創造王の遊び場   作:辺 鋭一
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ミコト邸探検、最終回です。



第十二話

   ●


 工房を後にした二人は、いろいろ話しながら次の場所に向かって廊下を歩いていた。

「そういえば、この屋敷は外から見ると三階建てだったが、この上には何があるんだ?」

 雑談の中で気になったことをエヴァンジェリンが聞くと、

「ああ、二階と三階は主に自動人形たち関係の部屋だ。
 三階のすべてと二階のほとんどは自動人形たちの宿舎で、二階の一部は魔力の補給部屋と簡易整備室だね。基本的にこの上は自動人形たちのプライベートな空間だから、私もほとんど足を踏み入れないし、君も遠慮してほしい。……良いかね?」
「ああ、かまわん。あいつらにも感情があるんだ、そういうのも必要だろう」
「わかってくれて助かるよ。まあ、何か用があるときは一階にいる自動人形の誰かに言えば念話ですぐに呼び出せるからね。用があるときはそうするといい」
「わかった、そうしよう」

 そんな話をしながら歩いていくと、何かをたたくような音や、水を流すような音が聞こえてきた。
 「なんだ?」と思っていると、ミコトもその音に気付いたのか、何やら納得したように言う。

「ああ、もうそんな時間か……」
「……時間? 何のだ?」
「昼食の、だよ。今はその下ごしらえをしているところだろう。今ならそこまで邪魔することもないだろうから、行ってみるかね?」
「そうだな。朝食の礼も言いたいし、行ってみよう」

 方針が決まり、二人は音が聞こえてくる方向に向かって歩いていく。
 音が聞こえるほどの距離なので、目的地にはすぐにたどり着くことができた。
 その部屋の扉は両開きの物だが、今は開け放ってあり、中の様子をうかがうことは容易だった。

 その部屋の中は調理場、とでもいうべきものだった。
 普通の家庭にあるような台所よりは大きいが、レストランにある厨房よりははるかに小さく、この場所を十分に活用するのにもそう人数はいらないだろう事がわかる。
 現にこの場所で働いているのは二人だけだ。
 二人ともコックが着るような白い服と帽子をかぶっているが、共通点はそれだけである。
 一人は大きな体の猫型の(体毛の色からすると虎系の)亜人で、今は大きな肉の塊から、今回使う分を切り取っているところらしい。
 もう一人は小柄な人間の女で、今はまな板の上で野菜を切って鍋の中に放り込んでいる。
 そんな様子を部屋の外から覗いていたエヴァンジェリンだが、その横を通って調理場の中に入っていったミコトを追って中に入っていった。
 調理場の中の2人は自分たちの職場に誰かが入ってきたことにすぐ気付き、二人同時に扉の方に振り向いたが、誰だかわかるとすぐにこちらに体を向け、静かに頭を下げた。
 そんな二人に、ミコトは何事もなかったように話しかける。

「やあ、ご苦労様だね。邪魔して済まない。今、客人にこの屋敷の中を案内しているところでね。君たちの紹介もしておきたいのだが……良いかね?」

 その問いに、二人は静かにうなずくと、ミコトたちの前に歩いてきて並んだ。
 ミコトはその二人を示しながら、

「彼の名はボレロ。見ればわかるが虎人族をもとにした自動人形だ。見た目通り力が強いので工場では力仕事担当だね。そして彼女はマキナ。主に書類整備や事務を担当している。この屋敷では料理が得意なものが交代で料理当番をしているのだが、彼らもそのうちの一人だよ」

 もっとも、食べるのは私とエヴァ君だけだがね、とミコトはつぶやくように続け、

「まあ何にしても、今日もおいしかったよ、二人とも」
「ああ、私からも言わせてもらう。うまかった。また頼むよ」

 二人の言葉に、ボレロとマキナは笑顔になり、


「M5T3T1A2N1A2A5K5T5B1D4S3、A5J5A3S1M1」
「様嬢お、ねすまきだたいてせら作てっ切り張も食昼」



「もうこの屋敷の連中嫌だーーーーー!!」



 エヴァンジェリンが壊れた。


   ●


 涙目になって叫びだしたエヴァンジェリンに対し、周りは冷静に対処した。

「どっ、どうしたのかねエヴァ君!? な、何かおかしいところでもあったかね!?」
「D5A3S1R4M1S2T1K1、A5J5A3S1M1!?」
「?!かたしまい言事な変か何、ちた私 !!長社」

