狼少女の夢日記 〜ぼくらはあの時同じ月を見ていたんだ〜   作:三月時雨

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 それでは第5章です。前々章の会話にちょこっと出て来た休日の話です。


6月7日昼、篠宮夕佳の擬装
第16話


 ごめん、寝坊した。ちょっと遅れる。

 

 電車の中で暇つぶしにとアプリのゲームをやっているとしよりから通知が来た。

 通知に気をとられてゲームの連鎖記録がと切れてしまい、わたしは落胆する。このままいけば最高記録も出そうだったのに……。通知に関しては仕方がないが、機械なのだからせめてゲームが一区切りついたら表示するみたいな機能があればいいのに。わがままにもちょっぴり腹立たしく思いながらしよりに『了解!』と反応してわたしは視線をもう一度画面に戻した。

 車内のスピーカーからまもなく次の駅に着くと案内が流れる。自分が降りる駅まで後2つだった。1回くらいならまだリトライ出来るかな?

 

 そう思っていると、電車のドアが開き、仲の良さそうなカップルや茶髪の外国人が入ってきた。

 あの人、イケメンだなぁ……。背が高くてすらりとした姿にわたしは画面のリトライボタンを押すことを忘れて見とれてしまう。外国人は車内を一瞥するとわたしのことろから離れた、空いている席へと向かった。自然とわたしの目も後ろ姿を追いかける。するとふと中吊り広告に目が止まった。

 

 吊されていたのはお決まりの週刊誌の広告で、今話題になっている俳優のゴシップ記事や政治家の汚職事件の文字がデカデカと書かれてあるあれだ。売れているのだからおもしろいと思う人がいるということなのだろう。案外クラスで隣のクラスの誰々ちゃんが同じ部活の誰それ君のことを好きなんだ、みたいな噂を聞きたがるノリと似ているのかもしれない。わたしはこういった類いに興味もないし、読んだこともないけど。

 勿論、普通なら目もくれない。そのまま外国人を追いかけていた。でも、今回はある見出しに目が止まった。

 

 その記事は最近クラスメイトを殺した高校生の少女についてので、後ろに『仲の良かった2人の間に何が?』や『学校では優しかった容疑者の素顔』といった文字が並んでいた。

 こんなのに興味を持って読む人はこの子に同情なんか感じないんだろうな………。実際会ったこともなくただ活字の文面を読んだだけの人にこの少女はどんな風に写るのだろうか。奇人? 狂人? 人でなし?

 わたしは気持ちが沈む。別にこの子とは知り合いでも何でもない。そうではないが、人の内側までずけずけと入り込んだ脚が、そのままわたしの所まで足跡をつけようとしている気分がするのだ。

 

 さっきの駅で乗ってきたカップルはわたしの向かいの窓に沿って配置されたシートに座っていた。はっきりとは聞き取れないが、何かの話で盛り上がっているようだった。楽しそうな話し声がかすかに聞こえて来るが、2人の前で仁王立ちして怒鳴り散らしたいと思うくらいわたしには耳障りだった。

 

 電車のスピーカーがもうすぐわたしの下車駅に着くことを告げる。結局ゲームをもう一度やることは出来なかった。


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