慢心王の踏み台生活   作:匿名希望の金ピカ王

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 どうも。

 続きました(絶望)

 サブタイを慢心させてみました。


 今回は、私がどうしてもやりたかったことです。……が、読者さん的には、好き嫌いが分かれると思います。

 読んでみて、これでもいいという方は、どうぞ、これからもご期待下さい。


2ギル目 我の城で狼藉を働くものは許さんぞ。絶対だぞ。

 見ず知らずの幼女に俺嫁宣言してから3日程が経つ。

 

 あれ以来、あの公園には近付いていない。

 

 

 ……いや、だって。どうしろと?

 初対面で俺の嫁になれとか言って、どの面下げて会いに行けってのよ。

 

 折角の理想的な公園だったのに、このギルガメッシュとかいう勝手な王様のせいで移住計画はおじゃんである。

 

 まさか、この慢心王に名前があるとは思わなかった。

 転生前の名前を名乗ろうとしたら、この名前が出てきたんだよな。

 

 ……つまり、これが今世での俺の名前。

 

「我は、最古にして唯一の英雄王、ギルガメッシュ」

 

 ……意外とカッコイイフレーズだな、なんて、思ってないんだからね!

 

 と、冗談は置いといて……。

 

 

 ここは街外れの廃ビル最上階。

 壁は取り払われ、支柱のみで支えられたこの部屋。窓もなく、どの角度からでも外の景色が一望できる吹き抜けで、時折、冷たい風が俺を叩く。

 

 埃だらけの絨毯やカーテンで装飾されたこの部屋で、不法投棄されていた切り傷だらけのテーブル、戸の無いクローゼット、曇った姿見が運び込まれ、生活圏としてギリギリ認められる程度の居住空間の中、俺はバネの飛び出たソファに肩肘を付いて、足を組んでくつろいでいた。

 

 ……リラックスの仕方も、どこぞの王様風の慢心体勢だ。

 このまま、「よく来たな、勇者よ」とか言いそうなくらい、悪役めいた笑みを浮かべている。

 

「……退屈だ。魔法などという面白そうな知識があるから、どんな奇天烈な事件が起きるのかと思えば、それらしい事は何もないではないか」

 

 そうだ。あの神が選ぶほどの世界。何か大きな事件とか、常軌を逸したイベントが起きないはずがない。

 

 なのに、この世界は平和そのもの。稀に銀行強盗やハイジャック、爆発テロが起こる程度の普通の現代世界だ。

 ……いや、十分物騒だが。

 

 まさか、魔法とかいうのはチャチなおまけ要素で、実際は銃撃戦メインのギャングアニメとかじゃないよな?

 某大泥棒三世の映画で出てくる超能力みたいな軽いノリで魔法が出てきたら俺は怒るぞ。

 

 

 

 

 と、あまりにも暇なためにそんなどうでもいい事を考えていたその時……。

 

 

『やだ! 離して!!』

 

 下の階で、よく通る高い声が響いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 side 三人称

 

「ちっ、コイツ、口枷外した途端にこれだぜ。おい、少し黙ってろ!」

「ヒッ! いやぁ!!」

 

 薄汚れた廃ビルの内部、そこには全身黒ずくめの男が複数人と、手を後ろに縛られ、身動きが取れない少女が1人いた。

 

 どうやら少女はこの男達に誘拐されたらしい。

 

「まあまあ、いいだろ? このくらい威勢があった方が、愉しみ甲斐があるし」

「あぁ? ただメンドくせえだけだろ? ちっ……一発ぶん殴れば大人しくなるか?」

「イヤ! イヤァ!!」

 

 集団の中から、二人の男がジリジリと少女に寄る。

 少女も後ずさってはいるものの、縛られていては早く動けるはずもなく、男たちとの距離は詰まっていくばかり。

 

「もう無駄な足掻きはよせよ。面倒だろうがよ」

「あっ……離して! やめて! ねぇ、お願いだから……」

 

