マルガレーテ《完結》   作:日々あとむ

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■前回のあらすじ

クレマンちゃん核地雷を踏む。
 


The Evil God Ⅱ

 

 

 帝都の活気溢れる中央道路を、奇妙な二人組が歩いていた。片方は漆黒の全身鎧(フルプレート)の戦士、もう片方は子供くらいの背丈の仮面の魔法詠唱者(マジック・キャスター)。――つまりアインズとイビルアイである。

 道行く人々はその二人組に驚き思わず視線を向けるが、それは珍しさ故だ。帝都でこのような二人組を見た事が無いために、思わず視線を向けているのだ。

 帝国の治安を守る騎士達が時折視線を向けるが、胸元のプレートを見るとすぐに視線を逸らし興味を失う。二人の見た目もそうだが、プレートを見れば正規の冒険者である事がすぐに分かるためそれ以上は注意を払わない。これがプレートを持っていないのであれば見知らぬ二人組に職務質問くらいしたのであろうが、光るプレートはアダマンタイト。余程の事が無いかぎりは話しかけてこないだろう。

 二人が警備が厳重な神殿の並ぶエリアを通り過ぎると、アインズの耳に雄叫びに似た声が遠くから届いた。気になり、声の聞こえる方角へ視線をやるとそこに他とは違う独特な建物が見える。

 アインズの視線の移動に気づいたのか、隣を歩いていたイビルアイが不思議そうに訊ねた。

 

「どうした、アインズ」

 

「いや、遠くから随分な叫び声が聞こえるからな。どうしたのかと」

 

「――ああ、大闘技場だな」

 

 イビルアイは何か知っていたらしく、アインズはイビルアイに視線を向ける。

 

「大闘技場というのは、帝都の観光スポットだ。王国には存在しないし、帝国でも帝都にしかない。魔物同士を争わせたり、魔物と冒険者を争わせたりする。その勝敗を当てるギャンブルが人気だな。帝都における庶民の最大の娯楽の一つ、と言っていい」

 

「なるほど」

 

 ユグドラシルでも似たようなイベントはあったので、理解は出来る。端的に言ってしまえば、ワールドチャンピオンを決める公式大会とて似たような分類になるだろう。

 

「興味でもあるのか?」

 

 アインズの顔を見上げて訊ねるイビルアイに、アインズは頷いた。

 

「そうだな。……少しばかり興味はある。とは言っても、見学専門だがな」

 

「はは! アダマンタイト級冒険者が試合に出ることになったら、武王が出てくるんじゃないか?」

 

「武王?」

 

 アインズの問いに、イビルアイは丁寧に答えてくれる。

 

「闘技場最強の剣闘士に贈られる称号だ。今は確か八代目――正体はトロールだと聞いたことがあるぞ。私も実際に武王を見たことはないが」

 

 その言葉にアインズは思わず驚く。

 

「トロール?」

 

「ああ。闘技場では強さが全てだ。強ければ亜人種だろうとかまわない――だからトロールだろうがリザードマンだろうが、強ければ武王の称号が与えられる。……私のような魔法詠唱者(マジック・キャスター)は別だが」

 

 「魔法で空を飛んで一方的に爆撃して何が悪いんだ……」とぶつぶつ呟きはじめたイビルアイに、アインズは少し笑う。アインズとしてはイビルアイの言い分に頷いてやりたいが、見世物で一方的な展開は確かに盛り下がるだろう。

 

 笑われた事に気がついたイビルアイが言葉を切り、じっとアインズを見つめた後に視線を地面に向け、もじもじとするがアインズは気にしなかった。

 

「さて、さっさと用事を済ませるぞ」

 

 中央道路を通る少しばかり豪奢な馬車にチラリと視線をやって、アインズはイビルアイを促す。わざわざ二人で帝都を歩いているのは、万が一転移魔法を使う時のためにマーキングをするためだ。昨夜これからの方針は決まったが、ここはエ・ランテルというアインズ達の拠点ではない。幾つか転移地点を見定めておくのも悪い事ではないので、見た目が怪しいイビルアイの誤魔化し役としてアインズは他の面々から街中へ送り出された。蒼の薔薇の面々は戦争中の件で皇帝の御膝元で動くのに少々都合が悪いかもしれず、アインズの図体ならば喧嘩を売ってくるような人種はほぼいないだろうと予測して。

 そして夜に例の墓地でイビルアイは、ティアとティナに合流する手筈となっている。

 目的を思い出したのか、「う、うむ」と気恥ずかしそうに頷いたイビルアイはアインズと共に歩を進めた。

 

 ……同じアンデッドという分類であるのに妙に感情的なイビルアイがおかしくて、アインズはそんなイビルアイにこっそり視線をやり、内心で再び笑った。

 

 

 

「――――」

 

「どうした? 首狩り兎よ」

 

 闘技場のプロモーターの内の一人であり、その中でも最も力ある商人オスクは、メイド服を着用した亜人種――ラビットマンを不思議そうに見た。隣ではオスクと同じように不思議そうな顔をした執事が首狩り兎を見ている。

 首狩り兎は全身の毛を逆立てるようにして、馬車の外に気を配っている。冷や汗でも掻きそうなその気配が……しばらく道を進むと息を一つ吐いて霧散した。

 オスクは首狩り兎が落ち着いたのを見て、もう一度訊ねる。

 

「一体どうした?」

 

 首狩り兎は雇い主の問いに、少し沈黙し――やがて口を開く。

 

「今、超級にやばいのがいた」

 

「――――」

 

 首狩り兎がそう評価した相手は、今まで武王しかいない。それは首狩り兎が「自分では勝てない」と評する存在を知らせる言葉でもある。

 

 オスクはその言葉を聞いて急いで外を確認したい衝動に駆られるが、しかしそんなオスクの気持ちを見て取った首狩り兎が素早く腕を掴み、オスクを抑える。オスクがその腕を見ると、首狩り兎の肌は粟立っていた。

 

「やめた方がいい」

 

「む……」

 

 確かに、少しばかり軽率だった気がする。しかし今その姿を確認しないと、後々その誰かを探すのに手間だ。オスクには、そういった強者を探す責任がある。かつて武王を闘技場に誘う時、武王と約束をしたのだ。その約束の一つに『武王より強い相手を連れてくる』というものがある。正直、オスクは武王より強い相手がいる、という可能性を想像出来ないが約束は約束だ。だからこそ強い相手を探し、闘技場へ、武王の前へ連れて行かなければならない。

 しかし、その事情を多少なりとも知っている首狩り兎は首を横に振った。

 

「やめた方がいい」

 

 念を押すようにもう一度、首狩り兎はオスクに告げる。オスクは仕方なしに、大きく溜息を吐いて背凭れに身を任せた。その様子を確認して、首狩り兎はオスクから手を離す。

 

「まあ、それほどの強者ならば噂話の一つや二つ、すぐに集まるだろうからな」

 

 オスクはそう呟いて、今日の仕事が終わった後に情報収集した後正式に正面から依頼しようと考える。そんなオスクの呟きに、首狩り兎は何も言わなかった。

 

