マルガレーテ《完結》   作:日々あとむ

20 / 22
 
今回の内容は、解釈は人それぞれ、という事で納得して下さい。もう終わるし。

■前回のあらすじ

ドワーフ手の平大回転。
 


The Shining Fixed Star Ⅰ

 

 

 ここ最近のジルクニフの気分は上昇傾向にあった。というのも、“漆黒と蒼”が行った偉業のおかげだ。

 

「フロスト・ドラゴンか――」

 

 頭部のみの持ち帰りで、他はドワーフの国に置いてきたそうだが、しかし十分だ。数は十九もあるのだから。

 材料の優先度は“漆黒と蒼”が上だが、残りは全て帝国で買い取るように既に冒険者組合とは話がついている。そして当然、それだけではない。

 

「あのヘジンマールはいい土産だったな」

 

 アインズからフールーダに紹介があったらしく、ジルクニフはそのままそれを受け取っただけなのだがアレは素晴らしいものだ。

 まず、ドワーフの国の知識の山だ。知識とは知っている事――それだけで価値がある。更に本人――いや本竜がプライド高くなく、効率的で合理的。素晴らしい。賢い者は好きだ。

 

 現在、ヘジンマールはその知識の山を排出する作業を行っている。人をつけ、書物に書き起こす作業を行っている状態だ。全ての知識を写すにはかなりの時間を要するだろうが、ジルクニフは待つのも嫌いではない。それが終わり次第、魔法の師をつけ魔法を覚えさせ――最後にジルクニフ専属の騎竜として回って来るだろう。

 

「いや、その前にダイエットだな」

 

 有り余った皮下脂肪を思い出し、呟く。さすがに帝国の威信のために、ダイエットは必須だ。あのデブゴンのままでは威厳が減る。もっとスタイリッシュな見目になって欲しい。ジルクニフもデブったドラゴンを飼育するのは遠慮したい。

 

 ――ちなみに、ゴンドというドワーフはこの国の鍛冶職人のもとで働いてもらっている。鍛冶職人からは、「才能は微妙」という評価が届いているのであまり期待は出来ないが、いないよりはマシである。

 

「――きたか」

 

 ジルクニフがこれからの事に色々思考を巡らせていると、控えめなノックが執務室に響いた。秘書官のロウネだ。ジルクニフは入るように促し、挨拶もそこそこに用件を促す。

 ロウネの口から発せられた言葉は、彼の国――法国から使者がやって来るというものだ。

 

「ああ。そろそろだと思っていた。さすがに、“漆黒と蒼”がド派手にやったからな」

 

 “漆黒と蒼”――いや、正しくはアインズは今回ばかりはかなり派手に動いた。フロスト・ドラゴン十九匹を、別のドラゴンの協力があったとはいえ討伐する――それは実質不可能な域の難易度だからだ。

 そして当然、それだけではない。“漆黒と蒼”の魔法詠唱者(マジック・キャスター)――イビルアイという女も見過ごせない問題を作っている。

 それは――彼女が魔力系第五位階魔法を使用している可能性がある事だ。

 

 魔法詠唱者(マジック・キャスター)の育成に力を注いでいる帝国でも、第六位階に到達している魔法詠唱者(マジック・キャスター)はフールーダしか存在しない。そしてその高弟達であろうと、第五位階魔法を行使する存在はいなかった。第四位階魔法が精々なのだ。

 つまり、第五位階魔法とは完全に英雄の領域――冒険者組合の中には存在せず、竜王(ドラゴンロード)などのどこか超越した者達が行使する魔法の領域なのである。

 

 そしてフールーダでさえ、二〇〇年以上生きてようやく第六位階に辿り着いた。ドラゴン達は言わずもがな、異形種――寿命の無い種族達である。

 

 その中で、顔を隠しているとはいえ体躯からどう見ても少女の域を出ない存在が第五位階魔法を行使する。捨て置ける案件では無い事は確かだ。

 

 ……これが、信仰系魔法であるなら話が違っただろう。信仰系魔法は実のところ、帝国を含めた他国では伸びしろが少ないが、法国だと話は変わる。法国は第五位階魔法の復活魔法を行使出来る存在が何人か存在しており、もしかするとそれ以上――という可能性が高い国なのだ。これは国の暗部さえ知るようになる上層部であれば、当たり前に考える可能性である。

 

 だが、イビルアイは違う。彼女は魔力系――そして元王国の冒険者。そう、あの魔法詠唱者(マジック・キャスター)の価値を全く理解出来ぬアホ共の国の出身となっている者。

 

 つまりアインズ同様に、とんでもない爆弾(・・・・・・・・)を抱えている可能性が高かった。

 

 帝国は勿論、法国であっても無視出来ない存在となったのだ、彼女は。

 

「足止めなさいますか、陛下?」

 

 ロウネの言葉に、ジルクニフは首を横に振る。

 

「いや、構わん。贅沢を言えば先に接触したかったのは確かだが――俺は“蒼の薔薇”には嫌われているからな。もう少し時間を起きたい。あの気色の悪い女とペットの起こした問題もある」

 

 下手に接触すれば、ジルクニフが世界一嫌いなあの女の話になる可能性があった。今はまだ、あの女には言及したくない。穏便に――あまり怪しまれない方法であの女の存在を世間には忘れ去って欲しい。ありのまま(・・・・・)を話すと、ジルクニフのスキャンダルに発展してしまうからだ。

 

「かしこまりました」

 

 ロウネの返答に満足し、ジルクニフは思い出してしまったあの女とそのペットが起こした問題を考え――

 

(久しぶりに、羽を伸ばしてみるかな)

 

 色々なものを忘れられる、ただ純粋に楽しめる闘技場を思い出し――溜息をつく。

 

「それと、陛下。お客様が一人お見えになってます」

 

「うん?」

 

 ロウネの口から出た客の名前に――ジルクニフは少し考え、アポイントメントの予定を組み立てた。

 

 

 

 

 

 

 ――ドワーフ達の件から、既に一月が経過した。

 

「アインズ!」

 

 背後からかけられた声に、アインズは振り返る。そこにはイビルアイがおり、イビルアイは立ち止まったアインズの横に立ち、再び口を開いた。

 

「どこに行くんだ?」

 

「……適当に散歩だな」

 

「そうか。一緒に歩いてもいいか?」

 

「ああ、いいぞ」

 

 イビルアイの言葉にアインズは頷くと、イビルアイは喜んだようだった。アインズはイビルアイと共に帝都の街を歩く。

 

「それでだな――」

 

 イビルアイは楽しげに、アインズに話題を提供しながら横を歩いている。アインズはそれを黙って聞いていた。

 

 ……この散歩に、特に理由は無い。それぞれ自由行動というだけで、何か目的があるわけでもない。実際、ラキュース達も冒険者組合に行ったり、ブレインのように何もせず引きこもっていたりとそれぞれ好きに行動している。

 そんな中、アインズは気ままに散歩に出掛け――イビルアイはそれによくくっついてくるというだけだ。

 

「…………」

 

 何故イビルアイがアインズの横を歩きたがるのか、それは既にブレインに教えられて分かっている。ただ、アインズはやはり不思議だった。

 