 ミコト、ボレロ、マキナの順に、冷静な声が響く。

「い、いや、私の聞く限り変なことは何も言ってないはずだが……」
「いや、十分おかしかったからな!!? 特に何が何だかわからないかのようにあわてているそこの2人が!!」
「B5K3T1T2G1、D4S3K1……?」
「?!ねうょしでいなゃじんたし事な礼失か何に様嬢おたなあ、ロレボとっょち」
「S2、S2T3K4A2N1!! B5K3H1N1N2M5S2T4N1A2S1!! K2M2K5S5N1N2K1Y1R1K1S2T1N0J1N1A2D1R5A3N4!!」
「!!いなゃじいなけわるあとこなんそ」
「……??? なにかおかしかったかね? 別にいつも通りだが……?」
「こんないつも通りがあってたまるか!! まず何言ってるかさっぱりわからんわ!! そしてお前はなんで普通に受け入れて、しかも会話までできてるんだ!? こいつら明らかに言語機能がおかしいからな!?」

 エヴァンジェリンがミコトにそう訴えると、ミコトはしばし考え込み、

「……ああ、何かと思えば彼らの話し方についてかね。だったら大丈夫だ。彼らは自分からこういう話し方をしているんだ。それにきちんと意味はある。君もきちんと聞いていれば意味が解って来るし、すぐ普通に会話できるようになるさ。こちらの言葉は普通に理解しているしね」
「だったらなんでこんなしゃべり方をしているんだ!? 聞いている側はめんどくさくてかなわんだろうに!」
「まあ、ルールさえわかっていれば簡単に翻訳できる言語だからね。演算能力の高い自動人形たちはもちろん、私も長年このやり取りをしているから慣れてしまってね。めんどくささなんて感じんよ」
「私はめんどくさいんだ!! さっさと元に戻させろ!!」
「ふむ、しかしこれは個人の自由の問題だから、私からは強制できないからね。彼ら自身が納得しない限り、君には不便を我慢してもらう他ないよ」

 その言葉に、エヴァンジェリンは苛立たしげに頭をかきむしると、

「じゃあ、お前らはなんでそんなしゃべり方をしてるんだ!?……ああ、私はお前らの言ってることがわからんから、ミコト、お前が説明しろ!」

 エヴァンジェリンは、質問に答えようとした二人を留めて、ミコトに尋ねる。
 その質問に、ミコトはボレロとマキナに向かって、

「……ということだが、私の口から言ってもいいかね?」

 と聞いた。
 それに対して二人は笑いながら、

「B5K3H1S5R4D4K1M1A2M1S4N0」
「よすでいいでれそも私。らかすで手下口はちた私、かういと」

 と言った。

「そうかね。では、私から説明しよう。何か違うことがあったらその都度言ってくれ。……さて、エヴァンジェリン君。この二人はね、ある悩みを抱えていたんだ」

 真剣な顔で、ミコトは事の顛末を話し始めた。

「ある悩み? なんだ、それは?」
「それはね、……キャラが薄い、ということだ」
「………………………………は?」

 エヴァンジェリンは思考が停止した。


   ●


「私にはよくわからんが、この屋敷にいる自動人形たちはとても個性的で、キャラが濃いらしい。

「そんな中で、この二人は悩んでいた。

「『自分たちには、他の仲間たちのようにひときわ目立つ個性というモノが無い』、とね。

「だからあるとき、二人は私に相談に来た。

「『個性を得るにはどうしたらいいですか?』、と。

「私自身もあまり個性が強いほうではないのでね。すぐには答えが出せなかった。

「……何かね、その何か言いたそうな顔は?

「ともあれ、しばらく三人で考えて、導き出された結論は、『しゃべり方を変えてみる』というモノだった。

「2人はその案をたいそう気に入り、すぐに実行してみることにした。

「そうして試行錯誤の末、今の話し方になった、と言う訳だ。

「どうかね。何か質問はあるかね?」


   ●


 その言葉に対するエヴァンジェリンの反応は、

「とりあえず、お前ら馬鹿だろう?」

 いきなりの罵倒だった。

「なんでこいつに質問したんだ。こいつは個性の塊みたいなやつで、しかも自覚がない。そんな奴に聞いたってろくな答えが返ってくるはずもないだろうに」
「D4、D4S3G1……」
「……かし手のこうも、はにめたる得を性個がちた私」

