ある日私は「スト魔女はいいがガルパンは許せねえ」と言う人物と酒を飲んでおりました。
そいつにはサ○○リーの赤を飲ませ、私はマッ○○ン(輸入しているのはサ○○リーです)を飲んでます。ガルパン嫌いにはいい酒は出しません。
酒を飲みながらそいつはこう切り出してきました。
「最終話まで観てみたんだけれど、酷い内容だった」
私は、飲んでますし、機嫌がいいのでこう返しました。
「君が最終話まで見るんだから、相当なものだね」
「実弾バカスカ撃って、負傷者の一人も出ないってどういうことだ?」
「プロットアーマーだよ」
「若い女性が戦車で戦うという武芸が成立した社会的背景が全然わかんねーよ。
それが「乙女のたしなみ」とか何なんだよ」
「根拠なんてみんな後付けだよ。設定資料集読め」
「そんな分厚いもの読ませるアニメって何なんだよ。
ストライク・ウィッチーズなら十代の少女だけが持っている霊能力を使うんだから、
少女に兵器を持たせて、戦場に出るというのは至極もっとも納得できる。
霊能力バリアーだから誰も死ななくて当然だ」
「そっちもパンツ出すためだけの御都合主義だろ」
「ぽっと出の学校がいきなり全国制覇する方がもっと御都合主義だ。
そのチームを率いてるのが超能力も名将カリスマも何の能力も魅力もないモブキャラだ!」
「だから「キャプテン」オマージュだって」
「こんなんが人気作品なのが信じられん。だからお前もストライク・ウィッチーズ教徒になれ」
「スカートはかない時点でお断りだ」
「じゃあ、この劇場版のPVを見ろ」
「……スカートはいてやがる……」
ごめんなさい。論破されちゃいました。でも最後までマッ○○ンは飲ませませんでした。
ここから本編です。
第壱話 ある日の大洗
序-すべての始まり
これは、今からそう遠くない過去か未来にあった地球という星で行われていた「戦車道」という武道にまつわるお話です。
え? そんなもの見たことも聞いたこともない?
いや、地球はこの世界に一つとは限りませんよ。
とにかく、なぜか女性しか戦車に乗ってはいけない地球で、全世界規模で、名こそ違えど、女性たちが戦車を使ったいろいろな競技に興じておりました。
その中でも、日本という国において戦車道と呼ばれるものは、実際に模擬弾を撃ち合って勝敗を決めるという、フルコンタクト空手の次ぐらいにものものしい武道でありました。
なにしろ知っての通り、21世紀の女性は猛々しく荒事が大好きな肉食系ですから、戦車道と同じルールの競技は、世界中で大流行していました。
うまくすれば、戦車兵や戦車将校になって、一生キャリアウーマンとして思うように生涯を送れるのですから、上昇志向の強くて、家庭にしばられることを嫌う女性は、こぞって戦車道に入門します。
それに仮に軍人の道に進まなくても、戦車道を修めれば、健康的で優しくたくましい女性になれてモテモテですから、コレを放っておく手はないでしょう。
そんなわけで世界では、サッカーに匹敵する規模で、戦車道が行われていたのです。
さて、第62回戦車道全国高校生大会が終わり、優勝最有力候補だった熊本県の黒森峰女学園が自爆負けで準優勝になりました。
ここの戦車道を指導していたのは、同じく熊本に本拠のある戦車道最大流派、一撃必殺の「西住流」でしたので、西住流もまた面目丸つぶれになりました。
このときの隊長は西住まほ、副隊長は妹の西住みほでしたが、試合会場の川に転落した僚車を助けるため、フラッグ車の車長だった西住みほが戦車を放棄して川に飛び込み救出するという大殊勲を挙げながらも、放棄したフラッグ車を撃破されるという大失態、9回裏2アウトで凡フライを落球してサヨナラ負けよりひどいことになってしまいました。
当然母親である家元は盛大におかんむりです。そして、まほとみほを宗家の屋敷に呼びつけ、みほを叱責しました。
「あなたも、西住流の名を継ぐものなのよ。西住流は何があっても前に進む流派。強きこと、
勝つことを尊ぶのが伝統」
「でも、お母さん」
「犠牲なくして、大きな勝利を得ることはできないのです」
「あっ……」
「……ちょっと待ってください、お母様(怒)」
「なに? まほ」
「それは、ウチのもんに死ねと言うことですか? あんたは、何ば言いよっとね?」
「誰がそぎゃん事ば言うたとね?」
「今さっき、そぎゃん言いよったタイ! そぎゃん、馬鹿んこつあるもんね! どぎゃんか言う
てんね!」
「ああ、もうせからしか! 親にむこうて、よう言うバイ!」
「そぎゃん言うてん、どんこんむねこんばい。もう、こい以上持てんバイ!」
「ほんなごつ、こん子には飽きるっバイ――親にむこうて、よう、そぎゃんこつ言うたいね。
よか! おみゃーは破門たい、どぎゃんなってもウチは知らん! 良かごとしんしゃい!」
「良かもん! ウチはそいで良かもん!――破門でも何でもしてくださいな。
もうあなたについて行く気はありません」
「よく言った。赤字絶縁状を日本中の家元に回します。どこぞでのたれ死ぬがいいわ」
「お母さん、お姉ちゃん、怖かばい……」
なんかわかりませんが、いきおいでまほの方が西住家を出奔してしまいました。
でも、お母さん。赤い字の絶縁状って、裏世界の自営業者じゃないんだから……
(なお、この話は、実在する西住さんとは全く無関係です)
そしてこの日から、まほの行方は誰にも分からなくなってしまいました。
お約束の日常
