慢心王の踏み台生活   作:匿名希望の金ピカ王

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 まず最初に、皆様、たくさんのご意見ご感想、ありがとうございました。

 これを励みに、執筆に気合を入れて頑張ります!



 なお、前回出てきたオリ主君は今回は出てきません。


4ギル目 我は何をしても一流

 海と山に挟まれた、自然と共に生きる街。海鳴市。

 

 

 そこは……不思議な出来事がたくさん起きる、不思議な街。

 

 

 

 

 あるときは……女児誘拐事件の容疑者として疑いがかかっていたとある男性集団が、取り壊し予定の廃ビルの上層階で、半死半生の状態で確保されたり……。

 

 

 またあるときは……子供の憩いの場『海鳴臨海公園』で、名前も知らない黄金のドーム状の遊具の内部で、謎の爆発テロが起きたり……。

 

 

 そのまたあるときは……前述の爆発テロと同日、同じく海鳴臨海公園で酷い打撲痕を残した少年が発見されたり……。

 

 

 

 

 そして今日もまた、海鳴には不思議な事件が溢れている。

 

 

 

 

 

 

 

[そこの君! 止まりなさい!]

 

 

 けたたましいサイレンが、早朝の静かな街に響き渡る。

 

 音の発生源は高層ビルの立ち並ぶ海鳴市中心部。

 まだ車通りの少ない道路を、3台のパトカーが赤く点滅しながらサイレンを鳴らしていた。

 

 パトカーの前を走るのは一台のバイク。

 速度違反か、別の何かか、とにかくそのバイクは警察に追われている。

 

「止まれと言われて……素直に従うかっての!」

『いえ、常識的に考えれば止まるべきかと』

「そうするとアンタは没収されて二度と帰ってこないかもね」

『何をしているのですか。もっと早く逃げますよ』

「最初からそういえばいいのに。……でもこれならどうにか間に合いそう」

『寝坊さえしなければ、こうしてオーバースピードで走らなくて済んだのですけどね』

「あ?」

『朝に浴びる風は気持ち良いものです。この気持ちを味わうために寝坊したマスターナイスです』

 

 その声は、乱暴な口調にしては随分と高く、鈴の音色を連想させた。

 機械的な黒いラインの入った、赤いライダースーツに身を包み、流線型のフルフェイスヘルメットを被るそのライダーは、信じられないことに、自身の跨がるバイクと会話をしていた。

 

「よっしゃ、やってやる。……この追いかけっこは楽しかったけど、そろそろ決める!」

 

 そう言い、バイクの側面にドアのように付いているハンドルのグリップを回す。

 

 すると、白いラインの入った赤いバイクは、目に見えてそのスピードを加速させる。

 

 

 

『スピードカウンター、12に到達』

「いいね! 今日のフィールも絶好調!」

『こんな所で過去最高速度を記録するとは、我ながら情けないマスターです』

「あん?」

『素晴らしいです。流石私のマスターチョーパネェ』

 

 バイクの熱い手のひら返しに気を良くしたのか、分厚いヘルメットの下でライダーの頬が緩む。

 

「当然。この私とアンタが揃えば、追いつける奴はいないよね」

『勿論です。なんたって私は神製の超高性能デバイスですからね。誰が乗ったとしても世界最高の結果を残す事などもはや……』

「あん?」

『全てはマスターのお力にほかなりません』

 

 どうでもいい会話をしているうちに、バイクとライダーの奇妙な2人は、3台のパトカーを振り切ってしまっていた。

 

 

 

「『ワンターンスリーキルゥ……』」

 

 赤い線を残しながら、バイクはビルの間に消えていった……。

 

 

 

 その向かう先に、金色の少年と白い少女がいることは、果たして偶然か、必然か……。

 

 

 

 

 

 sideギル

 

 

「……思い出した」

 

 ビビッと脳裏に電流が走ったのは、両手に持つリンゴを選定していた時だ。

 

「あん? 今までのツケの分、ようやく思い出したか?」

「たわけ。貢物に返礼を求めるなど常識がなっとらんぞ」

「貢物じゃねーよ商品だよ! しょ・う・ひ・ん!」

「少し黙っていろ」

「お前ほんとにムカつくなぁ!!」

 

 とりあえず右手に持っているリンゴを齧り、左手のはポケットにしまい、歩き出す。

 

「…………」

 

