狼少女の夢日記 〜ぼくらはあの時同じ月を見ていたんだ〜   作:三月時雨

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第10話

 その一部始終を周りの女子は怪しんで、わたしに言った。

「何かあやし〜」

「口ではそう言ってるけど、本当は何かあったんじゃないの?」

「例えば、夕佳ちゃんがしよりちゃんにいじわるしたとか」

「夕佳も独り占めしたいからって、しよりを拘束しちゃダメだよ」

「もぅ、そんなことしないってば」

 わたしは笑って誤摩化す。周りの女子はただじゃれ合っているだけのつもりなのだが、これ以上一緒に話していたら根掘り葉掘り聞かれそうだったので、話を無理矢理打ち切ってわたしも自分の席の所に行き、鞄を机に置いて椅子にストンと座る。それをしよりが心配そうな顔つきで見ていた。一瞬しよりと目が合う。わたしはすぐさま目をそらした。

 

 授業前の教室はガヤガヤしている。わたしはしよりのことを意識しないように鞄から教科書を出して机の中に仕舞う動作をする。けれども、気になってしまう。ちらっとしよりを見ると、しよりは机に向かってノートにわたしの和訳を写していた。安心してわたしはまた教科書を仕舞い出したのだが、目を離すとしよりがわたしを見ているような気がして、わたしはしよりを見ては教科書を仕舞うのを繰り返した。

 

 それを何十回続けてもまだ気になってしまい、わたしは我慢出来なくなって席を立ち教室の外へ出ようと決める。小さめな歩幅で歩いていき、わたしは教室の開けられたままのドアのレールをまたごうとした。

 

 すると、不幸にも一番したくない人と鉢合わせになった。

 

 あ、桐原君…………。

 

 わたしは平然を装って笑顔を作ってみせる

「おはよう、桐原君」

 

 わたしはそれだけ言うと返事を待たずに桐原君の横を通り過ぎる。ただ、何歩か歩いた所で今度は桐原君のことが気になり、わたしは思わず振り返る。桐原君はすでに自分の座る席のすぐ側まで歩いてきていた。桐原君の席はしよりの席の隣。しよりはまだ和訳を写していた。やがて、桐原君が席につく。しよりは桐原君をちらりと見ると、口を開いて何か言おうとした。何を言うのか、わたしはつい聞き耳をする。

 

 教室の外からだったため、聞こえづらかったが、2人の会話はこんなのであった。

 

「おはよう、桐原君。後でちょっといい?」

「いいけど、どうしたの。浅野さん?」

「少し聞きたいことが……」

 会話はここまでだった。しよりはまた和訳を写し出す。

 

 何なんだろう? しよりと桐原君にはあんまり接点がないのに。しよりは何を言いたいんだろう。しよりと桐原君が話したら、どんな話題になるんだろう……。桐原君がしよりに余計なことを言わなければいいんだけど……………。

 わたしはそんなことを思いつつ教室を後にした。

 




 いろいろありましたが、これで第3章は終わりです。
 次は第4章。この話は一人称の人が物語を語っていくという形をとっていますが、勿論次の章の一人称は「ぼく」です。
 今後ともよろしくお願いします。

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