 ついに少女と男の距離は0に。少女はリボン付きの赤いワンピースの襟を掴まれ、少し苦しそうに顔を歪ませながら尚も逃げようと抵抗し続ける。

 

 こんな人気のない廃ビルに連れ込まれてしまった時点で、いくら声を張り上げようと、助けが来ないのは目に見えている。

 

 自分より二回り以上も体の大きな男が二人迫っているのだ。どれだけ抵抗したところで、結局は逃げ切れる手段なんてないことくらい、理解している。

 

 少女は俗に言う天才だった。

 

 イギリス人とのハーフで、IQ200越えの天才児かつ帰国子女。

 その才を疎まれて学校のクラスメイトからは敬遠されがちな、頭の良い子供だ。

 

 故に、もう自分に助かる術が無いという事は自分自身が一番理解している。

 もし運良く今自分を押さえつけている二人の男の手を逃れたとしても、裏にはまだ5人もの人影が見えるし、そのうちの一人が、怪しげな注射器を用意しているのをたまたま確認してしまった。

 

 

 自分がここで、どんな目に遭わされるのか……。

 

 

 

 

 

 

 無垢な子供であればまだ良かった。

 

 夢見がちに、「きっと誰かが助けてくれる」と、窮地を救う王子様を連想し、希望を持つことができただろう。

 

 しかし、誘拐されたのは“運が悪いこと”に、大人ですら勝ち目のない頭脳を持つ天才少女。

 

 理論的に、物理的に、希望的観測を持つことなく、自分は崖っぷち……どころか、既に崖から転落している最中なのだということを瞬時に把握していた。

 

 

 

 もし、奇跡的に一般人がここを通過したらどうなるか。

 この人数に立ち向かっても返り討ちは必至。

 警察に連絡したとしても、距離的に、警察が到着する頃にはもう手遅れだ。

 

 何をどう足掻いても詰み。

 助けは来ないし、来ても助からない。

 

 

 

 そう理解しても……やはり少女は、抵抗を諦めたりはしなかった。

 

「ん……やっ!」

「グッ!? こ、このガキ!!」

 

 例え、意味のない蹴りで相手を余計に怒らせたとしても。

 

「ぐぅう……! うぐぅ!?」

 

 例え、服が捻れて自ら首を締める事になっても。

 

「いい加減……大人しくしやがれ!!」

 

 例え、抵抗するほどに、暴力に晒されることになると分かったとしても……。

 

 

 

 

 

 

 

 少女は、無駄な足搔きを諦めない。

 

 

 その結果……愉悦を求める王の退屈は、解消された。

 

 

 

 

 

「ふはっ……」

 

 

 その声が聞こえたと同時、全ての音が止まった。

 

 

「ふははは……」

 

 

 少女の必死な足掻きを笑いながら見ていた男達も、少女に直接手を挙げていた男も、理不尽な暴力に晒されていた少女自身ですら、声を出すことなく、音の発生源を探していた。

 

「フハハハハ!!」

 

 そして、王の機嫌は最高潮に達していた。

 

「見事であるぞ小娘! 無駄と知りながらも、決して敵に下る事のないその心意気……まさしく最高の道化ぶりであった!!」

 

 その声に、全員が一斉に振り返る。

 このビルは最上階のみが全面ガラス張りの構造で、この階より下は全て外壁がついている。

 だが、それでも内壁は最上階と同じく全て取り払われており、現在男達がいる場所からは、上に向かうための階段がよく見えていた。

 

 階段の上。胸の前で腕を組み、威風堂々とした姿で立ち塞がる一人の少年がいた。

 

「いやはや、そこな雑種どもに蹂躙される様、アリの観察程度には楽しめたぞ。……決めたぞ小娘。貴様、道化として我に仕えよ。さて、まずは此度の劇の褒美をくれてやろう……何をして欲しい?」

 

 いきなり現れて、何を言っているのか。

 

 少女は戸惑う。

 

 何をして欲しい? 正直言えば、助けて欲しい。

 ……それがもしも、見るからに戦闘力を有した、格闘家のような大男なら迷わず「助けて!」と叫んでいただろう。

 