 うろたえる二人に、エヴァンジェリンは語りかける。

「いいか? お前たちはそんなしゃべり方をしなくてもいい。なぜなら、お前たちにはもう立派な個性があるからだ」
「……B5K3T1T2N2、K5S4A2G1……?」
「?……いたっい、はれそ」
「お前たちが持っている個性。……それは」

 それは、

「普通であることだ」


   ●


「いいか? お前たちは、自分たちとこの屋敷の連中が異なっていると考えている、考えられる。これはとてもいいことだ。なぜなら、この屋敷の外から見れば、お前たちみたいな奴の方が当たり前なんだ。お前たちは、おかしな連中の中にいても、それでもおかしくならずに、自分を保っていられる。これは、この屋敷のお前たち以外から見れば、十分な個性になる。そしてその個性は、私にとって大きな助けになる。主に私の心の平穏的な意味で。だから、頼むから、……普通のお前たちでいて下さい。お願いします」

 エヴァンジェリンは必死で頼んだ。
 必死すぎてもはや半泣きで、丁寧語になるほどだった。
 それほどまでに魔窟にいるのが嫌だったのか。
 それほどに普通の人格の持ち主が存在することがうれしかったのか。
 ともあれ、その必死な思いは二人にしっかりと伝わったようで、

「そ、そんな……。僕たちには、もう個性があったのか……?」
「じゃあ、私たちはもう二度と……」
「「あんな変なしゃべり方をしないでいいんだ!!」」

 どうやら自覚はあったらしい。
 ともあれ、感極まった三人は互いに抱きしめあって泣いて喜んだ。
 その際、生き別れの親子、感動の再会! という題名がミコトの脳裏に浮かんできたのは、また別のお話。
 それから少したって、落ち着いた三人は、ミコトも交えていろいろ話し出した。
 それは主に料理のことで、エヴァンジェリンの好みを聞き出そうとする自動人形たちが主な聞き手になっていた。
 その話の中で、ふとした疑問がわいたエヴァンジェリンは、

「そう言えば、おいミコト。こいつらもそうだが、お前のことを『社長』と呼ぶ者がずいぶん多いんだな」
「そうだね、というか、それがほとんどだね。現にキャロル君以外は全員私のことを社長と呼ぶよ」
「……? キャロルだけ例外なのか?」
「例外、と言いますか……」
「キャロルさんは、私たちと立場が違いますから」

 ボレロとマキナも説明しようとしてくるが、エヴァンジェリンは混乱するばかりだ。

「立場が違う? あいつはだけが偉いのか?」
「それだけはないよ。キャロル君にそんな地位を与えたら我が社は大混乱におちいるだろうね」
「……じゃあ、いったい?」

 その疑問に、マキナが答える。

「キャロルさんは、社長付きの侍女なんです」
「……ミコト付きの? お前もそうじゃないのか?」
「いえ、僕たちは社長に雇われている従業員です。いずれ僕ら自身が仕えるにふさわしい人を見つけろ、と社長に言われています」
「そうとも。私は自動人形たちの生みの親ではあるが、彼らは私に仕えるためだけに生まれてきたわけではないからね。だから、自分が仕えるにふさわしい主、自分が仕えてもいい者を見つけたらその者に付いていけ、それまではここで従業員として働き、技術と資金を蓄えろ、と、そういってある」
「ですから私たちはミコト様を社長と呼び、休みの日には羽を休めて町に遊びに行くのと同時に、主となる方も探しているんです」
「そして、その主を見つけ、仕える許可を頂いたら、ここを出ていき、以降はご主人様に仕えます」
「それが、私たちのもう一つの仕事だと、そういわれました」
「ちなみに、それを従業員みんなに言い渡した三日後に、キャロルさんは主を社長に決めて、許可を取りに行きました。ですので、一番早く主を見つけたのはキャロルさんなんです」
「いきなり『ご主人様になってください』と来た日にはどんな即断即決かと思ったね。本当に、見た目通りバカな自動人形だ。主の趣味が悪すぎる。……どうしてあんなふうに育ってしまったのか……」

 そういうミコトの顔は、呆れの色が強いながらも、その目はとても優しかった。
 エヴァンジェリンも納得がいったのか、二、三頷き、

「……ん? じゃあ、キャロル以外にも主を見つけた者がいるのか?」
「ああ、一人だけね。ノクトと言って、始めの5体の一人だった者だよ。キャロル君とも仲が良かった。たしか、出て行ってもう70年程経つか……。元気でやっているといいが……」
「まあ、ノクトさんの目にかなった主人ですから、大丈夫でしょう」
「そうですよ社長。それに、いざとなったら、って魔法具も渡してあるじゃないですか。本当に心配性で――、えっ! それほんと!?」

