狼少女の夢日記 〜ぼくらはあの時同じ月を見ていたんだ〜 作:三月時雨
第31話
学校のチャイムが鳴り、午前中の授業が終わる。号令がかかり先生が教室を出ると教室内にあった緊張の糸がプツンと切れて、急にガヤガヤし出した。わたしも同様にふぅと一息をつく。良かった、これで後ろを振り返れる。後ろの席に座っている桐原君がずっとわたしの方を見ているような気がしていたのだ。
最近夢の中の桐原君が頭から離れない。それは最近現実で桐原君とろくに会話をしてないせいもあるんだろうけど。夢の中に出てくる桐原君と今ここにいる桐原君が別人とは思えないし、夢の中で彼が言っていることにも嘘はないとは思う。
だがしかし、本当に信頼していいのだろうか。何よりも桐原君を受け入れることをわたし自身が許せるのだろうか。あんなことがあった以降も夢の中でわたし自身は桐原君ときちんと話をしている。それは本当のところ桐原君を拒絶しようとしていないことの現れだろうか? ただ、強がっているせいかもしれないけど、現実では会話したいと思えないし……。
「ねぇねぇ、夕佳」
考え事をしていたわたしはしよりのわたしを呼ぶ声ではっと我に返った。あの休日以降もしよりは今まで通りに接してくれていた。わたしもまた何もなかったかのように振る舞っている。
「一緒にお昼食べよ?」
しよりは何処からか適当に椅子を持ってきたようで、わたしに向かい合う形で座った。そして手にしていたコンビニのビニール袋を机の上に置いた。わたしは机の上にあった教科書類を仕舞う。
「食べ終わったら世界史のノート見せて」
「また?」
「カタカナの羅列を見てると眠くなっちゃって……」
「いいけど」
「ありがとう! 恩に着る!」
先週もこんな会話をしたような……。前回の定期テストでしよりは何点取ったんだっけ? わたしは机の中から世界史のソートを取り出す。そういえば、ノートを見せてと頼むのは出会った頃から相変わらずだったような気もする。中学時代はわたしだけでなく沙菜のノートの時もあったけど。変わらない光景。
しよりは白いプラスチックのフォークで買ってきたサラダをパクリと食べる。いつも通りのお昼の光景。
「夕佳ってさ、放課後空いてる? 今日帰りにクレープ食べに行こ」
そうやって甘い間食をするから痩せないんだよとは言えない。わたしも食べたいし。
「いいね! 行く行く」
「じゃあ、決定〜。駅前の店でいいよね。季節限定の商品を売ってるんだって」
「いいよ。で、その季節限定のって?」
「それはね………」
しよりの口調はウキウキとしていた。すると、クラスの他の女子達がワラワラとやって来て「何やってるの?」と会話に加わってきた。楽しさの混じった声が飛び交い、みんなで一緒に行くことになった。穏やかな会話。穏やかな空気。雲が二つ、三つ浮かんでいるが、空はまだ清々しいくらい蒼かった。