AC FA ~女性リンクスがヤンデレだったら~   作:トクサン

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PCさえあれば8000字なんて二時間で書き上げられるんですよぉ!

……pcさえあればねッ!(´;ω;`)

と言う訳でホテルのPcで書きました、いっぱいあるし一台くらい良いよね……。
日本語設定が地味に面倒だった。


メイ・グリンフィールドの場合

  メイ・グリンフィールド の場合

 

 

 

 彼との出会いは何時まで(さかのぼ)るだろうか、少なくとも一番最初に戦場を共にしたのは数年以上前の話だ。リッチランド・農業プラントを防衛するアルゼブラ部隊の襲撃、GAの依頼を受けた彼の僚機として私は指名された。その時彼はまだカラードの中でもそれ程高いランクになく、私より下位だったのを覚えている。

 

『メリーゲートよ、作戦を開始しましょう』

 

『上手く盾にしてね、その為の重量機よ』

 

 敵の主力はGA製AF『ランドクラブ』、量産型とは言えその火力はネクストにとって脅威、百凡のリンクスであれば敗れてもおかしくない敵。私は当初、近接と薄い装甲で固められた彼の機体に対し、あまり良い感情を抱いていなかった。そんな機体では、最悪主砲が直撃した時PAごと機体を撃ち抜かれてしまうのではないかと。

 それ故の言葉だった、初対面とは言え僚機だ、撃墜されてしまっては目覚めが悪い。私の機体はGA製のパーツを多く使用している、装甲が厚くKP値も高かった、数発の直撃など有って無い様なモノ、危なくなったら盾にしてくれても良い、そう言うと彼は。

 

『問題無い』

 

 それだけ口にして、正面から斬り込んでいった。

 正面にはランドクラブ、周囲にはアルゼブラのノーマル部隊が弾幕を張っている。私の機体ならば正面から挑む事も可能だろう、しかし彼は軽量機で正面突破を敢行した。

 

『なっ、ちょっと貴方っ』

 

 思わず公開無線で叫ぶ、けれど返ってきた言葉は素っ気なく、けれど力の籠った一言だった。

 

『仲間を盾になど出来るか』

 

 その一言に、私は思わず言葉を詰まらせた。

 

 彼は強かった、それも圧倒的に。

 オペレーターのセレン・ヘイズ、旧『霞スミカ』の機体名である【シリエジオ】を継いだ彼の実力は本物だった。弾丸の雨を掻い潜り、擦れ違いざまにブレードで一閃、高出力のエネルギー刃は摂氏五千度にて鋼鉄の装甲を焼き切る。彼が通過した後には、上半身の消し飛んだノーマルが残った。

 立ち塞がるノーマルを屠りながらランドクラブへと迫るシリエジオ、その動きは雷神の如く。

 QB(クイックブースト)を多用し、現れては消え、消えては現れる。銃弾で捉える事も叶わず、気付いた時に斬り捨てられている。類稀な戦闘センスとAMS適正が成せる、天才の技。

 

『……強い』

 

 私は恥ずかしながら、自分が戦場に居る事も忘れ彼の戦闘に魅入られてしまっていた。幾つもの修羅場を潜り抜けた私の思考は半ば反射で回避行動を機体にとらせ、ノーマルに向け銃撃を開始するが、私の意識は彼にのみ向けられていた。

 ランドクラブの主砲が大地を抉り、大きな爆発を生み出す。けれど着弾地点に彼の姿は無く、主砲の弾速がスローに見えるほど彼の動きは速かった。

 そうしてランドクラブとの距離を詰めた彼は、AFの直上へと現れる。次の瞬間、爆発する緑色の光。

アサルトアーマー、PAを反転させ最強の盾を矛へと変える諸刃の剣、それを彼は躊躇い無く行った。

眩い光にKP値が減退して行く、光は数秒で形を潜めるが、視界にチラつく緑色の粒子群。焼け焦げ、内部機構の露出したランドクラブの上に立つ彼の機体はPAを消失していた。

けれどPAの再展開は必要ない。

コジマ粒子が漂うプラント内に、残存する敵勢力は無かった。時間にして凡そ数分、リッチランド農業プラントを防衛する部隊が、ものの数分で姿を消した。

 

『……ミッション終了、シリエジオ、帰還する』

 

 彼の声でハッと意識を戻す。展開したミサイル発射管を閉じ、銃器をそっと下ろした。

 

『作戦完了か……相性が良いみたいね、貴方とは』 

 

 取り繕う様に私は口を開く、後半は私自身の願望と言っても良かった。けれど彼はソレに対し何も反対する事は無く、小さく『そうかもな』とだけ返してくれた。

 