 自分の何が、彼女の琴線に触れたのか分からない。

 理由が、さっぱり思いつかない。

 

 イビルアイがアインズに惚れているというのは分かったが――アインズはもはや一年近く経過したこの時も、さっぱりイビルアイの気持ちが理解出来なかった。

 

(俺が恋愛経験が無いせいかなー)

 

 もとより、そういった感情を覚えた事は一度も無い身だ。クリスマスに独り身で嘆く事はあったがしかし、本当に恋人がいる人間を羨んだ事があっただろうか。あれはむしろ、雰囲気に酔っていただけのように思う。

 そもそもあの世界に好ましい人間がいたのなら、異世界でこうも暢気に暮らしなどしないだろう。

 

 だからだろうか。イビルアイが分からない。アインズには、彼女の気持ちがさっぱり分からなかった。

 

 自分なんて(・・・・・)どこにでもいる(・・・・・・・)誰かに過ぎないのに(・・・・・・・・・)

 

「――――」

 

「どうした?」

 

「いや、なんでもない」

 

 少し雰囲気の変わったアインズに目敏く気がついたのか、イビルアイが不思議そうに話を中断して声をかけてくるが、アインズはそれに大丈夫だと返事をして、イビルアイの話の続きを促した。イビルアイは不思議そうにしながらも、しかし話を再開する。

 

(……いかん。どうも、ここ最近ネガティブな考えばっかり浮かぶな)

 

 原因(・・)は分かっている。あの黄金の女だ。黄金の女に指摘された本質が、どうも頭の隅に残って消えないのだ。

 

 だからつい、他人と自分を比べたくなる。

 

 だからつい、自分に愛想が尽きかける。

 

 自分なんて、所詮■■■(・・・)に過ぎないのだと自覚しているから――。

 

「――い、おい! アインズ!」

 

「――ん?」

 

 イビルアイに耳元で叫ばれて、アインズの意識は再び浮上する。見れば、イビルアイが少し呆れた様子を見せていた。

 

「話聞いていたか?」

 

 どうやら、また引き摺られていたらしい。素直に謝ろうとして――

 

「それとも――私の話はつまらなかったか?」

 

 イビルアイはそう、アインズに申し訳なさそうに告げた。アインズはそれを即座に否定する。

 

「いや、そんなことはない。ただ単純に、ぼうっとしていただけだ。気にするな」

 

「そうか? ……なあ、アインズ。もしかして疲れているんじゃないか?」

 

 イビルアイが心配するような声を出すので、アインズは困った。彼女は自分がアンデッドだと知らないとはいえ、疲労無効の指輪を持っているのを知っていたはずだ。

 そんなアインズの困惑が伝わったのか、イビルアイは早口で告げる。

 

「いかん! いかんぞ――アイテムで紛らわせているとはいえ、精神的な疲労は感じるものだ。私が言うんだから間違いない!」

 

「それは――」

 

 イビルアイがアンデッドだからか、と思ったが途中で口篭もる。さすがにその一言はまずかった。

 だが、人生の先輩に聞いて分かった事もある。

 

(アンデッドでも精神的疲労は感じる――確かにな)

 

 アイテムや特殊技術(スキル)で誤魔化しても、精神的な疲労はやはり感じるらしい。イビルアイという吸血鬼でもそうなのだ。当然、同じくアンデッドであるアインズだって感じるだろう。

 

(疲れている――そうかもな)

 

 これほどネガティブな思考を回してばかりいるのだ。確かに、アインズは疲れているに違いない。アインズは、イビルアイに話しかける。

 

「なあ、イビルアイ。俺はこれから闘技場でも行こうかと思ったんだが――」

 

「あ、ああ」

 

「……その、一緒に観に行くか?」

 

「……えっと……、い、行く! 行くぞ!」

 

 アインズの誘いの後、少し沈黙し――イビルアイは叫ぶように頷いた。アインズとイビルアイは二人並んで、この帝都で最も騒がしい場所へと向かって行く。

 

 まだ闘技場は遠くに離れているとはいえ――それでも、彼らの熱狂はアインズとイビルアイに届いていた。

 

 

 

 アインズとイビルアイはかつての依頼でオスクから受け取った闘技場のVIPチケットを使い、見学席に座る。VIPチケットを使ったが、アインズもイビルアイも特にこだわりも何も無かったので、貴賓席ではなく一般客用の席を用意してもらった。

 ……もっとも、スタッフ達は慌てていたが。アインズにはどうでもいい事であったし、イビルアイはそもそもアインズの隣に座れれば何でもいい、という状態なのでスタッフ達の慌てようは無視された。

 

 闘技場は円形の形をしており、その一区画に大きな入口がある。馬車はそこから乗り入れ、貴賓室の客もそちらから出入りする。一般客と搬入搬出用の出入り口はまた別にあり、計三つの出入り口が存在した。

 

 アインズとイビルアイは一般客に仰天されながらも、何でもないように一般人と同じ席に座る。周囲の一般客は困惑気味にチラチラと二人を見るが、演目が始まるともはや奇妙な二人組など気にする者はいなかった。

 

 闘技場で行われる演目は冒険者チームがモンスターの討伐を行ったり、一対一で前衛戦士が戦ったりなどの中々飽きない構成をしている。熱心に見物しているアインズの横で、イビルアイは次の演目をプログラムで確認していた。

 

「……おぉ、どうやらいい時に来たらしいな。次はあの武王の試合だぞ」

 

「ほう……」

 

 イビルアイの言葉に、アインズは尚更興味が引かれる。武王はこの闘技場で最も強い亜人種だと、確かイビルアイは以前言っていたはずだ。

 観客達の熱気も最高潮で、誰もが興奮気味に武王の登場を待っている。イビルアイは武王の相手を確認していたのか――困惑気味に呟いていた。

 

「武王の相手は――“闘鬼”、ゼロ……?」

 

 イビルアイの困惑気味の声にアインズは首を傾げてイビルアイに視線を向け――イビルアイはしばし呆然とした後に――

 

「ろ、六腕のゼロだとおおぉぉおッ!?」

 

 イビルアイはアインズの隣で、叫び声を上げた。

 

 

 

 

 

 

 かつて帝国に巣食っていた邪神教団――それももはや存在しない。“漆黒と蒼”及びレイナース率いる帝国軍に暴かれ、教団員は全員捕縛されたからだ。

 そして同時に八本指に所属するコッコドールと、その警備部門でも名高い六腕のサキュロントまでもが捕縛されたために八本指もジルクニフに根こそぎ解体させられた。

 大半は犯罪者として――特に麻薬部門の人間は念入りに調査して――処刑されたが、一部はその処刑を免れた者達がいる。

 それが六腕――主に警備部門に所属していた人間達だ。

 

 強さは時に、何よりも優先される。特に犯罪に拘りの無かった六腕とも呼ばれる者達は、ジルクニフの懐柔に特に異を唱える事も無かった。ジルクニフも、それが分かっているから懐柔した。

 