 背後からの視線は気にせず、俺は脇目も振らずに目的地に向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 俺が思い出した事とは何か。

 

 

 

 それは“原作知識”の一部である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ここが、『聖祥大学附属小学校』か。……意外に規模が大きいではないか」

 

 そう。「この物語の主人公が私立聖祥大学附属小学校に在学している」という原作知識。

 

 

 

 ……それさえわかればあとは、この学校に通う生徒を調べて、主人公っぽい奴を見つければいい。

 

 俺は踏み台らしい行動をしなければ殺されるらしいからな。なるべく早くターゲットをロックしておかなければ、いつ死ぬかわかったもんじゃない。

 

 

 この世界のタイトル……えーと、なんだっけ? 「魔法少女ギュウカルなのか?」だっけ?

 

 いや、焼肉は関係ないな。……とりあえずその……なんだ。女子だ。きっと主人公は女子だな。魔法少女ってくらいだし。

 

 この学校に通う女子に怪しい奴がいないか調べる。これでいいんだ。

 

 

 

 ……今は生徒の姿が見えんな。流石に授業中か。

 

「……ふん、待つのもまた一興……か」

 

 アンパンと牛乳はないが、ドラマの刑事よろしく、張り込みでもしてみますかね。

 

「我は何をしても一流。故に張り込みも一流だな。フハハハハハハハ!」

 

 ……周囲の変な視線に気付かず大声で笑う俺。……張り込みの意味を分かってるのか?

 

 

 

 

 

 

 side アリサ

 

 

 どうも。天才少女のアリサ・ローウェルです。

 

 

 私が誘拐されたあの事件から5日程経っているのだけれど……その間、留学の取り消しとか、色々忙しかったわね。

 両親、教師、向こうの学校の担当者。全員にそれっぽく言い訳をするのは、少しだけ疲れた。

 

 あと、私が仕えることになったギルガメッシュ様も、一日で行方不明になるし。

 

 ……私、あの子の事何も知らないから、手掛かりもないのよね。……どうしよう。

 

 この街に住んでることは多分間違いないけれど……ほんと、あの性格のおかげで、全然行動が読めないわ。

 

 ……どこかの公園で寝泊りしてても不思議じゃないもの。

 

 定番は、名前がよくわからないドーム状の遊具の中ね。あそこは住居として成り立ちそうだわ。

 

 

 まあ、そんな冗談は置いといて、本当に、どこに消えちゃったのかしらね。

 

 

 

 そんなこんなで、外面上は納得したふりをして、内心不満だらけの両親や、我が王のことなど、いろいろな問題を抱えたまま、私は5日ぶりの学校へ戻ってきた。

 

 

『私立聖祥大学附属小学校』。私が通っている学校のこと。因みに私は4年生よ。

 

 特にいい思い出があるわけでもないし、私の知識を鑑みれば、学校で学ぶことなんて全くこれっぽっちもないんだけど……日本には義務教育っていう面倒くさいシステムが設けられてるの。こればかりは『天才』の肩書き程度じゃ覆せないわね。残念。

 

 

 

 それで、特に何をするでもなく自分の教室に入る。

 

 ……あら? 少し教室内の様子がおかしい。

 

 

 いつもは私が入ってきた途端に教室全体のざわめきがピタっと止まる。その滑稽な状況がこのクラスの名物になってたし、私としてもその異様な光景を見るのが楽しみだったのだけど……。

 

 クラスメイトたちは、私が入ってきたことに気付かないか、気付いてもチラ見するだけで、何かの話題で盛り上がっている。

 

 

 よく耳を澄ませていると、「転校生」とか、「このクラス」という単語がちょくちょく聞こえてくる。

 

 

 ……このクラスに転校生ね。だからこんなにクラス全体が浮き足立ってるのね。

 今までは私が(悪い意味で)注目の的だったのに、嫉妬しちゃうわね。

 

 私の陰口だったものが、名前も知らない誰かの噂話に塗り替えられている。地味な嫌がらせをして私の反応を伺っていた人は、窓から校門を覗いて転校生らしき人物を探している。

 

 ……今日は机の中に何も入ってなかったし、落書きもされてなかったし、物もなくなってなかったし、なんだか学校に来た意味の8割を失ったわ。

 

 犯人特定とか、物品捜索とか、学校の授業よりは何倍も楽しめるというのに………。

 