『あ……』

 

 その事に、少しだけ鼓動が高まる。

 

 

 

 

 これが始まり、彼との出会い。

 その戦いに魅入られ、シリエジオと言う英傑と共に戦場を巡る事になる、今の私の原点。

 

 その後シリエジオ、彼はGAの依頼を受けるとき、必ず僚機として私を指名した。

 彼は最初の言葉通り、一度として私を盾にする事は無かった。

 今までの僚機は重量機である私を囮にし、依頼を完遂して来た。中には大破寸前となり、私に敵を押し付けて退避したリンクスだっている。けれど彼はどんな苦境でも、どんな敵が相手でも、必ず私の前で戦い、敵を屠って来た。

 

 彼との共同ミッションにて、私の被弾率は脅威の一割以下。

 重量機である以上、弾に当たって然るべきだと言うのに彼と組んでからは被弾すること自体が珍しくなった。それは(ひとえ)に彼が全ての攻撃を受け持っているから。私の仕事は(もっぱら)ら後方支援で、彼という分かりやすい脅威に目を釘付けにされている敵を確実に屠るだけ、こんなのはネクストでなくとも出来る仕事。

 だと言うのに彼は言う。

 

― 今回も助かった、ありがとう  と。

 

 ……生まれてからずっと、リンクスとして戦ってきた。

 だからそういう、男女のそういう事とか、考えた事も想像した事も無い。

リンクスは短命だから。

少なくともコジマ粒子を撒き散らす汚染源に搭乗している私達は、総じて短命である。蓄積するコジマ汚染がいつか、私達の体を内側から破壊する。つまり私達は消耗品、ネクストと言う棺桶に乗り死を撒き散らすだけの部品なのだ。

GAに所属する私だって、その宿命からは逃れられない。

 

けれど、そう。

少しだけ夢想(むそう)する。

 

この世界で本当に、自由と幸せという言葉が存在するのならば。

それはきっとー

 

彼と共に過ごす世界であると。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

切っ掛けは突然。

 

 旧ビースシティ、未確認AFの撃破、いつも通りGAからの依頼。分かっているのはGA製AFの改良機である事、それだけ。具体的な戦力や攻撃方法、脅威なども一切無し。依頼情報としては余りにも不足している、きな臭いミッションだった。

 

『こちらメリーゲートよ、こちらも始めるわ』

 

『怪しい任務を受けるものね、貴方も』

 

 けれど彼はこの依頼を受けた、もし彼が受けなければGA傘下の有澤重工所属、【雷電】と共に私が戦う事になっていた。だからそんな事を言いつつも、本当は彼が受けてくれて嬉しかった。

 そして彼と共にGA製AF、ランドクラブと思わしき巨躯へと近付いて行く。既に彼と共に戦った戦場の数は二桁を軽く超える、ここに至って私は彼に対して信頼以上、好意以上の感情を覚えていた。

 彼とならばどんな敵でも屠れる、戦って勝てる、私達ならばー

 

『何コレ……ふざけてるの……?』

 

 主砲がソルディオス砲に置き換えられている、それは遠目にも確認出来た。最悪のコジマキャノン、直撃すればPA(プライマルアーマー)ごと機体装甲を持っていかれる。だが彼にとっては問題無い、彼が今までの任務で主砲の直撃を許した事は一度として無く、私も廃ビルを上手く利用し遠方から攻撃を加える予定だった。

 

 それが一気に崩れる。

 

『分離飛行だと……!?』

 

 ソルディオス砲の自立飛行、主砲自体にバーニアが内臓されており計四基の【最悪のコジマキャノン】が宙に浮いた。固定されているのならやり様はあった、どれだけ高威力の主砲だろうと当たらなければ問題は無い、けれど主砲が自立飛行し砲角や位置制限が無いとなればその限りではない。

 それは(まさ)しく脅威そのものだ。

 

『冗談、でしょっ』

 

 急速に本体であるランドクラブから離れ、私達を囲むように展開するソルディオス砲。ソルディオスのオービットタイプである以上、それは最早主砲なんて生易しい存在ではない。

 窪んだ一つ目に緑色の光が宿る、それは砲撃の前兆。愚鈍な機体に鞭打ってQBを多用、ランダム回避により飛来した二つの粒子をどうにか避ける。しかし重量機である以上ENの消費が激しく、あまりに激しい回避行動はかえって自分の首を絞める事になる。

 

『KP減退中……掠っただけでPAが抉れるなんて、本当に、ふざけてる』

 