 ――そう、首狩り兎は何も言わない。おそらく、その考えは無駄になるだろうと首狩り兎は分かっていた。

 先程通り過ぎた時に感じた気配は一つ……その気配は自分は勿論、武王だろうと勝てないだろう強さを匂わせている。しかし、そちらの気配を感じる方はまだ問題ではない。

 問題なのはもう片方……強者の気配などまるで感じない、気配だけは一般人に感じた方だ。

 

 もう一人いる、と理解した途端首狩り兎は全身の肌が粟立った。本能の領域で気味の悪さを感じ取り、その不気味さに気持ち悪さを覚えた。

 何がまずいのか分からない――その不気味さにこそ、首狩り兎は恐怖を覚える。

 

 そんなモノが、並んで歩いているのだ。どう考えてもまともな二人組ではない。横を通り過ぎるだけでここまで気色悪いのだ。真正面に立ってその気配を受け止めるなど御免被る。

 そしてそんな二人組が闘技場に立ってくれるなど、どう考えてもあり得ないと首狩り兎には思えたのだった。

 

 

 

 

 

 

 ティアとティナ、イビルアイに例の墓地の監視をさせて十日もしない内に――事態はすぐに急変する事となった。

 朝と夜に徹底監視、昼はイビルアイのみを残して双子は報告。その昼の報告での出来事だった。

 

「……貴族らしき人間達が出入りしている?」

 

「うん」

 

 双子からの報告を受けたアインズは、墓地に貴族らしき人間が複数出入りしているというキナ臭さに無い眉を顰めたくなる気分だった。同じく報告を聞いていたブレイン、ラキュース、ガガーランも同じ顔をしている。

 

「霊廟の中に隠し階段があって、その下に隠し部屋があるっぽい。イビルアイが一度昼間の誰もいない間に不可視化の魔法を使ってその隠し部屋を調べてみた」

 

「イビルアイ曰く、何かを祀る祭壇のようだった、と。血の臭いもあったから、生贄を捧げて何か変な儀式でもしているんじゃないかって」

 

「…………」

 

 その報告に、ラキュースとガガーランが不快げに顔を歪める。根っからの善人である二人には、この報告が殊更不快であったらしい。ブレインは呆れたような表情だ。

 しかしアインズは違う。アインズは目の前の双子をじっと見つめる。

 

 ……この双子は忍者。ユグドラシルのレベルに換算しても身体能力的に五〇にも届くまい。だが六〇レベルは無いと取れない忍者の職業(クラス)を取得している。

 そう、この異世界ではユグドラシルの常識が通用しない部分がある。武技や生まれながらの異能(タレント)もそうだろう。

 

(……もしかして、最初から上位アンデッドで生まれてくる奴がいて、俺と同じような特殊技術(スキル)を持ってないだろうな)

 

 “黒の叡智”、と呼ばれる特殊技術(スキル)がある。これは魔法の習得数を増やす事が出来る特殊なイベントをこなせる特殊技術(スキル)で、アインズはこのおかげで通常のプレイヤーの倍以上の魔法習得数を誇っていた。

 そして、そのイベントをこなすのに必要な素材がプレイヤーの死体なのだが……アインズはこの異世界でその特殊イベントをこなした事が無いので判断出来ない。

 

(プレイヤーじゃない現地民の死体でもいいのか? 分からないな。一度試してみたいとは思っているんだが……)

 

 だが法国の存在がアインズを躊躇わせる。世界級(ワールド)アイテムを所有し、かつアインズ同様高レベルの戦士がいる国家だ。彼らと敵対する羽目になるのは極力避けたい。少なくとも、それなりの後援が無いかぎりは。

 

 アインズは最大限に警戒しながら、ティアとティナに訊ねる。

 

「お前達が見たかぎりでは、何か他に異常はあったか?」

 

 アインズの質問に、ティアとティナは少し考えながらも口を開く。

 

「なんというか、たぶん何らかの邪教教団だと思う」

 

「しかも顔を隠しているくせに、墓地ではわりと堂々としている。大貴族の後援か、その墓地を管理する程度の力はあると思われる」

 

「あと――」

 

 二人は同時に口篭もり、そして意を決したように告げた。

 

「クライムを殺した犯人、見たけどかなり強い。私達アダマンタイト級冒険者に匹敵すると思う」

 

「…………」

 

 全員で息を呑む。今まで興味が無い様子だったブレインが、その言葉で興味を持ったのか表情が歪んだ。好戦的な笑みに。

 

「アダマンタイト級か……それに邪教教団。間違いなく、何かまずいモノが関わっているな」

 

「墓地って言うと……ズーラーノーンかしら?」

 

 ラキュースの言うズーラーノーンとは、かつてエ・ランテルを死都に変えようとした魔法詠唱者(マジック・キャスター)の所属している組織の事だ。アインズも詳しい話は知らないが、有名なネクロマンサーなどが所属する邪悪な魔術結社らしい事は聞いた。

 

「ズーラーノーンか。可能性は高いな。エ・ランテル近郊の森での犯人と同一人物だとすれば、尚更可能性は高い」

 

「あー……確かに。確かあの日だったな、エ・ランテルでそのズーラーノーンの連中が事件起こしたのは」

 

 ブレインも思い出したのか、アインズの言葉に頷く。冒険者のプレートを集めている気狂いがクライムを殺した犯人と同一人物だとすると、エ・ランテルの事件とも無関係とは言えまい。

 

「……ということは、犯人はズーラーノーンの高弟の可能性があるわけか」

 

「それだけじゃないわ。その墓地で定期的に集まっている連中がズーラーノーンに協力しているってことになるもの。結構なスキャンダルよこれ……」

 

 帝国の貴族が邪悪な秘密結社と協力関係にある。確かに、知られれば何が何でも口封じにかかりたい案件だろう。

 ただ問題は、それを知ったのがもとは王国の冒険者チームであるアインズ達である、という事。冒険者である以上、この報告は組合へ告げて国家に報告――という形になってしまう。非公式で帝国貴族を潰すには、アインズ達では立場が弱い。

 現在、アインズ達は冒険者組合を通さない非公式の依頼を受けている立場だ。ラナーが王女という地位の高い立場であったなら何とかなったかも知れないが、この帝国でのラナーの立ち位置は単なる皇帝の側室の一人。ラナーにアインズ達のペナルティを緩和する事は出来ない。

 ましてや、明確な証拠が無い。この異世界にカメラやビデオなど便利な物は無いのだ。アインズが魔法を使えば簡単だが、今のアインズは戦士に化けている立場だ。そもそも、本気を出してまで何かしてやる気にはなれない。――まして“黒の叡智”を覚えているような上位アンデッドがいるとなれば、非常に避けたい。そんな上位アンデッドがいるならば、確実にティアとティナ、イビルアイの存在はバレているであろうし、奇襲も成功しないだろう。

 

「……仕方ない。信用されるかどうかは分からないが、もう一度秘密兵器を使うか」

 

「え?」

 

 全員がアインズに視線を向ける。アインズはその視線を無視して、ティアとティナに訊ねた。

 

「その墓地にいた貴族達……勿論、一部は尾行したな?」

 

「もち」

 

「名前も調べておいた」

 

 抜かりないティアとティナにアインズは満足気に頷き、全員に告げる。

 

「さて……ではもう一度ご老人に動いてもらうか」

 

 

 

 

 

 