 

 

 

「もう時間だぞお前ら! 全員席に着けよ!」

 

 落ち込んでる間に時計の針は随分と進んでいたのか、教師が入ってきて騒々しい場を収める。

 

 体育会系の暑苦しい男性教師だ。

 そして、私に海外留学の話を持ちかけてきた人でもある。

 珍しいことに、クラスの生徒が虐められていることに対して熱心に解決しようと取り組むような人。

 私が大事にしたくないって言ったから、そんなに大きな動きは見せていないけれど、今回の海外留学、私をこのクラスから逃がそうとする魂胆もあっての事なんじゃないかと思っている。

 

 熱血とか青春とか、バカ真面目な性格とかしてるけど、案外頭は回る人みたいで、私はあまり嫌いじゃない。

 

「よーし、先生の言うこと聞いてくれるいい子達は、先生大好きだ! さて、早速だが、今日このクラスに新しいお友達が増えることになった!」

 

 その一言で、一度静まったクラスが再度湧き上がる。

 

 そして、先生の一喝でまた静まる。……ほんと面白いわ。

 

 

「じゃあ、入ってもらおう。いいぞ」

 

 先生の呼びかけで、ドアが開く。

 

 

 そこにいたのは、女の子だった。

 

 

 ほぼ赤に近い濃い茶髪で、サイドにはねたショートカットだ。

 しかし、前髪だけがとても長く、真ん中は楕円形のカーラーのようなもので巻かれ、前髪の端の方は、M字になるようにワックスか何かで固められている見たい。

 

 表情は凛とした雰囲気を持ち、茶色の瞳はキリッと吊り上がっている。

 

 

「はじめまして。十六夜流星です。好きなことは機械いじりと走ること。人生の目標は早さを追い求めることです」

 

 十六夜流星。珍しい名前だから覚えておくことにした。趣味も目標も、なんともまあ将来はレーサーにでもなるつもりかという物で、あまり女の子らしくはない。

 

 ……でも、人生の目標は、私にもあるんだよね。

 

 

 

 私と“彼”の歩む道の観察。将来どころか現在進行形で私は臣下という、男女関係なくヘンテコな役職についてるし、彼女のことを言える立場ではなさそうね。

 

 

 

「これから同じクラスでお世話になります。よろしくお願いします」

「よし、それじゃあ十六夜は……アリサの隣が空いてるな。あの長い金髪の隣に座ってくれ」

「分かりました」

 

 ちょっと、どういうことかしら? これじゃ彼女、私の巻き添え食らうわよ。って、何その「頑張れ!」って顔、これを機にみんなと仲良くなれって? やっぱあなた馬鹿だわ。

 

 

 

 その後、私を避けて十六夜さんに近づかないクラスメイト達を見て、『転校生が質問攻めにされて困り果てるイベント』が回避されたということに気付き、あの熱血教師をまた策士認定したことは、あまり関係のない話である。

 

「……アリサさん、だっけ。これから宜しくね」

「……アリサ・ローウェル。よろしく、十六夜さん」

 

 それと、私に友達と呼べるものができたのも、大きな誤算だった。

 

 

 

 

 

 side ギル

 

 

「……放課後か」

 

 結局俺は、今日一日中校門前で立ち続けていた。

 年齢故か、通行人からは多少変な目で見られはしたが、不審者扱いはされなかった。

 

 そして、一度も校舎から目を離さない俺の精神力や、立ちっぱなしでも疲れを感じない体力に、我ながら驚かされていた。

 

 

 ……そういえば、前の誘拐事件の時も、前世じゃありえないくらいに強かったな……。

 

 向かって来る男達を、苦戦もせずにあしらう自分を思い出した。

 

 

 ……この体、俺の思っている以上に、前世とはかけ離れているらしい。

 今度、自分の出来ることと出来ないことを調べてみようと思う。

 

 

 まあ、そんな自分への考察はどうでもいいことで、メインは今から家に帰るために校舎から出てくる生徒を見張ることだ。

 

 ……外見で分かればいいのだが、そうじゃなければもっと別の方法を探せばいいか。

 とにかく、早く主人公を見つけて踏み台らしい行動をしなければ、俺は殺されてしまうんだ。

 さあ、全力で監視をしようか。

 

 

 

 

 

 

 学校が終わって、一刻も早く家に帰ろうと出てくる一群が現れた。

 

