空から見る終わり   作:富士の生存者

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就職活動中のため間が空きます。
ご了承ください。


『スーサイド・アタック・スクワット』

 環境汚染で人類は、いずれ滅亡するなど騒いでいたのが懐かしく思えてくる。

 

 世界の人口は、1分間で137人。1日で20万人。1年で7千万人増え続けていた。世界中で1年に6千万人が亡くなり、1億3千万人が産まれ、貧富の拡大、石油の枯渇に続き、広大な表土と森が失われている。

 それが、今や人類は新型ウイルスによって絶滅の危機にある。不謹慎ではあるが、環境汚染も人口が減ったので気にすることはないだろう。むしろ1日で数十万人が、いや、むしろそれ以上の人間が怪物へと変わっていっていることが問題だ。

 

 フロントガラスや窓に鉄格子が取り付けられた運転席で、地図とにらめっこをして既に5分ほど経過した。 

 

 

『こちら2号車、周囲に感染者は確認できない。送れ』 

『こちら3号車、こちらも確認できません。送れ』

「こちら1号車、了解。このまま進み道路を塞いでいる放置車両の撤去に入る。2号車は1号車に続け、3号車は引き続き周囲を警戒し待機。作業中も周辺警戒を怠るな。送れ」

『2号車、了解』

『3号車、了解です』

 

 

 無線で仲間と連絡を取り合い周囲を警戒する。

 呑気(のんき)に地図を眺めているがここも安全ではない。いつ、いかなるところから怪物が飛び出してくるかわからない。

 ヘリの補給拠点確保のはずが、今じゃ地上を頭を引っ込めた亀のように車輌に籠り、怪物と戯れるエサやり担当になってしまった。ちなみにエサは俺自身。他にもヘリが突っ込んできたにもかかわらず生き残った頼もしい隊員11名ほど。

 

 ヘリが豪快に補給拠点を潰してくれた時点で、俺は拠点を放棄する事を決断した。

 物資を可能な限りかき集め、放置車輌を拝借。別の補給拠点を目指して道路を進んではいるが、なにぶん距離がある。

 

 あの場所で待っていても柵を修理するにも時間が掛かる。それに続き、発電機までもイカレたらもう無理だ。確かに留まっていればいずれヘリが来るだろう。そのヘリはあそこで補給するために来るのであり、俺たち全員を乗せられるヘリが来るとは思えない。

 

 確かに怪物を殺すことはできる。数体なら1人で片づけるのに苦労はしない。それが、数十体なら話は違ってくる。

 

 俺たち人類は怪物に対し、何らかの積極的な怪物の排除を目的としたの作戦行動が伴わない限り、この絶望的な状況を脱することはできない。すでに積極的な隔離対策は感染症が広がった時点で手遅れであり、これ以上、人類の戦力が低下する前に大規模な掃討作戦を戦略的に継続的に繰り返すことだけが、人類が生き残るカギになってくるだろう――――怪物との戦いが長期にわたると待つのは破滅だ。

 

 文明は破壊されつくし、限りある物資を生きている人間同士で奪い合う。その内にすべての人間は、感染するか死亡することになる。

 

 我々が行わなければならないことは、強い覚悟をもって怪物共に絶滅させられる前に相手を絶滅させることだ。

 車道の放置車両を撤去し、目的地を目指して進む。

 

 

「次の交差点を右折だ」

「わかりました」

 

 

 俺たちの事を表現するとすれば自殺的攻撃分隊(スーサイド・アタック・スクワッド)となるだろう。移動しながら怪物と戦うことは確かに自殺するようなものだが、有効な手段でもある。

 

 一般車輌なら窓をブチ割られて怪物が侵入してくるが、俺たちが乗っている車輌には急ごしらえとはいえ鉄格子や拠点の周りで使っていた網を溶接などをして取り付けて窓を補強している。拠点周辺の物は何でも利用したおかげで元は一般車輌のため防弾効果はあまり期待できないが手作り感溢れる装甲車になった。

 

 進んでいる道の脇は森が広がっており、道の死体や放置車両を視界に入れなければ休日のドライブのように感じられる。市街地から離れているからこそこうして順調に移動できているが、この先はそうはいかにいかもしれない。