 彼の方を見てやれば、私と同じく二基のソルディオス砲に苦戦していた。ネクスト並みの機動力を持つオービットタイプは、彼が接近した瞬間距離を離そうと砲撃を行いつつ後退する。恐らく彼が近接タイプである事、アサルトアーマーを警戒しているのだろう。コジマ粒子の天敵はコジマ粒子自身、あのオービットタイプの攻撃方法もコジマ粒子そのものなのだから。

 

 二基に挟まれつつ射撃を行い、表面の装甲を削っていく。どうやらこの主砲、装甲も中々硬いらしい。メリーゲートの誇る大口径バズーカが直撃しても堕ちない、流石原形はGA製と言うところか、ランドクラブ同様実弾防御には自信があると見える。

 

彼の方は機動力を生かし主砲を躱しつつ、何度かソルディオス砲へ斬り込んでいる。その内何度かブレード刃が直撃し、三度目の衝突でソルディオス砲が爆炎を上げた。

 

『やった……!』

 

 思わず私が歓声を上げる、彼はそのまま反転し残ったもう一基へ肉薄する。それを見て私は、彼がもう一基を仕留めるまで防御に専念しようと方針を固めた。

 廃ビルを盾にし、ギリギリのEN管理で何とか猛攻を凌ぐ。直撃は受けない、しかしPAは消失する覚悟で回避を行う。申し訳程度に射撃は行うが、何とも効果が上がっているとは言えない、確かにAPは削れているだろうがバズーカが警戒されている為、一度直撃して以来二度目の被弾は許されていなかった。ライフルの弾丸は火花を散らして装甲を凹ませる、だがそれだけ。

 何とも歯痒い状況だ。

 

『っ、弾薬費用度外視よ、これでどうッ!?』

 

 弾切れになったバズーカを投げ捨て、肩部のミサイル発射管を開く。そしてFCS(火器管制装置)がロックオンを完了すると同時、白煙が舞い上がる。火力の底上げ分も入れ五十近い誘導弾頭がソルディオス砲目掛けて飛来する。大きく横へ逸れ回避する球体を追尾する白煙の群れを視界に入れながら、その間に反転、もう一方のソルディオス砲へロックオンを行う。

 しかし一拍遅かった、振り返った私の視界に飛び込んだのは緑色の光。

 

 しまった、主砲が既に放たれていたっ!

 

 後悔するには遅い、光が機体を包み込みPAと主砲が拮抗。PAが大きく減少しメーターが『0』を指す。瞬間PAが消滅し、霧散したコジマ粒子が散る中主砲が装甲を強かに叩いた。

 

『っぅぁッ』

 

 大きく揺れる機体、実体を持たないエネルギー弾とは言え主砲クラスになると爆発を伴う。衝撃に吹き飛ばされた機体が大きく後退、廃ビルへと突っ込む。

 

― 機体損傷三十% PA消失、再展開まで……

 

 アラームが機内に響き渡る、拙い、直撃を受けてしまった。何とか機体を起こそうとして気付く、手に持っていた筈のライフルが無くなっている。

 今の攻撃を受けた拍子に落としたのか、思わず表情が険しくなってしまう。圧し掛かった瓦礫を退かしてスラスターを吹かす、そのまま何とか脱出を図ろうとして。

 

 目の前に、ソルディオス砲がー

 

『ッ!?』

 

 ぞっと背筋が凍る。

 その一つ目に緑色の光は無い、けれど代わりに、ソルディオス砲そのものが眩く発光し始めた。

 私はこの現象を知っている、これは、そう、あの最悪の

 

 

『アサルトアーマー……ッ!?』

 

 

 ランドクラブを一撃で沈める攻撃が、今放たれようとしていた。

 

 なんでオービットがアサルトアーマーを、一瞬思考にノイズが走る。だが相手はコジマキャノンを搭載しているのだ、確かに、使えない筈が無い。

 

PAは消失、APは三割減少、残り七割で受けきれるか? 

無理だ、この機体はGA製パーツを多用している、それは実弾防御に優れている分、EN攻撃やコジマ粒子には滅法弱いと言う事。

 

 アラームが鳴り響く、予備格納パーツからハンドガンを取り出し乱射、ソルディオス砲の窪みへ全弾命中するが光が収まる様子は無い。ガチン、という音と共にハンドガンが弾切れを起こし、同時に目の前のソルディオス砲が爆炎を上げた。弱点を撃ち続けた、流石に耐久値を上回ったのだろう。

 しかし、間に合わない。

 機体は瓦礫に埋もれている、これは直撃しー

 

 

 

 機体が光に包まれた。

 

 

 