 そして生き残った六腕は――不死王なる者は既に死亡し、欠けていたが――それぞれが別の階級や任務を貰っており、ゼロもまたその一人だった。

 そしてゼロはここに自らの強さを確かめるために、休暇を利用して闘技場に登録し、武王と試合を組めるように話をつけていたのだ。

 話を受けたオスクも、ゼロの強さは知っていた。六腕最強のゼロ。アダマンタイト級冒険者と同等の実力を持つ修行僧(モンク)。当然、オスクも興味を持っていた。むしろ、ゼロからの挑戦は渡りに船だと言える。

 

 そしてここに、一般人は知らないながらも――誰もが夢見る、アダマンタイト級冒険者と同等の実力を持つ者達の、対戦カードが組まれたのだ。

 

 ゼロは待つ。今回は自分のフィールドではない。ここでは自分が挑戦者だ。ゼロは闘技場の中心で、武王を待った。

 スタッフの叫び声が上がる。観客達の熱気は最高潮。そして――圧倒的巨体を晒し、全身を鎧などで武装したこの闘技場の王者――武王ゴ・ギンが入場した。

 

 

 

「どちらも強いな」

 

「ああ」

 

 アインズとイビルアイは武王とゼロの対戦を見物しながら、呟く。本当に、予想以上に二人は強かったのだ。武王は戦士としてのレベルはそこまで高くないが、しかし種族としての特性が凄まじい。その巨体、腕力、そして再生能力――そのどれもが異世界の人間にとってはあまりに羨ましいものであっただろう。

 対するゼロも、ガガーラン並みに強いと思われる。この異世界で初めてアインズはモンクを見たが、ゼロの拳は鎧さえ削り、砕いていた。そして技術力は武王より圧倒的に上だ。おそらく、この異世界でも高水準の戦いだろう、これは。実際観客達の熱気は留まるところを知らない。

 

 そして二人は激闘の末――遂に決着を迎える。最後まで立っていたのは、武王。ゼロの敗北だった。

 

 しかし、それはゼロが武王より弱かったというわけではない。相性の差だ。ゼロの戦闘方法は武王には通用しにくかった。それだけに過ぎない。ゼロが内臓に直接ダメージを与える高レベルの気功使いであったなら、結果は全く違うものになっていただろう。

 

 ゼロは担架で運ばれていく。この後、回復魔法でもかけてもらった後に帰るのだろう。イビルアイは「いいのか、アイツ……いや、たぶん皇帝がちゃんと手綱は握っているよな……?」とアインズにはよく分からない話をしていたが、まあ気にする必要は無いだろう。

 それよりも、アインズは少し気になる事が出来た。

 

「…………」

 

(なんか、アイツ……俺のこと見てないか?)

 

 武王は試合が終わったというのに、その場に立ってじっと一方向を見ている。それはアインズとイビルアイがいる観客席の方向だ。なんだか、アインズはつい自分が見られているんじゃないかという妄想が頭に浮かぶ。

 

(いや、見ているのかも知れないけど、こんな全身鎧(フルプレート)の男と仮面の魔法詠唱者(マジック・キャスター)が一緒にいたら気になるよな。そりゃ不思議に思ってこっち見るか……)

 

 そう納得していたのだが――。

 

 武王は近づいてきたスタッフから拡声器を取り、声を張り上げた。

 

「許されるのなら――漆黒の戦士よ! どうかここまで降りてきてもらえないだろうか!!」

 

「――――え?」

 

 武王の言葉の後、会場の全員の視線がアインズに集中する。当然だ。この場に漆黒の戦士――アインズより目立つ黒い鎧を着こんだ男は存在しないからだ。冒険者らしき存在は幾人か確認出来るが、武王の見ている方向で一番目立つ鎧の男はアインズだ。イビルアイもアインズを思わず見ている。

 

(な、何の用だよ!? っていうか、これ行かないとまずいやつだろ! 俺が恥かくやつだ!!)

 

 これで無視しようものなら、帝都の街を二度と歩けなくなる気がする。アダマンタイト級冒険者の一人として、それはまずい。チームにも迷惑をかける気がする。

 

(えぇいッ! 男は度胸だ……だよね!?)

 

 アインズはそう覚悟を決めると、席を立つ。そして、身体能力を駆使して一息で観客席から場内に飛び降りた。

 

 

 

 

 

 

 ――そして、漆黒の戦士は信じられない身体能力を披露し、場内に降り立った。

 

「――――」

 

 その、あり得ない身体能力に場内の誰もが生唾を呑み込む。それは漆黒の戦士に声をかけた武王も例外ではない。

 

 漆黒の戦士は無言で、中心部にいる武王の目の前まで歩いてくる。そして一メートルほどの距離が開いた場所まで迫り、漆黒の戦士は止まった。

 

「……感謝する、漆黒の戦士よ」

 

 武王は呼びかけに答えてくれた目の前の男に感謝する。男は特に気負いしていない口調で答えた。

 

「あそこで無視しては男が廃るだろう? ……それで、私を呼んだ意味を知りたいのですが」

 

 武王は漆黒の戦士の言葉に兜の中で笑みを作った。そんなものは決まっている。最初から、先ほどの刺青の男との試合の前から、ずっと武王には気になっていた。

 目の前の相手に集中出来ない――戦士として恥ずべき行為だが、それでも武王は意識が観客席の方に向かってしまっていた。

 

 ――闘技場の入り口までオスクと共に歩くいつもの儀式。何も語らない。それは最初の頃は相手への期待と興奮からで、いつしか失望が強くなっていった。

 今回はアダマンタイト級冒険者の実力を持つ相手だと言われ、そして確かにその強き気配に武王は闘志を燃やしていたのだ。

 だが――それよりも、もっと恐ろしいものが闘技場に存在している事に、武王は気づいてしまった。

 

 かつて、亜人種の首狩り兎はその二人を見て言った。あれは恐ろしいものだと。

 そして武王もまた、気づいてしまった。闘技場に、何か恐ろしいものが見物に来ていると。

 

 足が恐怖でうまく動かない。殺気立っているわけでもなく、単純に見物に来ているだけなのに、身を震える。心が萎える。

 けれどそれ以上に――武王が感じたのは、強者に対する興奮だった。

 

 ――ああ、感謝するぞオスク! お前は俺と出会った時の約束を、全て果たしてくれた……!