 ……だが、今自分の視線の先……いや、この場にいる全員の注目を集めているのは、自分よりも小さな男児。

 正義の味方に憧れ、強弱の区別がつかないような、偉ぶりたい年頃の男の子だ。

 

 助けを求めれば、きっと臆せず、この“悪者”達に立ち向かうだろう。が、それまでだ。

 いくら戦う気概があれど、実際には勝てる要素などない。

 

 

 無駄な足掻きを続けていた少女がいうのもなんだが、その少年は、あまりに無謀過ぎた。

 

 ……だが、少女がどんな選択をしたとしても、未来が変わることはない。

 

 

「……目撃者だ。消せ」

「あぁ? ったく……これから“おたのしみ”だったってのに……白けるぜ」

「ざけんなよ、どいつもこいつも……。ガキだからって容赦しねえぞ」

 

 少女が助けを求めようが求めまいが、少年が立ち向かおうが逃げようが、男達は……少年を生かしておくつもりはなかった。

 

 

「っ!! ――逃げて!」

 

 無意識に叫んだ少女。

 その声は果たして、少年に届いたのだろうか。

 

 

「思い上がったな、小娘が……この我に逃げろと言ったか?」

 

 

 

 否。

 

 

 

「随分大きく出たものだな……雑種」

 

 

 

 例え届いたとしても……。

 

 

 

「たかが有象無象の集まりごときに臆して何が王か! おい、道化。貴様の仕える王がどれほど偉大か、教えてやろう」

 

 

 

 その思いを聞き届けるには、少年は尊大過ぎた。

 

 

 

「……しかし、雑種がいくら集まったところで、我の相手が務まるかどうか……これは困った。言った手前、無様な姿は見せられんというのに、我の力を1割も出せぬような相手しかおらぬのでは、話が変わってくるな」

 

 少年は顔を歪ませ嘆息する。

 

 それを挑発と受け取ったのか、男達は揃って青筋を立てて、それぞれ得物を手に取る。

 

「テメエ……調子乗ってんじゃねえぞ!」

 

 携帯警棒を振りかぶって襲い来る男。

 しかし、少年の目に怯えはない。

 

「ダメっ! 逃げてぇ!!」

 

 少女の悲痛な叫びが響く。

 そして、男の警棒がついに少年の頭を――――。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 side ギル

 

 ヤバイ。何がヤバイって全部がヤバイ。

 

 見るからに危ない奴が見るからに犯罪行為を犯しているのもヤバイが、そんな奴らの前に堂々と出て行った俺自身の身が何よりヤバイ!!

 

 どーしてくれんのこの状況!? 俺、ちょっと慢心してるだけのパンピーよ? ほら、なんか全員こっち見てるし、なんか「消せ」とか言ってるし!

 

 こ、殺される!!

 

 ……ここは冷静になるんだ。そう、まずは体勢を立て直そう。逃げるんじゃないぞ。ちょっと退くだけだ。

 ほら、あの女の子も「逃げて」って言ってるじゃん! ほら、なんか痛そうな警棒持ってるじゃん! なんで動かんの? 何で避けないの!?

 

「くどいぞ道化。黙って我の偉大さを噛み締めろ!(ありがとう名も知らぬ女の子。俺はここで逃げるを選択するぜ!)」

 

 そう言い、俺の体が勝手に動く。

 

 目の前まで迫った警棒を、左手で掴み、受け止める。

 

 ……は?

 

「……な……んだとぉ?」

 

「なんだこれは? まるで童子の戯れ合いだな。これなら猫の喧嘩の方がまだいい勝負を見れるぞ。よもやこれが本気とは言うまい(あっぶな!? 喧嘩なんて子供の頃したきりだし、こんなん勝てるわけないだろ! っていうか何で今の攻撃受け止められたんだよ。あ、相手が本気じゃなくてよかった……)」

 

 外と中で致命的な差がある件。

 

 うぉおおい!? 挑発してどーするよ! ここは一言謝って、見逃して貰おうそうしよう!