 帝国の皇帝、ジルクニフは内心で苛々しながらも日々の政務をこなしていた。

 毎年の王国との戦争をこれ以上は考えなくていいとしても、帝国がこなさなければならない案件は増えたからだ。新たに帝国領となったエ・ランテルに、トブの大森林に対する警戒。法国との貿易など――少しばかり調子に乗った代償は高くついた。エ・ランテルは元より抱える気概があったとはいえ、他の案件はここまで負担するつもりはなかった。

 しかし、やらねばならない。トブの大森林で秘密裏に仕事をしていた法国が引いた以上、帝国は細心の注意を払って警戒しなければならない。

 幸い、冒険者組合を使えばトブの大森林についてはなんとかなる。国家としてはあまり外部組織に依存したくはないが、冒険者達の方が森については詳しい。騎士団では森の中を探索するのに適していない。

 

「トブの大森林専用の軍団を作るしかないな。軍団編成に何年かかるか……」

 

 出来れば冒険者組合をそのまま国家所属の組織として組み込みたいのだが、そう易々と国家に取り込まれてはくれまい。ああいうのは政治を煩わしく思っているから、冒険者になったのだ。ジルクニフがそういうものを匂わせた途端、即座に帝国を離れるというのも十分に考えられる。

 

 ……そうやってジルクニフが未来に思い悩んでいると、執務室の扉が唐突に開いた。

 しかし、ジルクニフは慌てない。基本的に、外が騒がしくなる事もなく執務室に無遠慮に入室するような人間は一人しかいないからだ。

 

「じいか」

 

「はい、陛下。少しお話が」

 

 やはり、入室してきたのはジルクニフの予想通りの人物――フールーダであった。手元を見れば、フールーダは一枚の手紙を持っている。

 

「まあ、座れ。――それでじい、何事だ?」

 

「はい。まずアインズ・ウール・ゴウンが私に接触してきたのですが……」

 

「そうか!」

 

 ジルクニフは、思わず笑顔を浮かべる。その笑みにフールーダは驚いたようだが、しかしジルクニフにとってアインズがフールーダに接触してくるのは想定内の出来事だった。

 

 ……当然、フールーダが知っていたようにジルクニフもラナーの従者が殺人事件の被害者になった事は知っている。だから、アインズがフールーダに接触してくるであろう事は予測していた。

 

 ――勿論、ジルクニフもラナーも互いに接触などしなかった。ジルクニフはラナーを素知らぬ振りしたし、ラナーはジルクニフに何も言ってはこなかった。

 だが、ジルクニフは確信している。おそらく、お互いにどうするべきか――利害を一致させる方法にジルクニフが気づいているようにラナーも気づいていると。

 

 ラナーは何もジルクニフに言わなかった。しかし、ジルクニフから見ても理解は出来ないがラナーがクライムに対して何らかの執着をしているのは見て取れる。

 あの気色の悪い女が執着する――色々と思う事はあるが、その執着する少年を殺されて黙っているはずが無い。ラナーの頭の出来がジルクニフには分かったし、ラナーもおそらく見破られている事を理解しているだろう。

 

 だから、互いに何も言わずに了承した。接点を持たずに、計画を練り実行した。

 

 クライムの死を餌に、アインズを釣り上げる。帝国に対して、借りを作らせる。

 

 同じチームのラキュースはラナーの親友という立場であり、今までの行動からラキュースはラナーの本性に気づいていないか、気づいていながら見ぬ振りをしている事が分かる。

 でなければ――自分の現在の地位を揺らがせてまであんな気色の悪い女を助けようとはしないだろう。

 ラキュースは友情から、ラナーの“願い事”を叶えようとアインズに頼むであろう。そしてこの程度ならば、警戒心の強いアインズも帝都に来るはずだ。例え来なくとも問題は無い。その時はこちらから正式に依頼してやればいい。その場合はラナーに対して明確な借りがジルクニフには作れる。

 

 そしてアインズ達が帝国に来た後は……ラナーが涙ながらにラキュースに訴えるのだ。クライムを殺した犯人を捕まえてほしい、と。

 勿論、通常ならばこの案件に渋るだろう。何せ冒険者組合を通さない非公式の依頼だ。普通の冒険者ならば絶対に受けたくない案件だろう。

 しかし、ジルクニフは知っている。蒼の薔薇は善意の境界が曖昧である事を。

 蒼の薔薇の情報を集めた際、法国の特殊部隊に対して亜人の村を守った事や、ラナーの非公式依頼で八本指に対して独自に動いていた事などが分かっている。

 蒼の薔薇は自分達の損得に対しての関心が薄い。良く言えば善人。悪く言えば騙されやすい。

 そんな彼女達が、無理矢理籠の鳥にさせられた不幸な少女の頼みを断れるだろうか。いや、断れまい。断れるようなら、彼女達はここまでやって来なかった。

 

 ――そうして、下地が完成する。後はジルクニフの仕事だ。

 クライムを殺した犯人が普通の通り魔でない事は、もとより分かっていた事だ。四騎士達も言っていたが、クライムは専業騎士程度の強さは十分持ち合わせており、四騎士と一対一でも戦いになるだろう、と。でなければあんなミスリルの鎧など着せられまい。

 その少年が死ぬ。嬲り殺される。それだけの実力差があった、という事で――それが単なる通り魔であるはずが無い。冒険者かワーカーか裏組織か――間違いなく、何らかの組織に所属している。

 そして組織に所属している時点で、アインズ達は一度立ち止まらなくてはならない。何故ならば、漆黒と蒼は非公式で動いているのだから。

 冒険者が組合を無視して依頼を受ける。それはアダマンタイト級冒険者チームであっても出来るだけ避けなければならない面倒事だ。

 つまり何らかの背後関係が見えた時点で、アインズ達はある選択肢に迫られる。

 

 ラナーからの非公式依頼を破棄するか、あるいは今の依頼を非公式ではなく正規の依頼に変えてしまうか。

 

 依頼破棄は選ばないだろう。それが選べるならばラキュースはラナーのもとへ来ない。そうなるともう片方の選択肢を取らざるを得なくなる。そして非公式依頼を正規の依頼に変える手段をアインズは持っていた。フールーダとのコネクションを。

 

 ――アインズ・ウール・ゴウンは理性的だが、危険人物である。王国はそう思わなかったようだが、ドラゴンと一対一で戦える事といい、デス・ナイトを抑えられる身体能力といい、決して放置していい案件ではない。放置するのは国にとって損失であり、別の国家に取られればそれは手痛い失態となる。

 

 故に、ジルクニフはどうしてもアインズや、かつてガゼフと互角に戦ったというブレインが欲しかった。復活魔法を使えるラキュース達蒼の薔薇だって欲を言えば欲しい。

 

 だからこそ、まずは一歩。こちらが優位な状態で繋がりを作りたい。クライムの死という偶然を利用して、ジルクニフはラナーに暗黙の貸しを作り、アインズ達はジルクニフに明確な借りを作る。

 

「それで、じい。その手紙はつまりアインズ・ウール・ゴウンからということだな?」

 

 ジルクニフが問うと、フールーダは頷いた。

 

「はい。……とは言っても、手紙の形を取っておりますが、これは私からの書類と思っていただければ」

 

 フールーダが渡した手紙を受け取り、中を広げるとその筆跡はよく知るフールーダのものだった。見知らぬ筆跡ではない。

 