 

 いざ、前へ。目指すはもっとも恐ろしいもの。それに挑戦するために。

 そのための障害になるもの全てを粉砕し、さぁ前へ。

 

 武王は瞳に輝きを携え、真っ直ぐに、力強く一歩を踏み出したのだ。

 

 

 

「貴方に、挑戦させて欲しい」

 

 武王の要求は、至ってシンプルだった。だからこそ、アインズは困惑するしかない。

 そして、それはおそらく闘技場内の誰もが同じだろう。スタッフがまだ近くにいるので、アインズと武王の会話は拡声器を通して聞こえている。

 

「私に挑戦――? 武王、この闘技場の覇者は貴方でしょう」

 

「そうだ。俺が武王――この闘技場の王だ。だからこそ――貴方に挑戦させて欲しいのだ、漆黒の戦士よ」

 

「…………」

 

 アインズは無言で、武王に話の続きを促す。武王は、震える声で語った。

 

「貴方は強い。間違いなく強い。隣の仮面の女もよほどだが、貴方の方が恐ろしい(・・・・)。だからこそ、俺は貴方に挑戦したい。……そうだ。貴方以上は存在しない、と。俺は確信したのだ」

 

 武王は、まっすぐにアインズを見つめている。

 

「最強に挑みたい。貴方に挑戦したい。そして――――どうか、貴方を食べさせて欲しい(・・・・・・・・)

 

「――――は?」

 

「俺は今まで、殺して食べるほどの強者に出会ったことがない。だが、貴方は間違いなく俺より強い。その貴方を食らえば、俺はより強くなれる」

 

 そのまっすぐな、人外の要求にアインズは――笑った。声を出して笑った。笑うしかなかった。

 破顔するアインズを武王以外の全員が異様なものを見る目になる。アインズはそして、最後の確認をする事にした。

 

「いや……そう言われたのは初めてだ。そうか……人外とはそういうものだったな、うん。武王、貴方を笑う気はなかったので許してほしい。そして最後の確認だ――――兜を取れ、顔を見せろ」

 

 不思議な要求だっただろう。しかし武王は兜を取り、顔を見せた。

 そこには、まっすぐに、真摯にアインズを見つめる戦士がいた。しかしその輝きを知っている。アインズは、一度だってその輝く瞳を忘れた事は無い。

 

「――いい目だ。ガゼフを思い出すよ」

 

 アインズは兜の中で瞳を細めるような仕草をした。無論、気のせいだ。アインズの顔は骸骨なのだから、瞼も眼球も無い。けれど、その眩しさにそうせざるを得なかった。

 

「いいだろう、武王。その挑戦を受けよう」

 

「――感謝する」

 

 あまりにも眩しすぎる存在を前に、アインズは誘蛾灯に誘われる蛾のように、武王の要求を呑んだのだった。

 

 

 

「皆さま! ここに急遽前代未聞の対戦が確定しました! なんと――あの武王が挑戦したいと望み、そして答えた漆黒の戦士――アダマンタイト級冒険者、“漆黒と蒼”のアインズ・ウール・ゴウンの決闘です!!」

 

 観客席の喧騒は、先ほどまでの比ではない。

 

「皆さま、一度休憩を挟みますので――本日の午後――」

 

 スタッフの興奮気味の声と、観客席の喧騒は控室まで届いていた。そして、アインズは今その控室にイビルアイと共にいる。

 

「い、いいのかアインズ? こんな急な……それにあんな条件も呑んで……」

 

「構わないさ。それとも、イビルアイは俺が負けるとでも?」

 

「まさか! アインズ、お前は絶対に勝つとも! だが……」

 

「ふふ……俺もアイツが気に入っただけだ。ああ、そうだ――ガゼフといい、ブレインといい、ラキュースといい――彼らはどうしてこうも」

 

 ――俺をその輝きで、灼き尽くさんとするのか。

 

 理由はそれだけだ。その輝きは、避けがたい。だからその挑戦を受け入れる。

 自分(・・)には、決して出来ない輝きの吐露だから。

 

「少しそこで待っていろ、イビルアイ。武王との戦いで、俺もようやく答えが出せそうな気がするんだ」

 

 長年、燻り続けたこの心に。

 あの黄金の女に打ち込まれたこの致命傷に。

 “アインズ・ウール・ゴウン”というギルドに。

 

 そう――ようやく、一歩前に進めるような気がしたから。

 

「……そうか」

 

 アインズの言葉に、イビルアイはもはや何も言わなかった。

 

「……ああ、本当はお前が悩んでいるなってことは知っていたんだ。その悩みが、武王と戦って解消されるというなら、もう何も言わんさ」

 

「感謝する、イビルアイ」

 

 アインズは両手にグレートソードを持ち、闘技場の入り口へと向かう。

 

「アインズ――いってらっしゃい」

 

 イビルアイの一言にアインズは振り返り、少しだけ照れながら。

 

「ああ――いってくる」

 

 アインズは、入り口の光に向かって歩き出した。

 

 

 

 戦いは、酷く一方的だった。当然だろう。アインズは、魔法の使用は制限していても、特殊技術(スキル)の制限はほとんどしていないのだから。

 装備品だってそうだ。アインズが普段している装備は、基本的に神器級(ゴッズ)アイテム。対する武王達現地民は、漆黒聖典という例外を除いて遺産級(レガシー)アイテムにも届かない。

 第七位階魔法で作り出した鎧に、武王は歯が立たず――当然、六〇レベル級のデータ量を持たない干渉をアインズは受け付けない。ならば当たり前に、一方的になるだけだ。

 例え戦士としての腕前で武王が勝っていたとしても、アインズに傷をつける事は決して出来ない。

 

 だが、それで武王が諦めるのか。いいや、否。断じて否だ。武王は諦めない。例え勝ち目が全くなかったとしても、武王は決して敗北を認めない。

 

 何故なら、彼は“武王”だから。闘技場の覇者にして王者。王である彼は、死ぬまで抵抗し続ける。

 だからこそ、アインズには眩しく見えた。この輝きが、アインズにはとても――

 

「――教えてくれ、ゴウン殿。俺は弱いのか?」

 

 だから、この一言にアインズは足を止める。きっとこの会話は周囲には聞こえていない。観客席までは、届いていないだろう。

 

「貴方は本気を出していない。今まで、ずっと半信半疑だったが――戦っている内に確信した」

 

 武王は、震える声で――

 

「貴方の本分は、魔法詠唱者(マジック・キャスター)では?」

 

 そう、アインズの本性を見破ってみせたのだ。

 

「――――」

 

 アインズは内心驚愕する。今まで、誰にも見破られていないと思っていた。誰にも、突っ込まれた事はなかったからだ。

 しかし、武王は見破ってみせた。だからこそ、アインズは驚愕する。

 

「――何故そう思った?」

 

「俺は、色々な相手と戦ってきたことがある。冒険者チームとも。……だからこそ、貴方の本来の戦闘法は、魔法使いなのでは、と――」

 

「――――」

 

 そう、武王は数多の対戦相手と戦い、勝利してきた。当然魔法詠唱者(マジック・キャスター)もいただろう。

 ……本来、そうした多種多様な存在と戦うような事態は少ない。例え冒険者であっても、そういった対人戦闘経験を積む者はいないだろう。

 むしろ、冒険者こそ対人経験値は少なくなる。ブレインとガガーランがいい例だ。ブレインは対人特化だが、魔物のような相手と戦うのには向いていない。しかしガガーランの武技などは、対人としては破壊力があり過ぎながらも魔物相手には便利である。そもそも、ブレイン自体冒険者にならなかった理由は対人経験が積めないから、というものだった。

 そして普通の人間は、対人経験値は多くても多種多様な職業に触れる機会が少なくなる。組織に、軍属になると魔法詠唱者(マジック・キャスター)と戦う事態など基本起きないからだ。

 だからこそ、これは武王だから気づけた事。様々な種類のクラス構成の者達と戦った武王だから、アインズの本来の戦闘スタイルに気づけた。

 身体能力の規模さえ考えなければ――距離の取り方、武器の振い方など、その姿は魔法詠唱者(マジック・キャスター)に似通っている、と。

 

