マルガレーテ《完結》   作:日々あとむ

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■前回のあらすじ

タイトルの邪神ってどういう意味なの?
1.邪神教団 2.アインズ 3.ラナー

ジル「うーん。悩むなぁ(1番の選択肢を捨てながら)」

 


Greed and Selfless Ⅰ

 

 

 ……はーっ、はーっ……

 

 緊張で息を荒げながら、彼は必死に身を縮めながら歩いていた。くぐもった呼吸の音が微かに空間に響き、空気を震わせている。

 ずるずる。ずるずる。引き摺るように歩く。なるべく音を立てないように。誰にも、今の場所がばれないように。

 そう、彼は逃亡者だった。

 

 ……はーっ、はーっ……

 

 恐ろしさに心臓の音が五月蠅いくらいに鳴り響く。周囲にも聞こえているのではないかと思えるくらい、激しく動く心臓を止めたくて仕方ない。

 ああ、止められるものなら止めたかった。これが生きるのに重要な器官でなければ、すぐにでも叩き潰して音を止めてやるのに。

 

 ……はーっ、はーっ……

 

 擦れて、くぐもった音が口から洩れる。呼吸と鼓動がこの空間に響いている。坑道内はとても暗く、狭いがそれでも止まるわけにはいかない。

 そう、止まるわけにはいかない。足を止める事は出来ない。

 止めたら、殺される。食われてしまう。生きたい。

 だから、止まらない。

 

 ……はーっ、はーっ……

 

 必死に、けれど慎重に歩く。坑道内は複雑だ。幾つもの出入り口に分かれているため、追跡するのは容易ではない。その事実を信じ、必死に前へ進んでいく。

 

 ……はーっ、はーっ……

 

 ざりざり。ざりざり。足元から土の音。

 

 ……はーっ。はーっ……

 

 自然発光する鉱石で作られたランタンが、地面に敷かれたトロッコの線路が、進むべき道を照らしている。それだけが今の彼が信じ、頼れるモノ。

 

 ……はーっ、はーっ……

 

 やがて、トロッコの線路が途切れ、微風が彼の体を撫でるようになった。出口が近い。地上が近い。地上は恐ろしい(・・・・・・・)が、それでもこの圧迫感よりはマシだった。

 

 息を荒げながら、前へ進む。この些細な微風を頼りに、進んでいく。出口から差し込む太陽の光が目を刺し、視界が白く灼かれ見えなくなる。

 けれど、心を満たすのは不安ではなく安堵だった。ようやく、この地獄から解放されるのだ、と。

 その、見えなくなっていく視界の中で。

 

「ひ――――」

 

 角を、翼を、尾を持つ巨大な生き物が、その出口で彼が来るのを今か今かと待ち構えていた……

 

 

 

 

 

 

「射出!」

 

 ラキュースの肩の周囲に滞空していた浮遊する剣群(フローティング・ソーズ)が一斉に撃ち出され、空を切って目の前の敵を滅多刺しにする。相手は避けられない。何故なら、足元をイビルアイの魔法〈砂の領域・対個(サンドフィールド・ワン)〉で固定されてしまっているから。

 ……しかし、付属されている盲目化・沈黙化・意識朦朧などの追加効果は抵抗されている。もっとも、機動性を殺しただけでも十分なのだが。

 

 足元を固定され、身体を滅多刺しにしようとする剣群を前に相手はぐらりと体勢を崩した。剣群は刺さらなかったが、その衝撃は有効でバランスが崩れる。そんな相手に向かい、更に容赦のない追撃が放たれた。

 

「うおおぉぉぉおおおッ!!」

 

 複数の武技を同時に発動させ放つ、ガガーランの超級連続攻撃。防御武技〈不落要塞〉でもなければ防げないその超火力攻撃が体勢を崩して満足に防御出来ない相手の肉を削っていく。刺突戦槌(ウォーピック)が抉り取った肉片は周囲の地面に散らばり、その巨体の体積が僅かにだが減っていった。

 そこへ。

 

「――――」

 

 アインズの人間離れした筋力から放たれたグレートソードの一閃。頭の天辺から振り下ろされたその大剣の攻撃は、相手の頭部にめり込んだ後、止まる。

 脳天に半ばまで食い込んだグレートソードを物ともせずに、アインズの持つグレートソードより更に巨大な刃物が、アインズに向かって振り下ろされた。

 

「不動金剛盾の術!」

 

 アインズの前に七色に輝く眩い盾が生まれ、その大剣を受け止める。ティアの行動を追うようにティナが動いた。

 

「大瀑布の術!」

 

 自分達を視界から隠すように、相手の巨体を何処からともなく出現した水が覆う。その間にアインズはグレートソードを横薙ぎに払って相手の頭部から引き抜き、並外れた脚力で最前線から下がった――そして、アインズの代わりに視力を失おうと一切関係の無いブレインが前に躍り出る。

 

「シィ――!」

 

 そして一閃。最早人類には認識出来ない剣速で放たれた一撃は、正確に相手の首を狙い――僅かにめり込んだ後ブレインは即座に刃を返して引き抜く。

 何故なら――

 

「ふぁふぁふぁふぁ!」

 

 くぐもった笑い声が聞こえる。下卑た笑い声だ。その嘲笑に誰ともなく舌打ちを漏らす。

 

「……トロールの再生能力を舐めていたな」

 

 やはり、物理攻撃では致命的なダメージを与えられない。ガガーランの連続攻撃ならば多少削れもするが、アインズやブレインでは再生能力のせいで途中で刃が止まる。つまり今のアインズ、ガガーラン、ブレインにとっての最悪の相性。ラキュースやティア、ティナでは更に攻撃力が足りないため相手の防御力を突破する事自体が難しいだろう。

 

「――となれば、仕方ない。イビルアイを主軸に攻撃を与えるとしよう。奴の持つ武器に気をつけろ――ティア、ティナ。攻撃が当たらないようにサポートに徹してくれ」

 

 アインズの言葉に無言で双子が頷く。イビルアイはサポートを止め――トロールの再生能力を無効化する酸系の魔法を行使した。

 

 

 

「――お疲れ様でした。『トブの大森林・東の巨人討伐』依頼の達成を確認しましたので、報酬をお受け取り下さい」

 

 エ・ランテルの冒険者組合まで帰って来たアインズ達は、アインズにとっても馴染み深い受付嬢――イシュペンに報告した後、報酬を受け取った。

 この依頼主は皇帝ジルクニフであり、報酬はアダマンタイト級に相応しい破格の報酬金となっている。

 

 ……冬を越して春になった現在、帝国はトブの大森林の周囲に砦を築くためにカルネ村などの周辺村落を吸収し、エ・ランテルを基点に防波堤を広げていた。目下のところ、帝国の一大プロジェクトである。

 暇をしていた冒険者達も色々と駆り出され、“漆黒と蒼”が法国から受けていた依頼内容であるトブの大森林の探索地図を共有し(勿論、法国から許可は取っている)、徐々に大森林の謎は解き明かされてきていた。

 

 ――森の賢王が支配し、クルシュ達リザードマンが棲む南の森。

 ――西の魔蛇と呼ばれる魔法を使う魔物が支配している、未探索の西の森。

 ――そして、トロールやオーガなどが棲み、東の巨人が支配していた東の森。

 

