狼少女の夢日記 〜ぼくらはあの時同じ月を見ていたんだ〜   作:三月時雨

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 読めば分かると思いますが、この各話はこちらが便宜的に区切ったもので、基本的に章単位で「1話」です。あしからず。


第3話

 化け物は叫び声も上げず、さらさらと砂塵と化し、さっきまで化け物の体を構成していた体が粉のように小さな部分が風で舞ってぼくの顏に触れては風に流されていく。不思議とぼくの中に恐怖とか罪悪感とかはなかった。

 

 ぼくは自然とほっと一息をする。今日は背中を強打しただけで済んだけど、もっとひどい怪我の時も稀だけどある。だから、何とか一人で倒せてよかったと思わずにはいられない。

 

 ただ、残念なことにまだ終わってない。ぼくは倒した時の姿勢のままで少し呼吸を整える。目線を動かすと、いつも通り篠宮さん化け物相手に苦戦しているようだ。篠宮さんは剣を振るが化け物は体をひねり難なく避け、逆に篠宮さんに向けてこぶしを振る。空振りで体勢を崩した篠宮さんは避けようとするが避け切れず横腹に攻撃を食らう。

 

「篠宮さ……」

「助けなくていいから!! こっちはわたし一人で何とかするから!」

 

 ぼくの行動を察して篠宮さんは痛みで顏を歪めながらも声を張り上げる。でも、そんなのかまうもんか。

 ぼくは剣のつかを強く握り直す。化け物はぼくの方など見向きもしない。気付いてないのだろう。化け物の後ろに回って剣を振り下ろした。背後からの攻撃ということもあって、今度は一撃だった。化け物はさっきみたいにまるで砂でできた像のように崩れていく。

 

「大丈夫?」

「だから、あんなのわたし一人でも倒せるんだから」

 篠宮さんは攻撃を受けた横腹を押さえながらそっぽを向く。

 

「今まで一人で倒せたことがない人がいえる言葉じゃないでしょ。化け物1人相手につき2人いるんだから2対1の方が効率的だし、リスクも低いでしょ?」

「随分な自信ね。もし、自分が怪我したらどうするの。前にそれで結果としてわたしより怪我したこともあったでしょ」

 

 たしかにあの時は注意力散漫のせいで攻撃を無防備に受け、その後頭をぶつけたけどさ……。

 

「その時は仕方がないかなぁ。そうだ、手当してあげるよ。どっか怪我した?」

「いい。手当してもらう箇所なんかない。それに、自分でも出来る」

「そうとも限らないでしょ。あ、でも今回は脇腹だけか……。じゃあ、必要ないか」

「何残念そうな顏してるのよ。まぁ、別に構わないけど‥‥」

「してないよ」

「ふぅん。でも分かってるだろうけど、桐原君なんかにお腹は見せないからね」

 

 別に見たい訳ではないんだけど…。でもそのことを口にしたら余計色々と言われそうなので止めた。

 けけど、強気の口調とは裏腹に篠宮さんは押さえている右手の力を強めた。

 

「大丈夫?」

「大丈夫。アザにはなってると思うけど‥‥」

「本当に?」

「本当だってば!」

 

 篠宮さんはムキになって言う。仕方なくぼくは諦めておもむろに空を見上げた。森の木々はそこまで密集して生えておらず、また今ちょうどいる場所が森の中でポッカリ穴が空いたように木がなかったのだ。茜色に染まった空がまるで緑色の額縁に入られた丸い形をした絵みたいに見える。

 

 そんな空の赤さにぼくは思わずため息をこぼす。今日も何も変わらないまま、変えられないまま終わってしまうのかとしみじみと感じさせられるくらい赤い。もう既に木々の枝の間から月が姿を現していた。今宵は半月。毎日少しずつ欠けては満ちていく。ぼくらを見ているように殆ど毎晩現れては消えていく月。薄く光り輝いている月は今日も心なしかくたびれているように見えた。

 


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