「……よく気づいた。そうだ、俺の本分は魔法詠唱者(マジック・キャスター)だ。実を言うと、この鎧も剣も魔法で作ったもの……実物じゃあない」

 

「やはり……ならば、ゴウン殿。やはり俺は弱いのか。貴方が攻撃系の魔法を使う必要なぞ無いほどに」

 

「それは……そうだな。実を言うと、お前を殺すのに魔法を使用する必要さえ無い。俺が本気になれば、お前は一瞬の対峙も不可能だろう」

 

 だから、やめるか。そう訊ねるアインズに武王は首を横に振った。

 

「上には上がいる。それだけで今回は価値のある戦いだった。俺はそれを知れただけでいい」

 

 最後まで戦う。そう告げる武王にアインズは声を震わせた。

 

「そうか――ああ、やはり。お前達は俺にとって――」

 

 武王の姿に長年の答えを見出しながら、アインズは武王が地に沈むまで戦い続けた。

 

 

 

 

 

 

「…………」

 

 アインズとイビルアイは無言で帝都を歩く。イビルアイは時折、仮面の下でアインズを見上げるがアインズは無言だ。

 

「…………」

 

 アインズは、武王と戦ってからというのも無言だ。何らかの悩みに対して、何らかの答えは出したのだろうが、それは果たしてよいものだったのか悪いものだったのか。

 出した答えが正解とは限らない。正解であったとしても、そもそも答えを出していい疑問だったのか。現実というのは、白か黒かの単純構造ではない。正解が分かっていたとしても、それを選べない選択というのは当然あるし……悩んでいる時の方がマシだったという残酷な答えもある。

 アインズの疑問は、果たしてなんだったのだろう。アインズの疑問とは何であったのか。

 

 ただ、イビルアイに分かる事はこれだけ。アインズの疑問は、きっとあの黄金の女が切っ掛けだ。

 

 だからイビルアイに出来る事は、アインズの出した答えが何であれ受け入れてあげる事だ。それが出来るのは、自分だけなのだと信じている。

 

「…………ん?」

 

「?」

 

 そうして二人で宿まで無言で歩いていると、途中で足を止めた。向こう側から、見覚えのある人間が歩いている。――ブレインだ。

 

「おう、ちょうどよかった」

 

 ブレインは二人のどちらかを探していたのか。二人の姿を見つけると声をかけた。

 

「アインズ、ちょっと面貸してくれ」

 

「なんだ? 何か用事か?」

 

「ああ。そんなところだ」

 

 ブレインはアインズを探していたらしい。気軽にアインズに声をかける。アインズはブレインの言葉に了承を示した。

 

「いいぞ。どこまで行くんだ?」

 

「街外れ。そう時間はかけねぇよ」

 

「そうか。イビルアイ、先に宿に帰っていてくれ。ブレインと少し出てくるとラキュース達に伝言を頼む」

 

「分かった。二人とも、早く帰って来いよ」

 

 イビルアイがそう言うと、ブレインは苦笑した。

 

「おいおい、やめてくれよ。子供じゃないんだぜ俺らは」

 

「確かにな。俺達はいい歳したおっさんだ」

 

「おっと? そういう自虐でも傷つく発言はやめろ」

 

 アインズとブレインは苦笑しながら、二人揃って夕日の街を歩いていく。イビルアイはそれを見送った。

 

「……友人、か」

 

 悪ガキ同士のようなノリだが、間違いなく友人同士にしか見えない背中を見送って、イビルアイは帰路に就く。宿に帰ると、従業員がイビルアイに声をかけた。

 

「申し訳ございません、イビルアイ様。お客様がおいでになられています」

 

「? 私にか?」

 

「はい。あちらの奥の個室にいらっしゃいますので……王国の商人の方です」

 

「そうか。では、ラキュース達に私の代わりに伝言を頼まれてくれ」

 

 アインズとブレインの事を従業員に伝え、イビルアイは案内された個室へ向かう。

 

(しかし、一体誰だ? リグリットからは何も聞いていないし、ツアーも違う……)

 

 自分を訪ねてくる人物、というものがこの二人以外に頭に浮かばず首を捻る。王国の商人といっても、何故イビルアイを訪ねてくるのか。確かに、自分は珍しいアイテムを持っているが――そういうのは冒険者組合くらい通してくる。それに、今ではアインズの方が商人には大人気だ。

 疑問を持ちながらイビルアイはその個室のドアをノックし、口を開いた。

 

「“漆黒と蒼”のイビルアイだ。用があると聞いたのだが」

 

「――お待ちしておりました。どうぞ」

 

 ドアから知らぬ男が現れ、中に促される。イビルアイは気にせず部屋に足を踏み入れ――

 

「――お久しぶりです。私のことは、覚えていらっしゃるでしょうか? 以前はゴウン殿をお訪ねしたのですが、その時に貴方にもお会いした者です」

 

「――――」

 

 漆黒の長い髪の男――かつて、イビルアイが恐怖を覚えるほどの強さを感じさせた男の登場を前に、イビルアイは頭が真っ白になったのだった。

 

 

 

「どうぞ、そちらの席にお座り下さい。お飲み物をお入れしましょう」

 

「いや……いい。遠慮する……」

 

 声が震えていないか不安になりながら、イビルアイはそう断って促されるままに対面の椅子に座った。ドアの付近に立つ、という警戒は出さなかった。そもそも、この男はイビルアイでも強さの上限が分からない相手――即ち、竜王(ツアー)級である。そんな相手に、どこまで対抗出来るかわかったものではなかった。

 

「それで……お前達は何なんだ?」

 

 とりあえず、まずは相手の正体を見極める事から始める。男は頭を下げ、丁寧な口調で名乗った。

 

「申し遅れました。私はスレイン法国からの使者で、ジョン・ドゥと申します」

 

名無し(ジョン・ドゥ)、か……」

 

 つまり本名を名乗るつもりは無い、という事だ。怪しさ爆発の相手だが、アインズは平然と相手をしていた。つまり法国の人間、というのは確かなのだろう。

 男は名乗り終えると、改めてイビルアイを見る。

 

「さて、今回私どもが訪ねた理由ですが――おおよその見当はついているかと思われます」

 

「…………」

 

「イビルアイ殿……貴方はもしや、ぷれいやーに連なる者なのでしょうか?」

 

 仮面の奥で、顔が引き攣る。見えていないのが助かった。確かに、法国からしてみればイビルアイもアインズも怪し過ぎる。その身分が――ではない。単純に、その『強さ』が、という事だ。

 この世界には歴然とした才能が存在する。稀に、才能だけでは説明がつかない強さを天元突破している怪物が現れるが、そういった例は極稀だ。フールーダのような、正真正銘人間の血しか入っていないのに逸脱者と呼ばれる怪物は本当に滅多にいない。

 そう、人間はそんなに強くなれない。亜人種や異形種のように、生まれながらの強者で、ちょっと技術を覚えたら目も当てられない怪物になる、なんて不可能なのだ。

 

 ――(ぷれいやー)という、とんでもない反則技を使わないかぎりは。

 

