狼少女の夢日記 〜ぼくらはあの時同じ月を見ていたんだ〜   作:三月時雨

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第14話

 あの時、篠宮さんは周りを数人もの化け物に囲まれていた。武器を手にしていたが、形勢は不利で篠宮さんは服ににじんだ血の痛みに顏を歪めていた。

 その時既にぼくはあの化け物を倒したことが何度かあった。しかも、襲われているのは夢の中とはいえクラスメイト。助けない理由がなかった。

 

 しかし、ぼくが手を貸して化け物を倒しきると篠宮さんはキッと睨んで、持っている剣をぼくの前に突き出したのだ。

 

『何なの? わたしは別にあなたの助けなんかいらなかったの。いい? わたしがピンチに会った時にささっと現れて助けてくれる必要なんてないの。分かってる? ま、分かってても分かってなくてもどっちでもいいから、さっさとわたしの前からいなくなって』

 篠宮さんの言葉は刺々しく、苛立っていた。

 

 その後が大変だった。まだ化け物はいるだろうから放っておけないとぼくは主張し、篠宮さんは一緒に行動する仲間なんていらないと抗議してきた。

 お互いの主張は平行線のままだった。そのまましばらく言い争って結局ぼくの『篠宮さんがぼくと行く気がないなら、ぼくは篠宮さんの後ろをずっとついていく』というストーカーじみた一言で半ば強引にこの形になったのだ。

 でも、あの時ぼくは篠宮さんが言っていたことを分かっていなかった。翌日学校でそのことを思い知ることになった。

 

『何で知ってるの? あんなこと誰も知らないはずなのに』

『言わないでっ!!』

 

 頭の中で篠宮さんの声がフラッシュバックする。

 あの日からぼくと篠宮さんの間に微妙な隔たりが出来てしまった。それでも日は1週間、2週間と過ぎていき、この世界での距離は元に戻りつつあった。そのことに関してぼくは内心ホッとしていた。

 

 ただ、そのことが不思議なのだ。夢の世界篠宮さんも現実世界のも同一人物なのに。どうして夢の方だけ。

「………なんで、夢の中だけぼくに対して丸くなったんだろう……」

 

 もしかしたら、篠宮さんなりに考えてることがあるのかもしれない。そう思っていると、

「だって、一人じゃ無理なんだって分かったから……」

 

 声に気付いて振り返る。

「あ、ごめん。起こしちゃった?」

「うぅん、それよりも前に目が覚めてた。ちょっと、ヤな夢を見てたから‥‥‥」

 見ると確かに篠宮さんの顏は真っ青で血の気が引いていた。

 

「大丈夫?」

「桐原君はいいの。わたしのことは気にしないで」

 口ではそう言うが、篠宮さんに元気がないのは明らかだった。

 

「気にするなって言われても……。じゃあ、どんな夢だった?」

「‥‥‥‥‥暗い、部屋の中にいる夢」

 

 聞いておきながらぼくは内心びっくりする。まさか篠宮さん自身が夢の内容を語ってくれるなんて!

 ぼくを尻目に篠宮さんはポツポツと口にしていく。

 


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