 西の魔蛇の方が未探索なのは、そちらがリ・エスティーゼ自治領の方が近い位置だからだ。現在、あまりよろしくない話満載のそちらは、放置されている。アダマンタイト級冒険者も現在いないため、探索に乗り出す余裕が軍にも冒険者組合にも無いのだ。

 

 対して、南の森はアインズ達が法国からの支援もあり比較的早く探索し尽くしている。支配者が大変理知的な一帯だけあり、敵愾心の無いリザードマン達しかいない事もあって探索が早めに終わったのだ。

 なので、帝国が乗り出した後は軍とも協力して東の森を調べていた。軍と冒険者組合が協力しているのは、ジルクニフの名前でトブの大森林に関しての依頼が山のようにあるからである。

 

 ゴブリン達の間引き、森の詳細な地図、貴重な薬草の採取――挙げれば幾らでもあった。

 

 皇帝の名前で依頼を出しており、かつ周辺の魔物討伐は基本軍が行っているため手が空いている事もあって、帝国の冒険者組合はトブの大森林の依頼を集中してこなしていた。

 

 ――そして、アインズ達が受けた依頼はジルクニフからの指名依頼――“漣八連”や“銀糸鳥”などでは達成不可能なため“漆黒と蒼”が選ばれたのだ。

 元々帝国にいたアダマンタイト級冒険者“銀糸鳥”や“漣八連”は、周囲から人類最強の切り札(アダマンタイト)としては明言しかねるという扱いを受けている。“銀糸鳥”のリーダーは英雄級なのだが、それでもアダマンタイト――とは言い辛かった。

 それに、彼らはトブの大森林に詳しくない。そのため冒険者達の探索で東の巨人の存在が確認された後は、アインズ達の方に指名依頼として討伐依頼が回って来た。

 

 ……ちなみに、表層の探索はある程度何とかなっているが、地下のゴブリン帝国やマイコニドの集落の詳細は未だ不明となっていっる。

 

「あのトロール、面倒臭い奴だったなぁ」

 

 報酬を受け取り拠点の黄金の輝き亭へ帰ってきたアインズ達は、酒場でくつろぎ愚痴を言っていた。

 

「確かにな。トロールの再生能力ってのは凄いぜ」

 

 ガガーランの言葉にブレインも同意を示す。ブレインはトロールとは遭遇した事が無かったらしく、その面倒臭さに眉を顰めていた。

 

「火炎系と酸系の攻撃には再生能力は発揮されないけれど、とても強かったわね。森の賢王と並ぶって言われている意味がよく分かったわ」

 

 いつかの森の賢王(アインズにとってはただの巨大ハムスターだが)を思い出したラキュースが、感想を漏らす。

 

「アレは高位の魔法詠唱者(マジック・キャスター)がいないと辛かろうな」

 

 イビルアイの言う通り、イビルアイがいなくてはアインズ達では討伐は難しかったかもしれない。

 

「でも、おつむの出来が致命的」

 

「助かった」

 

 ティアとティナの感想は全員の同意だろう。とんでもないアホであったため、まだ余裕を持てた。これで森の賢王並みの知能を持っていた場合、討伐は困難を極める。

 

「……まあ、後は残ったオーガやトロール、ゴブリンをどうするかだがそちらは他の連中に任せるか」

 

 東の巨人の部下達はまだ残っているが、その辺りは全て帝国軍や他の冒険者達がどうにかするだろう。彼らはクルシュ達と違って人類との共存が不可能であったため、アインズも交流には消極的だ。対話には一定の知性が必要不可欠なのである。

 

 そうして酒場であれやこれやと騒いでいると、アインズ達に話しかけてくる者がいた。

 

「申し訳ありません……もしや、アダマンタイト級冒険者“漆黒と蒼”の皆様ではないですか?」

 

「ん?」

 

 全員で視線を声の方へ向ければ、そこには老人の執事と珍しい事にラビットマンのメイドを背後に控えさせた、恰幅の良い男が立っていた。

 

「そうですが、貴方々は……?」

 

 アインズが訊ねると、男は笑顔を浮かべて名乗る。

 

「おお! やはりそうですか! お初にお目にかかります。私は帝都アーウィンタールにある闘技場のプロモーターの一人、オスクと申します」

 

「オスク? ということは武王のところのか」

 

 イビルアイがその名を聞いて興味を示した。アインズも武王――という単語で、以前イビルアイに説明してもらった事を思い出す。

 武王は闘技場で最も強い者に贈られる称号――即ち、今目の前にいる男こそ、闘技場で最も力のある商人という事だ。

 

 イビルアイの言葉にオスクは笑顔のまま頷く。

 

「その通りです。武王は私の子飼いの剣闘士です。お詳しいのですね」

 

「いや、少しばかり耳に挟んだだけだ」

 

 だが、王国民であったのに知っているだけで、十分詳しいだろう。実際、ラキュースなどは武王と聞いて初めてオスクという商人の事を知った顔をしている。

 

「“漆黒と蒼”の皆様のご活躍は帝都にも響いております。お目にかかれて光栄に思います」

 

「ありがとうございます。しかし、帝都から遥々来られたのですか?」

 

「はい。実はお恥ずかしながら皆様方に指名依頼を届け出ようと思い、エ・ランテルまで移動してきました」

 

「わざわざ私達のところまで、ですか?」

 

 アインズの言葉に、オスクは頷く。

 

「はい。もしよければ、明日にでも組合の方で話をさせていただきたいのですが……」

 

「ふむ……まだ受けるとは言えませんが、明日の朝また組合の方に顔を出させていただきますよ」

 

 オスクはにこりと笑った。

 

「はい! お待ちしております」

 

 

 

 宿泊部屋の方へ帰ったオスクは、興奮気味に執事やメイドの姿をしている首狩り兎に捲し立てる。

 

「あー幸運だ! なんということだ! 憧れのガガーラン殿に会えるなど!」

 

 オスクはガガーランのファンだった。オスクは筋肉を重視した肉体美を好む性癖があり、ガガーランこそが理想の見た目の戦士だったのだ。

 

「しかし、見たかぎりではリーダーのゴウン殿も中々の丈夫……あー! 鎧の中に隠されたその肉体美を見せてもらえないものか!」

 

 そしてそんなガガーランに負けない体躯に見える全身鎧(フル・プレート)のアインズにもまた、興味を示す。そんな雇い主(オスク)を見て、首狩り兎は呆れ顔だ。

 

「オスク様」

 

 暴走する主人に執事が声をかける。その執事の声に「おっとっと……」と正気に戻ったオスクは、首狩り兎に訊ねた。

 

「それで、首狩り兎よ。彼ら“漆黒と蒼”の評価はどうだ?」

 

「超級にやばい」

 

 首狩り兎は淀みなく答える。見れば、鳥肌が立っていた。

 

「ふむふむ。やはりアダマンタイト級なだけあって、首狩り兎では勝てない相手か」

 

「というか、たぶんアインズ・ウール・ゴウンとイビルアイは、以前馬車の中ですれ違った二人組だと思う」

 

 帝都ですれ違った二人組――首狩り兎が絶対に遭遇したくないと思った気味の悪い二人組だ。実際、首狩り兎はあの二人の前に立った時生存本能が凄まじい音で警告を発していた。

