東方晶蠍記   作:天翔青雷

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第二話 その種族は・・・

僕は、トラックに轢かれた。死んで、虫に生まれ変わった。そんなところだろうか?

 

 ・・・それにしては、おかしな点がある。それが、周りにいる虫の種類。僕には足が八本あったから、恐らくクモ綱の虫のはずだ。けれど周りには、僕のほかにクモ綱の虫は見当たらない。というか、足の多い虫はムカデくらいしかいない。ということは、僕がここで産まれたとは考え辛い。

 

 ここで思いつく可能性は、二つ。

 一つは、ここで飼われていた虫に憑依した可能性。

 もう一つは、ある程度成長した時点で僕という自我が目覚めた可能性。

 

 まぁ、別にどちらでもいいだろう。それをはっきりさせても、生活は変わらないし。

 

 さて、僕がいるのは虫籠の中。ということは、僕達は誰かに飼われているのだ。ならば、食料に困る心配も無い。それは他の虫も同じはずだから、態々僕を襲うものもいないだろう。

 虫として生まれたのは残念と言うほか無いけど、ここでは生活に困ることは無い。寿命の短いニートになったと思えば、まぁそれなりに楽しめるだろう。

 

 ・・・でも、退屈なのは面白くない。虫なら虫らしく、人間にできないことをしてみたい。例えば、口から糸を吐くとか。

 

「ギギッ!!」

 

 ・・・何も出てこない。というかそもそも、クモはどこから糸を吐くんだろうか。口から糸を吐くクモなんて、アニメにしかいなかったような気もする。

 無い知識を探してもどうにもならないから、とりあえずは試行錯誤してみる。頭が駄目なら、腹部で試してみよう。

 

ピュッ!

 

 ・・・今度は、何か出てきた。着弾地点にあったのは・・・液体?まだ、上手く構成できていないのか?

 もういちど、さっきと同じように腹部に力を入れて・・・あれ?

 今更気付いたけど、クモの腹部って、こんなに長かっただろうか?これじゃあまるで、サソリの尾みたい。・・・いや、「みたい」じゃなくて、本当にサソリなのか?

 試しに尾(仮)を、自分の視界に入る位置に動かしてみる。・・・うん、間違いなくサソリの尾だ。針まで付いてるし。ということは、さっき出てきた液体は、僕の毒か。・・・そういえば、今更だけど、クモの前足に鋏なんてないよね。どうして、もっと早く気付かなかったんだろう?

 

 とにかく、ようやく自分の種族が分かった。けど、逆に不安になる要素が一つ。餌に余裕があるから襲われることは無いだろうけど、この籠の中にいるムカデって、サソリの天敵なんだよね・・・。

 


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