 だから、男の疑問は当然だ。周囲から逸脱している強さ。王国ではありえない、凄腕の魔力系魔法詠唱者(マジック・キャスター)。前人未踏のフールーダでさえ第六位階魔法までしか使えず、そのフールーダも年齢は二〇〇を超える。

 イビルアイの年齢で、魔力系の第五位階魔法を行使するなぞありえない。そういった反則を使わないかぎりは――

 

「…………」

 

 ここで、「ぷれいやーとは何だ?」と嘘をついてもよかった。しかし、そうした場合のリスクが恐ろし過ぎる。目の前の男はイビルアイでは想像もつかない強者。無理矢理口を割らせる事も可能だろう。

 そこで自分がアンデッドだと露見した場合の方が、あまりに拙い。それくらいなら、ある程度真実を話した方がよかった。

 

「……私は神でも神人でもないさ。ただ、少しだけ人より詳しいだけの女だ」

 

「……彼の方々のことは知っているのですね」

 

「ああ。十三英雄のリグリットを知っているか? あのババアから、よく当時の話を聞いていただけだ」

 

「――あの“死者使い”ですか。なるほど、納得出来る言い分ですね」

 

 そしてリグリットの名を出せば、同時にイビルアイが魔法詠唱者(マジック・キャスター)として優れている理由も納得出来てしまう。生まれながらの異能(タレント)と優れた師匠の合わせ技なら、イビルアイの現状は不可能では無いからだ。

 

(まあ、私はリグリットとは同い年なんだが)

 

 別にリグリットは魔法の師匠ではない。しかし、法国の使者はこれで納得がいくだろう。そして、彼らが十三英雄に未だ存命中の人間がいる、という事を知っていたのもよかった。これで「未だに生きているはずがないだろう」などと言われてしまえば、言い訳が難しくなる。法国の情報網を信じてよかった。

 

「なるほど。貴方の言い分は分かりました。――話は変わりますが、ゴウン殿についてはどう思っています?」

 

「――――」

 

 そして、当然こういう流れになるだろう事も予測していた。イビルアイの件は納得した。しかしアインズはどうなのだ。アレは本当にこの世界の人間か? 神か、あるいはその血が流れているのではないか――。

 

 しかし、イビルアイはその疑問の答えを口にするわけにはいかない。

 

「知らんな。本人に聞いた方がいいのでは? まあ、記憶喪失で覚えていないと言っていたので無駄になるかもしれんが」

 

「なるほど。ご協力感謝します」

 

 男はそう礼を述べると、室内にいた連れも促し用は終わったとばかりに外へ出ようとする。イビルアイはその背中を見送った。

 その、去り際に。

 

「ああ――そう」

 

「?」

 

「ゴウン殿はともかく、貴方は羽目を外し過ぎると狩らざるをえないので、ご注意を」

 

「――――ッ!?」

 

 そう釘を刺して、男達は去っていった。イビルアイは思わず仮面に手をやり、体を震わせる。

 

「……ふ、ふふ」

 

 イビルアイは一人残された室内で、力なく笑った。

 

「さすがは法国……ああ、なるほど。最初から私の種族についてはお見通しか……!!」

 

 マジックアイテムで隠したとしても、それより高位の魔法やマジックアイテム、あるいは生まれながらの異能(タレント)を行使すれば当然、暴く事は可能だ。

 今回は何の事はない。単純に、イビルアイに釘を刺しに来ただけに過ぎない。あまり羽目を外して露見するな。そうなれば、見逃す事は出来なくなる――と。

 

 思えば、当然の事だ。法国がいつ気づいたのかは知らないが、亜人種・異形種達の全てを駆逐するなどいくらなんでも出来るはずがない。どこかで、必ず線引きをしている。人間種の味方をしている節がある存在は、当然出来るかぎり見逃すだろう。

 実際、法国は十三英雄時代に見逃しているのだ。物語には載らずとも、わざわざいらぬ敵を作るほど法国は狭量ではない。

 

 今回の彼らの目的は、イビルアイに釘を刺しにきただけ。――お前の事は気づいているぞ。妙な真似はするな、と。

 

 イビルアイはそれに気づき、少しだけ自嘲した。窓を見ると、夕暮れも終わり空で星が輝いている。

 アインズとブレインは、帰ってこない。

 

 

 

 

 

 

「――さて、ブレイン。こんなところまで連れ出して、一体何の用だ?」

 

 アインズは帝都の外れ――郊外とも呼べる場所まで連れてきたブレインに、訊ねる。ブレインは何でもないかのように、言った。

 

「ん? ああ――ここなら邪魔は入らないだろうなって」

 

「ふむ」

 

 言葉の真意は不明だが、なるほど確かに邪魔は入らないだろう。ここはあの黄金の女の離宮に近い。人目を避けているあの女の陣地ならば、確かに近寄る存在は少ないはずだ。

 

 つまり、ブレインはこれから人が来たら困る事をしようとしている。

 

「なあ、アインズ――お前、本当は記憶喪失じゃないだろ?」

 

「……む」

 

 ブレインの苦笑を浮かべた問いに、アインズはどうしたものか悩み――素直に認めた。

 

「ああ、そうだ。本当は記憶喪失じゃない。実は、もっと別の理由で俺はこの周辺国家に詳しく無かった。しかしトラブルを避けるために、記憶喪失のふりをしていたんだ。その方が面倒が無かったからな」

 

「そうか、やっぱりか」

 

「いつ気づいたんだ?」

 

「あー……まあ、最初から割と疑ってた。でも、俺には関係の無い話だからな。……言っちまえば、興味が無かった。この辺はお前と一緒だよ。どうでもいいものには、興味なんて示さねぇ」

 

「なるほど。確かにそうだ」

 

 その辺り、アインズとブレインは似ているのかもしれない。しかし――二人には、決定的な違いがある。

 

「それで――話は終わりじゃないんだろう?」

 

「ああ。……アインズ、俺は――冒険者をやめようと思う」

 

「…………」

 

 それは、少し考えていなかった。まさかそういう話になるとは、全く想定していなかった。

 

「……ふむ。何故か、そう訊ねていいか?」

 

「そりゃ、リーダーとして当然だ。むしろ何も言われずに放り出されたらどうしようかと思ったぜ」

 

 ブレインは苦笑して、アインズに理由を語る。

 

「何故って言われたら……そうだな。このままじゃいけない、っていうのが主な理由だな」

 

「“このままじゃ――いけない”?」

 

「ああ」

 

 ブレインは頷く。

 

「アインズ、お前は強いよな?」

 

「否定はしないが――剣士としては、どう見てもお前の方が強いだろう。俺なんて大剣を振り回すだけだしな」

 

 武技も満足に使えない。戦士としてのレベルは上がらない。アインズは行き止まりだ。一〇〇レベル以上にはなれない。単純な技術力は鍛えられても、戦士職は得られない。

 

「そうだな。でもよ――生存率っていう方面で見れば、誰が見てもお前だろうさ。ドワーフの国で実感したよ。今の俺に、竜退治(ドラゴンスレイ)は無理だって」

 

「…………」

 

