企谷くんにも教えてあげるね♪」
「えっ……?いやだっ!やめてよっ!!聞かないでぇ!!」
何かを悟った由比ヶ浜は、影法師の言葉を止めようと叫ぶが、逆にその姿にそそられたのか、更に嗜虐的な顔で由比ヶ浜に悪意をぶつけていく。
「由比ヶ浜ちゃんはさ、犬を助けてもらって比企谷くんを好きになっちゃったんだよね~。一年以上も言い出せなかったんだもんね!あ、けど正直になりすぎるのもどうかなー?他に女の子がいたからって、嫉妬や妬みで殺そうとしちゃうなんて、そんな汚く醜い心まで正直に出すことなかったのにね。そんな醜い女の子は嫌われちゃって当然かな♪」
「い……いやぁぁぁぁ!!!」
由比ヶ浜が絶叫すると、魔導具は術者の感情に呼応するかのように強くなる。
彼女を取り巻く風は猛威を奮う。何者をも切り裂く風の刃となり、周囲にあった調理器具や椅子等を全て切り裂きだした。俺は即座に姫を抱えて教室の隅へと移動させる。由比ヶ浜の精神状態や俺達の置かれている状況を考えると、もう一刻の猶予もないだろう。
「この部屋はね、今は結界を張ってあるから誰かが助けに来ることもないよ。じゃあ、比企谷くん頑張ってね~♪」
影法師は言いたい事だけを言ったあと、あの時のように影の中へと消えていった。
次回、クッキー&風神編完結予定です。