 

 そ、そうだ。「ごめんなさい」だ。いくら慢心王でも謝罪の言葉までは無茶苦茶な変換しないだろう!?

 

 

「すまんな。少し貴様を過大評価をしていたようだ。所詮雑種は雑種だったか(ごめんなさい)」

 

 って、ちょぉおおおお!?

 

「て、テメェエエエ!! 調子乗ってんのか!?」

「さっきからそればかりだな、雑種。赤子でも貴様よりは言葉を覚えるぞ(おっしゃる通りです! 俺みたいな口ばっかのガキはとっとと帰らせて貰います!)」

 

 あ、駄目だ。もう俺黙ってよう。

 

「て、テメェエエエ!!」

 

 うわ、また来た!

 

 そして振り下ろされる警棒。……更に難なく受け止める俺の左手。

 

「……ふんっ、つまらん。貴様風情では我の相手は務まらん。役者としては力不足だ。散りざますら見るに値しない。疾く去ね」

「ガァ――っ!?」

 

 もう俺の意思とは関係なく口を開く俺。

 そして、警棒を握った腕を、力も込めず横に振る。

 ……それだけで、目の前の男は壁まで吹き飛ばされた。

 

 

「「「「…………え?」」」」

 

 …………え?

 

 

「余興としては最悪な配役だったな。さあ、次は誰だ?」

 

 この空間、冷静を保っているのは、俺の体だけだった。

 

「……なんだ、誰も来ぬのか? ふむ、昔から王は玉に座して敵を待つものと相場が決まっておるが……攻めてこぬなら、こちらが赴くしかあるまい」

 

 そして……。

 

「聞くまでもないが……覚悟は出来ておるな? この王に対し非礼の数々、その罪、貴様らの命を持って償うがいい!」

 

 蹂躙が始まった。

 

 

 

 

 

 

 

「よくもカズを!」

「つまらん」

 

 鉄パイプを手の甲で弾き、がら空きの腹に拳をめり込ませる。

 

「うっ……うぉおおお!」

「つまらん」

 

 ナイフの側面を二本指で挟み、驚いた表情のまま固まっている頬に拳を抉り込む。

 

「こ、これなら!」

「つまらん」

 

 スタンガンを蹴り上げ。そのまま振り上げた足で肩を砕く。

 

「ふざけてんじゃねーぞ!」

「……つまらん!」

 

 チェーンを振り回す男に対して、普通に歩いて近づき、たまに横に移動する。

 チェーンに掠ることすらなく接近した俺は。足払いからのハイキックで男を空に飛ばす。

 

「つまらん! つまらんつまらんつまらん! つまらんぞ雑種! 貴様ら……この我をおちょくっているのか? まさか、この程度の力しかなくこの我に得物を向けたと?」

 

 常人を逸した動きに、俺自身が驚きまくっている中、外側の俺は全く別の事で怒り猛っていた。

 

「こんな屈辱は初めてだ。恥を知れ! 雑種がァ!! この無礼、万死に値する!」

 

 そして、最後の一人を……。

 

「こ、このヤロォオオオ! これを見てもナマ言えるかオラァ!?」

「黙れ雑種!」

「グァアアアア!!」

 

 黒光りするL字のナニカを取り出した男が、ライダー真っ青な飛び蹴りで後頭部から壁に衝突した。

 

 ……なんか、砕ける音聞こえたけど、死んでないよね?