 次に視界に入ったのは、機体の後ろ姿。

 コジマ粒子が緑色の淡い光を撒き散らし、それに包まれるようにしてソレは立っていた。

 それも私の知っている、美麗なフォルム。

 灼熱のブレード刃を突き立て、左腕の消失した彼の機体。

 

 シリエジオ 

 

 一拍遅れて、目の前にあったソルディオス砲が爆発四散する。その爆発を受けて彼の機体が大きく揺れた。

 

『シリエジオっ!』

 

 思わず叫ぶ、しかし彼は私の無線に反応する事無く、ランドクラブへと向かって駆けた。恐らくENが回復しきっていないのだろう、見れば私にアサルトアーマーを放ったソルディオス砲以外、全て砂漠に埋もれて黒煙を上げていた。きっと彼が全て仕留めたのだ、私は彼を追うべく機体を立ち上がらせる。

 

― 機体損傷八十% 作戦エリアからの離脱を推奨しま

 

「うるさいッ! 早く予備の武装を……ブレードっ、早くッ!」

 

 思わずコックピット内で怒鳴る、今は撤退を推奨するアナウンスが心底憎かった。脚部格納部位から予備の武装、ENブレードを掻っ攫う様に取り出し、装着。そのまま彼を追ってランドクラブへと飛ぶ。

 

『おぉおおおおおッ!!』

 

 公開通信で彼の叫び声が聞こえる、彼は冷静だ。作戦中に叫ぶ事など、それも通信した状態を忘れてそんな姿を見せるなんて、一度も無かった。

 彼の機体は左腕を破損し、頭部など半壊していた。恐らくサブモニタを使用して戦っているのだろう、ランドクラブ本体から迫る連射砲の弾丸をギリギリで避けつつ肉薄、その鋼のAFへブレード刃を突き立てる。

 そのままスラスターを吹かし上昇、突き立てたブレードが装甲を融解させ一本の線を描き出した。融解した装甲の隙間から爆炎が噴き出す、ダメージは確実に通っている。

 

『ッ、ああぁぁッ!』

 

 私も彼に続き、低空飛行でランドクラブへと突撃する。少しでも彼に向かう連射砲を減らすため、敢えて正面から攻勢を仕掛けた。

 その目論見通り、連射砲の殆どが重量機である私へと集中する。幾多の弾丸がメリーゲートの装甲に穴を空け、爆発を引き起こした。けれど私の機体はGA製、例え破損していようと実弾防御にならば分が有る。

 

― 機体損傷九十% これ以上の戦闘続行は危険です

 

 爆炎が右脚部を吹き飛ばした、そのまま左腕も持っていかれる、武装のない腕など構うものか。機体の残骸が砂漠の上を転がって四散した。だが一歩遅い、私の方が一歩分早かった。

 飛び上がり、機体をランドクラブの前面へ叩き付ける、衝撃に機体が軋むが構わない。そのままエネルギー刃を形成し、ランドクラブへと突き刺した。爆炎が上がりランドクラブの各所から爆発が巻き起こる。

 

『これでっ、堕ちてッ!』

 

 突き刺したブレードを抜き、融解した装甲の間にハンドガンの銃口を突き入れる。幾ら装甲が硬くたって、内部機構に装甲は存在しない。引き金を引くと同時にマズルフラッシュがランドクラブの内部で瞬き、何度も何度も弾丸を吐き出す。その度に爆炎がメリーゲートを包み、右腕部の関節部位が融解し露出するほどの熱を発した。

 

 そして遂に、その巨体が膝を屈する。

 

― AF ランドクラブの撃墜を確認

 

 一際大きな爆炎が上がり、ランドクラブが機能を停止する。

 その爆炎に呑まれたメリーゲートは、融解した右腕を置き去りにする形で吹き飛ばされた。そのまま砂漠の上を転がり、最期は滑る形で停止する。残ったのは左足一本と壊れかけの頭部だけ、殆ど撃破されたと言って良い損傷。

 

― 機体損傷九十八% 搭乗リンクスは速やかに脱出し救援信号を

 

「はっ、はっ、はっ」

 

 息が上がる、ネクストを操縦しているだけでこんなに息を乱したのは初めてだった。初陣でも此処まで呼吸が乱れる事は無かったのに。

そして殆ど死んだカメラで彼を探す、彼は、彼は無事だろうか。

 

『っ、こちらメリーゲート、シリエジオ! 無事なら応答を……っ』

 

『こちらシリエジオ、ミッション完了だ、帰還しよう』

 

 声は背後から聞こえた。仰向けに転がったまま慌てて頭部カメラを反転させれば、そこには片腕を失い、頭部を半壊させながら両足で立つネクストが居た。彼だ、彼は無事だった。

