狼少女の夢日記 〜ぼくらはあの時同じ月を見ていたんだ〜 作:三月時雨
「………なんか、ごめんね」
「うぅん、いいの。代わりと言っちゃ何だけど、英語の長文の訳見せてくれない?」
しよりは両手を合わせてお願いのポーズをする。
「別に、いいけど……。今日の1時間目って英語だっけ?」
「そうなんだよ! しかも今日の日付はあたしの出席番号! どう考えてもあたるでしょ」
「確かに………。学校着いたらでいい?」
「いいよ。よかった〜」
しよりは胸を撫で下ろすと嬉しそうに頬を緩ませた。その顏を見れてわたしもつい良かったと思ってしまう。本人の学力のためには微塵にもならないけど。
「後もう1つお願いだけど、昼買っていい?」
道の先に見えるコンビニの看板を見て思い出したのかな?
「買ってなかったの?」
「夕佳を見かけて駅前の所で買うのをすっかり忘れたみたいで」
しよりは、はははと小さく笑う。
コンビニの前に着くとしよりは「3分で済ませる」と言い残して駆け足で店の中に入っていった。ガラス製の自動ドア越しにレジに並ぶ列が見える。大半は学生服を着ていた。しよりが戻って来るまでしばらく掛かりそう……。買う必要のないわたしは店の外で戻って来るのを待つことにした。
通学路にもなっているこの国道は駅から1キロくらい先まで直線に伸びていて、ものすごいスピードで車が通り過ぎていく。学校は駅から国道を真っ直ぐ進み、途中で左に曲がってすぐの所にある。道の歩道を歩く同じ学校の生徒が遠くまで見えた。
わたしはキョロキョロと辺りを見回す。今が通学路を歩いている生徒の数が1番多い時間帯。そして、最近の学校に着く時間から逆算するとか今頃「彼」が駅の改札を出てこちらに向かっているはず。もし、わたし達に追いついたら………。
けれど、しばらくするとしよりがコンビニから出て来た。時計は見ていなかったから3分以内かどうかは分からない。ただ、しよりを待っている間「彼」の姿は見えなかった。
「お待たせ。行こっか」
わたし達はまた並んで歩き出す。コンビニのレジ袋が時々しよりの体に当たってカシャカシャと音を出す。
「何買ったの?」
「ん? パン1個にサラダ。それとおやつ。新発売なんだって。学校で一緒に食べよ」
しよりが袋から出して見せたのは表面にチョコがコーティングされたクッキーだった。パッケージは箱形で紙で出来ていいた。中で個別に包装されているのだろう。
「いいの? もらうもらう。やっぱ甘味はいいよね」
「もうずっと食べてたい。3食甘くてもいい。ホテルのデザートビュッフェは憧れるなぁ」
しよりの目はうっとりとする。
「いいよね。わたしももう食べれないって思えるくらい食べてみたい。でも、昼そんなに少なくて大丈夫なの? 運動部でしょ?」
「ただいまダイエット中。もうしばらく体重計は見たくない……」
「それでも、甘い物は食べるんだ」
「だ、だって食べたくなるじゃん」
痛い所を突かれたのか、しよりは顏を赤くして弁解する。
「それに、食べた分は部活頑張ればいいから」
「いつもより余計に走って?」
「走ると結構いい運動になるよ」
「わたしも運動しよっかな……」
わたしは昨日の体重計の数値を思い出してみる。最近体重は減っているものの、運動はしておいた方がいいだろう。このまま体力がないのも困る。
「夕佳は大丈夫だよ。運動部でもないのにスタイル抜群だし」
「そんなことないってば。最近ストレスで痩せてきてるだけだから」
わたしがそう言うと、しよりは伺うようにわたしを見てきた。
「ストレスって?」
「………まぁ、いろいろと」
言うのがはばかられてわたしはお茶を濁す。しよりも聞くのを諦め、わたしを見るのを止めてまた正面を向いた。