 

 

「……ふん、至高の宝を使うまでもない」

 

 ……宝って何さ。

 

 

 

 

「……あ、あなた……強いのね」

 

 ボーッと立ち尽くす俺に声を掛けたのは、襲われていた少女。

 もはや意識があるのは、俺と彼女だけだ。

 

「……なんだ道化。我は今機嫌が悪い」

「そ、そう……ごめんなさい。でも、これだけは言わせて! た、助けてくれてありがとう」

「……ふん」

 

 そ、そうか。よくわからないままに体が動いてたから、何も考えてなかったけど……今の俺、この子を助けたんだよな。

 

 ……でも。

 

「助ける? おかしなことを言うな。貴様は我に仕える道化であろう。我は貴様に褒美をやると言ったのだ。貴様がとっとと望みを言わぬから、煩い羽虫を追い払ったまで。……これで気兼ねなく話せるであろう? さあ、貴様は何を望む?」

 

 でも……実際に助けたのは本心じゃない俺で、その俺には、助けたという自覚はない。

 

 

 そもそも、俺の本心はこの子を…………。

 

 

 

 

 ……この少女の感謝は、一体、誰に向けられたもので……誰が受け取るべきなんだろうか。

 

 

 

 

「え? あの……こういうの、なんと言えばいいのかしら。……あなた、謙虚なの?」

 

 そしてこの少女も少女で、随分と的外れな事を言っている。

 この子、もしかして天然?

 

「謙虚? フハハハハ!! やはり貴様は面白い! 謙虚など、この我から最もかけ離れた言葉だ! いいか? 我は最古にして唯一の英雄王……ギルガメッシュだ! 世界の全てを我の財とし、それでも渇く蒐集欲を持っている。謙虚? そんなものは狗にでも食わせておけばよい。覚えておけよ、雑種」

 

 俺の気も知らず、お調子者の口は勝手に動く。

 でもまあ、いつものようにわけのわからん口上だ。どうせこの少女も呆れるだけで……。

 

 

「ギルガメッシュ……? それって『メソポタミア神話』の、あのギルガメッシュ?」

 

 

 しかし、返ってきた反応は、俺の思っていた物とは少し違った。

 

「ほう? 我を知っているか、道化。……やはりあの雑種が無知だったのだな」

「いや、結構マイナーだと思うけど……」

「なん……だと……?」

 

 おおっ、初めて俺の口から本気の絶望が漏れた。

 

「ふ、ふふふ……やはり素晴らしい道化だ。このような虚言に我が踊らされるとは……」

「いや、まず教材にも載ってないし」

「ぐふっ!?」

 

 ちょぉおお! 俺の体で勝手に吐血すんなし!

 

「ば……馬鹿な……ああありえん! あの残念なノッブですら教科書の主役ではないか……何故我が……学びの書に載らぬのだァ!」

 

 落ち着け俺! 何言ってるか全然わかんないから! ノッブって誰だよ! これ絶対俺以外のナニカが入り込んでますから! 俺の行動が変換されるとかそういう次元じゃないから!

 

 誰だかわかんないけど俺の体に取り憑いてる奴、お帰り下さい!!

 

 

「……うむ、落ち着いた」

「……大丈夫なの?」

「ああ、何も問題ない。……だからそんな同情的な視線をやめよ。無礼であるぞ」

 

 ……どうにか、悪霊は去ったようだ。

 取り敢えず落ち着いて……そうだ。無理に制御しようとするからダメなんだ。ここは言う通りにならなくとも、とにかく手綱を握る事に意義がある。

 俺の言葉を、『最低限』変わらず伝えられるように落ち着こう。

 

 チラリと少女に目を向けると、ちょうど目があった。

 

 よし、ここで「大丈夫だったかい?」と一言声を掛けるんだ。

 

 

 

 

「万死に値する」

「へ?」

 

 

 

 

 違う、そうじゃない。

 

 

 

 

 

 side 誘拐された少女

 

 

 私は、天才ともてはやされて育ってきた。

 

 親は私に期待を向けるけど、それ以外の感情を向けては来なかった。

 

 同年代の子には、「イヤミみたいな奴」と避けられた。

 

 私にとって問題は解けるもので、解こうと努力するものじゃなかった。

 

 だから、人生は簡単で、生きる意味なんて、目標なんて、見つかりっこなかった。

 

 流れるように問題を解き、流されるように海外留学の話が出て、ついでのように外国語を覚える。

 

 そして、人生初めての難題が誘拐とか、泣けるわね。

 

 

 

