やはり俺が炎術士なのはまちがっている。   作:世間で言うジョージさん

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少しずつ物語は加速していきます。
今回は長めになります。

二つの作品のストーリー展開とは異なるかもしれませんので、あしからず。


第14話 由比ヶ浜結衣の依頼

 

 

 

朝の鍛練は気持ちがいい。

早起きして体を鍛える事にした。いつから健康指向になったのだろう?ただ鍛えているだけでは不安は拭えなかった。

 

 

廃工場の出来事から数日が経った。姫に隠し事はしたくないが、危険な目に遭わせたくないので許して欲しいと願う。

余談だが、怪我をした翌日に姫に治してもらったのは内緒の話だ。

 

 

 

あれから影法師からの接触は無い。時が経てばあれは夢だったんじゃないか?とさえ思ってしまう。あの時の事を考えていると、幾つか反省や改善すべき点があった。

相手の力が未知数である以上は、こちらも相手によっては火力を上げて戦わないといけなくなる。魔導具によっては、周囲にどのような影響を与えるかわからないのだ。もちろん自身の火竜も然り。威力を抑えはしたものの、下手をすれば人を殺傷する事も容易いのだから。次に戦いがあれば、戦い方も考えなければならない。だが、独学では限界もあるだろう。

そんな事ばかりを思い悩んでいると、もう学校へ行く時間となっていた。

 

 

 

「いってきまーす。」

 

 

 

心ここに在らず。

教室に入るまでの記憶が無い。信号とか無視してねぇよな?まぁ無事だし、いいか。考え事ばかりしていたら時間がたってるなんて、スゲェ能力だよな。主に数学の授業でお願いします。

 

 

 

とか考えてたら、いつもの視線を感じたのでとりあえず瞳術で撃破する。

 

 

昼休みは姫と部室でランチして、午後の授業が終わり、放課後になり部室へ向かう。

あぁ、平和だな。こんな日がずっと続けばいいのにと思ってしまう。

 

 

「うっす。姫。」

 

「待ってたわよ。八幡くん。」

 

 

 

いつもどうりの日常。その平穏を破る音が部室に響いた。どうやら誰か来たらしい。ノックの音が聞こえたので、平塚先生ではなく依頼者かもしれない。まだ誰も来たことないけど。

 

 

「どうぞ。」

 

 

「失礼しま~す。ここに来れば願いを叶えてくれるって聞いて来たんだけど…て、ヒッキー?なんでここにいるの!?」

 

 

 

騒がしい女だと思えば、どこかで見たことがある。厳密には見られた事がある、だな。毎日感じてる視線の送り主だ。つーか、ヒッキーてもしかして俺の事か?もう陰であだ名ついてんの?

 

 

「ヒッキーて誰だよ。」

 

「いや、あわわっ。比企谷くん、ゴメンね!比企谷だからヒッキーて呼んだんだけど、嫌だった…?」

 

 

いきなりあだ名呼びなんて、どこのリア充だよ!と叫びたいが、最近は姫といるからリア充かもしれんな。うん。帰ったら小町に自慢しよう。

 

 

「はぁ…呼び方はもういい。で、お前は誰だ?」

 

 

 

知らない奴ではないが、名前を知らない奴だからな。一方的に知られているだけなのは気持ちが悪い。自己紹介の初日に俺は居なかったんだからな。まぁ居ても覚えてない自信はあるけど。

 

 

「ちょっ!クラスメイトの名前を知らないとか、マジありえないんだけどっ!」

 

 

 

キーキーと喚くコイツは、由比ヶ浜結衣というらしい。続いて姫が自己紹介をして、俺もしようとしたが、「ヒッキーは知ってるからいい。忍者でしょ(笑)」と言われ、ムカついたので『絶対に許さないリスト』に書きこむ事を誓った。

 

 

「ところで、由比ヶ浜さん。正確にはここは願いを叶えるのではなくて、願いを叶えるサポートをする部活なのよ。」

 

「えー!そーなんだ!うーん…それでもいいからお願いしてもいいかな?」

 

 

コイツはちゃんと理解しているのか?見た目は九ノ一(ビッチ)だし。クノイチと読むから、意味はググって欲しい。

とか心の中で思っていたら、バツが悪そうに、こちらをチラチラ見てくる。

 

 

「え~と、あの~、ちょっと?みたいな~?」

 

 

 

姫は何かを察したのか、俺にジュースの買い出しを命じてくれた。忍(リア充)なら御安い御用ですよ!とばかりに光速で駆けていく。マッカンと野菜ジュースと午後ティーを買って来た道を光速で戻る。由比ヶ浜の分は請求しよう。そうしよう。

 

 

部活前に着くと何やら女子トークみたいなものが聞けるかと思い、静かに扉の前に近づいた。

 

 

「……げたいのは、その男の子へお礼を言いたいからなのかしら?そういう事なら、この依頼を受けます。」

 

 

「ありがとう~!雪ノ下さん!」

 

 

 

肝心なところを聞けてないようだが、ある程度の内容は把握した。なるほど。真っ当な依頼だな。高校生のやれるレベルの依頼だもんな。機密情報を探れ!とかじゃなくて少し残念に思いながらも、部室に戻る。ちゃんとノックをする紳士である。

 

 

「買ってきたぞ。ほれ、お前の分だ。姫のはこっちだぞ。」

 

 

「ひ、姫???え、え?」

 

 

 

由比ヶ浜が何かうるさいが、無視して話を進めた。今回の依頼内容は、クッキー作りのお手伝いだ。姫がいる以上は、俺の出る幕は無しだな。姫は異常に料理スキルが高く、是非とも嫁に来て欲しいレベルだ。アカン!惚れてまうやろー!