 首狩り兎の亜人種としての勘だが……おそらく、あの二人はあのチームの中で突出している。

 

「武王同様の強者か……ますます興味深い。あー! ゴウン殿が闘技場に何とか出てくれないものか! 出場してくれれば確実に儲かるというのに!!」

 

 そして、きっと武王との約束も果たせる。

 

「とりあえず、そのための種を撒くか。依頼を受けてくれればいいが……」

 

 依頼内容を思い出し、オスクは目の前の机に突っ伏する。執事と首狩り兎はそんな主人の姿を呆れ顔で見守ったのだった。

 

 

 

 

 

 

 翌日、アインズ達が冒険者組合を訊ねると即座にイシュペンから声をかけられた。指名依頼が入っているらしい。おそらく、昨日オスクが言っていた依頼の事だろう。

 会議室の一つに案内され、そこには既にオスク達が座っていた。オスクはアインズ達の姿を確認するとすぐに立ち上がり、挨拶する。アインズ達も挨拶を返した。

 そして、早速本題に入る。

 

「さて、今回私が貴方々に頼みたいのはドワーフ達のことについてなのですが」

 

「ドワーフ?」

 

 ドワーフとはエルフと同じく人間種の一種であり、エルフと同じくダークドワーフという種も存在している。アゼルリシア山脈に王国を築いており、帝国は貿易相手でもあるため、エルフと違って法律で人権を守られている種族だ。

 

「そのドワーフ達がどうしたんですか?」

 

「はい。実は帝国では以前から小さいながらも貿易相手として取引をしていたのですが……」

 

 オスクは簡潔にアインズ達に状況を説明した。

 

 バハルス帝国は以前より、アゼルリシア山脈にあるドワーフの王国と貿易を行っていた。

 もっとも、貿易とは言っても山から下りてきた数人のドワーフ達と、幾つかの剣を買ったりするくらいだったらしいが。

 しかしどれほど小さかろうと貿易は貿易だ。ましてやドワーフ達の製造する武器や防具は性能が高く、人気商品である。帝国は常にドワーフ達と関係を保ち続けてきた。

 

 ――だが、それが今年の春、遂に途絶えた。正確に言えば、ドワーフ達が山を下りてこなくなった。

 

 アゼルリシア山脈やトブの大森林は人外魔境だ。下りてこなくとも不思議はない。しかし、一定期間で必ずあった訪問がなくなるというのは、帝国にとって少しばかり気になる違和感を与えていた。

 しかし現在の帝国は忙しい。エ・ランテルを加えて大きくなった領土に、トブの大森林からやって来る魔物達の防衛。原因を探るには、帝国の身は忙し過ぎた。

 よって、些細な違和感は見逃さざるを得なかったのだが――

 

「貴方は違う、と」

 

「はい。実は私は武器などをコレクションするのが趣味でして……ドワーフ産の武器もオークションに出品されれば必ず競り落とすほどに。なので今年はドワーフ達がやって来ないという噂を聞き、遂に我慢できずこの依頼を出そうと思ったのです」

 

「他のアダマンタイトには?」

 

「皆さんがもっともトブの大森林に詳しいと聞きました。正直、金に糸目はつけないつもりです。それと――」

 

 オスクは懐からチケットを取り出す。

 

「こちら、帝都の闘技場のVIPチケットです。よければこちらも」

 

「は、はあ!?」

 

 思わずアインズ達は声を上げる。闘技場のVIPチケットは貴族でもなければ払えない高額チケットだ。庶民の娯楽とはいえ、当然貴族達だって娯楽にしている。あの皇帝でさえ時折観戦に来るくらいだ。

 それを人数分――つまり七人分。しかも無期限。オスクの本気度が窺えた。

 

「なるほど……しかし、それほどの報酬を用意してもらっても、よい結果に繋がるとはかぎりませんよ? ましてや、トブの大森林はともかくとしてアゼルリシア山脈には、まだほとんど足を踏み入れていません。ドワーフの王国の位置をご存じで?」

 

「いえ、帝国もそこまでは……。ただ、地下に存在することは確かなのですが……」

 

「でしたら、正直期限付きでは難しいでしょう。それに山脈を旅するとなると、そのための費用もかなりのものになります。それでもかまわないと?」

 

「はい――。とりあえず、期限は次にドワーフ達が帝国を訪れるまでとさせていただきたい。なんでもないのなら、それが最善ですので。必要経費として幾つか前払いさせていただきますが、中止となった場合でも前払い報酬は返却していただく必要はありません」

 

 そうして幾つか更に細かく決めていくが――ひたすらにオスクの本気度が分かるだけであった。

 

「……なるほど。では、仲間と依頼を受けるか相談しますので、少々お待ち下さい」

 

 アインズ達は席を立ち、別室に移動する。そして――

 

「え? マジか?」

 

 アインズのその言葉を皮切りに全員がそれぞれ感想を告げる。

 

「あのおっさん、マジで武器のコレクション程度に、それだけ払う気か?」

 

 ガガーランが呆然と口を開き。

 

「か、完全に金持ちの道楽だわ!」

 

 ラキュースが元貴族として愕然の表情になり。

 

「自分で使うわけじゃないよな? あのおっさん、どう見ても戦士じゃねぇし」

 

 実用性皆無だというのにその情熱にブレインはドン引きし。

 

「趣味に人生を捧げている節が垣間見える」

 

「ああいう人間は結構いる」

 

 ティアとティナが今までの人生経験から多少の理解を示し。

 

「……それで、この依頼は受けるのか?」

 

 イビルアイが軌道修正する。

 

「…………」

 

 全員難しい顔で考え込んだ。と、いうのもこの依頼は金銭の問題ではないからだ。

 

 まず、ブレイン以外は実経験があるのだが、アゼルリシア山脈はドラゴン種族が多数生息している真実の魔境である。ドラゴンの一匹や二匹程度ならばどうにかなる自信があるが、それでも四六時中襲われると思うと厳しいものがあった。

 ドラゴンは最強の種族である。例えばビーストマンという亜人種がいるが、彼らの一レベルは人間にとっての十レベルだ。ビーストマンでさえ種族として圧倒的ステータス差があるのに、ドラゴンはその上をいく。

 例えばアインズとラキュース達が初めて会ったときに戦っていたあのブラック・ドラゴン……あれがつがいで“蒼の薔薇”の前に現れた場合、彼女達は全滅するだろう。そういう交通事故のような状況が、無いとも言い切れないのだ。

 救いとしては、基本的にドラゴンは群れで活動せず、更に縄張りも広いため遭遇する危険性自体は少ない。

 だが、アゼルリシア山脈にはどれほどの魔物が潜んでいるか、分からない。アインズ一人ならば平然と活動できるが、冒険者チームとしては活動困難だと言わざるをえないのだ。

 

 そうして全員が迷っていると、ラキュースが口を開いた。

 

「私は、やりたいわ」

 

「そうだな。俺もだ」

 

 そして追随してガガーランも同意する。

 

「なんでもなければいいけれど、もしかするとドワーフ達に何か起こったのかもしれないし。それなら一刻も早く解決した方がいいと思うの。それに、私達で駄目なら、きっと帝国では全員駄目だわ」

 

 ラキュースの言葉に、アインズは頷いた。

 

