永琳が僕達の飼育・・・じゃなくて、研究の担当になってから数年が経った。
いくら扱いが丁寧になっても実験が実験だし、寿命の短い虫も多いから、僕以外のほとんどの虫が世代交代をしている。
・・・そういえば、親の抗体を引き継いだのか、生まれたときから抗体を持っている虫も多いらしい。永琳が他の研究者に話しているのを聞いた。そういった虫の一部は別の籠に移されて、毒無しで育てるらしい。その代わりに、数日に一度体液を採集されるらしいけど。・・・どっちでも、結局苦しむことに変わりは無い。というか、さっさと死んだ方が楽な気もする。命を大切に、って考え方は良いと思うんだけど。
ガコッ
「ギギ?(何だ?)」
突然、虫籠の蓋が完全に外された。一体、どうしたんだろう?普段なら虫が飛んで逃げていくのを警戒して、餌も注射も一部だけを開けていたんだけど。
「貴方達・・・、今まで苦しい思いをさせて、ごめんなさいね。」
今まで、というか、これからも苦しい思いをするんじゃないの・・・?
「こんなの、こっちの勝手な都合だってことは分かっているし、貴方達が私の言葉を理解してくれないのも分かっているけど・・・。私達はこの惑星を捨てて、月へ移住することになったの。」
へぇ、月に移住を、ねぇ。・・・・・・・はい?
「けど、貴方達を連れてはいけないから・・・。こんなことを言うのも身勝手だってことも分かってる。あなたたちの生活を奪って、苦しめてしまった私が言えることじゃないけど、せめてこの星で生き抜いて、幸せに暮らして頂戴。」
まぁ、苦しめられたのは事実だけどさ。今いる虫のほとんどは、この籠の中で生まれたやつらだよ?生活を奪うも何も、こいつらはこの籠で餌をもらわないと生きていけないんじゃないか?
「私のことは、恨んでくれて構わないわ。・・・ごめんなさい。」
いや、別に恨みはしないけど。ここで飼われてなかったら、野垂れ死んでただろうし。ついでに言えば、僕以外の虫は永琳の言葉を理解できない以前に、恨むとかそういう感情すらもってないと思う。感情を持つだけの知能がなさそうだし。・・・今更だけど、サソリのどこに、自我を生み、言語を理解するほどの脳があるんだろう?
「・・・・・さよなら。」
「ギギギ。(さよなら。)」
・・・さて、これからどうしよう?