一人で脳内会議してる間に、家庭科室へ行くことになったので俺達は移動する。

 

 

 

 

 

家庭科室でテキパキと準備する姫と、何も出来ない由比ヶ浜。いや、訂正する。何故か胸を強調するようにエプロンを着ている。エプロンは首や肩から掛けるように着る物ですよ。胸を押し上げるように着る物ではないですよ。だが、それもいい!

 

 

姫と由比ヶ浜からの視線が痛い気がするのでスマホを触ってよう。決して胸を見てた訳ではない。断じて違うぞ?

 

 

 

 

どうやら完成したようで、姫は疲れきっているようだ。由比ヶ浜は満足したように、やり遂げた感を出した顔だ。問題のクッキーらしき物体は、その存在感を遺憾なくアピールするかのように黒々と光沢を放っていた。

クッキーに光沢ってできるのか?

 

 

「とても上手く出来たとは思わないのだけれど。八幡くん、試食をお願いしてもいいかしら?」

 

 

「ヒッキー!ちゃんと出来たし!食べてみてよ。」

 

 

 

こんなところで毒味役が回ってきた。

意を決して食べてみる。

 

 

「不味い。酷く不味い。」

 

 

「えぇ~!ヒッキー味覚がおかしいんじゃない?ほら、もっと食べてみるし!」

 

 

コイツは俺を殺す気か?と、思わんばかりに口に放り込んでくる。女子に食べさせてもらうとか恥ずかし過ぎるだろ!

 

「ほら!美味しいよね?ね?うふふ、ほら!うふ、あははっ♪」

 

「ちょっと、由比ヶ浜さん。さすがにそれ以上は……」

 

 

少し悪ノリが過ぎると思って姫が注意に入ると、由比ヶ浜は姫を突き飛ばした。

 

 

「今いいところなんだから邪魔するなし!」

 

「っ痛!」

 

 

 

驚いてすぐに対応出来なかった。突き飛ばした後に、床に倒れた姫の腹を踏みやがった!慌てて俺は由比ヶ浜を後ろから羽交い締めにし、姫から引き離す。

 

 

「何やってんだよ!お前は!」

 

「何って?ヒッキーとあたしの邪魔する女をやっつけただけだし。」

 

 

 

おかしい事を俺が言ったみたいに由比ヶ浜は顔をキョトンとさせる。

 

「いや、おかしいだろ!?いきなりそんな事しねぇだろ!」

 

 

「どうしてそんなに怒ってるの?ヒッキーはあたしの事が嫌いなの?」

 

 

駄目だ。話が全く通じない。姫には少し離れてもらい、俺は押さえている由比ヶ浜をどうしようかと考える。こちらを振り向いた彼女の目は虚ろで、顔は上気している。コイツは変態なのか?精神異常者なのか?思考を巡らすが解答がでない。

 

 

「ヒッキーはこの女の事が好きなの?この女がいなければいいのかな?」

 

 

姫は現状に戸惑っている。このままでは埒があかない!

 

 

「姫!先生を呼んできてくれ!」

 

 

俺がそう叫ぶと、脚に激痛が走る。

痛っ!俺の脚に二本の錐(キリ)が刺さっている。まさか、由比ヶ浜が??

 

 

「待っててね、ヒッキー!今からこの邪魔な女をすぐに殺すし!」

 

 

痛みで弛んだ俺の拘束を離れ、由比ヶ浜は部屋を出ようとする姫の前に驚くほどの跳躍力で立ち塞がった。

 

「じゃーね!雪ノ下さん!」

 

俺は急ぎ姫に向かって駆け寄る。由比ヶ浜は歪んだ笑みを浮かべて姫に錐を飛ばす。しかし、錐は俺の放った火薬玉によって相殺される。

 

 

「なんでヒッキー邪魔するし!ちゃんとこの女を殺せないじゃん!」

 

 

正直どうしたらいいのかわからない。由比ヶ浜には悪いが気絶させるしかないか?と思ったところで違和感に気付く。アイツの手に嵌めている物はなんだ?禍々しい感じがする。俺の視線に気づいたのか、由比ヶ浜が話し出す。

 

 

「これ、気づいちゃった?親切な占い師のお姉さんにもらったの。自分に正直になれるブレスレットなんだって。」

 

 

それはブレスレットなんて生易しいもんじゃないだろ?怪しい光を放ち始めたソレは手の甲の部分に大きな水晶のような玉が填められていた。何より異質なのは、その玉には『風』と書かれていた。あれは見たことがあるぞ。もしかして…魔導具なのか?

 

 

 

その時に俺は、影法師の言った台詞を思い出していた。

 

 

 

「いずれまた会いましょ♪」と。

 

 

 

 

 


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