「確かにそうだな。俺達が解決できなければ、帝国では誰も解決できん。ドワーフ達に何か起きていた場合、それに帝国まで巻き込まれる可能性は低くない。支援があるうちに、早めに手を打っておく方が無難か」

 

「ドラゴンが相手では軍は役に立たんだろうからな。私達が行く方が得策か」

 

 アインズの言葉に、イビルアイも頷く。

 

「俺も別に不満はないぜ」

 

「同じく」

 

 ブレインと双子の言葉に、“漆黒と蒼”の方針は決まった。

 

「では、この依頼は受けるということで」

 

 

 

 

 

 

 アインズ達はまず帝都に行き、そこで色々とアイテムや食料を揃えた後にトブの大森林を迂回するように山を登った。馬は連れてきていない。アインズの馬のゴーレムを荷物持ちにして、ティアとティナを先頭に魔物に注意しながら山を登っていく。

 アゼルリシア山脈の山々は大自然に溢れており、アインズの心に高揚をもたらした。

 

(やっぱりこういう大自然はいいよなぁ……。冒険っていうのはやっぱこうじゃないと。ドワーフの国は別に見つからなくても、こうして旅をしているだけで今回の依頼は価値があったな)

 

 とは言っても感動が過ぎると抑制される。精神異常無効の感情抑制は、便利な事もあるが腹の立つ事も多い。

 

(こうして異世界に転移するんだったら、アンデッドじゃなくてもっと違う異形種を選択するべきだったかな)

 

 この体では飲み食いさえ出来ない。しかし、まさか異世界転移するとは想像できるはずもないのだから、そんな事を想定してゲームの種族を選ぶなぞ不可能だ。アインズのこれは、単なる無いものねだり――意味のないものである。

 

 そうして地図を作製しながら、様々な場所を見ていく。意味深な岩の裂け目などは、特に気にかけるべきものだ。それでもやはりドワーフ達の国らしきものは発見出来ず、数日が経った。そろそろ、一度人間の街に帰ろうかという時に――アインズ達はそれを発見した。

 

「また裂け目か」

 

 ティアとティナが先行し、そして少しして入口で待っていた五人のもとへ帰って来る。

 

「かなり深い」

 

「もしかしたら正解かも」

 

 どうやらかなり深い穴のようで、アインズ達はティアとティナを先頭にして裂け目の中を歩く。山脈の地下はぎりぎりアインズの馬のゴーレムも通れる大きさだったため連れていった。道は暗いがアインズには無意味であり、イビルアイの魔法があるため全員暗闇でも周囲を見通せる。

 しばらくして――アインズ達はかなり大きな地下に出来た裂け目を発見した。

 

「吊り橋のかかっていた跡があるな」

 

 イビルアイの言う通り、そこには吊り橋がかけられていた跡があった。しかし、何者かに落とされたのか肝心の道が無い。

 

「かなり深いな」

 

 アインズは裂け目の崖下を覗き込む。ラキュース達もアインズ同様崖下を見た。しかしそこには暗闇が広がるばかりで、底は全く見えない。手頃な石ころを拾い、ブレインが崖下に投げ入れると物音一つ返ってくる事はなかった。

 

「こりゃ、落ちたら間違いなく死ぬな」

 

 ガガーランの言葉に、全員同意する。ティアとティナだけは周囲を警戒しており、何があったか調べていた。

 そして――

 

「ストップ」

 

 双子の言葉に、アインズ達は動きを止めた。

 ティアは周囲に耳を澄ませ、ティナは地面にうずくまり耳をつけて振動を気にしている。全員は無言だ。

 

「…………」

 

 全員がほぼ臨戦態勢となっている。ブレインは刀に手をかけ、アインズも背後のグレートソードに手をかけすぐに引き抜けるようにしており、ラキュースやガガーランも同様に武器に手をかけている。イビルアイは無詠唱で〈飛行(フライ)〉を使って地面から浮いた。

 

「…………」

 

 誰もが無言で周囲を警戒していると――

 

「敵襲! 地中!」

 

 ティナが叫び声を上げ、全員が即座に地面を見た。そして武器を構える。

 

「――――」

 

 地面から飛び出してきた影を、アインズはグレートソードで即座に真っ二つにする。そしてその感触に、アインズは驚愕した。

 

「硬い?」

 

 アインズでも硬いと思う強度だったのだ。力任せに斬り込める程度の硬さではあるが、普通の魔物とは違う硬度が存在した。

 

「ギャッ!」

 

 真っ二つにされた魔物は上半身だけでそう叫び声を上げて息絶える。続いて甲高い金属音が響き、見ればラキュースやブレインの刃を受け止めている。

 

「クソッ! マジで硬ぇ! なんだこいつら!?」

 

「この……!」

 

 二人は即座に蹴り飛ばして距離を取る。イビルアイが即座にその二匹に向かって〈雷撃(ライトニング)〉を放ち、二匹は絶命した。ガガーランは力任せに魔物を吹き飛ばし、魔物は咳をして悶えている。ティアとティナはラキュースとブレインの攻防を見て即座に切り結ぶのをやめ、距離を取っていた。

 

「斬撃耐性? いや、金属武器に対する耐性か? なんだこいつらは?」

 

 二足歩行の巨大なモグラのような魔物達は、文字通りもぐらのように次々地面から出てくる。そしてそいつらはアインズ達に飛びかかってきた。

 

「っと!」

 

 それぞれ武器で防ぎ、イビルアイが先程の攻防で雷属性が弱点だと判断してそれぞれに電撃に対する耐性を付属する魔法をかけていく。アインズは即座にイビルアイが何をする気なのか見抜き、一人別の場所に距離を取った。アインズが近くにいては、イビルアイの魔法を消してしまう。

 

 一人離れたアインズを狙って魔物達が飛びかかってくるが、アインズは一撃で切り伏せていく。他の者達と違って、アインズにはこの魔物達の金属武器耐性は通用しない。普段通り、力任せに剣をふるっていれば文字通り真っ二つだ。

 

 そしてその間にイビルアイは準備を整える。範囲攻撃の〈雷撃球(エレクトロ・スフィア)〉だ。これで一網打尽にする気なのである。

 魔物達はイビルアイの方角を見て威嚇音を上げるが、無意味だ。しかし殲滅は不可能だろう。なんと言っても数が多い。

 

 イビルアイが魔法を放つ瞬間――アインズは自分のバランスがずれた事を感じ取った。いつの間にか、アインズの立つ地盤が崩れている。おそらく、魔物達がアインズと近接戦する愚を悟り足場を崩したのだ。

 

「おっと、これはいかん」

 

 鎧の重量で、アインズはそのまま崖下に飲み込まれていく。崖は深い。別に死にはしないだろうが、この崖下に何か高レベルの魔物がいれば、戦士姿のままでは相手に出来ない。アインズは落ちていく最中に、魔法を解いて鎧を脱ぐ。

 

 上からは、イビルアイのアインズの名を呼ぶ声が聞こえた。

 

 

 

「ア、ア、ア……」

 

「アインズが落ちたああぁぁぁぁッ!!」

 

 イビルアイの絶叫が響く。魔物達がイビルアイの魔法で既に不利を悟ったのか、逃亡していた。ティアとティナはまだ周囲を警戒しているが、ラキュースとガガーランは即座に崖下を覗き込む。

 

「これは……」

 

「まずいかもな」

 