 

『良かった……っ』

 

 その事に私は大きく安堵する。それから、彼に庇われた事、彼の足を引っ張ってしまった事を恥じる。最悪、彼を殺してしまう所だったのだ。もし私が居なければ、彼は無傷で依頼を終えていたかもしれないのに。

 

『ありがとう、今回の依頼……全部あなたのお陰ね』

 

 私が居なければ。

 私が、居るから。

 

 けれどそれを口に出す事は無い、浅ましい事だ。彼の足を引っ張ってしまった、彼を危険に晒してしまった。

 それでも尚、これからも彼と共に居たいと思ってしまっている。

 だから言えない、もう彼の足を引っ張らない為に、命を危険に晒さないために。

 

 もう私を僚機にしないで、なんて。

 

 なんてー

 

なんて醜い女だろう、私は。

 

『いや、こちらこそすまない、守り切れなかった、機体は動かせるか?』

 

『……背部のスラスターも全損、足は見ての通り、少なくても回収を呼ばないと無理ね』

 

 でも、もし彼がこれきりにしようと言うのなら、私はそれに従うだろう。これだけの事をしてしまって、私には彼の傍に居る資格が無い。だから、彼がそういったその時はー

 表情を押し殺して、GAに救援信号を送る。彼の機体も限界だ、私の機体を引っ張って帰還する事は難しいだろう。ここは素直にGAの回収部隊を待つ事にした。

 

『今回は……その、ごめんなさい、足を引っ張ってしまって』

 

 回収部隊を待つ間、私は彼に語り掛ける。それは謝罪の言葉、既に私と彼の戦闘能力は隔絶した位置にある、彼が上で私が下だ。いつの間にか彼のカラードランクは私を超え、一桁台に食い込んでいた。

 

『いや、今回の依頼、君が居て助かった』

 

『嘘、だって私、何も出来なかった』

 

 仕留めた、いや、大破させたソルディオス砲は一基だけ。それも撃破自体は彼が突き刺したブレードだ、今回私は囮どころか、盾にすらなれなかった。何の為の重量機だ、何が上手く盾にしてだ。

 考えれば考えるほど憂鬱になる、私は彼の隣に並ぶ力を持っていない。それを今回の依頼でまざまざと見せつけられてしまった。

 

『……私じゃ、貴方の僚機は力不足なのかもしれない』

 

 そんな言葉を、気が付けば吐いていた。

 こんな、私は彼と離れたくないのに、まるで私を選ばないでと言っている様なモノじゃないか。けれど、それも事実、だから私はその言葉を引っ込める事はしなかった。

 

『メリーゲート……いや、メイ・グリンフィールド』

 

 彼が私の名を呼ぶ、それにハッと顔を上げた。強がるように、虚勢を張る様に『……何?』と答える。けれどその声は、少しだけ震えていた。

 彼に拒絶されるのだろうか、もう二度とミッションには呼ばないと、そう言われてしまうのだろうか。そんな未来を想像し、想像しただけで絶望感が込み上げて来る。

 僚機に選ばないでと、遠回しに言ったのは私だ。

 けれど、けど……。

 

 

― 君との僚機契約を放棄する

 

 

 そんな言葉を考えて、涙が流れた。

 

 嫌だ、本当はそんな事言われたくない、まだ彼と共にありたい。私は弱い、どうしようもなく、弱い。それは自覚しているし、彼の隣に並ぶには役不足である事も知っている。

けれど諦めきれない、あなたを諦めたくない。

 

私、強くなるから、強くなってみせるから、だから ー

 

 

『次は必ず守る、だからこれからも宜しく頼む』

 

 

 それは私にとっては望外の言葉だった。最初は理解出来なかった、彼が何と言ったのか。

それだけの事を私はした、命の危険にまで晒して、足を引っ張って……それでも彼は何と言った?

 信じられないという思い、本当だろうかという疑惑、そして単純な歓喜がごちゃ混ぜになる。最初は言葉が出なかった、喉がひっくと声を上げた。それを押し殺して一度無線を切る、口元を抑えて吐息を零す。あふれ出る感情は歓喜、それだけ。

それらを悟られない様に、いや、きっと気付かれているに違いない。嬉しさは目元を伝って、震える喉が確実に物語っていた。

 

無線を開く、それからー

 

『っ、勿論…当たり前よ、…‥だって、私達は』

 

 

― 最高の相性、なのだから

 

 

 そう口にした。

 

 それは、今でも変わらない。

 




 次回はヴェロかアンビエント!

 そのどっちが良いですかね?(´・ω・`)

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