狼少女の夢日記 〜ぼくらはあの時同じ月を見ていたんだ〜 作:三月時雨
「開きました!」
急いで、扉を開けて中に入る。篠宮さん、青年も去り様にまた化け物を砂にして続く。全員入ったところで傍に立て掛けてあった棒を差し込む。完全に差し込んだところでぼくはふぅと息を吐いた。
部屋は薄暗かった。完全に真っ暗ではないのは壁の上方の四角い穴から日の光が入ってきているから。青年はマッチを擦りロウソクに火を移す。するとより中の様子がはっきりと分かった。床や壁、天井まで木の板で横穴のゴツゴツとした表面が覆われていて、目の前にはアンティークな木製の椅子、テーブルが置かれている。目線の上にしか窓がないことを除けばログハウスの部屋にいる気分だった。各部屋はノブ付きの扉で仕切られていて横穴全体の大きさは分からないが、扉の数から十分な広さはあるだろう。
「ここにいれば心配ない。彼らもさすがにここまでは来ない」
部屋の中のロウソクに火を灯し終わって青年はニコリと笑った。確かに化け物が入口を叩いている様子はない。篠宮さんはへたりと崩れ落ちる。
「もう、いや‥‥‥‥」
心配になってぼくが肩に手をかけようとするが、篠宮さんはそれを拒否して手を払う。向かう先をなくしたぼくの手は虚しく動きを止める。
「嫌い、嫌い‥‥。みんな死んじゃえ‥‥‥‥」
篠宮さんは両耳を塞いで震えていた。青年はそれを見つめていた。
「夕佳さん」
青年はゆっくりと声をかけた。
「怖がらなくても彼らは君達を殺すために襲って来てはいない」
「なら、どうしてわたしは‥‥?」
「彼らは君達、特に夕佳さんがこの森から出るのを止めたがっている。だから君達が出口に向かえば向かう程、彼らの妨害は執拗になる。それだけのこと」
「でも‥‥それでも、わたし弱いから‥‥そんなこと言われても‥‥‥‥」
「なら、この森の住民になればいい」
篠宮さんは上目遣いで青年を見た。驚きと純粋に興味を持っている目だった。
篠宮さんの様子がやっぱりおかしい。あれ程出たいって言っていたのに‥‥。本当は特別出たいだなんて思ってなかったのだろうか‥‥。
化け物と何度も出くわしても、その度に怪我をしても篠宮さんは出ることを諦めようとはしていなかった。篠宮さんはこの森を出たいと思っている。ぼくの中にはこれまでそれが確信としてあった。それが今、揺らいでいる。
篠宮さん…………。
「住民に?」
「そ。この森に残ることは何も卑怯者がすることではない」
青年のはっきりとした物言いに、ぼくは内心苛立ちを覚えた。これまでの篠宮さんの努力を無にするつもりなのか。ぼくは我知らずに青年に食って掛かっていた。
「でも、ぼくらは森を出るために出口を探していたんですよ。ここに残る選択肢なんてないじゃないですか」
「1人で彼らを倒せない状態で?」