 ラキュースとガガーランは生存確率はかぎりなく低いと判断せざるをえなかった。

 

「急いで崖下に行く手段を考えましょう! アインズさんの強さなら私の復活魔法も耐えられると思うわ」

 

「そうだな。早くしなけりゃ間に合わんかもしれん。おいイビルアイ! 〈飛行(フライ)〉で降りて持ち上げられそうか?」

 

 イビルアイはガガーランの言葉に慌てながら答える。

 

「わ、私の体躯では無理だな、たぶん。そもそも〈飛行(フライ)〉の効果が間に合う距離かどうかも分からん……!」

 

 そんなおろおろとしたイビルアイに、ブレインが答える。

 

「ていうか、アイツまだ生きてるんじゃねぇか?」

 

「え?」

 

 ブレインの言葉に、全員が目を丸くしてブレインを凝視する。凝視されたブレインは若干居心地悪そうにしながら、答えた。

 

「いや、たぶんアイツまだ生きてるぞ。崖下に落ちたくらいじゃ死にそうにねぇ」

 

「ブレインさん、さすがに……」

 

 アインズでも無理では……とラキュースが言葉を発する前に、ブレインの言葉に落ち着いたイビルアイが頷く。

 

「そ、そうだな……。魔樹の攻撃でも生きていたくらいだ……それに――」

 

「それに?」

 

 ガガーランの首を傾げた言葉に、イビルアイは「はっ」として、首を横にぶんぶんと振って言葉を切る。

 

「と、とりあえず!! アインズは生きている可能性の方が高い。ただ、迎えに行かないという選択肢は無いから、なんとか崖下に降りる方法を探そう」

 

「まあイビルアイ、お前が言うんならそうなんだろうが……」

 

 さすがに底の見えない崖下に飲み込まれた戦士が無事、と言われてもにわかには信じられない。だが、イビルアイの信用は高い。イビルアイがそう言うなら生きている可能性もあった。それに、イビルアイは実際にアインズがあのラキュース達ではどう足掻いても勝てそうにない魔樹と戦っている姿も見ている。

 

「じゃあ、ミイラ取りがミイラにならない程度に、崖下への道を探しましょう。ティア、ティナ。頼める?」

 

「了解、鬼元ボス」

 

「任せて、鬼元リーダー」

 

 そして六人は、先程のおかしな魔物も警戒しながら、崖下への道を探して周囲を探索し始めた。

 

 

 

 

 

 

「……崖下は普通か。特にモンスターがいそうな気配も無いな」

 

 アインズは元の魔法詠唱者(マジック・キャスター)の姿で周囲を探索して回ったが、特に反応する存在は何も無かった。強いて言うなら、白骨化した骨が色々なところに散乱しているだけだ。

 

 ……実際のところ、土の中にはモンスターが山ほどいるのだが、アインズのような恐ろしいアンデッドに近寄るアホはそういない。野生生物が本能で強者を避けて通るのと同じ理屈だ。マジックアイテムで隠していても、分かる者には分かる。そういう感覚が鈍っているのは無駄に知恵をつけ過ぎた人間種くらいなのだ。

 

 アインズは元の姿のまま、崖下を歩いていく。体感で判断するかぎり、間違いなく〈飛行(フライ)〉は崖上に戻る前に効果が切れる。別に落下しても特殊技術(スキル)のおかげで無傷なのだが、何度も落ちたいとは思わない。そもそも、魔法で上に戻った場合ラキュース達に対する言い訳が必要だ。

 

(そういえば、ユグドラシルではこういう崖の途中に横穴があって、そこで希少金属が採れるんだよな。探してみるか?)

 

 昔を思い出し、考える。しかし即座に却下した。希少金属は重要だが、今のアインズには必要の無い物だ。第一、この異世界で加工出来るほどの技術の持ち主がいるとはかぎらない。

 

(アダマンタイトまでしか加工したことがないんだよな。……巻物(スクロール)とか、回復薬(ポーション)だってユグドラシルとは製造方法が違うし。王国とか帝国だと無理だな。法国なら可能性が少しはあるか……?)

 

 法国はプレイヤーの作った国だ。ならば、希少金属の加工方法も知っているかもしれない。実際、法国の特殊部隊が装備している武具はこの異世界の物というより、ユグドラシル産とも言える雰囲気があった。

 

(けど、プレイヤーの遺産を使っているという線もあるか。……もし今度会ったら、こっちからも依頼してみるかな)

 

 手持ちのインゴットで適当な四五レベル程度の物がある。それを加工出来るかどうか聞いてみよう。なんだったら、一度法国を訪ねても構わないが――アインズは即座に却下した。向こうはアインズがアンデッドである事をまだ知らないはずであるし、洗脳系の世界級(ワールド)アイテムを持っている国は訪れたくない。

 

「……ふむ」

 

 しばらくアインズは崖下を歩くが、目ぼしいものは存在しないと思われた。アインズは魔法を使い、ダンジョン内を安全に歩くための二つの魔法を使う。一つは危険度の少ないルートを示す魔法で、もう一つは最短距離のルートを示す魔法だ。

 その魔法の案内役に従ってアインズは歩く。そして――

 

「これは……溶岩地帯か?」

 

 アインズは次第に高まる熱気を進み――魔法の効果が切れるくらいに、遂に灼熱の海へ到達した。

 

 ……アインズの知らない事ではあったが、このアゼルリシア山脈の一つラッパスレア山には〈転移門(ゲート)〉に近い能力を持つ天然の門が存在する。そのため、地下深くに存在するはずの溶岩が地表から僅か数キロも離れていない地下を流れている事があった。

 ここもそうした溶岩地帯の一つであり、人間であるならば既に死亡している場所だ。これが魔法で導かれた理由は唯一つ――ここがもっとも安全に、最短距離で進めるルートであったからに他ならない。

 つまり――他の道は更にここよりも危険であるという事。

 

 だが、アインズにとってはどうでもいい事であった。

 

「細い道があるな。面倒だ……〈飛行(フライ)〉で適当に登って行こう……」

 

 効果が切れる頃に細い道に下り、また魔法を使えばいい。アインズはそう結論付けて、空に浮かんでいく。

 ……アインズが去って少しした後、マグマの中を巨大な魚が優雅に泳いでいったが、お互いに存在に気づく事はなかった。

 

 アインズは休憩を入れながら空に浮かび、地表に出る。地表は涼しく、大自然に溢れていた。

 

「うん。やっぱこういう大自然に溢れている方がいいな!」

 

 先程の溶岩地帯は少しばかりナザリック地下大墳墓の第七階層を思い出し、感慨深かったがそれだけだ。やはり自然というのはこういう緑が溢れる場所の方が感動する。……もっとも、あまり感激しても抑制されて逆に心が荒む事があるが。

 

「さて、イビルアイ達が今どこにいるか探すかな」

 

 アインズは再び魔法を使って彼女達の姿を捜索しようとするが――空から聞こえてきた悲鳴に空を見上げる。

 

「うん?」

 

 アインズが目を凝らして空を見ると、ハーピー達と思しき姿を見つけた。

 

(ハーピーか。懐かしいなぁ……ペロロンチーノさんがよく「狩りにいきましょうよぉー」とか誘ってたっけ)

 

 勿論、ペロロンチーノが誘っていた理由は数少ないエロモンスターだからである。十八歳未満禁止な行為が禁止されている健全(?)なユグドラシルでは、見た目がエロいモンスターも希少であった。

 ちなみに、姉のぶくぶく茶釜にそう言ってはどつかれている姿も思い起こされる。

 

 ハーピー達は悲鳴を上げ、何かから逃げているようだが即座に捕まった。生態として、それから逃れる事はハーピー達には不可能だったのだ。それは圧倒的強者であったが故に。

 

「……グリーン・ドラゴンか」

 

 グリーン・ドラゴンは魔法と口、両手で器用にハーピー達を捕まえると、ガジガジと齧りついて貪っていく。世にも無情な弱肉強食の生態を眺めていると、グリーン・ドラゴンはこちらに気がついたようだった。

 

(喧嘩でも売ってくる気か?)