(……自分の筆跡で送らなかったか。じいは気にしなかったんだろうが……証拠を一つ押収し損ねたな)

 

 アインズからの直筆なら完璧であったのだが、アインズはフールーダに手紙を書かせて自分の筆跡を掴ませなかったようだ。その警戒心に内心でジルクニフは舌を巻く。

 ……まさかジルクニフも、単語ならばともかく複雑な文章となるとアインズが書けないためフールーダに気軽に書かせたとは思うまい。

 

「――――」

 

 ジルクニフは手紙を黙々と読む。そして――その手紙をぐしゃりと潰した。

 

「…………は?」

 

 呆然と、ジルクニフはフールーダを見上げる。

 

「なあ、じい。ここに書かれていることは本当なのか?」

 

「はい。明確な証拠こそありませんが、彼らがその墓地に夜な夜な出入りしているのを目撃したとか……」

 

「は……はは……」

 

 ジルクニフは思わず笑みが口から零れる。そこにはラナーから非公式で依頼を受けた事や、その依頼のために少々調べ物をしていた事が書かれていた。

 それはいい。十分、ジルクニフの予測の範囲内だ。

 問題は――墓地で生贄の儀式やら何やら怪しい事をしている集団の中に、公爵家の当主や魔法学院の現学院長がいる事である。しかも、その教団がズーラーノーンに関わりのある邪教教団である可能性もある中に。

 まぎれもなく、帝国にとって由々しきスキャンダルであった。

 

 ジルクニフは混乱した事が無い。慌てた事が無い。どんな貴族を粛清する時も、帝国を揺るがすような反乱の計画を聞いた時も、隣国との関係が悪化した時もジルクニフは決して慌てず、混乱もしなかった。薄く笑みを浮かべて、冷静に対処してのけた。

 王国との戦後に数多の王族と貴族達に処刑を言い渡す時も、ジルクニフは心の中では冷静に対処していたのだ。

 

 だが、ここ最近のジルクニフはストレスが溜まっていた。希望に満ちた覇道からの急降下。絶頂との落差。圧倒的強者であった法国によるストレス。

 そうした心の中で鬱屈とした精神的負荷が、アインズとの有利なコネクションを得る事で一部解放されるかと思いきや――そこからの転落。アインズに貸しを作るどころか、むしろこれが本当なら帝国の方が貸しを作ってしまう現状。

 

 そしてそこに現れた、都合のいいストレスの発散相手。

 

「…………」

 

 はっきり言おう。ジルクニフの内心は怒り狂っていると言っていい。

 ジルクニフの異名は鮮血帝。数多の貴族を処刑した事によりついた、他国さえ畏怖させる通り名である。

 当然、その名がついたのは伊達ではない。帝国貴族達は逆らう貴族達を皆殺しにして専制君主制に移行させたジルクニフを恐れ、その異名をつけた。他国にも当然、その所業は知れ渡り――そして王国でもそれを行ったのは記憶に新しい。まだ一年も経っていない。

 

 その状態で、まだ熱も冷めない内に、ジルクニフの膝元でこのような所業に身を染める。

 

 ――ジルクニフの優秀な頭脳は、生贄の儀式を行う邪教教団に名のある貴族達が参加している、という時点である可能性に気がついていた。

 レエブン侯にあのような統治をさせた男である。当然、八本指がそこで暮らせずに王国から出て行く可能性は考えていた。その場合、高確率で帝国に来るだろう事も。

 それをゆっくりと、時に苛烈に追い詰めて滅ぼしてやろうと思っていたが――。

 ほんの些細な情報で、ジルクニフの優秀な頭脳はこの邪教教団が王国から出てきた八本指と繋がりがある事を見抜いてしまった。

 何せ、名のある貴族が参加しているのだ。八本指としても放置するわけにはいかず、接触を図るだろう。そしてまだ戦後の熱も冷めぬ内に――このような活動を行っている。

 

(ああ……つまり、俺を舐めているんだなお前達は)

 

 そう、彼らはジルクニフを舐めているのだ。この鮮血帝を。ジルクニフがそこまで動けないと高を括っている。

 なんと許されぬ勘違いか。驕った思考か。そのような相手には、如何なる類の手加減も出来まい。

 

「じい!」

 

「はい、陛下」

 

 フールーダとも長い付き合いだ。怒り狂っているジルクニフの内心に気づいているのだろう。フールーダは丁寧に頭を下げる。

 

「“重爆”を呼べ!」

 

 

 

 

 

 

 太陽は既に地平線に沈み、月は雲に隠れて僅かな明かりさえない深夜――その墓地を、音も無く歩いている者達がいた。アインズ達である。

 

「――――」

 

 金属鎧を装備していながら音も無いのは、魔法やマジックアイテムを使用しているためだ。その装備品で物音を一切立てずに行動するのは不可能に思えるが、それはあくまで常識の範疇の考えである。冒険者達はあらゆるマジックアイテムや〈静寂(サイレンス)〉などの魔法を使って自らの存在を隠し通す事が出来る。

 

 そうして、作戦決行日に墓地の周囲で待ち伏せを行っていたのだが――。

 

「――――」

 

 予定にいない人物達がいるのを見て、アインズは内心で舌打ちする。そしてその内の一人の正体をアインズは見破っていた。自分の特殊技能(スキル)の一つ、“不死の祝福”に反応があるからである。

 

(アンデッドか……)

 

 黒いローブを着込んだ何者か。見た目だけならばエルダーリッチに見えるが……さすがにどの種族かまではアインズには分からない。

 

「…………」

 

 アインズ達が見ているとは知らず、彼らは霊廟へと進んでいく。やがて物音がしなくなり――アインズ達は互いの顔を見る。

 予定外の人物達がいるが、このまま作戦を続行するか否か――全員がアインズの顔を見る。アインズはこくりと頷いた。

 

 変更は無い。むしろ好都合と思うべきだ。このまま、作戦を決行する。

 

 アインズの頷きの意味を受け取り、六名は頷いた。

 

「…………」

 

 まずティアとティナが動き、霊廟に進む。特殊技術(スキル)などで罠の有無を確認し、二人は待機しているアインズ達に手話で合図を出した。その合図で、アインズ達も先に進む。そして同時、魔法で消していた音が戻ってきて、周囲に金属音が響く。マジックアイテムで音を消していたアインズも、マジックアイテムの効果を切った。

 

「さて――始めるぞ。キツネ狩りだ。派手に音を鳴らすとしよう」

 

 

 

 霊廟の奥にある一室で、クレマンティーヌは欠伸をしながら彼らの話を壁にもたれて聞いていた。

 

「――では、今回の商品を受け取らせていただきます」

 

「――ん。ちゃんと代金を払ってくれるなら大丈夫よ」

 

 向かい合って話しているのはどちらも男だ。クレマンティーヌの前にいるのは神官の格好をした男であり、丁寧な口調で喋っている。その男の向かい側にいるのも男だが、こちらは男にしてはなよなよとした女のような口調だ。

 そしてその取引先の男が連れているのは、黒いローブを着込んだ二人の男。片方はアンデッドであり、もう片方は青白い肌をしているが生身の人間である。

 

(確か、デイバーノックって言ったっけなー)

 