 でも結局、その問題も解決しちゃった。……それは、私の力じゃないけれど……。

 

 

 

 

 

 

 

 

(この子は……不思議な人ね)

 

 

 そう思ったのは、何も変なことじゃないと思う。

 

 だって、まるで自分が生まれながらの王であるかのような態度。

 しかも、それに対して何の疑問も覚えていない。……ううん、それどころか、そうであること以外ありえないとさえ思っている。とても純粋な目。

 それでいて、その卓越した戦闘力。まるで歴戦の戦士。それも全ての戦を制した、英雄のよう。

 

 私は、洞察力には自信がある。

 元々、人からの悪意をよく惹きつけていた私だから、そういう事は敏感に感じ取る。

 

 この人からは確かに悪意を感じる。でも、それは特別なことじゃない。

 この人にとって、世界はすべて悪で、同時に善なんだ。

 

 判断基準は簡単ね。

 

 

 『愉しめる』か『愉しめない』か。ただそれだけ。

 

 私の事は、決めあぐねているのね。

 

 

 ……なら、どうすれば愉しませてあげられるのかしら?

 

 

(……あら?)

 

 どうして私は、彼を愉しませたいと思っているの?

 

 確かに彼は危機的状況だった私を助けてくれた。

 でも、それだけでときめく程、私はロマンチックな女じゃない。

 

 それどころか、これ以上の面倒事には巻き込みたくないもの。ここは普通、怒らせてでも私から離すべきよ。

 

 だって私はどうせ海外留学をするんだもの。日本に蟠りを残したって、問題はないわ。

 

 

 

 矛盾した自分の思考に混乱しつつ、私は彼の目を見る。

 

 ちょうど、目があった。

 

 

「万死に値する」

「へ?」

 

 

 いきなりで少し戸惑った。

 なんで今? とか、何故その一言? とか、色々疑問はあるけど……。

 

(目を見たのがダメだったかな)

 

 彼は自分をギルガメッシュと名乗った。

 それは古代メソポタミアの王の名前だ。

 

 つまり、彼は自分が王族だと名乗っているも同義。

 

(王に家臣は跪く。確か、顔を上げちゃいけないんだったかしら?)

 

 つまり、目を見るのはタブーだったわけね。

 気を付けないと。

 

 

 

 ……だから、どうして私は彼に気を使おうとしているのよ!?

 

 

 

 何度も自問自答を繰り返し、何度も何度も肯定し、否定した。

 

 

 でも、結果は変わらない。

 

(私は、自分より年下のこの子を、小さな王様を、愉しませたい?)

 

 これじゃ、彼の言った通り、私はただの道化だ。

 

(でも……そういうのも、悪くないかも)

 

 IQ200超えの天才児。そう呼ばれて、大人すら並び立たないくらいの上に立っていた私が、まさか年下の子の下に就くなんて……誰が信じるのかしらね?

 

 

 今まで私を認めようともしなかった同年代の子供が、もっと下の子供に傅く私を見たら、どんな反応を示すのだろう。

 

 ……天才の私にも予想できないわね。

 

 

(悪くない……ううん。いいかも)

 

 数多くの難問を解いてきた私が、答えの予想すらも難しい問題を提示された。

 これは、挑戦するしかないじゃない。

 

 

 

 ……それに。

 

 

 

(ギルガメッシュ君の……王としての行く末も、気になるわね)

 

 

 いままで。ただ歩くだけの作業でしかなかった人生という小さな道に、とても小さな花を見つけた気がする。

 

 こんな悲劇みたいな事件で、ようやく生きることの目的みたいなものを見つけるだなんて、世界は随分と意地悪ね。

 

 

(この問題、解いてみせるわ。私のこれからと、貴方のこれから。一体、どんな王道を歩むのか)

 

 

 冷静になると、色々おかしくて笑いがこみ上げてきてしまったのは誤算だったわ。

 

 

 

 

 

 

 side ギル

 

 

「ふふっ、ふふふ……」

 