 話している最中にいきなり驚きの声を上げたマキナに、皆の視線が集まる。
 それから、マキナは黙って目をつむり、少ししてから目を開け、

「社長、今販売所から帰ってきた娘から連絡が入ったんですが、社長個人宛てに荷物が届いたそうです」
「私個人あてに……? この会社の社長が私である事を知っているものはいないはずなのだが……。送り主はだれかね?」

「それが……、持ってきた方は、ノクトからの使いだ、と名乗って、販売所の娘に宛てた『社長に渡してください』という手紙と、荷物を渡してきたそうです。一応、本人からの物であるという確認はとってますし、外から調べた限り危険物の反応も無かったそうで、今ロンドがここまで運んで来てくれて……、ああ、ロンド。お疲れ様」

 最後の言葉と同時に、一人の侍女が調理場に入ってきた。
 彼女は普通の人の姿で、その手には掌よりも少し大きいくらいの箱を持っている。
 ロンドと呼ばれた彼女はミコトに近付き、

「…………………………どうぞ」

 ものすごく小さい声で呟くようにそう言って箱を差し出した。
 ミコトは隣で「なんでそんなに声が小さいんだ!! なめてんのか!!?」「まあまあ、落ち着いてくださいお嬢様」「ほらほら、私たちは普通ですよ~」などと騒がしくやっている三人を無視して箱を受け取り、開封して中身を確かめ、そして同封されていたカードを見てから、

「ロンド君、確か君は明日、休暇だったね? どこかに行く予定はあるかね?」

 その質問にロンドはフルフルと首を横に振る。

「そうかね、ならば一つ頼みたいことがある。ノクト君のいる屋敷に彼女の様子を見に行ってほしい。できれば本人に話を聞いて、できなければその屋敷の者か近隣の住人に尋ねてきてくれ。無論、明日は仕事とするから給料も出る。仕事が済んだら少し羽を伸ばしてきても構わんし、休暇は別の好きな日にとれるようにしよう。どうかね? 行ってくれるかね?」

 そう尋ねると、ロンドはしばし考え、首を縦に振った。

「そうかね、ありがとう。では頼んだよ」

 そんなやり取りの後、ロンドは一礼して調理場を後にし、ミコトはエヴァンジェリンたちに向き合うと、

「さて、報告が来るまで、ここだと少し暇になるね。屋敷内のめぼしいところはほとんど回ったし、昼食の後はどうしようか……」
「でしたら、お嬢様に町の案内をして差し上げるというのは……?」
「ふむ、なるほど。それならば時間もつぶせるし、ちょうどいいかもしれないね」

 その話を聞いていたエヴァンジェリンはあわてて、

「お、おい! 私がお尋ね者なのは知っているだろう!? いくらなんでも町に出るのはまずい!」
「大丈夫だよ。私がついているし、何より私の魔法具があれば、君が君だとばれることはまずない。安心したまえ」
「そう、か……。……そういえば、ここはどこなんだ? 私が逃げていた森の近くに、こんな広い土地も屋敷もなかったと思うのだが?」
「ああ、そういえば言ってなかったね。……ここはダイオラマ魔法球内にある居住区画だよ。ちなみに外との時間差は24倍だから、今外は朝だね。この中でロンド君の報告を待っているとかなり時間がかかる。だから、外に出るのはちょうどいい時間つぶしになるからね。昼食後に行ってみよう。私が雑貨屋を営んでいる小さな町だが、その周りも含めてのんびり歩けば半日はつぶせるからね」
「そうか、わかった。……信じているぞ、ミコト」
「ああ、任せておきたまえ」

 そういうと、ミコトは料理のできる時間を聞き、エヴァンジェリンと共に調理場を後にした。


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えう゛ぁんじぇりん は こころ の とも を てにいれた。

ちなみに、マキナとボレロの2人が話していた言語は、わりと簡単な物です。

マキナは見ればわかるとおり、逆さまに話します。
ただ、文章の順番までは入れ替わらないので、読点がある場合は少々わかりづらいかもしれません。

ボレロの方は、ローマ字にして子音はそのまま大文字で、母音はA=1、I=2、U=3、E=4、O=5と言うように変換すればわかります。
ちなみに、『N0=ん』としました。