 

 

「1号車から全車へ、前方のトンネル手前で停止」

 

 

 無線で指示を出してトンネルの手前で車列が停車する。

 電力の停止したトンネルは電灯が全て消え、中は深い闇が広がっている。

 正直言って不気味すぎて入りたくない。もちろん車列を止めた理由はそれだけではないが。

 

 

「中はどうなっていると思う?」

「そうですねぇ……どちらの車線も車輌が塞いでなくかつ、化け物の代わりに幽霊が出てるのであれば自分は泣いて喜びますね」  

「事故車はともかく化け物の代わりに幽霊が出てきてくれないかは同意だな」

「偵察しますか?」

「ああ。小回りが利く俺らが行くか……。こちら1号車。これよりトンネル内部を偵察する。2号車、3号車は外で周辺警戒で待機。緊急の指揮は2号車執れ。送れ」

『3号車、了解』

『2号車、了解』

「さて、それじゃあ。徐行しながら進んでくれ」

「了解です」

 

 

 俺たちの車両は軽自動車のためトンネル内でも他の車両に比べ小回りが利く。

 トンネル内は入り口付近は明るいが進んでいくと闇に浸食されていく。

 

 ライトを遠目にして奥を照らして進んでいく。

 助手席で自動小銃の弾倉を確認して装填、拳銃も同様に確認してホルスターから抜いておく。さすがに車内で自動小銃を取り扱うのは少し手間取る。その分拳銃なら片手で扱うことができる。

 

 トンネル内は2車線の道路になっており、今のところ特に障害物もなく中間地点に差し掛かる。中々、長いトンネルの様で出口が見えない。カーブになっている地点を超えるとそれが現れた。

 

 

「やはり予定通りには、いかないな」

「今まで予定通りにいったことなんて、ほとんどありませんよ。しかし、本当に嫌な予想ばかり当たりますね」

 

 

 車輌のライトが照らしだしたのは、車線を塞ぐように横転している大型バスだ。

 トンネルの整備、点検を行う通路すらも塞がれ完全に通ることはできない。大型バスの為、撤去するには大型重機が必要になる。

 

 

「どうしますか?」

「もう少し近づけ、バスに何か書いてある」

 

 

 車輌をバスに近づけていくとバスの車体に地図が描かれていた。

 手元の地図と描かれている地図を見比べてみるとトンネルの向う側への迂回路のようだ。確かに地図の道に沿って行けばトンネルの向う側に付けるということは喜ばしい事だ。その間にキャンプ場がなければなおいい。

 

 ここに地図を描いた奴らはキャンプ場にいる可能性が高い。 

 それが、敵なのか味方なのかわからないが……。

 

 

「後退しろ」

「了解です」

 

 

 キャンプにいると思われるグループとは平和的にお話ししたい。 

 何らかの危害を加えられれば応戦しなければならないが。

 

 トンネルの入り口に戻り、待機していた隊員達とキャンプ場について話し合いを行った。問題が起きた際の交戦規定をはっきりとさせキャンプ場に続く道に車輌を進める。

 

 後続車輌との間隔は約5メートルとってあり、先頭車両にはピックアップトラック。その荷台にはミニミ軽機関銃を固定し、隊員が銃座についている。使える物は何でも使い敵と戦う中東のゲリラの気持ちが少しわかった気がする。

 こんなところで銃撃戦をして大切な隊員と弾薬を消費するのは勘弁だ。 

 

 日が沈む前に目的地を見ておきたいが、太陽は待ってくれないようだ。少しずつ太陽が傾く。

 どうやらトンネル近くの駐車スペースで夜を越すしかないようだ。

 

 駐車スペースに車輌を停めて、車輌の周りに偽装を施す。

 偽装は外を見張るための隙間と銃眼を確保し、車体に灰色のシートを被せるだけだがパッと見ると人がいるようには見えない。 

 10メートル付近には杭を立てそこに鳴子を設置していく。これも目立たないように偽装していく。

 見張りの割り振りを決めて、座席を後ろに倒し楽な姿勢をとる。車中泊なので心地よいとは言えないが仕方ない。早くベットで静かにぐっすりと眠りたいと思いながら瞼を閉じた。 




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