 

 グリーン・ドラゴンはアインズに視線を合わせると、あたふたと慌てた様子を見せたが滑空してアインズのいる地表まで降りてくる。その巨体が地面に着陸すると、グリーン・ドラゴンはアインズに対してへりくだった態度で話しかけてきた。

 

「だ、旦那じゃないですか! 本日はどういった用件でこの山に?」

 

 まるで発火するほど胡麻を擦り合わせるように、手を擦り合わせる姿を幻視したが、アインズは内心で首を傾げる。どうにも、初対面という気がしなかった。鈴木悟時代によく会社で見た光景だ。上司に抜き打ち検査された部下のような――

 

「――――あ」

 

 そこで、アインズも思い出した。このグリーン・ドラゴンの正体。アインズにとっても思い出深い相手だ。……この異世界に転移して、最初に遭遇したあのグリーン・ドラゴンである。

 

「……お前、俺にあのブラック・ドラゴン押し付けただろ」

 

 少し声を低くしてそう呟くと、グリーン・ドラゴンはピンと尻尾を立てて、頭をへこへこと下げた。

 

「その件は誠に助かりましたです、はい。旦那が望むんでしたら、すぐにでも巣から幾つか宝物を持ってきますけど……」

 

 へりくだった態度のグリーン・ドラゴンに溜息をついて、アインズは答える。

 

「いや、今のところいらん。それより、お前はこの山出身だったか?」

 

 アインズの記憶では別の山に巣を作っていると言っていたような気がする。グリーン・ドラゴンもそのアインズの考えを肯定した。

 

「いや、俺は別の山出身だぞ旦那。ここはフロスト・ドラゴン達が主に生息しているな」

 

「フロスト・ドラゴンか」

 

 ドラゴン種の中でも比較的弱い種族だ。属性としては冷気。アインズのようなアンデッドは冷気系の効果を無効化するので、特に警戒すべき相手でもない。

 

(いや、レベルが同じなら世界級(ワールド)アイテムの使用も視野に入れるべきか)

 

 アインズが現在唯一所有している世界級(ワールド)アイテムは、複数の能力を持つ。その中にドラゴンに対して有効な能力があるので、それを使う事も視野に入れておいた方がいい。油断は禁物なのだ。

 

「しかしお前、なんで縄張りの外に出てるんだ?」

 

 アインズが訊ねると、グリーン・ドラゴンはにんまりと笑顔を作った。……ような気がした。

 

「それは勿論、旦那! 連中が持つ宝を何とか奪えないかなっと」

 

「宝ねぇ……」

 

 グリーン・ドラゴンは喜び勇んでアインズに語っていく。

 

「実はこの山にはドワーフの国があるんだが、その王都を白き竜王が乗っ取っているんだ。時折何とかドワーフの宝を奪えないかと様子見に……」

 

「なに?」

 

 それは聞き逃せない。アインズ達はドワーフの国を訪ねに来たのだ。その肝心のドワーフ達の、よりにもよって王都をドラゴンに乗っ取られているというのは、聞き捨てならなかった。

 

「どうした、旦那?」

 

「いや……その白き竜王とは?」

 

「俺達ドラゴンの中でも最高位の年齢に到達したフロスト・ドラゴンだ。俺と同じく第三位階魔法も使えるし、それに頭もいい。自分の妻や子供も連れて、完全に王都を自分の巣にしているからな」

 

「ほお……」

 

 確かに、それは頭がいい部類だろう。普通のドラゴンは産みっぱなしで、放任主義の育児を行う。わざわざ育児をしようと言うなら、知性の高さが窺える。

 

「しかし、なんでまた家族連れなんだ?」

 

 家族愛にでも溢れているのだろうか。そうアインズが首を傾げると、グリーン・ドラゴンは声を潜めるようにして教えてくれた。

 

「ああ……連中、おそらくフロスト・ジャイアントに喧嘩を売るための準備をしているんだと思うぞ。あの二種族は、かなり長い間勢力争いをしているからな。どっちがこの山脈を支配するか争っているんだ。たぶん数を増やして優位に立ち、フロスト・ジャイアント達を完全に支配したいと考えているんじゃないか?」

 

「ふうん。……で、お前は何を考えているんだ?」

 

「そりゃ勿論! その戦争時にかこつけてがら空きの王都で宝を持ち逃げ……」

 

「お前ほんとドラゴンの(クズ)だな!?」

 

 まるで反省していない。アインズは戦慄した。

 

 グリーン・ドラゴンはそこまで説明すると、アインズに媚びを売るように猫撫で声で語りかけてくる。

 

「なー旦那ぁ」

 

「……なんだ?」

 

「俺と一緒に、王都に襲撃かけてドワーフのお宝奪っちまおうぜー」

 

「…………」

 

「旦那の強さなら、俺と同じぐらいかほんの少し強い程度のドラゴンなんて、余裕だよな? な?」

 

「まあ、お前程度の強さなら余裕だが」

 

「だったら一緒に行って、フロスト・ドラゴン共からお宝奪っちまおうぜ! 旦那が協力してくれたら、確実にお宝が手に入るし、わざわざ危険を冒す必要無いし……な? な?」

 

「…………」

 

 確かに、このグリーン・ドラゴン程度の強さならば多少上下しても余裕で対処出来る。それこそ一〇〇匹いようが問題無い。

 更に言えば、アインズ自身ドワーフ達の宝物というのが気になった。アインズはこの依頼を受ける前に、オスクからちょっとしたマジックアイテムを見せてもらっていたのだ。

 それはルーン文字の刻まれた剣である。ルーン文字はアインズ達の世界の物で、この異世界に存在するはずの無い物だ。気になったアインズが訊ねると、オスクはこれがドワーフの中でも有名な工房で製作された名作だと言っていた。

 

 存在しないはずのルーン文字。明らかに、プレイヤーの気配がする。イビルアイがドワーフについて語ってくれた十三英雄の中にもドワーフの英雄がおり、それがプレイヤーであった可能性は無いだろうか。

 

 そしてその場合――ドワーフの宝物庫の中には、プレイヤーの遺産が入っている可能性が高い。

 

(……やはり乗るべきか。コイツの提案は渡りに船と言うべきかな。イビルアイ達がいれば出来ない行動でもあるし)

 

 プレイヤーの遺産を漁るのは、さすがにイビルアイ達がいれば難しい行為だ。この世には山分けという言葉がある。プレイヤーの優れたマジックアイテムをアインズが彼女達の前で独占するのは、かなりまずい行為だ。アインズだって、わざわざ愛着のある仲間達からヘイトを溜める行為はしたくない。

