狼少女の夢日記 〜ぼくらはあの時同じ月を見ていたんだ〜 作:三月時雨
という訳で第3章です。
第6話
横断歩道前では同じ制服を着た青信号待ちの生徒がたむろしていた。どうして今日もっと早く起きれなかったのかとわたしは後悔する。
これだけ人がいると自分のペースで歩けない。ただでさえ、今日は家を出るのが遅れたせいで電車は混んでいて、ドア付近よりも奥に行けなかったし、座れないし、掴まる棒も近くにないし、おまけに吊り革は高くて届かなかったのに。電車の中で何にも掴まらずに過ごさないといけない苦労なんて背が頭一つ分くらい高かったりする男子陣にはきっと分からないだろう。やっぱり背が高いのは羨ましい。そんな背の小ささをカバーするために気休め程度だけどローファーの踵を高めにしているのも履き慣れているとはいえ、こういう時は疲れる。だから、駅から学校までの通学路くらい自分のペースで歩かせて欲しいと思うのだ。
目の前の人を見ながらわたしは仕方がないとは思いつつも邪魔だなとも思った。学校も苦情が来たとかでここの裏路地は通行禁止、とかこの信号を渡った後の左折は禁止、とか言って先生を立たせているけど、今のわたしは誰かと一緒にいる訳でもないから幅も取らないし、話し声も
せめてもの救いは音楽再生機器で曲を聞きながら学校に登校出来ること。まぁ、通学路が混んでいなくても使ってはいるんだけど。わたしは音楽を聴いている時間は好きだった。楽しくて休み時間とかでも聴いたりしている。曲は今人気のバンドの最近出たばっかりの新曲。エレキギターが前面に出ていて、アップテンポな曲調をしている。好きなバンドではないのだけど、クラスの中では好きな人が結構いるからきっとクラスでの話のネタにでもなるだろう。そう思って聞いていると、
「夕佳! おっはよ」
いきなり背中を叩かれてわたしは一瞬ビクッとする。叩かれる前にイアホン越しにかすかに子供らしさの少し残った高めの声が聞こえたとはいえ、驚いてしまう。
わたしは片耳のイアホンを外して振り返る。
「おはよう、しより」
「駅前で遠くに夕佳が見えたから早歩きで来ちゃった。学校に着く前に会うのってホント久しぶり。新年度初じゃない」
たしかに、最近はいつも一人で学校に行っていた。学年が一つ上がってから誰かと一緒に学校に行った記憶がない。
「そう、かもね」
「あ〜ぁ、駅前で待ち合わせとかすれば毎朝一緒に行けるのに。やっぱりダメ?」
「ダメ。朝に弱くて家を出る時間が日によってマチマチだから。わたしには待ち合わせとかは無理だよ」
「そうやって毎回断れるんだよね〜」
ほのみは残念そうに呟く。