 これは無視。主人公……さらに女子の主人公ともなれば、明るくて学校での評判も良く、友達に囲まれている社交性の高い少女なのだろう。

 放課後は友人と楽しく喋りながら、ゆっくりと校舎から出てくるものだ。

 間違っても、学校より自宅の方が楽しいと思っているような人格ではないだろう。

 

 

 次に、習い事があるのだろうか、道着や竹刀など、他の人より若干荷物が多い生徒が増えた。

 ここは要注意だ。習い事をしている魔法少女がいても不思議じゃないからな。

 

 

 全ての人物に目を光らせ、地味に人間離れしている動体視力を披露しているわけだが、そんなことはお構いなしに目を配らせる。

 

 

 

 そして、ゆっくりと校舎を出てくる2人の人影を見つけた。

 

 まず目についたのは2人の髪型だ。

 1人は腰より長く、太ももまである長い金髪の少女。

 1人は、赤いショートヘアで、前髪が変わった形をしている。

 

 ……この街の住人は髪の色が逸脱しているため、そこで判断はできないんだが……あの髪型は明らかに他のやつらとは何かが違う。

 

 そう思って、顔を見ると……。

 

「ん? 道化?」

 

 それは、俺の配下となっていた少女、アリサ・ローウェルだった。

 なるほど、あの時はあまり気にしなかったが、あのアリサ。どうやら他の子供とは何かが違うようだ。

 

 

 誘拐されるなんてトラウマレベルの事件にあったというのに、次の瞬間にはケロッと俺に跪いているし、精神年齢も知識も同年代とは比べ物にならない程に思えた。

 

 となると、もしかしたら彼女こそが主人公の魔法少女なのではと思う。が、ふと浮かんだその考えは直ぐに否定した。

 まず魔法少女なら誘拐される前に自分で何とかするだろ。と。

 

 もしこの世界が“原作”とかいうものその通りに動いているのだとするならば、彼女は謂わば、“主人公が助けるため”に用意された誘拐イベントの被害者。

 まあ、俗に言う“主人公の親友”ポジションなのではないかと思う。

 

 ……うん、この考え、あながち間違いじゃないと思う。(出自不明の自信)

 

 

 ……とすると、この世界の主人公は、彼女と仲の良さそうな…………。

 

 

「あの赤い女か。見た目は上物。……ふむ、偽りとは言え、我が嫁と呼ぶに値する」

 

 アリサの隣にいる少女。あの子に対して、踏み台的な行動をすればいいはずだ。

 

 

 

「あ、貴方……! 王っ!?」

「ん? どうしたの、アリサ……って……………………ギルガメッシュ?」

 

 2人の前に出て、俺はまず一言。

 

「よお、我の嫁」

 

 さあ、俺のために、俺は踏み台となろう。

 

 

 

 

 この主人公から、嫌われるために。

 

 

 

 

 

 side アリサ

 

 

 

 いた。

 

 

 我が王が、いた。

 

 

 

 今までどこを探しても見つからなかったのに、あっさり、私の目の前に現れた。

 そして……。

 

「よお、我の嫁」

 

 ギルガメッシュ様の最初の一言は、まったく理解不能のセリフだった。

 

 しかもそれは……。

 

「そこの赤い女よ、俺のものになれ」

 

 私ではなく、隣の十六夜流星に向けられたものだった。

 

 

「……は?」

 

 

 十六夜さんは十六夜さんで、訳が分からないといった顔をしている。

 

 見た感じ初対面のように感じる。……けど。

 

 

 私は見逃さない。

 

 

 

 貴女はさっき、彼を“ギルガメッシュ”と呼んだ。

 

 

 

 それは、貴女が彼の事を知っているということ。

 どういうことなのか、しっかり説明してもらわないとね……流星。

 

 

 転校生の友達の手首で、赤い宝石の付いた腕輪がキラリと光った。

 




 謎の新キャラ出てきました。彼女は一体何リストなんだ……

 今回、視点がコロコロ変わって読みにくいんじゃないかと思いましたが、作者の力量では、こうでもしないと伝えたいことが伝えられませんでした。
 申し訳ございません。


 そして……踏み台、まさかのミスリード。

 『私立聖祥大学附属小学校に通っている(原作開始時点)』

 ……やっちまったギル様はこのあとどうなるのでしょうか。乞うご期待!

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