狼少女の夢日記 〜ぼくらはあの時同じ月を見ていたんだ〜 作:三月時雨
第1話
この世界は広すぎる。勿論地球は大きい。人の一生の中で訪れる町よりも訪れない町の方が多い。そんなの当然。ただ、今わたしはそういうことを言いたいんじゃない。
例えば大都会の十字路にある大きな横断歩道を渡っているとする。縦横だけでなく斜めにも白い線で引かれた道があるのを想像して欲しい。信号が青になり待っていた人達が一斉に歩き出す。その時、信号を待っていた人は自分と同じ人が他に何人いたのか知らない。視界に現れた人がそれぞれどこから来てどこへ向かうのか知らない。それ以上に他の人が何を思って渡ってるのかなど絶対に知るはずなどない。そういうことを言いたいのだ。
この世界は広い。全てを見渡すことは出来ないし、かといって殻の中に籠るには周りにある物の力が強すぎる。きっとみんなはどちらかをきちんと選んでいるのだろうけど、結局わたしは中途半端な存在としてここにいるしかなかった。
わたしはどうしてこの世界にいるのか。どうしてこの世界に生きているのか。わたしという存在があるかどうかで誰かの人生に大きく影響するなんて思えない。それはみんなと違ってわたしがどちらにも就いていないからなのだろう。
なら、どちらかに身を置けば楽になれるのか。……わたしは楽になりたい。悩みに満ちた毎日から解放されたい。そうすれば部屋の中で一人寂しくうずくまることも、急に胸を突き刺すような虚無感に襲われることもなくて済むのに。
けれど、この世界は広すぎる。片方に留まることは楽なことじゃなかった。みんなと同じことなんて出来なかった。でもわたしは楽になりたい。楽になりたいのだ。
なら、どうしたらいいの?
みんなと違っているだろうことが苦しい。違っているまま過ごしていくことが苦しい。でも、みんなと同じになろうとするのも苦しい。頑張った後に返って来る傷の痛みが苦しい。
わたしはどうしたらいいの?
どうしたら楽になれるの?
それは巨大な迷路の中で自分がどこにいるのかも分からないまま出口を探して当てもなく彷徨うことに似ていた。
わたしはどこにいるの?
どこに向かえばいいの?
そもそもどこかに向かうことが正しいの?
長い時間が経ってもわたしにはちっとも分からない。もう他の人に頼るしかない。心の中ではそのように結論づいていた。
ただ、そんな気持ちになっても、全てが上手く行く訳じゃない。
けれど、もうそれしか手段がなかった。
あぁ、どうか、お願いです。誰かわたしに教えて下さい。そして…………。