 外見は上から目線で少女を睨み、内心はアワアワやっていると、ほんの僅かながら少女の口から笑い声が漏れた。

 

「……何を笑っている。無礼な奴だな」

「ご、ごめんなさい……でも、なんだか面白くって……アハハハ!」

 

 必死に笑いを抑えて涙目になった少女は、ついに抑えきれず声を上げて笑う。

 

「……どうやら斬られたいようだな」

「ほ、ホントにごめんなさい! ……ふぅ、ふぅ……はぁ。……ウルクの偉大なる王よ、この無礼、どうぞお許し下さいな」

 

 そして少女は、現代社会ではほとんど見ることなどない、綺麗な礼と、本当に王族に対しているような言葉遣いで謝罪を述べた。

 ……最後の「な」に悪意が見え隠れするがな。

 

「ふん、やれば出来るじゃないか」

「身に余る言葉でございます」

 

 俺の口調に合わせて喋る少女。うーん、これは一体どういうことだろう。

 

 まあ、俺ごときに女の子の考えはわからんし……取り敢えず、ずっとここに居る訳にもいかんか。

 

「……貴様の不格好な礼で多少は鬱憤も晴れたわ」

「あ……」

 

 身を翻し、下り階段に向かう。

 後ろから少女が追って来ることが音で分かった。

 

「あ、あの……あの人達は……」

 

 少女が、後ろを気にしながら俺に尋ねる。

 ……忘れてた。どうしよう。

 

「捨て置け。どうせ再起不能にした連中だ。気にするだけ時間の無駄であろう」

 

 おい、何やったんだ俺。

 

「そう……ですか」

 

 そんな俺の言葉に、僅かに嬉しいような悲しいような顔を見せる。……まあ、襲われた張本人だし、色々複雑な感情だろうな。

 

 

 

 

 

 

「貴様、名をなんという?」

「あ、私ですか?」

「そうだ。貴様は我が認めた道化だからな。我に仕えるというのに、我が名を知らないでは示しがつかん」

 

 仕えることが決定してるんだが、これはどういうことだ、おい。

 まあ、この少女自体が否定してくれるし、流石に慢心王な俺も、無理矢理にものにはしないと信じたいが……。

 

 

 

「私は……アリサ。アリサ・ローウェル。偉大なる王に仕える道化ですわ。……ギルガメッシュ様」

 

 

 

「……そうか。覚えておくぞ、道化」

「恐悦至極にございます」

 

 まさかの認めちゃったよ! どうすんのこれ!?

 

 

 

 

 

 

 

「城が汚れた。まずは新たな城を探すぞ」

「でしたら、そこの角を曲がった先にある廃ビルはどうでしょう。立地的に、この辺りでは最高の日当たりです」

「大儀である。では、そこに行こう」

 

 こうして、(勝手に)配下が出来た俺は、いつもとは違った、新しい一日を迎えるのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(本当は海外に行かなくちゃいけないんだけど……いいや。向こうの学校の誘いは断ろ♪)

 

 少女が抱く気持ちは、恩義か、尊敬か、それとも……。

 

 

 

 それは本人しか知らぬ事。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あ、私、週休8日を希望します」

「よかろう」

(いいのか!?)

 




 アリサ(ローウェル)救済 がしたかった……。

 突然のトラは要素。嫌いな方、申し訳ございません。

 で、でも、ギル様は王ですし! 第一話で臣下の勧誘失敗してるんですから、第二話でリベンジしてもいいはず(暴論)

 踏み台に仲間がいてもええやん(ダメやん)

 踏み台も人の温もりが欲しいやん(ほしいやん)


 安心して下さい、週休8日ですから。パーティ組みませんから。
 基本画面にはギル様のソロプレイしか映りませんから。

 リア充なのはオリ主だけで十分ですから。


 まあ、ぶっちゃけ戦闘回を行いたかった。
 ギル様の身体能力だし、ゴロツキ程度は肉弾戦でも余裕ですね。うん。

 ……宝具をぶっぱするギル様はいつ見れるんや……。

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