 クレマンティーヌはアンデッドの方を見る。何とかしてこちら側に付きたい、という心が見え隠れしている顔だ。アンデッドがそのような表情をしているとは、よほどこちら側が気になるのだろう。

 ……クレマンティーヌの所属している組織ズーラーノーンは、アンデッドを盟主と仰ぐ魔術結社である。クレマンティーヌ自身は魔法詠唱者(マジック・キャスター)ではないが、それでも幹部の一人であった。隣にいるミイラのような同僚の男も。

 だからこそ、なのだろう。あのエルダーリッチがズーラーノーンに入社したい、と思っているのがよく分かる。デイバーノックの同僚であるもう一人の男――サキュロントが奴隷商人のコッコドールの護衛として一緒にいるのは、ある意味でデイバーノックの監視の意味も兼ねているのかも知れない。

 

 この自分達の取引相手は八本指。幾らかのこの邪神教団の運営費と生贄の調達を担うという事で、クレマンティーヌ達は彼らが帝都で仕事がスムーズに出来るようにある程度話を通してやった。

 

 ……邪神教団はズーラーノーンの下部組織であり、法国でのみ崇拝されているとある神をイメージしそれを邪神として崇拝している。法国がそのような事実を知れば泡を吹いて発狂するだろうが、彼らの手はこの邪神教団の深いところまでは伸びていなかった。

 定期的に行われる生贄の儀式はこの教団に入団している帝国貴族達に殺人を行わせ、弱みを握らせるためだけのもの。しかし邪神の存在を信じきり、不老不死を夢見ている彼らにとっては殺人行為など手を止める言い訳にならないのだろう。

 

 そして今日も、八本指の人間が持ち込んだ生贄を神官が受け取っている。クレマンティーヌにはどうでもいい事だ。欠伸をまた一つして、彼らの話が終わるのを待っていると――

 

「――――」

 

「ん? どしたの?」

 

 隣の同僚が、顔を上げた。すんすんと鼻を鳴らし、何かを探っている。クレマンティーヌはそんな同僚を横目に耳を澄ませて――

 

「へえ……?」

 

 にんまりと口角を上げた。どうやら、この霊廟の隠し部屋を見つけた連中がいるらしい。

 

「ねえ」

 

「? どうしましたか?」

 

 口を開いたクレマンティーヌを振り返り、神官が首を傾げる。八本指の連中も首を傾げているが、クレマンティーヌ達同様、護衛の二人も気づいたらしい。この、金属の擦り合う僅かな音に。

 

「侵入者みたい。どうする?」

 

「――――」

 

 その言葉に、神官とコッコドールが真顔になる。

 

「ここって、抜け道とか無いのかしら?」

 

「申し訳ありませんが、用意していませんね」

 

 嘘だ。自分達用の脱出経路ぐらい、当たり前だが確保してある。当然、向こうも嘘だと分かりきっているだろう。コッコドールは顔色を変えたが、すぐに溜息を吐いて思考を切り替えたらしい。

 

「しょうがないわ。サキュロント、それにデイバーノック。外の連中を片付けてちょうだい」

 

「集まっている貴族連中はどうする気だ?」

 

「その辺りはそこの神官サマがどうにかするでしょ。っていうか、そこまでは私だって面倒見れないわ」

 

「ええ、了解しました」

 

 それでいいわね、と神官を見るコッコドールに、神官は頷いた。彼らは部屋の外に出ていく。残ったのはズーラーノーン関係者のみ。

 

「……それで、どうしましょうかクレマンティーヌ様」

 

 神官は上位者であるクレマンティーヌに困ったように訊ねるが、クレマンティーヌは欠伸を一つして適当に返した。

 

「んー……足音とか考えても、たぶん大人数ってわけじゃないと思う。まあ、念を入れて逃げとく? 帝国の騎士だったら面倒だし」

 

 もっとも、例え四騎士であろうとクレマンティーヌには勝てない。クレマンティーヌならば、平然と殺してさっさとその場から離脱するだろう。

 ただ、帝国の専業騎士達は王国の兵士達とは違い仕事に真面目だ。巡回している騎士達が戻らなくなれば、すぐに異変に気づくだろう。そうなると面倒になる。

 

「では、彼らが囮になっている内にこの場を離れましょう」

 

 三人は脱出経路へと向かう。霊廟の外に出るために。

 

 

 

(はてさて――少しばかり困ったことになったな)

 

 隣を歩く同僚を横目に見ながら、サキュロントは内心で溜息を吐いた。背後にはコッコドールが歩いている。

 

 サキュロントがこの場にいるのは、当然コッコドールの護衛である。そして同時に、同じコッコドールの護衛であるデイバーノックの監視役でもあった。

 デイバーノックは六腕の中でも特殊な立ち位置であり、自分達とは毛色が違う。種族がアンデッドだから――というのも勿論あるが、金銭を求めて六腕にいるわけではないのだ。彼はただ、魔法をより使いこなす――魔法の力をより深く知るために六腕の纏め役であるゼロに雇われているようなものなのである。

 だからデイバーノックは、八本指よりも自分の目的に沿った組織があればそちらに付くだろう。

 現に、デイバーノックはズーラーノーンを知ってそちらに移動しようとしている素振りがある。しかし、今はデイバーノックに抜けられるわけにはいかないため、こうして監視する羽目になったのだ。まだ八本指が帝国で確たる地位を確立していない以上、今情報を持って組織を抜けられると困るのだ。

 

 そして今、絶好の機会が巡っている。ここで侵入者を殺し、サキュロントを殺し、コッコドールを殺せば、彼は悠々とズーラーノーンに鞍替えするであろう。

 

(ゼロが来れればよかったんだけどなぁ……コッコドールめ。金を出し渋りやがって)

 

 一応警備は金で雇われる、という形を取っている以上ゼロを雇う分の代金を支払わなければ、ゼロが護衛になる事はない。まだ帝国に来たばかり――この邪神教団と深い関係を築けていない時はコッコドールも怯えてゼロを雇っていたものだが、今は慣れてしまったのかそういう事が無い。結果、六腕の中でも比較的安い値段であるサキュロントを雇っている。デイバーノックは雇ったのではなく、勝手について来ているだけだ。

 

「さて。コッコドールさんは俺らから離れないでくださいね」

 

「ええ、勿論」

 

 扉を開ける。この先は生贄の儀式に使っている祭壇の部屋だ。階段に通じている部屋でもある。異様に静かだった。

 中に踏み込むとそこに――漆黒の戦士がいた。

 

「――ああ、待っていたぞ」

 

 漆黒の戦士は二トンはあろうかという石製の椅子に足を組んで座っている。もはや貴族達はおらず、しかし真新しい血の臭いもしないため、わざと逃がされたのだろうと推測された。

 つまり、地上では仲間が待っている。

 

「……とりあえず、どちら様か聞いても?」

 

 サキュロントは口を開き、漆黒の戦士に訊ねる。漆黒の戦士は地面に突き刺した二本のグレートソードの片方の鍔に手を置き、椅子から立ち上がる。その拍子に胸元できらりと光るプレートが見えた。

 

「――――」

 

 サキュロントは息を呑む。いや、サキュロントだけではなく、背後でコッコドールも息を呑んだ音が聞こえた。

 アダマンタイト――あの金属の輝きの色は間違いなく、冒険者最高位の人間のみが身に着ける事を許された超希少金属のプレートである。

 

(帝国のアダマンタイト級冒険者か!? いや、あの格好――確かエ・ランテルで新しくアダマンタイト級冒険者になったっていう漆黒の一人か!)