 

 かと言って、プレイヤーの遺産を放置するのも問題なのだ。と言うのも、プレイヤーの適正レベルのマジックアイテムはこの異世界では強力過ぎる。アインズの持ち物の中には、ウルベルト・アレイン・オードルという男が作った、かなり邪悪なマジックアイテムがあった。それこそ平然と国の一つや二つが滅びるような効果の物だ。

 こういった物はアインズであれば問題なく対処出来るのだが、この異世界の住人では法国くらいしか対処出来ないのではないだろうか。そんな危険物を放置するのも、イビルアイ達に渡していつか大惨事になるのもご遠慮願いたい。

 

 そう考えると、やはり今イビルアイ達と別れたこのタイミング――ここが千載一遇のチャンスと見るべきだ。

 

「なあ旦那ー。俺は分け前四分の一でいいし、一緒に行こうぜー」

 

 猫撫で声で語りかけてくるグリーン・ドラゴンにアインズは考えた結果頷いた。

 

「いいぞ」

 

「!」

 

 アインズの言葉に、グリーン・ドラゴンは尻尾をピンと立てて喜びを顕わにする。

 

「マジか! マジだな! ホントだな旦那!」

 

「ああ、構わん。それと、四分の一とは言わん。幾つか俺に優先的に選ぶ権利をくれ。残りは全部お前にやろう。持ちきれんしな」

 

「!! い、いいのか!? もうダメだぞ! 一度そうやって選んだ後、“やっぱりこれもあれも”と言ってもダメだからな! もう渡さないぞ旦那!」

 

「分かった、分かった。安心しろ。ちゃんと約束してやる」

 

「!!」

 

 喜びを顕わにするグリーン・ドラゴンを、アインズは「ペットを可愛がる飼い主ってこんな気持ちなのかなー」と思いながら眺める。

 

(まあ、幾つかって言っても全部プレイヤーの遺産だったら根こそぎ持っていくけど)

 

 それでも、現地産の硬貨くらいはあるだろう。それくらいなら全部このグリーン・ドラゴンに渡してやっても構わなかった。もしプレイヤーの遺産が無かったり、ガゼフの持っていた指輪のような現地産特有のマジックアイテムも無かったりした場合は、適当なマジックアイテムでも選ぼう。

 

「おい、喜ぶのはいいがさっさと道案内しろ。こういうのは、早く済ませたいからな」

 

「そうだな旦那! さっさと全部貰っちまおう!!」

 

 グリーン・ドラゴンは大喜びで、アインズの前に身体を投げ出す。その意図が分からず「なんだ?」と訊ねれば「上に乗ってどうぞ」、と騎乗許可を貰った。

 それを聞いたアインズは、魔法で鎧を編み戦士姿になる。グリーン・ドラゴンは目を丸くした。

 

「だ、旦那! それどんな魔法だ!?」

 

「第七位階魔法。ちょっとした理由で人間の振りをしていてな。お前も俺は人間だと思って接しろよ」

 

 現地で唯一、アインズがアンデッドだという事を知っている生物だ。バラすんじゃないぞ、と言えばグリーン・ドラゴンはこくこくと頷いて、戦士姿のアインズを背に乗せると、魔法を使って木々を躱しながらその巨体を走らせる。

 

(ドラゴンに騎乗する漆黒の戦士! 最高に絵になる構図じゃないか今!?)

 

 騎乗しているドラゴンの性格が屑な事と、漆黒の戦士の正体がアンデッドだという事を除けば、とても絵になる構図だろう。アインズは自分が興奮している事が分かった。……だが、すぐに感情は沈静化する。どうやら興奮し過ぎたらしい。

 

(以前遭遇した森の賢王とか、絶対に騎乗したくないもんな! アレに乗りたがる奴の気持ちが知れないぞ)

 

 トブの大森林で遭遇した森の賢王――アインズには超巨大ハムスターにしか見えない――を思い出し、アインズは唸る。ガガーランやらブレインは、かっこよくて騎乗したいと言っていたが、アインズは願い下げだ。おっさんがファンシー生物に騎乗するとかどんな罰ゲームだ。死にたい。

 

 アインズはグリーン・ドラゴンの背に乗り、ドワーフ達の詳しい話を聞きながら王都へと向かっていった。

 

 

 

 

 

 

 イビルアイ達はアインズが抜けた穴を埋めるために、更なる警戒をしながら大裂け目にそって歩いていた。当然だが、大裂け目のすぐ横を歩く事はしない。アインズのように墜落しても、〈飛行(フライ)〉が使えるイビルアイならともかく、他の五人は確実に死ぬのが分かっているからだ。アインズだから、まだ生存の目があると信じられる。

 

 しかし――さすがにこれ以上の探索は限界だった。

 

「……地表に戻るしかないわね」

 

 ラキュースの言葉に、全員異論の言葉は出ない。全員が分かっていたからだ。これ以上は、自分達の実力ではこの大裂け目は探索出来ない。

 

 ……実力差があり過ぎてアインズは気にしていなかったが、この大裂け目は人間が探索出来るような場所ではない。

 まず、そもそも姿が見えないモンスターが多過ぎる。大半のモンスターが地中に潜っており、足音を探知して地中から襲いかかってくる魔物を探知するのは、ティアとティナでさえかなりの神経を摩耗した。精神に打撃を与え、朦朧状態にしてくる種族もいる。精神系の攻撃を無効化するイビルアイがいなければ、下手をすればそれで全滅していたかもしれなかった。

 最初の襲撃以降、あのモグラのような魔物は襲って来なくなったが安心は出来ない。

 全員が文句なくアダマンタイト級の実力を誇るイビルアイ達であっても、この大裂け目を長時間探索するのは自殺行為であった。唯一周辺モンスターと実力差が離れて余裕をもって対処出来るイビルアイでも、ラキュース達五人を守りながらの探索とあっては厳しいものがある。

 

 ――現状。アインズの抜けた穴が、彼女達にかなりの負荷となって襲いかかっていた。そも、アインズはこのメンバーの中では防御役(タンク)の役割である。足も俊足だ。あらゆる生物の初撃を確実に受け止めてくれ、しかも魔法攻撃さえアインズがいれば無効化されてこのメンバーには届かない。そんな人物の抜けた穴を埋められる人材がこの世界にいるはずがない。

 アインズ本人も、彼女達自身も気づいていなかったがアインズの抜けた穴は大き過ぎた。今まで無意識に依存していた、圧倒的カリスマが唐突に抜けてしまったのだ。それで容易く瓦解するほど全員脆くは無いが、しかし過負荷は問答無用にかかってくる。

 

 アインズはその俊足と防御力でメンバー全員のカバーに入れ、必ず防御してくれる。――ガガーランでは足が遅過ぎ、逆に俊足のティアとティナでは防御が軽すぎる。

 アインズの攻撃力は圧倒的だ。――ブレインは一撃必殺のクリティカル攻撃には長けているが、基本は対人の一点特化型である。クリティカル攻撃が通用しないアンデッド系などのモンスターには相性が悪い。

 アインズの魔法防御は優れている。――第六位階以下の魔法は問答無用で打ち消すので、アインズの周囲にいれば絶対に攻撃魔法は届かない。イビルアイの魔法防御はそこまで問答無用でも理不尽でもない。