「冒険者ってのは、同じ強さの連中がチームを組んで、協力し合う関係だろう? ――そういう意味じゃあ、俺達は、“漆黒と蒼”は冒険者チームなんかじゃなかった」

 

「…………ブレイン」

 

「だから思ったんだ。このままじゃ駄目だってな。――ああ、そうだ。このまま燻るのは耐えられない。微温湯に浸かったまま生きていくのに、耐えられない。俺は――」

 

「――ブレイン」

 

「俺は――、一生懸命、生きて、死にたい」

 

 ブレインはまっすぐに、アインズを見ている。

 

「たった一度の人生なんだ。復活魔法によるやり直しなんざ糞食らえだ。考えたくもねぇ。……俺は、ひたすらに生きて、死ぬ。後悔する生き方なんざ絶対嫌だ。俺の人生は――剣を振ることだけ。それだけだ」

 

 ブレインは、片手に持っていた、ぐるぐるに布を巻いて隠していたエモノを露わにする。アインズは、その布に隠された中身を、どこかで見た気がした。

 

「だからな――アインズ」

 

 その布の中身をどこで見たか記憶を探り――アインズは、それを思い出した。

 

「剣士としては……魔法詠唱者(マジック・キャスター)に近接戦で負けるってのは、我慢ならねぇ(・・・・・・)んだよ……ッ!!」

 

「――――」

 

 その美しい刃渡り。透き通るような刀身の鋭さ。間違いない。アインズがかつて欲しいと願い、しかしある男への義理立てによって着服するのをやめたこの異世界特有のマジックアイテム。

 

剃刀の(レイザー)――(エッジ)……」

 

 あのガゼフ・ストロノーフの持っていた、リ・エスティーゼ王国のかつての秘宝だった――

 

 

 

 

 

 

「やあ、よく来たね。ゆっくり寛ぐといい」

 

「あー……偉い人に対する礼儀っていうのは、ちょっと分かんねぇんだが、かまわないか?」

 

「かまわないとも。公の場ではあるまいし――そういうのは必要な時に、必要な分だけ見せてくれればいいのさ」

 

 ジルクニフはアポイントメントを取ってやってきた男――ブレイン・アングラウスにそう微笑みかけた。

 ブレインはジルクニフにそう言われ、安心したように息を吐く。

 

「そりゃよかった。この場で打ち首――なんて言われたら、さすがに何しに来たか分かんねぇからな」

 

「ははは! アングラウス殿に対してそんな態度を取るほど私は傲慢ではないさ。――何か好みの飲み物はあるかな?」

 

「いや、そうゆっくりする気はないから気にしないでくれ。忙しい皇帝陛下の時間は取らさないさ」

 

「そうかい? 私としては、君が訪ねてきてくれてゆっくり出来る時間が取れたと喜んでいるんだがね。――まったく、これだから皇帝という立場は困る。休憩さえ、単なる予定だからな」

 

「なるほど。偉い人ってのはふんぞり返ってるのが仕事だと思ったんだが――やっぱ王国と帝国じゃ真面目さが違うな」

 

「――うむ。さすがの私も王国のアホどもと比べられると衝撃を受けるぞ」

 

「そりゃすまん。俺は偉い人ってのは冒険者組合以外だと王国貴族連中しか知らないんでね」

 

 そのブレインの言葉にジルクニフはブレインの経歴を思い出し――訊ねる。

 

「そうだ。少し聞きたかったんだが、どうして御前試合の後に名のある貴族達に仕えなかったんだ? 貴公ほどの腕前であれば、それこそ欲望を満たすのも思いのままだっただろうに」

 

 ブレインはガゼフに敗北したとはいえ、その強さは誰もが一目置くほどだったはずだ。しかしブレインはその全てを蹴って、行方不明。次に現れた時はアインズと冒険者になっていた。

 

「そりゃ簡単さ、陛下。興味なかったからだ」

 

「興味が無い?」

 

「ああ。最強ってのは男の浪漫だろう? 俺は、剣で世界一強くなりたかったのさ。はっきり言えば、ガゼフに勝つことだけが目的だった」

 

「ふむ」

 

 つまり、女や財宝などの欲望に興味が無い。単純な懐柔は不可能――とジルクニフは認識し。

 

「それに――」

 

「うん」

 

「貴族共の見栄重視のお抱えになっちまったら、腕が腐る」

 

「――――」

 

 その言葉と共に一瞬、何か鋭い気配が発された。同時に、背後で控えているバジウッド達の手が武器に伸びかける。ジルクニフは片手を挙げて、彼らを静止した。

 

(これは……釘を刺されたか)

 

 つまり、宮仕えする気はありませんよ、と言われたに等しい。勿論、ジルクニフはブレインほどの腕前の人物を見栄えだけの騎士として腐らせる気はない。しかし、こうもはっきり言われてはこの場でそれ以上の誘いは相手の不快を招くだろう。

 

「なるほど。確かにそうだ。騎士とは侍らせるものではなく、剣を振るい敵を殲滅する者――アングラウス殿の言い分はもっともだ。しかし、こうも理解して欲しいな。ガゼフ・ストロノーフは宮仕えで腕を落としたかね?」

 

「――なるほど。そりゃ確かに。何事も時と場合によるってやつだな」

 

「ははは――」

 

 互いに苦笑する。そして、ジルクニフはブレインを見つめた。

 

「それで――アングラウス殿。此度は一体私に何用かな? 君のようなストイックな男が、用も無いのに皇城まで来はすまい。私にしか出来ない何かがあって、ここまで来たのだろう?」

 

「ああ、そうだな。――唐突で悪いんだが」

 

「うむ」

 

「――剃刀の刃(レイザーエッジ)、貸してくれ」

 

「――――」

 

 さすがにそれは、ジルクニフでも二つ返事で了承するのは憚られた。

 

「……アングラウス殿。分かっていると思うが、かつての王国の秘宝は、今や我が帝国の秘宝。一つとして、そう安易に貸し出しできるものではないのだがね」

 

「ああ。分かってる。当然、担保になりそうなものも持ってきた」

 

 ブレインはそう言うと、ジルクニフの前に、目の前のテーブルにことりと小さなマジックアイテムを置く。――それは、指輪だった。

 

「それは?」

 

「貰い物なんだがな。希少性で言えば王国の秘宝と引けは取らねぇと思う。……睡眠・食事・疲労無効の指輪だとよ」

 

「…………は?」

 

 言われた意味が理解出来ず、ジルクニフは思わずブレインの顔を間抜けな表情で見つめた。対するブレインは、なんでもないような表情と声で告げる。

 

「だから、睡眠・食事・疲労を無効化するマジックアイテムだと。効果は一応、俺で実証済みだ。なんだったら、この場で調べてくれてもいい」

 

 ブレインの言葉に、ジルクニフは考える。確かに、ブレインの告げる効果が本物ならば間違いなく国宝級のマジックアイテムだ。だが、こんな物がそうポン、と気軽に出るだろうか。

 

「それは……どこで?」

 

「アインズに貰った」

 

「――――」

 

 当然、ジルクニフはアインズが珍しいマジックアイテムを幾つも持っているという噂を知っている。しかし、そのアインズでもこれほどまでのマジックアイテムを易々と渡せるのだろうか。ジルクニフは考え――