 

 そうなると、上で待っている相方は当然あのガゼフと互角の強さを誇っている事が予測されるブレインだろう。そのブレインが組むに値すると評価したこの漆黒の戦士も、当然生半可な腕であるはずがない。

 つまり、サキュロントにとっては厳しい相手である。

 

「通りすがりの冒険者だ。ここで口にするのも憚られる儀式を夜な夜な行っていると耳にしてね――少しお邪魔させてもらった。貴族達は上で全員お縄についている頃だろう」

 

「…………」

 

 おそらく、服を着る暇すら与えず上に追い払われたに違いない。教団の者達はこの集会の際に全裸になるのが当たり前であった。一糸纏わぬ姿で地上に出る――そうなると、あまりに怪しい集団だ。ブレインは一人なので何人か取り逃がしたとしても、騒ぎを聞きつけて騎士達がやって来るかもしれない。

 そうなると……一刻も早くこの場から離れないとまずい。

 

「……デイバーノック。協力して殺すぞ、異論は無いな?」

 

「ああ。アダマンタイト級ならば是非もない」

 

 どうして帝都に漆黒がいるのかは気になるが、しかしそれは後で探るとしよう。二人はコッコドールを背後に庇いながら、互いに戦闘態勢に移る。

 漆黒の戦士は――先程まで座っていた石製の椅子に手を置いた。

 

「〈火球(ファイヤーボール)〉」

 

 まず、先手必勝とばかりにデイバーノックが魔法を放った。同時に、サキュロントは幻惑の魔法を唱え幻の自分の虚像を幾つも作る。燃え盛る炎の塊が漆黒の戦士に向かい――着弾。

 しかし――

 

「え――」

 

 着弾するかと思われた火の玉は、漆黒の戦士に触れるか触れないかという距離で消滅する。その有り得ない光景を前に魔法を放ったデイバーノックも、虚像で本体を隠したサキュロントも、二人の背後で一連の流れを見ていたコッコドールも驚愕に動きを止めた。

 そしてその間隙を縫うように――漆黒の戦士が片手を持ち上げた。

 軽々と、その片手に二トンもある石製の椅子を持って。

 

「あ」

 

 投擲――漆黒の戦士は石製の椅子……玉座を投げた。それは剛速球を投げたようなもので、玉座は真っ直ぐにデイバーノックへと向かっていった。

 壁とデイバーノックと玉座が激突する。大地が揺れるような激しい激突音が響き、衝撃で玉座が砕け散った。砕けた石の破片が周囲に飛び散る。……いや、石だけではない。明らかに骨の破片も飛び散っている。しかし、骨の破片は灰になったように消滅し残らない。

 後には、罅の入った壁と元は玉座だった石の破片。そしてデイバーノックが装備していた装備品だけが残った。

 

「脆いな」

 

「な、は――え――?」

 

 漆黒の戦士がポツリと呟き、サキュロントは唖然とした顔で漆黒の戦士と石の破片を交互に見つめる。コッコドールは完全に腰を抜かしへたり込んでいた。

 致命的な隙を晒しているにも拘らず、漆黒の戦士はサキュロントに襲いかからずただ視線を向けた。視線を向けられたサキュロントは顔色を真っ青にする。

 

(き、気づいてやがる――!)

 

 何かマジックアイテムでも使ったのか持っているのか。漆黒の戦士は虚像には目もくれず、本体のサキュロントを見ていた。それに気づいたサキュロントは抵抗しようと剣を向けて――しかし、この漆黒の戦士にどうやって勝てばいいのか考えて途方に暮れた。

 

 何せ、身体能力だけ見ても自分どころか六腕の中で最強のゼロの上をいくのだ。ゼロでさえ、あんなに無造作に軽々と二トンの石製の玉座を持ち上げる事は出来ない。それを軽々と成した時点で、漆黒の戦士はゼロ以上の身体能力の持ち主だ。必然、強さはゼロと同等かそれ以上という事になる。

 ましてや、サキュロントは幻覚の魔法で相手を幻惑しなければ同程度の強さの持ち主に劣る。アダマンタイト級の前衛戦士――しかも幻術が通用しない相手になど勝てるはずが無い。

 

「…………」

 

 動きの止まったサキュロントを静かに漆黒の戦士は見つめている。もはや何をしても防がれる気しかしない。コッコドールは怯えた瞳でサキュロントを見上げるが――サキュロントにはどうしようもなかった。相手が悪過ぎる。

 

(こ、交渉するか!? どうにかして、この場を切り抜けるしか――幸い、デイバーノックが死んだから六腕に空きが出来た。六腕に誘って……)

 

 そうして悩んでいると、コツコツと足音が耳に届く。それは地上へ続く階段の方から聞こえた。誰かが、階段から降りてくる。

 

「ああ――」

 

 階段からゆっくり降りてきたのは、一人の女騎士だった。女騎士は黒色の重装備で身を包み、槍を片手に持っている。顔の右半分は金色の布で覆われて――いや、違う。あれは金色の布で顔の右半分を隠しているのではない。

 髪の毛――自分の髪の毛で、顔の右半分を隠しているだけなのだ。何故髪の毛が金色に濡れているのか――その理由を、サキュロントは知っている。

 

「げえ!」

 

「――こんな墓地に、まさか指名手配犯がいるなんて。なんという偶然でしょう」

 

 四騎士の一人――“重爆”のレイナース・ロックブルズであった。

 

「……あら? そちらの漆黒の戦士は、もしやアダマンタイト級冒険者漆黒と蒼のアインズ・ウール・ゴウン殿では?」

 

「これはこれは……帝国騎士が、何故ここに?」

 

「それは勿論、単なる巡回警備ですわ。そう、偶然(・・)――私の率いる部隊がこの墓地を通りがかったところ、一糸纏わぬ顔を隠した男女達がこの霊廟から出てきたのを目撃し、全員軽犯罪で捕らえたのです。貴方は何故こちらへ?」

 

「私ですか? 偶然(・・)この墓地の周囲をチームで散歩していたところ、何やら霊廟の奥に集まっているのを見て気になったのでこうして乗り込んだ次第――いやあ、偶然(・・)というのはあるものですね」

 

「そうですわね。偶然(・・)というのはあるものですわ」

 

「――――」

 

 白々しい二人の会話に、サキュロントは悟る。

 

(こ、こいつらグルか――!)