 アインズにはリーダーとしてのカリスマがあった。――ラキュースに無いわけではなく、むしろラキュースとてカリスマには溢れているが、この場合は相手が悪過ぎた。比べるべき相手はジルクニフやラナー級である。

 

 これが普段活動している平野や森ならば、アインズが抜けても問題無かった。しかしここはイビルアイ達にとっても未知の人外魔境。それもドラゴンさえ闊歩する魔界だ。アインズの抜けた穴は、とても見過ごせるものではない。

 

 ――――不慮の事故でメンバーが欠けるというのは、MMOではよくある事だ。不慮の事故でメンバーが欠けた場合、残りのメンバーの生存率が格段に下がるのは当たり前である。

 しかし、ここは現実。基本、二度目(コンティニュー)は存在しない。その状況下でメンバーの要と言っていい人物が抜けるのは、あまりに痛過ぎた。

 

 ここに、実力差が離れていながらメンバーを組んだツケが回ってくる。

 

 ……もし、イビルアイすらこの状況で抜けてしまったなら、ラキュース達は確実にこの大裂け目から抜け出せず、地表に戻れない。

 それが分かったから、アインズの捜索を断念せざるをえない。これ以上のメンバーの欠員は、確実に全員の生存率を急降下させる。

 

「心配するな。アインズならば自力下山も可能だろう。私達は一度山を下りるべきだ」

 

 イビルアイはそうラキュース達を安心させるように告げ、連れている馬のゴーレムを見る。ゴーレムだけあって、多少の戦闘能力があるらしくゴーレムは未だ全員の荷物を乗せたまま無事だった。

 そして同時に、所有権を持つアインズがいないにもかかわらずいつもの姿に戻らずこの巨体を維持しているという事は、アインズが未だ無事である事の証拠とも言える。……もっとも、所有権が既に別に移っていたり、あるいは所有者以外にも使用出来るタイプのマジックアイテムである可能性もあるが。

 

「……そうね。考えても始まらないわ。一度来た道を戻りましょう。お願いね、ティア、ティナ」

 

「了解」

 

 そして、六人は来た道を戻っていく。勿論警戒は怠らない。地中の中にいるモンスターばかりだ。当然、来た時に遭遇しなかったりだとか、倒していったからいないはず――なんて事はありえない。いつの間にか移動して、自分達にバックアタックを仕掛ける算段をしていた可能性もある。

 

 六人は来た時と同じように、かなり注意深く慎重に来た道を戻っていく。当然、壁の近くではなく大裂け目の崖よりだ。地中を潜るモンスターがいる以上、壁ではなく崖寄りの方が安全なのだ。

 

 そして、六人はなんとか大裂け目から帰還する。再び狭い道に戻り出入り口を目指して、警戒しながら進む。

 だが――途中で、先頭のティアとティナが止まった。

 

「どうしたの?」

 

 ラキュースが訊ねる。ティアとティナはかなり緊張した様子で、無言で前を見据えている。まるで。

 ――そう。まるで、絶対に遭遇したくない何かに出遭ってしまったかのように、瞳を見開きながら。

 

 ずしん。

 

「――――」

 

 その、地面を揺るがすような音が微かに聞こえた時点で、ラキュース達も全てを悟った。このプレッシャーには、あまりに覚えがある。ラキュース達にとっても初めての経験で、そしてアインズと初めて出会った時の思い出なのだから。

 だからこそ、この状況でアレ(・・)と遭遇するのは絶望的過ぎた。

 

「――――」

 

 様子の変わった彼女達に、ブレインもまた気を引き締めて刀に手をかける。ブレインは彼女達と違いアレ(・・)の討伐経験は無いが、しかし彼女達の様子からこれから激闘が繰り広げられる事を悟ったのだ。

 

「どうする――?」

 

 ガガーランの言葉に、全員が素早く思考する。つまり、戻るかこのままここで待ち構えるか。

 

「……駄目だ。あの大裂け目では私達が不利過ぎる。奴は飛べるんだぞ? ――私達を捕まえて大裂け目に放り出すだけの単純作業だけで、私達は全滅してしまう」

 

 イビルアイの言葉に、ラキュースは頷いた。

 

「そうね。なら、ここで迎え撃つしかないわ。ここは狭いから、とても飛行出来るような余裕はないもの」

 

「でも、ブレス攻撃が確実に届く」

 

「絶対に避けられない」

 

「そこはイビルアイの魔法である程度緩和するしかないわね。有名なのは冷気だけど――どれ(・・)だと思う?」

 

 ラキュースに訊ねられたイビルアイは、少し考え――決定する。

 

「冷気だ。アゼルリシア山脈で有名な、主な生息種はそいつなのだから一番可能性が高い。アインズの時のような、例外を予想するのは危険過ぎる」

 

「なら、それを前提にお願い」

 

「ああ」

 

 イビルアイは全員の冷気抵抗を上げていく。ここまで黙ってイビルアイ達の話を聞いていたブレインは、彼女達の話す少ない情報で今から遭遇するモンスターが何なのかを、理解した。理解してしまった。

 

「おい……まさか。大地を揺るがす巨体で、飛行する挙句にブレス攻撃まで使用するっつったら――」

 

「ああ、そうだ」

 

「……マジかよ。運が無さ過ぎるだろ俺ら……」

 

 ブレインでも頭を抱えざるを得なかった。アレ(・・)を討伐するのは男の夢。浪漫であるが――好きで遭遇したくはない。さすがのブレインでも、アレ(・・)を楽に討伐出来ると思うほど、傲慢でも夢見がちでも無かった。

 

 イビルアイが幾つもの魔法を全員に重ね掛けし――ティアとティナは自分達の前に最短で罠を張っていく。今回に限り、初手の前衛はイビルアイとティアとティナだ。相手の初手をある程度防御出来るのは三人だけであり、盾を持たないガガーランとブレインは、初手だけは絶対に前に出れない。そしてラキュースは今回、絶対に前へ出て攻撃を受ける事は許されない。回復役であるラキュースが落ちれば、全滅は必然であるからだ。

 

 ずしん。ずしん。徐々に近づいてくる音がする。誰かが、緊張で唾を飲み込んだ。

 

 そして――その巨体は、遂に六人の前に姿を現した。

 

「――――」

 

 それは、美しい青白い鱗を持っていた。鋭い牙と爪。長く伸びる尾。

 奇妙と言えば、その腹部と鼻元だろう。何か巨大な物でも丸呑みしたのか、腹部は微かに地面を引き摺っており、その鼻元には丸い硝子――まるで眼鏡をかけているようであった。

 

 しかし、その奇妙な姿なぞ気にならない。ここにきて、微かにあった希望が粉砕した。出来れば外れて欲しいと思っていた可能性は潰えた。

 

 その姿はまぎれもなく、イビルアイ達が遭遇したくなかった異形に他ならない。

 

「フロスト・ドラゴン――――」

 

 イビルアイの口から、引き攣るようにその名がこぼれていった――。

 

 

 

 

 




 
アインズ「ドラゴンに騎乗する漆黒の戦士……カッコいい!」←中二病再発☆

デブゴン「こんにちは!!」
イビルアイ達「ひぇっ」

やあ皆、ドワーフ編だよ。
 

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