さて、西住家の乱などどこ吹く風。今は、今だけは平和な茨城県立大洗女子学園。
ですが、大洗町は復興途上なので、大洗女子がその上に建っていて、また同時に学園そのものでもある「学園艦」は大洗港の埠頭につながれっぱなしです。
なにしろ大洗艦が発電する電気は瞬間最大400万キロワット。そこらじゅうに電気配ってます。
動力源は波力発電、潮力発電、太陽光発電、風力発電、スターリング機関の併用です。
どこかの新聞は原子力と誤報しましたが。
まあそういう全長7.5kmの、船と言うより自走できる人工の島なんです。
これでも学園の中ではまだまだ小さい部類なんだそうですね。
上甲板に町や山や川が広がっていて、学校自体はど真ん中に広がってます。
さて、そんな大洗女子学園普通Ⅱ科の2年生に、海崎 冴(かいざき さえる)と言う生徒がおりました。
ある日の放課後、電算教室に向かって歩く彼女の姿は、ボサボサのロングヘアー、というより手入れされてない単なる長髪。
そして丸いフレームに渦巻レンズのメガネをかけ、スカートは皆がしているミニ仕様ではなく、むしろ逆にふくらはぎが半分隠れるほど長いという、ほとんど時代錯誤と言ってもいいスタイルでした。
彼女は、「(帰ってからじゃ間に合いそうにねーな……しゃあねーな、今日の取引には
電算教室のLinuxを使うか)」なんて事を考えながら、電算教室の一つに入っていきました。
その部屋には、生徒用のPC、Win50台、Mac30台、Linux(Ubuntuです)が20台、計100台のパソコンがおいてありました。Linux使うのは主に工学科か情報科です。
その日は3人の先客が、しかもたまたまLinuxグループにいましたが、それ以外は誰も使っていません。
海崎は、こういうときに使うセレロン機(Linuxは軽いのでAtomなんかでも動きます)を起動させるとネットにつなぎます。
当然危険サイトや有害サイト、商用サイトやゲームサイトにはつながらないような
コントロールが中央サーバー室で行われています。
もっとも、海崎はレンタルサーバーを教育サイトのサーバーと誤認させることによって、この端末のプロキシにしています。
LAN5のGUIではなく、LAN3のコマンドプロンプトで操作することによって、だれかが見ても単なるLinuxの勉強中だと思わせています。
海崎は今、戦車トレーダーの中でも店舗を持たない仲買人の一人として取引中です。
これは海崎が中学生の時からやっていることです。ある人と共謀してその人名義の口座に資金をプールし、その人が税金を払う代わりに、儲けの3割を提供してるのです。
サイトと言ってもHTMLではなくそれ以前のXMLが使われています。タブレットでは
アクセスできません。
海崎は世界のあちらこちらのヤードに商品となる中古戦車を押さえており、販売業者と折り合いが付くと、その所有権と保管料、運賃を振り込んでもらってから所有権を譲渡します。
または仲買人同士のオークションでセリをやります。とにかくキーボード早打ち勝負です。
(あんな変な戦車を欲しがる業者がいるとはねぇ)
というわけで海崎は、これから開催されるオークションに片っ端から当たっていました。
そのなかにお目当ての戦車がありましたが、バラバラの状態で組み立てが必要なようです。
順にセリに出される戦車の中で、適当に目利きをして、来週には相場が上がりそうなのを1台ハンマープライスして、その戦車の番を待ちます。
そしてその戦車が出品されましたが、状態悪、かつ流通もされていない代物のため、
買い手が付かないと皆敬遠しています。
今回は買い手のある海崎が落としました、もちろん最低価格で。
さらに出品者に相対で交渉して、値切ります。当然です。
交換部品もありそうもないからこっちは丸損するかも知れないと脅かして、たったの500米ドルにしてしまいました。
そして今度は買い手の小売りさんにアクセスして交渉開始です。
レア物であることを強調して、買わないのなら仕方ないからジャンク屋に卸すぞと脅かして、800万ちょい値引きして1,200万円ということで手打ちします。
まあ組み立て代がいるでしょうからと恩を着せて。
あとは、相場の上がった戦車10台ばかりを他の小売りに売りつけて、本日の取引終了です。
とりあえず1年分の生活費は稼いだからよしというところでしょうか。
後は残ったログを消して、LAN5のGUI画面に戻して終了。と思ったのですが、ちょっと挙動がおかしいので、「端末」(システムにアクセスするコマンドプロンプトですね)を立ち上げて調べると、暗号化されたアプリケーションがあるようです。
さくっとIDとパスワードをいただいておいて立ち上げてみると、とある戦車対戦ゲームにアクセスしました。やっぱりどこかのプロキシをつかってアクセスしているようです。
(おいおい何だよ、ガッコでこれやってんのがいんのかよ)
少々呆れながら見ていると、東アジアサーバーでなにやら戦車中隊戦が
組まれつつあるようです。
海崎は少し考えましたが、そのユーザーには自分が普段使っているT32が、それも最終形態というありがたい状態にあったので、使わせてもらうことにしました。
ユーザーネームを自分が普段使っている「Kaiser」に書き替えて。
(このユーザー、なかなかわかってるじゃねえか)
いよいよ15台対15台の戦車中隊戦が始まりました。