 

 おそらく、明確な証拠を掴んではいなかったのだろう。しかし、証拠が無いならば作ればいい。彼らは何らかの手段でこの集会の情報を掴んだ後、計画を立てたに違いない。

 まず、身軽な冒険者達が騒ぎを起こす。その騒ぎを聞きつけ、巡回していた騎士達が駆けつける。すると――なんとも不思議な事に、八本指などの指名手配犯がいた、という絡繰りだ。八本指が関わっていたなど、完全な現行犯。言い逃れは不可能である。

 王国ならば詰所に入れられても、コネで出所可能だ。

 しかし、帝国では不可能だ。自分達は余所者であり、ズーラーノーンとはそこまでの密接な関係を築けていない。帝国貴族達は見ないふりをするだろう。

 

 つまり、詰みである。

 

 コッコドールもそれが分かったのだろう。忌々しげに顔を歪め――舌打ちすると、「どこへでも連れていきなさいよ、もう!」と開き直っていた。

 

 サキュロントも武器をしまい、大人しくお縄につく事にする。どうせ、地上にはレイナースの部下達がいるのだ。逃げ切るのは無理だろう。

 

(……皇帝は役に立つならば身分は問わないと聞いたな。何とか、売り込んで兵士として雇ってもらうしか生き残る道は無いか)

 

 サキュロントはそう観念し、心の中で盛大な溜息を吐いた。

 

 

 

「では、ご協力感謝いたしますわ」

 

「いえ。こちらこそ」

 

 八本指の二人を連れて、帝国の女騎士の部下が階段を上がり地上へ戻っていく。身動きを取れないようにしているため、抵抗はされないだろう。

 アインズはそれを見送って、視線をあのアンデッドがいた場所――既に消滅しているが――へ戻した。

 

「……ただのエルダーリッチだったか」

 

 石製の玉座を投擲しただけで死ぬ時点で、アインズが警戒したような上位アンデッドでは無い。

 

(わざわざ特殊技術(スキル)で上位アンデッドとか作ってたんだけど、無駄になっちゃったなぁ)

 

 当然、得体の知れない相手にアインズがそのまま無策でいるなどありえない。アインズは待ち構えている際、しっかりと自分の護衛を作って不可視化させて待機させていた。誰も気づかなかったようだが、この祭壇の部屋にいるのである。

 アインズは不可視化させている上位アンデッド達を消し、部屋の奥を見る。アンデッドの気配はもう無い。……つまり、アインズが警戒する相手はいない。

 

(ズーラーノーンの連中は、やっぱり脱出用の隠し通路を通って逃げたか?)

 

 ブレインが教えてくれたのだが、大抵こういう組織は主人しか知らない逃げ道を持っているらしい。そのため、事前にティアとティナとイビルアイで隠し通路らしき痕跡を探しておいた。ここまで大人しいと八本指の連中を囮に、その通路を使って逃げたのだろう。

 

(……まあ、そっちはブレイン達が張っているんだけどさ)

 

 アインズは当然、しっかりと自分の安全策を取った。何より、このような状況になった時点でアインズが派手に表から暴れるというのは決めていた。アインズならばこの異世界の基準の位階魔法は通用しない。そのため、魔法詠唱者(マジック・キャスター)が戦力にならないので有利に動ける。

 何より、一人での行動の方がいざという時に本気を出しやすい。ブレイン達がいると人間のふりをする必要があるため、魔法を制限されるこの鎧を脱げないのだ。

 

(向こうもブレイン達でどうにか出来るレベルなのが一番いいんだけど……)

 

 八本指を囮にするだろう事は予測していたので、アインズが表で暴れ、内緒で逃亡しようとする本命はブレイン達が押さえる。表から逃げようとする貴族達は偶然通りかかった帝国の騎士達が押さえる。そういう段取りだったのだ。

 

「どうかしましたか?」

 

 先程のアインズの独り言が聞こえたのだろう。残っていた帝国の女騎士が首を傾げてアインズを見ている。

 

「いえ、何でもありません。とりあえず中を見て回りましょうか」

 

「そうですわね」

 

 二人は警戒しながら、扉を開けて部屋を見て回る。どこも誰もおらず、拍子抜けだ。やはり、予想通り隠し通路で逃げたのだろう。

 

「何もありませんわね」

 

「そうですね」

 

 女騎士の言葉に頷いた時、女騎士が懐からハンカチを取り出した。

 

「少し失礼しますわ」

 

 女騎士はそのハンカチを顔の右半分に持っていき、拭い出す。拭い終えた後、そのハンカチは黄色い液体でぐっしょりと濡れていた。

 

「……ふう。お見苦しいところをお見せして申し訳ありません」

 

「いえ、見苦しいなどとんでもない。しかし……顔に怪我を負っているのですか?」

 

「……ええ」

 

 少しの沈黙の後に答えた女騎士に、アインズは冷や汗が出た気分だった。

 

(し、しまった! 女性に顔の傷を訊ねるのは駄目だったか! 茶釜さんに怒られる!)

 

 「そんなのだから、お兄ちゃんはいつまでも童貞なんだよ?」とギルドメンバーの一人であったぶくぶく茶釜が、卑猥なピンク色の粘液状の体を蠢かして心を抉ってくる姿を想像する。同時に、そのぶくぶく茶釜の弟であり友人のペロロンチーノが「姉ちゃんやめろォ!」と涙目で叫んでいる姿も想像した。

 

「き、気になるのでしたら、信仰系の魔法詠唱者(マジック・キャスター)の方に傷を治してもらっては?」

 

 この異世界のポーションの類には、失った部位や年月の経った傷を治すほどの効果は見込めない。しかし魔法ならば話は別だ。そう思い、アドバイスしたのだが――

 

「……帝国には高位の魔法を使える魔法詠唱者(マジック・キャスター)はおりませんの」

 

「…………」

 

 藪蛇であった。そういえば、帝国にはラキュースのように第五位階魔法を使えるほどの魔法詠唱者(マジック・キャスター)はいないのだ。だから、ラナーはラキュースに手紙を送り復活魔法を使ってくれるよう頼んだのであった。

 

「…………」

 

 どんよりとした空気が漂い、アインズは更に焦る。こんな時にかぎって、感情の抑制は働かなかった。つまり、そこまで焦っていないという事なのだろう。それが口惜しい。むしろ早く感情を鎮静化させて冷静にしてほしい。

 しかしその沈黙も長くなかった。女騎士がぽつりと、口を開いたからだ。

 

「それに……通常の治癒魔法では治りませんの。モンスターからかけられた呪いで、第三、第四位階魔法程度では解呪出来ませんから」

 

「……ん?」

 

 アインズはそれを聞いて、少し興味を持つ。女騎士はポツポツと身の上を語った。モンスターを討伐する際に、死の間際にモンスターに呪いをかけられ、そして家を追い出されたのだと。

 

「……どうしてその話を私に?」

 

「別に。だって有名ですから、私のことは」

 

 調べれば分かる事だと、女騎士は言う。「そうですか」とアインズは頷き、そして女騎士の身の上を吟味して――結論付ける。

 

(なんか、身の上がカースドナイトの設定に似ているな)

 

 カースドナイトはユグドラシルに存在した上位職だ。呪われた神官戦士。前提条件を取得するのに最低でも六〇レベルのクラスの積み重ねがいる。しかし――

 

(この異世界、やっぱり意味が分からない……)

 

 おそらく、彼女もティアとティナと同じ前提条件を無視したクラス取得をしているに違いない。ユグドラシル出身者のアインズからしてみれば、羨ましいかぎりだ。いきなり上位職を習得出来るなら、上位職ばかりでクラス構成したいものである。

 

 そして、ある好奇心が頭を擡げた。この女騎士がカースドナイトを習得出来ているのは、おそらくそのモンスターに呪われたからに違いない。

 

 ――ならこの呪いを解呪した時、彼女のクラス構成はどうなってしまうのだろうか、と。

 