 

「レイナース」

 

「はい」

 

「フールーダを呼んで来い」

 

「かしこまりました」

 

 背後に控えていた一人、レイナースにフールーダを連れてくるよう告げる。それで、疑問は解けるはずだ。

 そして――――

 

「…………」

 

「……確かに、本物のようだな」

 

「……なあ」

 

「言うな、言わないでくれアングラウス殿。出来れば見なかったことにしてくれると嬉しい」

 

「お、おう……」

 

 一悶着(・・・)はあったが、そのマジックアイテムの効果は確認された。本物である。

 つまり――等価交換は成立したという事。

 

「……どうして剃刀の刃(レイザーエッジ)が必要か、と訊ねるのは野暮かな?」

 

 ジルクニフの言葉に、ブレインは苦笑した。

 

「まさか。それで何をするのか聞くのは持ち主として当然だろう。俺が犯罪行為しに行くのかもしれねぇし」

 

「ふむ。少しくらいなら見逃すつもりがあるが?」

 

「遠慮しておくぜ。首輪をつけられるのは御免だ。言っただろう」

 

「ならば、何故――?」

 

 ブレインは、真剣な瞳で――告げる。

 

「そりゃ勿論、喧嘩のためさ。夫婦喧嘩じゃねぇんだ。オタマで殴ってどうするよ(・・・・・・・・・・・・)?」

 

 

 

 

 

 

「…………いつ気づいた?」

 

 アインズは剃刀の刃(レイザーエッジ)を抜いたブレインに、訊ねる。いつ、自分が魔法詠唱者(マジック・キャスター)だと気づいたのかと。

 

「最初は、当然気づいてなかったぜ。何せその身体能力だ、普通にありえねぇだろ」

 

 だから、気づいたのはもっと後なのだと。

 

「でもな、お前と模擬戦やったり、他の冒険者連中の訓練とか見ていて、気づいたのさ。――ああ、お前の距離の取り方、武器の振るい方。そういうのが――その身体能力さえ考えなけりゃ、どっかで見たことあるなって」

 

 ――そう、つい先程も見破られた。武王は、アインズの戦闘スタイルを見破った。その原因は、武王の経験値――本来あり得ない、様々なクラス構成の者達との戦闘経験だ。

 つまり。

 

「ああ――こいつ、凄腕の魔法詠唱者(マジック・キャスター)が図らずも近接戦を仕掛けられた時と、似たような行動してやがる、って」

 

 武者修行のために様々な人間と戦ったブレインにも、その経験値はあって。

 しかもブレインは――アインズは知らない事であったが、この異世界でも凄腕の魔法詠唱者(マジック・キャスター)と、戦った事があったのだ。

 十三英雄の、リグリット・ベルスー・カウラウと。

 

 後は記憶を頼りに、ブレインの天性の剣士としての、戦闘者としての才能を駆使して思考を回せばいい。そしてブレインは気づいてしまったのだ。アインズの、本当の戦闘スタイルに。

 

 そう、だからブレインはアインズがあの大裂け目の崖下に落ちても気にしなかった。途中で〈飛行(フライ)〉でも使えば、無傷で地面に着地出来るだろうと。

 だから霜の竜(フロスト・ドラゴン)を殺し回っても、疑問に思わなかった。自分の知らない、高位魔法を使ったのだろうと納得したからだ。

 

 だから、つまり――。

 

「ああ、畜生……信じられねぇ……ッ! 俺は――俺は、魔法詠唱者(マジック・キャスター)に劣るほど、弱いのか? 魔法詠唱者(マジック・キャスター)のお遊戯に負けちまうほど、俺の剣はゴミだって言うのかよ……ッ!!」

 

 それが、ブレインには許せない。だから――――

 

「勝負だ! アインズ・ウール・ゴウン!! お前にここで勝てないと……俺は前に進めねぇ……ッ!!」

 

「――――」

 

 本気だと。そのためにわざわざ剃刀の刃(レイザーエッジ)まで借りてきたと。これなら、アインズの無敵の防御を破れるかもしれない――そう思って。

 

 アインズと戦って、勝つために。

 

 その輝く瞳。前へ進もうとする意志。あまりに眩い姿にアインズは――

 

「ふ――ふふ――」

 

 笑い声。腹の底から、アインズはついぞ漏れてしまったそれを止められない。

 だが――その漏れた笑い声は、どこか不吉な音色をしていた。

 

「ああ――やはり、お前達は眩しいよ。ブレイン、お前も――ガゼフも、ラキュースも、あの武王だって――」

 

 眩しい生き方だ。常に真面目に、全力前進。決して諦めず、挫けて膝を突いても立ち上がり、前を見つめてひたすら前へ。

 アインズは、その生き方に憧れるから――ああだから、つまり。

 

「羨ましいんだよ、このクソどもぉぉぉおおおおッ!! 俺の前で、そんな眩しい姿を見せつけてくるなぁぁぁあああッ!!」

 

 自分では決して出来ない生き方を前に、アインズの心はついに感情抑制さえ振り切った。一定以上の量を振り切った感情の昂揚は、アンデッドの種族特性で無効化され、感情は抑圧されるがしかし――

 核融合のように連鎖する感情の爆発は、抑圧された端から復活する。もはやその程度では止まらないし止まれない。後から後から湧き出るその複雑怪奇な感情は、今まで冷静沈着でいさせたアインズを変貌させた。

 

 まるで――人間のように。

 

「諦めない? 立ち上がる? 前を見つめてひたすら前へ? ――ああ、畜生ふざけるな――!!」

 

 背中のグレートソードを引き抜く。かろうじて本性(・・)を見せない程度の理性は保てたが、それだけだ。じくじくと輝きという名の刃で突き刺された架空の心臓と脳髄は、その元凶(・・)を滅ぼせと今も執拗に訴えている。

 

 彼らを前に――自分はなんて惨めなんだろうと、そう思う心を止められないから。

 

 決意を胸に、どのような形にせよ一歩を進める彼らが羨ましいから。

 

 そんな風になれなかった自分が、あまりに情けないから。

 

「叩き落してやるぞ、ブレイン・アングラウス――! その輝きを、俺の前から排除してやるッ!!」

 

 それがどうしようもない八つ当たりであっても、惨めな自分はそんな方法でしか輝きに向き合えないから。

 

 現実(リアル)に還れず、いつまでも朽ちて忘れられた大墳墓(アインズ・ウール・ゴウン)墓守(ギルドマスター)でしかいられなくて――遂にはこんなところまできてしまった人間(プレイヤー)だから。

 

 かつて――黄金の女に指摘された通り、自分は単なる負け犬(・・・)に過ぎないのだと強く自覚しているから――。

 

 惨めで、羨ましくて、どうしようもなく憧れるから――。

 

 その輝き(・・)を粉砕するために、今――憧れた彼らとは真逆の決意で、現実から逃げた負け犬(オーバーロード)は、一歩を踏み出した。

 

 

 

 

 




 
やっぱ好きなキャラは負の側面も愛さなきゃ嘘だよね!

というわけで、ラスボスはブレイン(精神戦)です。
 

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。