狼少女の夢日記 〜ぼくらはあの時同じ月を見ていたんだ〜 作:三月時雨
「部活、忙しいみたいだしね」
「夕佳は週に2回だっけ」
「美術部は楽でいいよー。入ってみる?」
「あたしには絵心ないもん。ムリムリ。それに運動してる方が性に合ってるし」
わたしが冗談めかした言葉に、しよりはケラケラと笑った。
でも、その笑顔が……羨ましかった。毎日のように部活仲間と一緒に練習し、チームとして目標に向かっているその姿が、実際はそうとは限らないと分かっていつつもわたしには眩しかった。美術部だって時に周りにアドバイスしたりするが、最後は個人作業だし。
カラオケボックスは駅からすぐの場所にあった。ビルに入りエレベーターで上がる。
「フリータイムにしよう!」
「そんなに歌い続けたら声枯れちゃうよ」
「いいのいいの。今日くらいいいじゃん」
しよりの勢いに負けて結局フリータイムになった。
ドリンクを入れてきて個室に入るや否やしよりは早速1曲目を選ぶ。曲は一昔前のヒット曲。イントロが流れ出すとしよりはマイクのスイッチをオンにしてノリノリで歌い出した。
自分も選ばなくてはと思い、曲を選ぶ機械に手を取る。頭の中にいくつかの候補が浮かんだ。
でも、この曲は地味だし、かといってこっちは歌ったら引かれるんじゃ………。
さんざん迷い、無難に今公開している映画の主題歌をセレクトした。
「そうだ、後で洋楽歌ってよ。前に歌ってた時にむっちゃ発音良かったし」
曲の間奏で一休憩していたしよりから注文される。
「そんなこと言って、しよりだって上手じゃん」
「あれはただ発音を真似てるだけだから」
「わたしもだって」
でも、せっかく聴きたいって言ってくれたし後で歌おっかな。
しよりの番が終わり、わたしの番が回って来る。それからわたし達は交互に曲を重ねていった。何度聞いてもしよりは上手い。わたしもあんな風に歌えたらなぁ。
歌い出してからあっという間に1時間が過ぎた。しよりは最初と変わらず歌い終わる度にちゃちゃっと次の曲を送信する。対してわたしはだんだんとレパートリーも減り選ぶのに時間がかかるようになった。
曲が尽きたりしない、よね?
さらに1時間後、不安は的中し曲が尽きてしまった。こんなに歌ったことがなかったから仕方がないとは思いつつ、わたしは頭の中で歌えそうな曲を挙げてみる。残っているのはしよりがいるからという理由で歌うのを諦めた曲だけだった。もう曲がないとはいえ、誰かの前で歌いたいと思えるのではなかった。
後は………。
わたしは機械で検索する。最近毎朝通学中に聴いてる曲。好きではないが歌えないことはないだろう。無事見つかったのでこれを送信する。
「お、出たばっかの新曲じゃん。いい曲だよね〜」
「わたしも通学中ずっと聴いてるけど、いいよね。初めてだけど歌えるかな」
わたしはとっさに嘘をつく。