「…………」

 

 普通ならばその呪いを解呪出来ない。それはカースドナイトにつくフレーバーテキスト……設定だからだ。しかし今はゲームではなく現実。この呪いを解呪した時、彼女のレベルはどうなるのか。そのままカースドナイトのままなのか。あるいは死んでもいないのに、レベルが下がるのか――。

 

 知りたい。アインズはそれを、無性に知りたい。

 

「……どうかしましたか?」

 

 黙ったままいきなり懐から何か探し始めたアインズに、女騎士は警戒しながら首を傾げてアインズを見る。アインズは目的の物を探し出し――女騎士に差し出した。

 それは、巻物(スクロール)である。

 

「……これは?」

 

 巻物(スクロール)を目にした女騎士は、見える左目を見開きアインズを見る。アインズは口を開いた。

 

「これは第六位階魔法〈呪詛除去(リムーブ・カース)〉を込めた巻物(スクロール)です」

 

「――え?」

 

 女騎士は視線を巻物(スクロール)に向け、それを凝視する。

 

「魔法の効果は、呪いの除去――信仰系の魔法になります」

 

「呪いの、除去――第六位階……」

 

 女騎士は巻物(スクロール)に視線を吸い寄せられたまま、逸らさない。喘ぐように言葉を呟き、息を荒くして見ている。

 

「な……」

 

「はい?」

 

「な、何がお望みですか? もし私の顔を治療していただけるのなら……金銭ならば、幾らでも払います。それ以外であろうと、必ずお支払いすると約束します……! ですから――」

 

「これを、譲ってほしい――と」

 

「……!!」

 

 アインズの言葉に、女騎士は鬼気迫る形相で頷いた。もしアインズが渡さないと告げれば、殺してでも奪い取ると言いたげな表情と雰囲気である。

 

「ええ。ええ――勿論、お譲りしますとも。ただし、勿論ですが代価を払っていただきたい」

 

「なんでも――ええ! なんでも払いましょう……この呪いが解けるのなら!」

 

 アインズは内心でニヤリと笑い、必死な女騎士に静かに告げた。

 

「私は信仰系魔法が使えませんので、そうですね――明後日の昼、フールーダのもとで落ち合いましょう。彼に、この巻物(スクロール)を使ってもらい、効果を見てから――その呪いが、無事解呪出来た時にでも、代価を払っていただきたい」

 

「……!!」

 

 こくこくと頷く女騎士に、アインズは静かに笑みを含ませた。

 

「では、このことは誰にも内緒でお願いしたい。出来ますね?」

 

 女騎士は悩む素振りもなく頷く。何が代価になるかを語らずとも頷く辺り、彼女は本当にあらゆる物が代価だろうと払うつもりに違いない。そしておそらく、女騎士はアインズとフールーダが皇帝にも内緒で何らかの繋がりを持っている事に気がついているだろうが、彼女にそれは関係ないのだろう。

 この女騎士はこの場にいる事から、間違いなく皇帝に近い位置にいる騎士だ。しかし、彼女にとって皇帝に内緒にするという行為は何ら咎める行為でもない。

 

(はは……フールーダも彼女も、忠誠心薄いな)

 

 ガゼフを思い出すと、その忠誠心の薄さに思わず薄笑いしそうになるが、寸前で止める。アインズには関係の無い話だ。

 

「では、また後日――」

 

「え、ええ。また後日――」

 

 女騎士は名残惜しそうにアインズが再び懐にしまった巻物(スクロール)を見ていたが、すぐに意識を切り替えたようで再び前を見据えて周辺を探索した。アインズよりも若干前に出て歩いているのは、おそらくアインズを守る意味を含めている。……彼女の様子なら口を滑らす事は無いと思うが、念のため後で魔法で確認した方がいいかもしれない。大人しく後ろを歩きながら、アインズはそう結論する。

 

 そして、幾つもの扉を開けていき――その内の一つで、女騎士とアインズは止まった。皮袋が一つ転がっている。皮袋は膨らんでおり、中に何か入っている事は明白であった。

 

「……失礼しますわ」

 

 ゆっくりと、女騎士が近寄る。アインズも警戒し、扉の入り口に立つ。女騎士が槍で皮袋をつつき、何の反応も無いのを見て――ゆっくりと刃先で皮袋を裂いて中身を出した。

 皮袋から中身が転がり出てくる。その出てきたモノを見て――さすがにアインズも驚いた。女騎士も目を見開いて凝視している。

 

「……こども?」

 

 皮袋から出てきたのは、子供だった。まだ幼い顔立ちの少女で、瞳を閉じて動かない。地面にごろりと転がったまま、沈黙している。

 

「……この教団の儀式用の生贄か?」

 

「そう、ですわね。その可能性が高いと思いますわ」

 

 アインズの言葉に女騎士が頷く。女騎士はしゃがみこんで少女の頬を軽く叩くが、少女が目を覚ます様子は無い。

 

「……これは、貴族の子供ですわね」

 

「何故分かるんです?」

 

「爪が綺麗に整っていますし、手も柔らかくて農作業をしているようには見えません。着ている衣服も平民にしては――その、少し高価ですわ。まあ、単純に高価な服を着せて用意しただけかもしれませんけれど」

 

「なるほど」

 

 女騎士の言葉に、アインズも納得し少女を見る。――その少女の顔を見ていると、何だか記憶が刺激されるような気がした。どこかで見た事がある気がしたのだ。

 

「…………」

 

 しかし、どうにも思い出せない。思い出せないのなら、まあどうでもいい事なのだろうと、アインズはそれ以上記憶を呼び起こす行為を止めた。

 

「では、この少女は証拠品の一つとして、証人として押収しますわ」

 

 女騎士は片手で少女を抱き上げる。そして、周囲を見渡し――

 

「これ以上は、もう何もありませんわね」

 

「そうですね。私もそう思います。地上に出て、合流しますか」

 

「はい」

 

 アインズと女騎士は来た道を戻る。誰もいないのを確認したのだから、残った証拠品は他の帝国騎士達に任せた方がいいだろう。

 

(スティレット使いはいなかったか……という事は、やはりブレイン達の方かな?)

 

 最後まで見ても誰もいない。――これで隠し通路で逃げた事が確定した。

 

(いざという時は、スイッチ系アイテムでイビルアイと位置交換する手筈になっているし、何も起きないってことは逃げられたかブレイン達でもどうにかなったってことだな)

 

 ブレイン達六名だけでは手に負えない時、イビルアイとアイテムで交代する事になっている。イビルアイならば転移魔法ですぐに合流する事が出来るからだ。

 だが、それが無いという事は問題は無いという事なのだろう。アインズはそう納得する事にした。

 

 女騎士と共に地上へ出る。そこには女騎士の部下であろう帝国騎士達がおり、隠し部屋に降りた時に見た全裸の中年――いや、むしろ老人に近い――見苦しい姿をした男女が捕らえられていた。騎士達もその見苦しさが嫌だったのか、全員に白い布をかけて身体を隠している。

 

「――さて、ブレイン達の合流を待つか」

 

 女騎士が子供を抱えたまま部下達のもとへ歩く背中を見送りながら、アインズは静かに呟いた。

 

 

 

 

 




 
ジル君、八つ当たり先を見つけて大喜びなう。
 

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